弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
     上告費用は各上告人の負担とする。
         理    由
 上告人A1代理人浅野豊次郎の上告理由第一点について。
 しかし、本件のように選挙権のない者又はいわゆる代理投票をした者の投票につ
いても、その投票が何人に対しなされたかは、議員の当選の効力を定める手続にお
いて、取り調べてはならないことは、既に当裁判所の判例の趣旨とするところであ
るから、(昭和二三年(オ)第八号同年六月一日第三小法廷判決民事判例集二巻七
号一二五頁以下参照)原審が本件無効投票が何人に対してなされたかを確定しなか
つたからといつて、違法であるとすることはできない。それ故、所論は採用できな
い。
 同第二点について。
 しかし、本件のように無資格者その他による帰属不明の無効投票が他の有効投票
中に混入されたときは、それら無効投票を各当選者の得票から差引いて見て、最高
位落選者より下位となる者は、これを当選者と決定することができず、従つて、こ
れが当選を無効とすべきことは、当裁判所の判例の趣旨とするところである。(昭
和二三年(オ)九八号同年一二月一八日第二小法廷判決民事判例集二巻一四号四七
二頁以下参照)されば、これと同趣旨の解釈をした原判決には所論の違法は認めら
れない。
 上告人宮城県選挙管理委員会代理人岡本共次郎の上告理由第一点について。
 しかし、原判決挙示の証人Dの証言と原判決が適法に確定したE、F、G、H名
義で投票されている事実とによれば、右四名が他人に代筆させて投票したとの原判
示の認定を肯認することができる。そして、証拠の取捨、証拠調の限度等は原審の
裁量に属するところであり、且つ上告人は原審において所論の点について進んで立
証をしなかつたのであるから、原審が右証人の証言のみで事実認定をなすに足るも
のとしそれ以上所論のような証拠調をしなかつたからといつて、所論の違法がある
ということはできない。それ故、論旨は採用できない。
 同第二点について。
 しかし、原判決挙示の証拠並びに事実によれば、原判示のI及びJが判示a町に
住居を有しないこと、従つて、同町においては選挙権なかつたにかかわらず本件選
挙において投票したとの事実認定を肯認することができる。されば、原判決には法
律上住居の意義を誤解し又は理由に不備等の違法は認められない。
 よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は、上告人A1の上告理由に対する裁判官斎藤悠輔の反対意見を除くの
外裁判官全員一致の意見によるものである。
 上告人A1の上告理由に対する裁判官斎藤悠輔の反対意見は次のとおりである。
 論旨第一点、従つて、論旨第二点もその理由あるものと考える。
 なるほど地方自治法三七条によつて準用される衆議院議員選挙法三九条に「何人
ト雖選挙人ノ投票シタル被選挙人ノ氏名ヲ陳述スルノ義務ナシ」と規定され、また、
地方自治法七三条によつて準用される同選挙法一一六条二項には「選挙ニ関シ官吏
若ハ吏員又ハ第八条ニ掲グル者選挙人ニ対シ其ノ投票セムトシ又ハ投票シタル被選
挙人ノ氏名ノ表示ヲ求メタルトキハ六月以下ノ禁錮又ハ七千五百円以下ノ罰金ニ処
ス」と規定され、更らに、憲法一五条四項には「すべて選挙における投票の秘密は、
これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問は
れない。」と規定されている。しかし、これら投票の秘密に関する保障は、正当な
選挙権者の正当な投票に対する保障であつて、選挙権のない者又は不正投票者を保
護するものでないこと憲法一二条の規定に徴しても明瞭である。この点において、
大正一一年六月三日以前の行政裁判所の判例を支持する。しかるに多数説が戦々競
々として無記名投票制度における投票の秘密を絶対視するのは、濫りに不正を保護
するものといわなければならない。しかも、かかる無権利者又は不正投票者の投じ
た投票は、当選人の当選の結果に影響を及ぼすのであるから、事その個人に止まら
ず公共の福祉に関するものであるにかかわらず、その何人に投ぜられたかを不問に
付した上、更らに、論旨第二点に対する判示のごとき架空な機械的計算を弄するが
ごときは、公正なるべき選挙をして競輪的不正又は僥倖を生ぜしめる恐れなしとし
ない。故に先ず無権利者又は不正投票者の投票であるか否かを審理確定し、若しか
かる投票であることが明らかであるときは、次に、何人に投ぜられたか否かを審理
してその投ぜられた候補者の得票からこれを控除すべく、審理の結果無権利者又は
不正投票者の投票であることが明らかであるにかかわらず、しかも、何人に投ぜら
れたか不明である場合には、その投票に限り、白紙投票と同視して各候補者の得票
数から同時に控除して、当選者に対して法定得票数に達しない場合においてのみそ
の当選を無効とすべきものと考える。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    岩   松   三   郎

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