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平成26年(行ヒ)第228号差押処分取消請求事件
平成28年3月29日第三小法廷判決
主文
原判決を破棄する。
被上告人らの控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。
理由
第1事案の概要
1本件は,彦根市長が,被上告人X1株式会社(以下「被上告人会社」とい
う。)が彦根市内に所有する第1審判決別紙不動産目録記載1から3までの各土地
(以下,これらの土地を併せて「本件土地」という。),同目録記載4の家屋(以
下「本件家屋」という。)及びその他複数の土地の固定資産税等の滞納処分とし
て,被上告人会社の株式会社A(以下「訴外会社」という。)に対する本件土地及
び本件家屋の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)に基づく賃料債権の
差押え(以下「本件差押え」という。)をしたことから,被上告人らが,本件土地
は,被上告人X2を委託者兼受益者,被上告人会社を受託者とする信託財産であっ
て,上記賃料債権のうち本件土地の賃料相当額部分も信託財産であるから,滞納処
分を行うことはできないなどとして,上告人を相手に,本件差押えの取消しを求め
る事案である。
2原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)亡Bと被上告人会社は,平成18年6月23日,亡Bを委託者兼受益者,
被上告人会社を受託者とし,亡Bがその所有に係る本件土地を被上告人会社に信託
譲渡し,被上告人会社において本件土地の管理又は処分を行うことを目的とする旨
合意し,同月29日,本件土地につき,亡Bから被上告人会社に対する信託を原因
とする所有権移転登記及び信託の登記がされた(以下,上記の譲渡に係る契約を
「本件信託契約」という。)。また,亡Bと被上告人会社は,本件信託契約に際し
て,被上告人会社が亡Bに対し月額7万4400円の配当金を支払う旨の合意をし
ていた。
本件信託契約については,信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律
(平成18年法律第109号)2条により,信託財産に属する財産についての対抗
要件に関する事項を除き,なお従前の例によることとなり,信託法(大正11年法
律第62号。平成18年法律第109号による改正前のもの。以下「旧信託法」と
いう。)が適用されることとなるところ,同法16条1項は,「信託財産ニ付信託
前ノ原因ニ因リテ生シタル権利又ハ信託事務ノ処理ニ付生シタル権利ニ基ク場合ヲ
除クノ外信託財産ニ対シ強制執行,仮差押若ハ仮処分ヲ為シ又ハ之ヲ競売スルコト
ヲ得ス」と規定していた。
(2)被上告人会社は,平成18年7月19日,本件土地上にある本件家屋を売
買により取得した上,訴外会社との間で,本件土地及び本件家屋を,使用目的を事
務所及び駐車場とし,賃料を月額30万円及び消費税相当額として賃貸する旨の本
件賃貸借契約を締結した。本件賃貸借契約においては,賃料につき,本件土地の賃
料相当額部分と本件家屋の賃料相当額部分の内訳は定められていない。
(3)被上告人会社は,本件土地,本件家屋及びその他複数の土地に係る平成1
8年度分から同23年度分までの固定資産税を滞納したことから,彦根市長は,被
上告人会社に対し,平成24年1月20日付けで,上記固定資産税並びに督促手数
料,延滞金及び滞納処分費(以下「本件滞納固定資産税等」という。)を徴収する
ため,本件賃貸借契約に係る同年2月分以降の賃料の支払請求権を本件滞納固定資
産税等の金額に充つるまで差し押さえる旨の本件差押えをした(以下,本件差押え
の対象となった支払請求権を「本件賃料債権」という。)。
(4)亡Bは第1審係属中に死亡し,被上告人X2が本件訴訟を承継した。
3原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,本件差押え
が全体として違法であるとして,これを取り消すべきものとした。
本件土地,本件家屋及びその他複数の土地の固定資産税に係る租税債権のうち,
本件土地の固定資産税相当額部分は,旧信託法16条1項にいう「信託事務ノ処理
ニ付生シタル権利」に該当することが明らかであるが,上記租税債権のうち,本件
家屋及びその他複数の土地の固定資産税相当額部分は,これに該当するものではな
いので,同部分に基づいて,本件賃料債権のうち,信託財産である本件土地の賃料
相当額部分に対して滞納処分を行うことは,同項に抵触することになる。
そして,固定資産税の納税義務者が複数の不動産を有する場合には,いわゆる名
寄せが行われ,課税標準額及び税額を算出する際の端数処理が上記の複数の不動産
の価格の合計額について行われるとしても,特定の不動産に対する固定資産税相当
額を算出すること自体は可能である以上,信託財産である本件土地のみならず,本
件家屋及びその他複数の土地の固定資産税等に基づき,本件賃料債権の全体を差し
押さえる本件差押えは,同項に違反し,全体として違法である。
第2上告代理人松本光右の上告受理申立て理由第1点について
旧信託法16条1項は,「信託前ノ原因ニ因リテ生シタル権利又ハ信託事務ノ処
理ニ付生シタル権利」に基づく場合を除き,信託財産に対する強制執行等を禁じて
いるところ,その目的は,信託財産の独立性を確保し,受益者の保護等を図るとこ
ろにあるものと解される。このような目的に鑑みるならば,信託財産に対する滞納
処分は,信託財産に関する租税債権など「信託事務ノ処理ニ付生シタル権利」に基
づく場合を除き,同項により許されないと解するのが相当である。論旨は採用する
ことができない。
第3上告代理人松本光右の上告受理申立て理由第2点から第5点までについて
1本件賃貸借契約においては,賃料のうち本件土地の賃料相当額部分と本件家
屋の賃料相当額部分の内訳につき明示の合意はなされていないものの,旧信託法2
8条が信託契約の受託者は信託財産を固有財産及び他の信託財産と分別して管理す
ることを要する旨規定していること,本件土地について信託の登記がされているこ
と,本件土地と本件家屋とは別個の不動産であり,その経済的な価値は別個に観念
することが可能であること等に鑑みると,本件賃貸借契約の当事者の意思を合理的
に解釈するならば,本件土地及び本件家屋の経済的な価値の割合や利用状況等に応
じて,本件賃貸借契約に基づく賃料債権につき,本件土地の賃料相当額部分と本件
家屋の賃料相当額部分とに区分されるものと解するのが相当である。
そうすると,本件賃料債権についても,本件土地の賃料相当額部分を区分するこ
とが可能であると解されるところ,同部分は,被上告人会社が,信託財産である本
件土地の管理行為として締結した本件賃貸借契約に基づき得たものであるから,旧
信託法14条により,信託財産に属するものとなる。
2固定資産税の納税義務者が同一の市町村内に複数の不動産を有する場合に
は,いわゆる名寄せが行われ(地方税法387条),課税技術上,固定資産税は,
全ての不動産につき一体として賦課されることとなる。しかし,各不動産に課され
る固定資産税の課税標準は当該不動産の価格を基準とすること(同法349条)か
らすると,上記の場合に賦課される固定資産税については,これを各不動産の課税
標準で按分することにより,各不動産の固定資産税相当額を算定することができる
というべきである。
3そうすると,本件差押えについては,本件滞納固定資産税等のうち本件土地
以外の不動産の固定資産税相当額に係る部分に基づき,本件賃料債権のうち本件土
地の賃料相当額部分を差し押さえることとなる点において旧信託法16条1項との
関係で問題があるといわざるを得ないものの,本件滞納固定資産税等のうち本件土
地の固定資産税相当額に係る部分に基づき,本件賃料債権を差し押さえることや,
本件滞納固定資産税等に基づき,本件賃料債権のうち本件建物の賃料相当額部分を
差し押さえることは,同項に何ら反するものではないというべきである。
このように,本件差押えにつき同項との関係で問題となる部分は上記の限度にと
どまり,国税徴収法63条が,徴収職員が債権を差し押さえるときはその全額を差
し押さえなければならないと規定していることなどに照らすと,本件差押えの効力
を直ちに否定すべき理由はなく,また,本件差押えを全体として違法とするような
特段の事情もうかがわれないから,本件差押えは,適法である。
もとより,旧信託法16条1項との関係で問題となる部分については,本件賃料
債権のうち本件土地の賃料相当額部分をもって本件滞納固定資産税等のうち本件土
地以外の不動産の固定資産税相当額に係る部分に充当することはできないから,本
件賃料債権が逐次取り立てられて本件滞納固定資産税等に充当された結果,本件滞
納固定資産税等のうち本件土地の固定資産税相当額に係る部分が消滅した場合に
は,上告人は,それ以降に本件差押えに基づき取り立てた本件賃料債権のうち本件
土地の賃料相当額を被上告人会社に交付すべきものであり,交付されない場合に
は,被上告人会社は,上告人に対し,不当利得の返還を求めることができるという
べきである。
4以上と異なる見解に立って,本件差押えを違法であるとした原審の判断に
は,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,以上と同旨を
いう限度で理由がある。
なお,本件土地及び本件家屋の貸付けに係る消費税の納税義務者は,被上告人会
社であり(消費税法5条1項),本件賃料債権のうち本件賃貸借契約において消費
税相当額とされた部分は,本件土地及び本件家屋の貸付けの対価の一部であるとい
うべきであるから,本件差押えにより同部分を差し押えることができるものと解さ
れる。
第4結論
以上によれば,原判決は破棄を免れず,本件差押えが適法であるとして被上告人
らの請求を棄却した第1審判決は結論において是認することができるから,被上告
人らの控訴を棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官大橋正春裁判官岡部喜代子裁判官大谷剛彦裁判官
木内道祥裁判官山崎敏充)

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