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平成24年11月29日判決言渡
平成24年(行ケ)第10119号審決取消請求事件
平成24年10月11日口頭弁論終結
判決
原告カルソニックカンセイ株式会社
訴訟代理人弁理士豊岡静男
同廣瀬文雄
被告株式会社デンソー
訴訟代理人弁理士碓氷裕彦
同中村広希
同井口亮祉
同伊藤高順
主文
1特許庁が無効2011-800094号事件について平成24年2月20日
にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2前提となる事実
1特許庁における手続の経緯等
被告は,発明の名称を「車両用液量指示計器」とする特許(第3036110号。
以下「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許は,平成3年5月2日に出願され,平成12年2月25日に設定登録が
された。
原告は,平成23年6月8日,本件特許につき無効審判(無効2011-800
094号事件)を請求し,被告は,同年8月24日に訂正請求(以下「第1訂正」
という。)をしたところ,平成24年2月20日,上記訂正を認めた上,「本件審判
の請求は,成り立たない。」との本件審決がされ,同審決は,同年3月1日原告に送
達された。原告は,平成24年3月29日,本件審決の取消しを求めて本訴を提起
し,被告は,同年4月26日,訂正審判を請求した(訂正2012-390057
号事件。以下「第2訂正」という。乙1)。特許庁は,平成24年7月23日,第2
訂正を認めるとの審決(以下「本件訂正審決」という。)をし,同審決は確定した(乙
3,弁論の全趣旨)。
2特許請求の範囲の記載
(1)第1訂正後の特許請求の範囲の請求項1は,次のとおりである(甲9。下線
部分は,訂正部分を示す。以下,同特許請求の範囲に記載された発明を「第1訂正
発明」という。)。
「車両に搭載された容器内の液面レベルを検出する検出手段と,この検出手段で
検出された液面レベルを平均化して目標値を求め,この目標値に基づいた液面レベ
ル信号を出力するコンピュータと,前記液面レベル信号に基づいた指示位置にて液
量を指示する指針とを備え,前記指針は回転軸を中心としてF(満タン)とE(空)
とを表示した文字板上を所定の振れ角で移動し,前記コンピュータは,前記目標値
が変化したときに,前記指針を現在の指示位置から分解能だけ移動させる液面レベ
ル信号を出力し,且つこの液面レベル信号の出力を設定時間だけ続けることを特徴
とする車両用液量指示計器。」
(2)第2訂正後の特許請求の範囲の請求項1は,次のとおりである(乙2。下線
部分は,訂正部分を示す。以下,同特許請求の範囲に記載された発明を「第2訂正
発明」という。)。
「車両に搭載された容器内の液面レベルを検出してアナログ値を出力する検出手
段と,この検出手段で検出された液面レベルのアナログ値をデジタル値化して,今
回のデジタル値と過去複数回のデジタル値とを平均化して今回の目標値を求め,こ
の目標値に基づいた液面レベル信号を出力するコンピュータと,前記液面レベル信
号に基づいた指示位置にて液量を指示する指針とを備え,前記指針は回転軸を中心
としてF(満タン)とE(空)とを表示した文字板上を所定の振れ角で移動し,前
記コンピュータは,前記目標値と比較対象とを比較して前記目標値が比較対象より
大側若しくは小側へ変化したときに,前記指針を現在の指示位置から大側若しくは
小側へ分解能だけ移動させる液面レベル信号を出力し,且つこの液面レベル信号の
出力を前記指針が前記回転軸周りに振れて指示する燃料消費率に関する時間であっ
て自動車の燃料消費時間より早い時間である設定時間だけ発信し続けることを特徴
とする車両用液量指示計器。」
3本件審決の理由
本件審決の理由は,以下のとおりである。要するに,第1訂正を認めた上で,第
1訂正発明は,特開平1-257222号公報(甲1。以下「引用例1」といい,
引用例1に記載された発明を「引用発明1」という。)に記載された発明と同一では
なく,特開昭60-262017号公報(甲2。以下「引用例2」といい,引用例
2に記載された発明を「引用発明2」という。)に記載された発明,及び引用例1,
実願昭61-93647号(実開昭63-24号)のマイクロフィルム(甲3),実
願昭62-139180号(実開昭64-44415号)のマイクロフィルム(甲
4),実願昭60-152271号(実開昭62-60432号)のマイクロフィル
ム(甲5)に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることがで
きたものではないから,無効とすることはできないとした。
(1)引用発明1との対比及び判断
本件審決がした,引用発明1の内容,同発明と第1訂正発明との一致点及び相違
点の認定,相違点の判断は,別紙1のとおりである。なお,本件審決は,第1訂正
発明における「前記目標値が変化したときに」の意義について,原告が「『前回の出
力値』と『今回の目標値』を比較し,相違するときの意味である」と主張し,被告
が「『前回の目標値』と『今回の目標値』とを比較し,変化したとき,及び『前回の
出力値』と『今回の目標値』とを比較し,相違したときの両方の意味を包含する」
と主張したのに対し,原被告の主張をいずれも排斥した上で,「前記目標値」が「あ
る状態から他の状態に変わったときに」を意味するものと一義的に明確に理解でき
るとして,対比及び判断を行った。
(2)引用発明2との対比及び容易想到性判断
本件審決がした,引用発明2の内容,同発明と第1訂正発明との一致点及び相違
点の認定,相違点の判断は,別紙2のとおりである。なお,本件審決は,引用発明
2との対比及び容易想到性判断においても,第1訂正発明における「前記目標値が
変化したときに」の意義について,「前記目標値」が「ある状態から他の状態に変わ
ったときに」を意味するものと一義的に明確に理解できるとして,対比及び容易想
到性判断を行った。
4本件訂正審決の理由
本件訂正審決は,第2訂正において,特許請求の範囲の記載についてした,訂
正事項は,いずれも,特許請求の範囲の減縮,又は明瞭でない記載の釈明を目的と
し,特許明細書等の記載の範囲内においてしたものであり,特許請求の範囲を拡張
するものでも,変更するものでもないとした上で,以下のとおり,第2訂正発明は,
引用発明1と同一であるとも,引用発明1ないし2に基づいて容易に発明をするこ
とができたともいえず,独立特許要件を満たすものであるとして,第2訂正を認め
た(乙3)。
(1)引用発明1との対比及び容易想到性判断
本件訂正審決がした,引用発明1の内容,同発明と第2訂正発明との一致点及び
相違点の認定,相違点の判断は,別紙3のとおりである。なお,本件訂正審決は,
引用発明1と第2訂正発明との対比において,引用発明1の「新データ」は第2訂
正発明の「今回の目標値」に,引用発明1の「現在表示中の表示データ」は第2訂
正発明の「比較対象」に,それぞれ相当するなどとして,引用発明1の「前記マイ
クロプロセッサ4は,前記セグメント数に変換して得た新データと表示器6に現在
表示中の表示データとを比較して,前記新データが前記表示データよりも大きい場
合には,マイクロプロセッサ4内のRAMエリアに用意したカウンタ(初期値は5
である。)のカウンタ値を1増やすようにし,上記比較を繰り返してカウント値が1
5に達したら,表示器6に現在表示中の点灯セグメント数を1増やす表示データを
出力し,前記新データが前記表示データよりも小さい場合には,前記カウンタのカ
ウント値を1減らすようにし,上記比較を繰り返してカウント値が0になったら,
表示器6に現在表示中の点灯セグメント数を1減らす表示データを出力」すること
は,第2訂正発明の「前記コンピュータは,前記目標値と比較対象とを比較して前
記目標値が比較対象より大側若しくは小側へ変化したときに,前記指針を現在の指
示位置から大側若しくは小側へ分解能だけ移動させる液面レベル信号を出力」する
ことに相当すると認定,判断した。
(2)引用発明2との対比及び容易想到性判断
本件訂正審決がした,引用発明2の内容,同発明と第2訂正発明との一致点及び
相違点の認定,相違点の判断は,別紙4のとおりである。なお,本件訂正審決は,
引用発明2と第2訂正発明との対比において,引用発明2の「新データ」は第2訂
正発明の「今回の目標値」に,引用発明2の「旧データ」は第2訂正発明の「比較
対象」に,それぞれ相当するなどとして,引用発明2の「前記CPU10は,一定
時間が経過した後の(ステップ103)新たな残存量である新データと旧データと
を比較して(ステップ106),旧データが新データより小さいときは,旧データに
1だけ加えた値を新たな旧データとし(ステップ108),旧データが新データより
大きいときは,旧データから1だけ引いた値を新たな旧データとして(ステップ1
07),残存量の値に対応する発光ダイオードを点灯する(ステップ102)」こと
は,第2訂正発明の「前記コンピュータは,前記目標値と比較対象とを比較して前
記目標値が比較対象より大側若しくは小側へ変化したときに,前記指針を現在の指
示位置から大側若しくは小側へ分解能だけ移動させる液面レベル信号を出力」する
ことに相当すると認定,判断した。
第3当裁判所の判断
上記のとおり,本件審決は,無効審判請求を成り立たないものとした審決である。
その後,被告から特許請求の範囲を減縮する訂正審判請求がなされたが,当裁判所
は,平成23年改正前の特許法181条2項の差戻決定をすることなく審理を継続
していたところ,本件訂正審決が確定したことにより,訂正前の特許請求の範囲に
基づいてなされた審決は,結果的に発明の要旨認定を誤ったこととなった。
もっとも,特許庁は,本件訂正審決において,本件審決において第1訂正発明と
対比された引用例と同一の引用例との対比において独立特許要件が認められると判
断している。そうすると,第2訂正発明と上記引用例記載の発明との同一性ないし
容易想到性判断についての特許庁の判断は,本件訂正審決により示されており,こ
の点につき特許庁の判断が先行しているものと解する余地がある。
しかし,本件審決と本件訂正審決においては,本件特許に係る発明と引用例との
一致点及び相違点の認定,新規性ないし進歩性に係る判断の対象が実質的にも変更
されている(別紙1ないし4参照)。すなわち,本件審決においては,第1訂正発明
における「前記目標値が変化したときに」の意義について,原被告いずれの主張も
排斥した上で,「前記目標値」が「ある状態から他の状態に変わったときに」を意味
するもの,すなわち「前回の目標値」と「今回の目標値」を比較し,変化したとき
と理解できるとして,引用例1,2との対比を行った上,これを相違点として挙げ
て,第1訂正発明は,引用発明1と同一の発明ではなく,引用発明2,及び引用例
1,甲3ないし5に記載された周知技術に基づき容易に想到できたものとはいえな
いとして,無効請求は成り立たないとしたものである。他方,本件訂正審決では,
第2訂正発明において,「今回の目標値」と比較される「比較対象」は,引用発明1
における「現在表示中の表示データ」や引用発明2における「旧データ」に相当す
るもの,すなわち「前回の出力値」であるとして,この点を引用例1,2との相違
点とはせず,新たに付加された構成要件について相違点を挙げて,第2訂正発明は,
引用発明1と同一の発明ではなく,引用発明1ないし2に基づき容易に想到できた
ものでもなく,独立特許要件を充足するとして,第2訂正を認めたものである。
そうすると,本件訂正審決において,本件審決における引用例と同一の引用例と
の対比において独立特許要件が認められるとの判断がされているとしても,本件無
効審判請求について,新たに付加された構成要件も含めて,再度,特許庁の審理を
先行させるのが相当であるから,本件審決は取り消されるべきである。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
芝田俊文
裁判官
西理香
裁判官
知野明
(別紙1)
1引用発明1の内容
「車両の燃料タンク内のフロートに連動してその抵抗値が変化し,燃料残量を抵抗値として検出する燃料残
量センサ1と,
燃料残量センサ1の出力をアナログ電圧信号に変換するインターフェース回路2と,
前記アナログ電圧信号をディジタル信号に変換するA/Dコンバータ3と,
前記A/Dコンバータ3から送られてくる燃料残量を示すディジタル信号を入力し,表示セグメント数を示
す表示データを出力するマイクロプロセッサ4と,
前記表示データを,表示駆動回路を介して入力し,フル(F)とエンプティ(E)との間でセグメントを点
灯表示する表示器とを備え,
前記マイクロプロセッサ4は,
前記燃料残量を示すディジタル信号を256回サンプリングし,その平均値をその時の燃料残量として算出
し,
前記燃料残量を表示セグメント数に変換して新データとし,
前記新データと表示器に現在表示中の表示データとを比較し,比較した結果が,
前記新データと前記表示データとが等しい場合には,表示器に現在表示中の点灯セグメント数をそのまま維
持し,
前記新データが前記表示データよりも大きい場合には,マイクロプロセッサ4内のRAMエリアに用意した
カウンタ(初期値=5)のカウンタ値を1増やし,カウント値が15に達したら,カウンタを初期化した後,
表示器に現在表示中の点灯セグメント数を1増やす表示データを出力し,
前記新データが前記表示データよりも小さい場合には,前記カウンタのカウント値を1減らし,カウント値
が0になったら,カウンタを初期化した後,表示器に現在表示中の点灯セグメント数を1減らす表示データを
出力するものであって,
燃料残量が連続的に減少する場合,表示器に現在表示中の表示データが1減少するのに少なくとも128秒,
燃料残量が連続的に増加する場合,表示器に現在表示中の表示データが1増加するのに少なくとも256秒,
の表示追従速度が得られる,車両に装備される電子式燃料残量計。」
2引用発明1と第1訂正発明との一致点
「車両に搭載された容器内の液面レベルを検出する検出手段と,この検出手段で検出された液面レベルを平
均化して目標値を求め,この目標値に基づいた液面レベル信号を出力するコンピュータと,前記液面レベル信
号に基づいて液量を表示する装置とを備え,前記コンピュータは,表示を現在の表示から分解能だけ移動させ
る液面レベル信号を出力し,且つこの液面レベル信号の出力を設定時間だけ有効とする車両用液量計器。」
3引用発明1と第1訂正発明との相違点
(1)相違点1
液面レベル信号に基づいて液量を表示する装置が,第1訂正発明では,「指示位置にて液量を指示する指針」
であって,「回転軸を中心としてF(満タン)とE(空)とを表示した文字板上を所定の振れ角で移動」する「指
針」であるのに対し,引用発明1では,「フル(F)とエンプティ(E)との間でセグメントを点灯表示する表
示器」である点。
(2)相違点2
コンピュータが,表示を現在の表示から分解能だけ移動させる液面レベル信号を出力するときが,第1訂正
発明では,「前記目標値が変化したとき」であるのに対し,引用発明1では,「新データと現在表示器に表示中
の表示データとを比較し,比較した結果が,」「新データが表示データよりも大きい場合」であって,「マイクロ
プロセッサ4内のRAMエリアに用意したカウンタ(初期値=5)のカウンタ値を1増やし,カウント値が1
5に達した」とき,あるいは,「新データが表示データよりも小さい場合」であって,「前記カウンタのカウン
ト値を1減らし,カウント値が0になった」ときである点。
(3)相違点3
液面レベル信号の出力を設定時間だけ有効とする手段が,第1訂正発明では,「液面レベル信号の出力を」続
けることであるのに対し,引用発明1では,不明である点。
4判断
引用発明1において,液面レベル信号に基づいた液量を表示する装置として,引用発明1の「フル(F)と
エンプティ(E)との間でセグメントを点灯表示する表示器」に代えて,周知技術である「指示位置にて液量
を指示する指針」であって,「回転軸を中心としてF(満タン)とE(空)とを表示した文字板上を所定の振れ
角で移動」する「指針」を採用し,上記相違点1に係る構成と為すことは周知技術の置換にすぎず,新たな作
用効果を奏するものではないから,相違点1は,実質的な相違点ではない。
引用発明1の「新データ」は,第1訂正発明の「目標値」に相当し,引用発明1の「表示データ」は,第1
訂正発明に係る明細書に記載された「前回の出力値」に相当するところ,「前回の目標値」と「前回の出力値」
は,必ずしも同じ値とはならないから,「前回の目標値」と「今回の目標値」が同じ値であっても,「前回の出
力値」と「今回の目標値」が同じ値であるとは限らない。そうすると,「前回の目標値」と「今回の目標値」を
比較して相違する場合である「前記目標値が変化したとき」と,「前回の出力値」と「今回の目標値」を比較し
て相違するとは,指示計器の動作が相違するから,引用発明1の「新データと現在表示器に表示中の表示デー
タとを比較」することは,第1訂正発明の「前記目標値が変化したとき」とは,技術的に異なる。さらに,引
用発明1は,「マイクロプロセッサ4内のRAMエリアに用意したカウンタ(初期値=5)のカウンタ値を1増
やし,カウント値が15に達した」とき,あるいは,「前記カウンタのカウント値を1減らし,カウント値が0
になった」ときに,表示データを出力するものであって,「新データと現在表示器に表示中の表示データとを比
較し,比較した結果が,」「新データが表示データよりも大きい場合」あるいは,「新データが表示データよりも
小さい場合」に必ずしも,コンピュータが,現在の表示から分解能だけ増加又は減少させる液面レベルを出力
するものではない。したがって,相違点2は,実質的な相違点である。
以上によれば,第1訂正発明と引用発明1とは,相違点2において実質的に相違するから,相違点3につい
て検討するまでもなく,同一ではない。
(別紙2)
1引用発明2の内容
「回転自在なフロートアームの一端に建設機械の燃料タンク内の燃料の液面に浮かべたフロートが,他端に
裸抵抗巻線12上を摺動する摺動子13がそれぞれ取り付けられ,前記フロートアームの回動により燃料の残
存量に対応する大きさの電圧を出力する燃料計と,
前記燃料計が出力した燃料の残存量に対応する大きさの電圧を入力し,0から7までの整数値にデジタル変
換するアナログ・デジタル・コンバータ15と,
前記アナログ・デジタル・コンバータ15によってデジタル変換した整数値を燃料の残存量を示す“残存量”
として入力し,“残存量”の整数値にそれぞれ対応して設けた発光ダイオードL0~L7のいずれか一つを点灯
する信号を出力するCPU10と,
前記CPU10の前記出力によって発光ダイオードL0~L7を点灯させるドライバD0~D7と,
発光ダイオードL0~L7とを備え,
前記CPU10は,リセットスイッチ16が閉じると(ステップ100),前記アナログ・デジタル・コンバ
ータ15の出力である“残存量”を“旧データ”にセットし(ステップ101),
前記“旧データ”の値に対応する発光ダイオードを点灯する信号を出力し(ステップ102),
予め定めた一定時間が経過すると(ステップ103),新らたな“残存量”を“新データ”にセットし(ステ
ップ104),
前記“旧データ”と前記“新データ”とを比較し,“旧データ”と“新データ”が等しいときは(ステップ1
05),前記ステップ102を実行し,“旧データ”が“新データ”より大きいときは(ステップ106),“旧
データ”から1だけ引いた値を新たな“旧データ”とし(ステップ107),前記ステップ102を実行し,ま
た,“旧データ”が“新データ”より小さいときは(ステップ106),“旧データ”に1だけ加えた値を新らた
な“旧データ”とし(ステップ108),前記ステップ102を実行する残存量表示装置。」
2引用発明2と第1訂正発明との一致点
車両に搭載された容器内の液面レベルを検出する検出手段と,この検出手段で検出された液面レベルに関す
る値に基づいた液面レベル信号を出力するコンピュータと,前記液面レベル信号に基づいた液量を表示する装
置を備え,前記コンピュータは,前記表示を現在の表示から分解能だけ変化させる液面レベル信号を出力し,
且つこの液面レベル信号の出力を設定時間だけ有効とする車両用液量計器。」
3引用発明2と第1訂正発明との相違点
(1)相違点1
コンピュータが,液面レベル信号を出力する際に基づく液面レベルに関する値が,第1訂正発明では,液面
レベルを平均化して求めた「目標値」であるのに対し,引用発明2では,実質的に「液面レベル」の値であり,
平均化した値ではない点。
(2)相違点2
液面レベル信号に基づいた液量を表示する装置が,第1訂正発明では,「前記液面レベル信号に基づいた指示
位置にて液量を指示する指針」であって,「回転軸を中心としてF(満タン)とE(空)とを表示した文字板上
を所定の振れ角で移動」する「指針」であるのに対し,引用発明2では,「“残存量”の整数値にそれぞれ対応
して設けた発光ダイオードL0~L7のいずれか一つを点灯する」「表示装置」である点。
(3)相違点3
コンピュータが,表示を現在の表示から分解能だけ変化させる液面レベル信号を出力するときが,第1訂正
発明では,「前記目標値が変化したとき」であるのに対し,引用発明2では,「前記“旧データ”と前記“新デ
ータ”とを比較し,」「“旧データ”が“新データ”より大きいとき」あるいは「“旧データ”が“新データ”よ
り小さいとき」である点。
(4)相違点4
液面レベル信号を設定時間だけ有効とする手段が,第1訂正発明では,「液面レベル信号の出力を」続けるこ
とであるのに対し,引用発明2では,不明である点。
4判断
引用発明2において,液面レベル信号に基づいた液量を表示する装置として,引用発明2の「発光ダイオー
ドL0~L7」に代えて,周知技術である「指示位置にて液量を指示する指針」であって,「回転軸を中心とし
てF(満タン)とE(空)とを表示した文字板上を所定の振れ角で移動」する「指針」を採用し,上記相違点
2に係る構成と為すことは周知技術の置換にすぎず,新たな作用効果を奏するものではないから,相違点2は,
引用発明2と周知技術に基づいて容易に想到できたものである。
引用発明2の「“新データ”」は,第1訂正発明の「目標値」に相当し,引用発明2の「“旧データ”」は,第
1訂正発明に係る明細書に記載された「前回の出力値」に相当するところ,「前回の目標値」と「前回の出力値」
は,必ずしも同じ値とはならないから,「前回の目標値」と「今回の目標値」が同じ値であっても,「前回の出
力値」と「今回の目標値」が同じ値であるとは限らない。そうすると,「前回の目標値」と「今回の目標値」を
比較して相違する場合である「前記目標値が変化したとき」と,「前回の出力値」と「今回の目標値」を比較し
て相違するときとは,指示計器の動作が相違するから,引用発明2の「前記“旧データ”と前記“新データ”
とを比較」することは,第1訂正発明の「前記目標値が変化したとき」とは,技術的に異なる。そして,第1
訂正発明は,上記相違点3に係る構成によって,指針を分解能だけ移動させ,液面レベル信号の出力を設定時
間だけ続けることにより,容器内の液面レベルが車両の急加減速,急旋回等の走行状態によって大きく揺れ動
いても指針が大きく振れることを抑えることができるという格別の作用効果を奏する。
したがって,上記相違点1,4について検討するまでもなく,第1訂正発明は,引用例2及び周知技術に
基づいて,容易に発明をすることができたとはいえない。
(別紙3)
1引用発明1の内容
「車両の燃料タンク内のフロートに連動してその抵抗値が変化し,燃料残量を抵抗値として検出する燃料残
量センサ1,及びその出力をアナログ電圧信号に変換するインタフェース回路2と,
前記アナログ電圧信号をディジタル信号に変換するA/Dコンバータ3から送られてくる燃料残量を示すデ
ィジタル信号が入力され,前記燃料残量を示すディジタル信号を,車両が停止中のときは16回,走行中のと
きは256回サンプリングし,それらの平均値をその時の燃料残量として算出し,表示セグメント数に変換し
て表示データを出力するマイクロプロセッサ4と,
前記表示データを,表示駆動回路5を介して入力し,フル(F)とエンプティ(E)との間でセグメントを
点灯表示する表示器6とを備え,
前記マイクロプロセッサ4は,前記セグメント数に変換して得た新データと表示器6に現在表示中の表示デ
ータとを比較して,前記新データが前記表示データよりも大きい場合には,マイクロプロセッサ4内のRAM
エリアに用意したカウンタ(初期値は5である。)のカウンタ値を1増やすようにし,上記比較を繰り返してカ
ウント値が15に達したら,表示器6に現在表示中の点灯セグメント数を1増やす表示データを出力し,前記
新データが前記表示データよりも小さい場合には,前記カウンタのカウント値を1減らすようにし,上記比較
を繰り返してカウント値が0になったら,表示器6に現在表示中の点灯セグメント数を1減らす表示データを
出力し,
燃料残量値が連続的に減少する場合,表示器6に現在表示中の表示データが1減少するのに,車両が停車中
のときは8秒,車両が走行中のときは128秒の表示追従速度が得られ,
燃料残量値が連続的に増加する場合,車両が傾斜しているときは表示データの更新はなく,表示器に現在表
示中の表示データが1増加するのに,車両が傾斜しておらず,かつ,停車中のときは16秒,車両が傾斜して
おらず,かつ,走行中のときは256秒の表示追従に要する時間が得られる,
車両に装備される電子式燃料残量計。」
2引用発明1と第2訂正発明との一致点
「車両に搭載された容器内の液面レベルを検出してアナログ値を出力する検出手段と,
この検出手段で検出された液面レベルのアナログ値をデジタル値化して,今回のデジタル値と過去複数回の
デジタル値とを平均化して今回の目標値を求め,この目標値に基づいた液面レベル信号を出力するコンピュー
タと,
F(満タン)とE(空)とを表示した表示上を移動し,前記液面レベル信号に基づいた指示位置にて液量を
指示する表示器とを備え,
前記コンピュータは,前記目標値と比較対象とを比較して前記目標値が比較対象より大側若しくは小側へ変
化したときに,前記指針を現在の指示位置から大側若しくは小側へ分解能だけ移動させる液面レベル信号を出
力すること
を特徴とする車両用液量指示計器。」
3引用発明1と第2訂正発明との相違点
(1)相違点1
液面レベル信号に基づいて液量を表示する装置が,第2訂正発明では,「指示位置にて液量を指示する指針」
であって,この指針は,「回転軸を中心としてF(満タン)とE(空)とを表示した文字板上を所定の振れ角で
移動」するものであるのに対し,引用発明1では,「フル(F)とエンプティ(E)との間でセグメントを点灯
表示する表示器6」である点。
(2)相違点2
液面レベル信号を発信し続ける時間に関し,第2訂正発明は,「前記指針が前記回転軸周りに振れて指示する
燃料消費率に関する時間であって自動車の燃料消費時間より早い時間である設定時間だけ発信し続ける」もの
であるのに対し,引用発明1は,「燃料残量値が連続的に減少する場合,表示器に現在表示中の表示データが1
減少するのに,車両が停車中のときは8秒,車両が走行中のときは128秒の表示追従速度が得られ,燃料残
量値が連続的に増加する場合,車両が傾斜しているときは表示データの更新はなく,表示器に現在表示中の表
示データが1増加するのに,車両が傾斜しておらず停車中のときは16秒,車両が傾斜しておらず走行中のと
きは256秒の表示追従に要する時間が得られる」ものである点。
4判断
上記相違点2について検討すると,引用発明1は,燃料残量値の増加が連続的である場合,車両の傾斜の有
無,停車中か,走行中かに応じて,表示データが1増加するのに,16秒,256秒という表示追従に要する
時間が得られるというものであるところ,このように車両の走行状態に応じて変動するような表示追従に要す
る時間は,第2訂正発明における「燃料消費率に関する時間であって自動車の燃料消費時間より早い時間であ
る設定時間」とは,技術的意義が異なる。したがって,上記相違点1について検討するまでもなく,第2訂正
発明は,引用発明1と同一であるとも,引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたともいえない。
(別紙4)
1引用発明2の内容
「建設機械の燃料タンク2内の液面に浮かぶフロート4を備えた回動自在なフロートアーム1の回動により,
燃料の残存量に対応する大きさの電圧を摺動子6と接地点間に出力する燃料計と,
前記燃料計が出力した燃料の残存量に対応する大きさの電圧をアナログ・デジタル・コンバータ15にてデ
ジタル化して残存量データを求め,この残存量データに基づいて発光ダイオードL0~L7のいずれか一つを
点灯する信号を出力するCPU10と,
前記CPU10の前記出力によって残存量の整数値0~7に対応して点灯する発光ダイオードL0~L7と
を備え,
前記CPU10は,予め定めた一定時間が経過すると(ステップ103),新たな残存量を新データにセット
し(ステップ104),新たな残存量である前記新データと旧データとを比較して(ステップ106),旧デー
タが新データより小さいときは,旧データに1だけ加えた値を新らたな旧データとし(ステップ108),旧デ
ータが新データより大きいときは,旧データから1だけ引いた値を新たな旧データとして(ステップ107),
残存量の値に対応する発光ダイオードを点灯する(ステップ102)
建設機械の燃料タンク内の燃料の残存量表示装置。」
2引用発明2と第2訂正発明との一致点
車両に搭載された容器内の液面レベルを検出してアナログ値を出力する検出手段と,
この検出手段で検出された液面レベルのアナログ値をデジタル値化して今回の目標値を求め,この目標値に
基づいた液面レベル信号を出力するコンピュータと,
前記液面レベル信号に基づいた指示位置にて液量を指示する表示器とを備え,
前記コンピュータは,前記目標値と比較対象とを比較して前記目標値が比較対象より大側若しくは小側へ変
化したときに,前記指針を現在の指示位置から大側若しくは小側へ分解能だけ移動させる液面レベル信号を出
力すること
を特徴とする車両用液量指示計器。」
3引用発明2と第2訂正発明との相違点
(1)相違点1
液面レベルに関する値が,第2訂正発明では,「今回のデジタル値と過去複数回のデジタル値とを平均化して」
求めたものであるのに対し,引用発明2では,過去の複数のデータに基づくものでも,それらの値を平均化し
たものでもない点。
(2)相違点2
液面レベル信号に基づいて液量を表示する装置が,第2訂正発明では,「指示位置にて液量を指示する指針」
であって,この指針は,「回転軸を中心としてF(満タン)とE(空)とを表示した文字板上を所定の振れ角で
移動」するものであるのに対し,引用発明2では,「残存量の整数値0~7に対応して点灯する発光ダイオード
L0~L7」である点。
(3)相違点3
液面レベル信号を発信し続ける時間が,第2訂正発明では,「前記指針が前記回転軸周りに振れて指示する燃
料消費率に関する時間であって自動車の燃料消費時間より早い時間である設定時間」により定まるのに対し,
引用発明2では,新データと旧データとが比較される予め定めた一定時間毎に定まる点。
4判断
相違点3について検討すると,引用発明2は,新データと旧データとを,予め定めた一定時間毎に比較し,
比較した都度,その大小に応じてプラス1,又はマイナス1だけ残存量の表示が変化するものであり(ステッ
プ106~108),残存量表示が変化しないのは,両者の値が等しい場合に限られる(ステップ105)。こ
れに対し,第2訂正発明では,「前記指針が前記回転軸周りに振れて指示する燃料消費率に関する時間であって
自動車の燃料消費時間より早い時間である設定時間」だけ液面レベル信号の出力を発信し続けるものであり,
当該設定時間が経過した後に,改めて次の目標値を求め,比較対象と比較する動作を行うものであるから,引
用発明2とは,その技術的意義が異なる。そして,液面レベル信号を平均化して表示器に表示するようにする
ことが本件特許の出願当時,周知技術であったとしても,液面レベル信号を発信し続ける設定時間の構成を欠
く引用発明2に基づいて,第2訂正発明が容易に発明をすることができたとはいえない。

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