弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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               主    文
    1 原判決を取り消す。
    2 被控訴人は,控訴人に対し,金3000万円及びこれに対する平成
14年4月25日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
    3 控訴人のその余の請求を棄却する。
    4 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
    5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
               事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
  (1) 原判決を取り消す。
  (2) 被控訴人は,控訴人に対し,3000万円及びこれに対する平成13年
8月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
 2 被控訴人
   本件控訴を棄却する。
第2 事案の概要
   本件は,生命保険契約の契約者であり死亡保険金受取人である控訴人が,
保険者である被控訴人に対し,被保険者(A)の死亡による保険金3000万円
(及びこれに対する死亡診断書が被控訴人の本店に到達した平成13年7月26
日の翌日から5日が経過した平成13年8月1日〔保険約款上の支払期日〕から
支払済みまで商事法定利率年6分の遅延損害金)の支払を求めたのに対し,被控
訴人が被保険者の告知義務違反を理由に本件生命保険契約を解除したとして争っ
た事案である。
   その余の事案の概要は,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」
欄に記載のとおりであるから,これを引用する。
   原審は,Aの告知義務違反を認め,控訴人の本訴請求を棄却した。
   これを不服として控訴人から提起されたのが,本件控訴事件である。
   当審における争点は,原審と同様であり,(1)Aの告知義務違反の有無(①
告知義務の有無,②告知義務履行の有無,③告知しなかったことについての故意
又は重過失の有無),(2)被控訴人に,Aが不整脈あるいは心房粗動と診断され,
治療を受けていた事実を知らなかったことについて,過失があったか,(3)除斥期
間の経過の有無,(4)被控訴人に保険金支払義務が認められた場合,本件は「事実
の確認のために特に時日を要する場合」(本件契約約款15条5項)に該当する
か,である。
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所は,Aが不整脈あるいは心房粗動と診断され,治療を受けた事実
は,被控訴人に対して告知すべき事項であると解されるところ,Aはこれを告知
しなかったが,告知しなかったことについて悪意又は重過失を認めることはでき
ないから,控訴人の本訴請求は認容すべきものと判断する(ただし,遅延損害金
については,本件訴状送達の日の翌日である平成14年4月25日から支払済み
まで年6分の限度でこれを認める。)。その理由は次のとおりである。
  (1) 証拠(甲1ないし5,7,10〔枝番を含む。以下同様〕,乙1ないし
7,13,15,20,21及び当審証人B)並びに弁論の全趣旨によれば,以
下の事実が認められる。
   ア Aは,平成10年11月17日,定期健康診断を受診したところ,P
ACショートランと心房粗動の所見により要医師指導との判定を受けた。その検
査結果を知らせる文書である「総合健康診断結果のお知らせ」(乙3。以下「健
康診断結果」という。)には,「心電図に所見が見られます。すぐに医師に相談
しましょう。」「中性脂肪が高め(なお,数値は「1107」であった。)です
ので,すぐに詳しい検査を受けましょう。」「血圧がやや高め(数値は「140
/86」であった。)です。機会がある毎に血圧を計り,これ以上高くなるよう
でしたら,医師に相談しましょう。」「肝機能検査に異常値があります。飲酒習
慣を見直し,機会をとらえて医師に相談しましょう。これ以上体重が増えないよ
う気をつけましょう。」「総コレステロールが高め(数値は「275」であっ
た。)です。動物性脂肪の摂りすぎに注意し,機会を見て再検査を受けましょ
う。」と記載されていた。
     PACとは,premature atrial contraction(心房性期外収縮)の
略称であり,期外収縮とは,心筋を動かす電気が,本来それを作る洞結節ではな
く,別の場所で作られ,少し早めに流れるために起こる不整脈であり,心房性期
外収縮とは心房からでる電気による期外収縮のことである。
     また,通常の心臓は,毎分50ないし100回興奮するものであると
ころ,心房粗動とは,心房が毎分250ないし400回比較的規則的に興奮する
症状であるが,心房内に先天的なある種の電気的な異常回路が存在するために起
こってくるものであり,生活習慣とは直接関連がなく,通常は突然死の原因にな
り得る危険な不整脈ではない。
   イ Aは,平成10年11月27日,頭がボーッとすることと夜眠れない
ことなどを訴え,安佐市民病院の神経科を受診した。神経科の医師は,Aについ
て,パニック障害,脳器質性疾患の疑い,てんかんの疑い,神経症であると診断
した。なお,神経科外来予診票(甲7の5頁)には,1日5合以上の飲酒,50
本以上の喫煙をしている旨記載した。平成11年1月27日,Aは,同病院の内
科を受診し,その初診時,神経科の薬を飲んでもフワフワした感じがあり,目の
前がボーッとする,フーッとする,息苦しい,最近は胸部不快感がなくてもフー
ッとするなどと訴えた。
   ウ Aは平成11年1月27日から同年6月9日までの間,9回にわたり
安佐市民病院に通院したが,動悸があること,胸部に不快があること,夜中息が
止まることなどを訴えていた。この間,Aは,健康診断結果(平成10年11月
17日受診に係るもの)を同病院に提出したほか,同病院でも心電図の検査を受
けている。Aを診察した同病院のC医師は,平成11年2月2日の携帯型長時間
心電図検査の結果から,Aについて,心房粗動と心房細動の併存症と診断してい
た。心房細動も,心房内に電気的な異常回路が存在するために生じる不整脈であ
ることは,心房粗動と同様であるが,心房粗動が先天的なもので心房内での規則
的な電気の旋回が起こるために生じるのに対し,心房細動は,主として後天的な
原因により不規則な電気の旋回が起こるために生じるもので,特にアルコールが
誘因になることが多い病気とされる(その意味で,心房細動は,高脂血症と同様
生活習慣病としての側面を有する。)。そこで,C医師は,Aが日常的に多量に
飲酒し,高脂血症の症状もあったことから,Aに対し,アルコールをできるだけ
減らすこと,食事の摂取量を2000キロカロリー程度とし,脂肪分,塩分を控
えることを内容とする栄養指導を行うとともに(なお,同日の血液検査の結果か
ら,中性脂肪値は「150」に,総コレステロール値は「210」にそれぞれ改
善されていた。),主として抗血栓薬,抗不整脈剤,心不全・不整脈治療剤を投
与した。平成11年3月10日,Aは,朝から動悸があり,仕事に出たが胸部に
不快感があるということで,急遽同病院を受診した(定期診察外)。このとき診
察に当たったのは,予約外での診察でもあったことから担当のC医師ではなく,
D医師(循環器主任部長)であったが,同医師も,Aに対し,抗不整脈薬,抗血
栓薬を投与するとともに禁酒を指示した。その後の同年4月7日以降,Aの治療
は,C医師からB医師に引き継がれた。その際,B医師は,C医師から,Aにつ
いて,心房粗動と心房細動の併存症であること,1日5合の飲酒を5年間続けて
きたこと,禁酒によって症状は軽快したが,最近飲酒を再開し,発作回数が増加
したことなどの申し送りを受けた。B医師は,Aを診察した上,アルコールの影
響による不整脈と診断し,Aに対し,ほぼ診察のたびに,禁酒するよう指示する
とともに,引き続き主として抗不整脈薬,抗血栓薬を投与した。もっとも,B医
師が診察した期間(4月7日から6月9日)にAから,不整脈に関する訴えはな
かった。なお,高脂血症に関しては,Aに対し,前記の栄養指導のほかに,特に
投薬等の治療は行われていない。
   エ 平成12年7月14日,当時控訴人の代表者であったAは,自己を被
保険者,控訴人を死亡保険金の受取人などとする本件契約(保険契約者は控訴
人)の申込みを行い,同月20日,被控訴人の保険面接士Eの面接を受けた。そ
の際,Aは,E面接士からの以下の各質問に対し,(イ)④及び(ウ)の質問事項に
ついては,「はい」と回答して丸を付けた上,詳細記入欄に,傷病名として「⑤
⑥高脂血病」,「診察・検査・治療・投薬をうけた年月または期間」欄に,「1
1年3月から11年9月まで」,医療機関名欄に「安佐市民病院」,「検査結
果・治療内容・経過」欄に「食事療法で症状が良好」と記入した。また,上記以
外の質問事項については,すべて「いいえ」と回答して丸を付けた(以下「本件
告知」という。)。なお,Aは,これに関連するE面接士の質問に対し,⑥につ
いては,「はい」が正しく,⑤⑥について,高脂血症の数値は分からないが,平
成11年3月から9月まで6か月薬を飲んで数値が良くなったので,その後は薬
は飲まず,食事療法のみしている旨口頭で回答した。
    (ア) 最近の健康状態(本件告知書1項)
     ① 最近3ヵ月以内に,医師の診察・検査・治療・投薬をうけたこと
がありますか
     ② また,その結果,検査・治療・入院・手術をすすめられたことが
ありますか
    (イ) 過去5年以内の健康状態
     ① 過去5年以内に,病気やけがで,継続して7日以上の入院をした
ことがありますか(正常分娩による入院をのぞきます)(本件告知書2項)
     ② 過去5年以内に,病気やけがで,手術をうけたことがありますか
(本件告知書3項)
     ③ 過去5年以内に,下記の病気で,医師の診察・検査・治療・投薬
をうけたことがありますか(本件告知書4項)
      a 心臓・血圧の病気   狭心症など
      b 脳・精神・神経の病気 脳卒中など
      c 肺・気管支の病気   ぜんそくなど
      d 胃腸・すい臓の病気  胃かいようなど
      e 肝臓・胆のうの病気  肝炎など
      f 腎臓・尿管の病気   腎炎など
      g 目・耳・鼻の病気   白内障など
      h がん・しゅよう    がんなど
      i 右記にかかげる病気  糖尿病・リウマチ・こうげん病・貧血
症・紫斑病・甲状腺の病気・椎間板ヘルニア・痔
     ④ 過去5年以内に,上記③にかかげる以外の病気やけがで,7日間
以上にわたり,医師の診察・検査・治療・投薬をうけたことがありますか(本件
告知書5項)
    (ウ) 過去2年以内の健康診断(本件告知書6項)
      過去2年以内に健康診断・人間ドックをうけて,下記の臓器や検査
の異常(要再検査・要精密検査・要治療を含みます)を指摘されたことがありま
すか
      心臓・肺・胃腸・肝臓・腎臓・すい臓・胆のう・子宮・乳房・血圧
測定・尿検査・血液検査・眼底検査
    (エ) 身体の障害
     ① 視力・聴力・言語・そしゃく機能に障害がありますか(本件告知
書7項)
     ② 手・足・指について欠損または機能に障害がありますか,または
背骨(脊柱)に変形や障害がありますか(本件告知書8項)
   オ Aは,平成13年6月12日,一人で入浴した際,裸のまま仰向けに
床面に倒れている状態で妻に発見され,広島市民病院に救急車で搬送されたが,
急性心不全により,同病院において死亡した。被控訴人においては,保険契約の
締結から短期間で死亡が発生した場合には,告知義務違反の有無などを調査する
扱いにしているが,契約件数が膨大であることから,調査は調査会社に依頼して
いる。Aの件に関しては,F株式会社が調査し,平成13年10月16日にその
調査結果を記載した「短期死亡確認報告書」(乙13)を被控訴人に提出してい
る。
   カ これに先立つ平成13年9月20日,B医師は,Fの担当者Gが病院
を訪れて依頼したのに応じて,その場で「診療証明書(診断書)」(甲10の
4)を作成した。同書面には,「心電図上,心房粗動を認め,抗不整脈剤の投与
をし,不整脈の管理を行った。管理中,何回か不整脈(心房細動)を認めた。」
「本人には11年1月27日頃に病名を不整脈と告げた。」との記載がある。B
医師は,同書面の記載について,高脂血症に関することも併せて記載すべきであ
った,本人に不整脈と告げた旨の記載については,C医師の作成した診療録の同
日欄の「心房粗動」の記載を見て記載した旨述べている。また,B医師は,C医
師がAに対して病名等をどのように説明をしたのかは知らないし,普通の30代
の男性が心房粗動というものを病的な表現として理解するということは,一般的
にはありえないことだと認識しているが,診療録の「入院精査は無理とのことで
外来でフォローしています」との記載から,高脂血症なり不整脈(どちらともい
えない)について,入院して精査することを勧めた事実があったものとの推測は
している。さらに,B医師は,自分がAに対してどのような説明をしたかについ
て,診療録に記載がなく,記憶もないが,一般に患者に対して薬を処方する際,
その説明をしないことはあり得ないと述べている。なお,B医師は,Aの死因に
ついて,心房粗動が突然死の原因となることは少ないこと(1パーセント以
下),Aはコレステロール及び中性脂肪の各数値が高く,喫煙本数が1日50本
であることなどから,生活習慣病により急性心筋梗塞を発症した可能性が高いと
考えている(以上のB医師の供述は,いずれも当審におけるもの)。
  (2) 争点(1)(告知義務違反の有無)について
   ア 前記認定事実によれば,Aは,平成10年11月17日に定期健康診
断を受診した結果,PACショートランと心房粗動の所見により要医師指導の判
定を受け,心電図に所見がみられたので,すぐ医師に相談するよう指摘を受けて
おり,当時本人もこれを認識していたということはできるが,PACショートラ
ン,心房粗動などは一般的には何のことか全く理解できないもの(当審証人B)
で,普通の30代の男性が心房粗動を病的な表現として理解することは,一般的
にはありえないこと(前記(1)カ),診療録にAに対する説明内容の記載がなく
(当審証人B),安佐市民病院においても,Aは心房粗動等についての十分な説
明を受けていなかったものと推認できること,さらに,Aは,E面接士に対して
投薬治療により高脂血症の数値が下がった旨回答しており,当時,高脂血症に対
して投薬治療が行われているものと認識していたものと推認できることなどから
すると,Aが,E面接士と面接した平成12年7月20日当時,心電図上異常所
見があったということ以上に心房粗動を病的なものと理解した(すなわち,告知
すべき事実であることを認識した)上,これをE面接士に告知することは困難で
あり,告知しなくともやむを得なかったというべきである。
     もっとも,B医師が診療録の記載から,C医師がAに対して「不整
脈」と告げたものと推測していることや,B医師が薬を処方する際は,必ず薬の
説明をしていたこと,胸部の不快感から急遽同病院を受診したことがあったこと
などからすると,Aは,同病院の医師らから不整脈であること,その治療のため
に薬を処方することなどを告げられていた可能性は高く,治療内容についての認
識が誤っていたとしても,少なくとも「不整脈」があることは認識していたもの
と推認することができる。
     ところで,被保険者が保険契約締結に当たり告知すべき「事実」と
は,保険者がその事実を知っていたならば契約を締結しないか,少なくとも同一
条件では契約を締結しなかったと客観的に認められるような被保険者の生命の危
険を予測する上で影響のある事実をいうものと解されるところ,不整脈と診断さ
れ,その治療を受けていたことは,不整脈が生じる原因が心臓疾患にある場合も
あること(甲6)などからすると,告知すべき事実にあたるものといわなければ
ならず,この点に関し,告知義務自体がないとする控訴人の主張は採用できな
い。
     また,Aは本件告知書6項(過去2年以内の健康診断に関するもの)
について「はい」と回答しているが,その欄に記載された心臓以下の各臓器のど
れにも丸を付けておらず,心臓に関しての特記事項もないこと,高脂血症につい
ては詳細に記載していることからすると,前記「はい」という回答は「高脂血
症」を意識して記載されたものであり,心臓に関する告知をしたものとみること
はできないところ,証拠(甲5,6,8,乙4の2,5)によれば,高脂血症が
血液に関連する病気・症状であるのに対し,不整脈・心房粗動が心臓に関係する
病気・症状であることが認められることからすれば,高脂血症について告知した
ことをもって,心房粗動ないし不整脈に関しても告知義務を果たしたとみること
はできないのであって,同記載をもって告知義務を尽くしたとする控訴人の主張
も採用できない。
     そうすると,Aは,客観的には,被保険者が保険契約締結に当たり告
知すべき事実に該当する安佐市民病院で受けた不整脈の診断及び治療を被控訴人
に告知しなかったことになる。
   イ そこで,次に,Aが被控訴人に対して不整脈に関する事実を告げなか
ったことについて,故意又は重過失があるかどうかについて検討する。
     まず,不整脈と同様に告知すべき事実に該当するというべき高脂血症
について,Aは定期健康診断で指摘されたことも治療を受けたこともありのまま
回答している(実際には投薬治療は不整脈に対するものであって高脂血症に対す
るものではなかったにもかかわらず)ことなどからすると,Aが,不整脈の診断
を受けたことを,それが告知を要する事実であると知りつつ敢えて告知しなかっ
たとは考えられず,故意を認めることはできない。とはいえ,Aは,胸部の不快
感や動悸があることを訴えていたわけであるから,医師らから不整脈と告げら
れ,投薬治療も受けていたのに,投薬治療を高脂血症に対するものと誤解し,不
整脈の診断を受けたことを被控訴人に告知しなかった点に過失があることは否定
できない。
     しかしながら,不整脈とは,心臓の不規則な収縮のことをいい,中年
以上であれば毎日1ないし2個の不整脈がみつかり,その原因も種々あって,心
臓の病気だけでなく,睡眠不足,疲労などでも起こるほか,病気とは関係のない
不整脈も多いこと(甲6),このように,不整脈が必ずしも病気とは結びつか
ず,また,原因が様々であるということは,一般にも広く知られていると考えら
れること,当審において,B医師も不整脈はありふれた病名であることから,緊
急入院の必要があって医師が説明するような場合はともかく,そうでない場合に
患者がこれをどのように受け止めるかは分からない旨証言していること,Aに対
し不整脈について説明した内容を記載したものはないこと(当審証人B),前
記(1)ウのとおり,Aに対する指示は,禁酒を含めた栄養指導であり,B医師も禁
酒を度々指示していたこと,禁酒は,高脂血症の改善のみならず,不整脈のう
ち,Aに心房粗動とともに認められた心房細動に対しても,アルコールが誘因に
なることから有効であり,高脂血症と不整脈(心房細動)は,どちらも生活習慣
病としての側面を有し,治療的にも重なる部分があったこと,前記のとおりAは
高脂血症に対して投薬治療が行われていたものと誤解していたと推認できること
などからすると,Aは,不整脈についての十分な説明を受けておらず,そのた
め,不整脈を高脂血症と独立した別の病気であると理解し認識することができ
ず,このようないわば誤った認識の下に不整脈を告知しなかったものと推認する
ことができる(すなわち,Aは,いずれも別々に告知すべき事実であるとの認識
がなく,高脂血症について告知すれば,被保険者として事実を告知すべき義務を
果たし得るものと理解していたことが推認できる。)。Aがこのように誤った認
識の下に告知しなかったことは,前記の不整脈に関する一般の理解や高脂血症と
不整脈に対する治療に重なる部分があったこと(両者を区別して理解することを
困難にする。)に照らせば,やむを得ないことであったというべきであり,告知
しなかったことに重大な過失があったとまで認めることはできない。
   ウ したがって,Aに告知義務違反を認めることはできず,被控訴人は,
控訴人に対する保険金の支払を免れることはできない。
  (3) 争点(4)について
    控訴人は,本件契約約款15条5項(「保険金,給付金は,事実の確認
のためとくに時日を要する場合のほか,第2項または第3項の必要書類が会社の
本店に到達してから5日以内に会社の本店または支社で支払います。」)を根拠
に,死亡診断書が被控訴人本店に到達した平成13年7月26日から5日が経過
した同年8月1日には本件死亡保険金の支払義務の履行期が到来した旨主張す
る。
    しかしながら,本件契約においては,契約締結からAの死亡までが短期
間であったことから,被控訴人は,告知義務違反の有無等の調査を行う必要があ
ると判断して,実際に事実関係の調査をFに依頼して行い,同社からの調査結果
(そして,Aが被控訴人に対し,不整脈の治療を受けていた事実を告知していな
かったことが判明した。)が平成13年10月16日に被控訴人に提出されたと
いう経過からすれば,本件は,同条項にいう「時日の確認のためとくに時日を要
する場合」に該当するというべきであるから,本件死亡保険金の支払義務の履行
期が到来したのは平成13年8月1日ではなく,控訴人が被控訴人に対してその
支払を請求したことが明らかな本件訴状送達の日であると認めるの相当であるか
ら,遅延損害金については,訴状送達の日の翌日である平成14年4月25日か
ら支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度
で認めることができる。
 2 以上の次第で,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の本訴請
求は理由があるから認容すべきであり(ただし,遅延損害金については,前記の
限度で),これと異なる原判決は不当であるから取り消すこととし,主文のとお
り判決する。
    広島高等裁判所第2部
       裁判長裁判官   鈴   木   敏   之
          裁判官   松   井   千 鶴 子
 
          裁判官   工   藤   涼   二

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