弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人大島正義の上告趣意は、判例違反を主張する点もあるが、引用の判例は、
本件と事案を異にして適切でないから、所論はその前提を欠き、その余は、単なる
法令違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 ところで、車両等が道路交通法四二条にいう「交通整理の行なわれていない交差
点で左右の見とおしのきかないもの」に進入しようとする場合において、その進行
している道路が同法三六条により優先道路の指定を受けているとき、またはその幅
員が明らかに広いため、同条により優先通行権の認められているときには、直ちに
停止することができるような速度(同法二条二〇号参照)にまで減速する義務があ
るとは解し難いが、本件のように幅員約七・六メートルのあまり広くない道路で、
これと交差する道路の幅員もほぼ等しいようなときには、これと交差する道路の方
に、同法四三条による一時停止の標識があつても、同法四二条の徐行義務は免除さ
れないものと解すべきである。なんとなれば、優先道路または幅員の明らかに広い
道路を進行する場合には、その運転者にも、またこれと交差する道路を進行する車
両等の運転者にも、当該交差点における優先通行の順位が明らかになつており、そ
の間に混乱の生ずる余地が少ないが、本件のように、交差する双方の道路の幅員が
殆んど等しいような場合には、一時停止の標識が存在しても、その存在しない方の
道路を進行する車両等の運転者にとつては、その標識の存在を認識することは、必
ずしも可能であるとは限らず、もし、右認識を有する者についてだけ、同法四二条
の徐行義務を免除することにすれば、当該交差点における交通の規整は一律に行な
われなくなり、かえつて無用の混乱を生ずるであろうからである。また、本件のよ
うに、あまり広くない道路で、しかも交差点の見とおしのきかない場合には、歩行
者の安全も考慮しなければならないことは、原判決も説示するとおりであり、この
ことも前記解釈の根拠となり得るであろう。
 そうすると、「交通整理の行なわれていない交差点で左右の見とおしのきかない
もの」に車両等が進入する場合には、常に、道路交通法四二条の徐行義務があると
した原判断は、これをそのままには是認し難いが、本件のような事情のもとに被告
人に同条の徐行義務があるとして、第一審判決を破棄した原判決は、結論において
相当であり、これを破棄する必要は認められない。
 よつて、刑訴法四一四条、三九六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のと
おり判決する。
 検察官 勝田成治公判出席
  昭和四三年七月一六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美

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