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平成13年(行ケ)第387号 審決取消請求事件(平成14年3月4日口頭弁論
終結)
          判         決
   原      告   株式会社力王
訴訟代理人弁護士   宇 井 正 一
同          笹 本   摂
同    弁理士   田 島   壽
       被      告   株式会社ノグチ
訴訟代理人弁理士   細 井   勇
同          清 水   修
          主         文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   特許庁が平成11年審判第35757号事件について平成13年7月13日
にした審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
  被告は、「力王」の文字を縦書きしてなり、指定商品を商標法施行令別表
(平成3年政令第299号による改正前のもの)による第7類「金属製の建築又は
構築専用材料」とする商標(登録第2712198号、昭和62年6月6日登録出
願、平成8年1月31日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者であ
る。原告は、平成11年12月20日、本件商標登録の無効審判の請求をし、特許
庁は、同請求を平成11年審判第35757号事件として審理した結果、平成13
年7月13日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本
は、同年8月2日、原告に送達された。
2 審決の理由
  審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、(1) 本件商標がその指定商品の需
要者の間で著名な原告の略称である「力王」(以下「原告略称」という。)からな
るにもかかわらず原告の承諾を得ることなく登録されたので商標法4条1項8号に
掲げる商標に該当するとの原告の主張について、原告略称が著名とは認められない
とし、(2) 本件商標が地下たびの取引者、需要者の間で原告の商標として周知、著
名な「力王」(以下「原告商標」という。)と同一のものであり本件商品の指定商
品に使用されると出所の混同を生ずるから同項15号に掲げる商標に該当するとの
原告の主張について、原告商標の周知、著名性は本件商標の指定商品には及んでお
らず、本件商標をその指定商品に使用しても商品の出所混同のおそれはないと
し、(3) 本件商標が著名な原告略称及び原告商標を不正の目的をもって出願したも
のであり同項7号に掲げる商標に該当するとの原告の主張について、上記不正の目
的は認められないとして、同法46条1項により本件商標登録を無効とすることは
できないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
  審決は、原告略称が著名とは認められないとの誤った認定をし(取消事由
1)、原告商標の周知、著名性は本件商標の指定商品に及んでいないとの誤った認
定に基づいて、本件商標をその指定商品に使用しても商品の出所の混同は生じない
との誤った認定をし(取消事由2)、本件商標が著名な原告略称及び原告商標の顧
客吸引力にただ乗りする不正の目的をもって出願したものであって商取引の秩序を
阻害し商道徳に反するとは認められないとの誤った認定をした(取消事由3)もの
であるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(原告略称の著名性の認定の誤り)
  (1) 商標法4条1項8号の趣旨
    商標法4条1項は、商標登録を受けることができない商標を掲げ、同項8
号は他人の「著名な略称」を含む商標を規定するが、その趣旨は、他人の人格権の
保護、すなわち、自己の名称等が無断で商標に使用されることによりその者の人格
権が毀損されることを防止することにある。略称が著名である場合には、氏名と同
等に特定人を示すことが明らかとなり、その場合には、氏名と同様に略称が保護さ
れるのであるから、ここにいう著名とは、その略称が特定人を表示するものとして
世間一般に認識され機能していることをいい、有名という意味での著名性ではな
い。審決は、本件商標の指定商品の分野における著名性が確立していなければ、原
告略称の著名性を認めることはできないとするが、著名性は、世間一般で認められ
るかどうかの問題であって、指定商品を考慮すべきではない。特に、会社の商号か
ら組織形態を除いた部分は、形式的には略称であるが、会社の人格権が実質的に化
体している部分であるから、その著名性の程度は、通常の略称よりも低いもので足
りると解すべきである。
    同号所定の著名性は、指定商品ごとの著名性ではないが、特定人が主とし
て活動する分野においてその略称の著名性が顕著であり、かつ、その分野が世間一
般に知られやすい分野であれば、その略称は著名なものということができる。
  (2) 著名性を基礎付ける事実
    平成2年当時、全国で地下たびを履用する者は、建設業者が600万人、
農林業者が400万人、合計1000万人であった。我が国における全商品及び役
務の需要者は、商品購買能力のある就業者人口とほぼ同数の6000万人と推定さ
れ、その6分の1が地下たびの需要者である。本件商標の出願時である昭和62年
においても、この点で大きな変動はない。上記1000万人中には、事務職に従事
する者がいないわけではないが、業種の性質上、その人数は少ない。
    原告は、昭和34年以来、原告略称を社名の中核を構成するものとして使
用しており、また、昭和26年以来、自己の主力商品である地下たびに原告商標を
使用し、昭和27年には、その商標登録を行っており、原告製の地下たびは、70
%近くのシェアを有している。地下たびは、主として高所作業者、土木作業員又は
農園芸の分野で履用されるものであるが、特殊な店舗で販売されるものではなく、
履物の小売店やホームセンターなど、一般消費者が商品を購入する店舗で販売され
るものである。原告は、一般消費者用の長靴等の製造販売も行っており、年間40
万足の長靴を販売している。履物の小売店やホームセンター等では、原告略称が掲
げられ、一般消費者の目に頻繁に触れているから、原告略称は、地下たび業界を越
え、産業界一般及び一般消費者の間にも広く認識されている。
    原告は、昭和43年という極めて早い時期から海外に生産拠点を築き、全
産業界に先駆けて生産機能を海外に一本化し、昭和60年当時、社員一人当たりの
売上が2憶4000万円、売上高78億円を挙げる優良企業として地位と名声を確
立していた。原告の従業員は27名であるが、原告はその生産をすべて海外におい
て行う点で、生産活動を国内で行う一般のメーカーと異なる。原告の活躍ぶりは、
全国の一般紙、業界紙、経済誌等が頻繁に取り上げ、原告は全国的に大きく注目さ
れた。これらの新聞、雑誌等によれば、昭和43年当時、原告は、既に地下たびに
ついて40%のシェアを有し、本件商標が出願された昭和62年6月には、60な
いし70%のシェアを占めていたことが明らかである。被告は、原告の従業員数が
少ないことを主張するが、会社の略称の著名性は、取引規模、商品の品質等によっ
て決定されるのであり、単純に従業員数で決定されるものではない。
    原告は、業界紙である「シューズポスト」及び「ゴムタイムス」に、昭和
50年頃から現在に至るまで継続して広告を掲載し、日本経済新聞には、昭和33
年7月から1面題字下に継続的に広告を掲載している。原告の会長は、海外生産委
託の成功者として、現在でも、全国各地から講演を依頼され、講演活動を行うな
ど、注目され続けており、原告略称の著名性は、現在に至るまで低減していない。
    審決は、地下たびの市場が成熟していること、地下たびを取り扱っている
原告は一般購読者の注意をひかないこと、地下たびが当該業種に係る商品を離れて
は存在せず原告略称と当該業種ないし商品とが不離一体のものであることなどを説
示するが、このような事情は、原告略称の著名性とは関係がない。
    原告略称は、昭和23年創業当時、スマートさに欠け使い勝手も悪かった
当時の地下たびの不具合を一新して、軽快かつ力強い製品の製造販売を目指すな
ど、創業者の熱意と意気込みが込められたものである。また、原告略称は、造語で
あって、辞典類にも掲載されていない。「力王」の表示は独創的かつユニークなも
のであり、容易に思いつくものではない。「力」と「王」が平易な漢字であるから
といって、両者を結合して強い印象を与える造語を創ることは、容易なことではな
いのであって、原告略称には、独創性がある。被告は、「力王」を含んだ第三者の
登録商標を挙げるが、毎年10万件を超える商標が出願され、これまで300万件
を超える商標が登録されている中で、わずか4件しか登録がないということは、容
易に思いつく商標でないことを示している。原告が我が国において初めて原告略称
を造語、使用した事実は、その独創性を物語っている。
    審決は、被告が昭和32年に商標登録を取得した「RIKIO/力王」商標(以
下「旧被告商標」という。)が建築金物業界では相当の知名度を有しているなどと
認定するが(審決謄本21頁13行目~17行目)、商標法4条1項8号の立法趣
旨は人格権の保護にあり、著名性の要件は当該略称が特定人を指し示すといえるか
どうかに係る要件であるから、原告略称の著名性を判断するに際して、被告の商標
の周知性を問題とするのは失当である。また、被告商標が周知、著名であるとの立
証もない。
    仮に、著名性の判断に当たって指定商品を考慮すべきであるとしても、地
下たびの需要者は、高所作業者、土木作業員など建築作業に従事する者であり、本
件商標の指定商品の需要者でもある。地下たび業界において原告略称は著名であ
り、本件商標の指定商品と需要者が共通するから、本件商標の指定商品について
も、原告略称の著名性が確立している。
 2 取消事由2(商品の出所混同のおそれの認定の誤り)
  (1) 原告商標の周知性
    商標法4条1項15号所定の混同とは、出願商標の付された商品について
他人の商品と誤認混同を生じさせる狭義の混同に限らず、他人と出願商標を使用す
る者との間に経済的又は組織的に何らかの関係が存すると誤認する広義の混同を含
む。本件商標の指定商品と原告商標の指定商品とは、いずれも建築現場において常
用される商品であり、本件商品が原告からライセンスを受けた者の業務に係るもの
との誤認混同が生ずる。同号は、指定商品を要件とせずに混同を防止する規定であ
って、商品の種別が異なることは、同号該当性を否定する理由とはならない。近
年、著名ブランドの商標権者から使用許諾を受けてその顧客吸引力を利用して商品
を販売することが頻繁に行われるようになった。原告商標が著名性を獲得し、ま
た、原告が地下たび以外にも長靴の製造販売、松茸の輸入等を行っていることから
すれば、本件商標がその指定商品に使用された場合には、原告から許諾を受けて使
用されているのではないかとの広義の混同のおそれが生ずる。
    原告が販売する商品には、そのすべてに「力王」の標章が使用されてお
り、原告商標は、原告略称と同一であるから、原告略称の著名性を基礎付ける事情
は、原告商標の著名性を基礎付けるものでもある。そうすると、原告商標は、地下
たび業界のみならず、本件商標の指定商品の分野、さらには、一般消費者の間にお
いても、原告の商標として著名である。
    世界知的所有権機関は、平成12年10月29日発行の裁定書をもって、
第三者が登録したドメインネーム「rikio.com」を原告の商標管理を行う会社に移転
すべきものと裁定した。同様に移転が認められたドメインネームとし
て、「hitachi2000.net」「canonastro.com」など、我が国を代表する企業の商標を
含むものがあり、原告に同様の裁定が下されたということは、原告商標も上記著名
商標と同様に著名なものとして扱われたことを意味する。その裁定書においても、
原告が我が国において地下たびの著名ブランドである「RIKIO」を多数有している旨
認定されている。審決は、上記裁定が相手方の悪意の存在を理由に認められたとす
るが、盗用されるのは著名な商標だからである。上記裁定の後、本件出願までの間
に、原告の業績に顕著な悪化があったなどの事情は存在しないから、上記裁定の判
断から、本件出願時における原告商標の周知性を推認することができる。
    審決は、本件商標の指定商品の需要者が、土木工事、建築工事の設計業
者、施工業者であるというが、これら設計業者は専ら設計を行う者であり、本件商
標の指定商品の需要者とはなり得ない。上記施工業者は、土木工事、建設工事の作
業従事者によって構成され、結局、原告商標の指定商品である地下たびの需要者に
ほかならない。土木建築の分野では、建築材料等を購入して建築工事を行う者は、
零細個人企業がほとんどであり、建築材料の需要者が同時に高所作業者、土木作業
員として作業を行っているのが実態であって、両商標の指定商品の需要者は共通し
ている。また、地下たびと建築金物は、共に土木建築工事現場で常時使用される商
品であり、商品相互に密接な関連性が認められる。被告は、原告の論法によれば、
高所作業者が着用する作業服、使用する自動車等までが需要者を共通にすることと
なり妥当でないと主張するが、高所作業者等は、地下たびを土木建築関係の商品と
して購入しているのであり、この点で自動車等とは異なる。
    原告の商品である地下たびは、ホームセンターでも販売されるようになっ
たが、昨今の消費、流通の変革により、建築材料の大口需要者である土木建築工事
の作業従事者が直接これらの店舗で地下たび等の作業靴類を購入するようになり、
建築金物等が地下たびと同種の建築作業用品として近接した場所で販売されている
実情にある。いずれの店舗においても、需要者の共通する商品は近接して陳列され
るものであり、ホームセンターにおいても同様である。
  (2) 本件商標の周知性及び混同のおそれ
    審決は、本件商標が建築金物業界において相当程度の周知性を有していた
と認定するが、本件商標の周知性を客観的に証明する証拠はない。仮に、本件商標
が建築金物について周知であったとしても、これは、本件商標の指定商品である
「金属製の建築又は構築専用材料」のほんの一部にすぎない。少なくとも、その余
の指定商品については、混同のおそれが肯定されるべきである。
    審決は、被告の平成9年カタログを引用し、各地に事業所があり取引先が
広範な地域に及んでいることなどから、本件商標の周知性を認定するが、カタログ
における事業所の記載が真実かどうか、各事業所における建築金物類の取引量がど
の程度であったか不明である上、昭和62年の本件出願時から上記カタログ作成ま
で10年近くが経過しており、上記カタログにより本件出願時の状況を推認するこ
とはできない。また、審決は、関連事業組合の証明書類を本件商標の周知性を認定
する資料とするが、これら証明書類は、その記載内容を裏付ける客観的資料が全く
提出されていないから、周知性の証明力を欠く。さらに、審決は、被告の昭和35
年、昭和40年等のカタログ類をもって、被告が本件商標を昭和32年から今日ま
で継続して使用してきたことを認定するが、カタログの頒布数量などが不明であっ
て、本件商標の周知性を認めるには不十分である。加えて、被告のカタログには、
桜王冠印が使用され、被告商品には、本件商標よりも桜王冠印が使用されてきた事
実がうかがわれる。
    被告は、昭和62年、旧被告商標の更新登録の出願を行わず、その更新登
録が可能な期間内に本件商標の登録出願をした。当時、更新登録の出願を行うに
は、登録商標の使用事実を立証する必要があり、本件商標の登録出願時に旧被告商
標の使用事実がなかったものと推認される。
 3 取消事由3(不正目的の認定の誤り)
   審決は、本件商標が昭和32年から現在まで建築金物に使用され、相当程度
の周知性を獲得しているとするが、そのような事実は立証されていない。本件商標
は、原告商標と同一の構成であるが、被告が昭和32年に出願したのは、本件商標
とは構成を異にする旧被告商標であって、本件商標の登録出願は、原告が原告商標
の使用を開始した昭和26年より相当後れた昭和62年6月にされている。また、
昭和32年の時点においても、原告商標は既に著名であり、被告が原告商標の存在
を知っていたことは明らかである。本件商標の指定商品と原告商標の指定商品とは
需要者が共通しており、原告商標が独創的であり容易に思いつくものではないこと
に照らすと、被告は、著名な原告商標にフリーライドする不正の目的をもって、あ
えて本件商標を出願し登録を受けたことが明らかであり、本件商標は商標法4条1
項7号に該当する。
第4 被告の反論
1 取消事由1(原告略称の著名性の認定の誤り)について
  (1) 商標法4条1項8号の趣旨
    同号の趣旨が人格権保護にあるとしても、略称については、名称と異なり
著名性が要件とされている。名称は登記簿により確定することができるが、略称に
は確定手段がないため、単なる略称は特定人の同一性を認識することができない
上、略称は、ある程度恣意的なものであるから、すべてを保護するのは行き過ぎで
あるとの見地の下に、著名なものに限って保護を受け得るのである。原告は、同号
所定の著名性は、有名という意味での著名性まで必要とするものではないと主張す
るが、そのように解すると、人格権保護に偏し、第三者の商標選択の自由を不当に
制約することとなって相当でない。
    原告は、法人名称の略称については、通常の略称の場合よりも著名性の程
度が低くとも同号該当性を認めるべきであると主張するが、同号は、略称一般につ
いて著名性を要件としており、法人とその他の場合とで別異に解すべきではない。
    審決は、原告略称が地下たびの商品分野を越えて認識されるほどの著名性
を獲得していないと判断して著名性を否定しているのであって、その判断手法に誤
りはない。会社の略称が著名になるためには、当該会社の商品に関する製造販売活
動を通して社会的に認知され、信用が蓄積されることを要するのであり、商品との
関係を無視することはできない。会社の略称の著名性は、取り扱う商品の商品分野
を起点として発生するから、周知性の広がりが特定の商品分野にとどまっているの
か、他の商品分野まで広がっているのかを判断すべきである。商品の性質上、取引
者、需要者が広範囲にわたり、他の商品分野への広がりを持っていれば、その商品
を扱う企業の略称及び商標は、多くの人に知られるところとなり、世間一般におい
て著名な略称となるのに対し、商品の需要者の範囲が限られた狭い範囲の者である
場合には、他の商品分野における取引者、需要者に知られることはない。
  (2) 著名性を基礎付ける事実
    原告は、建築業及び農林業に従事する者が地下たびの需要者であり、平成
2年当時において1000万人であると主張するが、一般事務に従事して地下たび
の需要者ではない者も含まれているし、本件商標の登録出願時である昭和62年の
ものではない。
    原告は、原告略称の永年使用、地下たびの市場占有率、海外生産委託の成
功等を主張するが、それだけでは、原告略称に人格的利益が認められるものではな
い。また、原告は、原告が優良企業として地位と名声を確立したとか、原告の会長
が講演活動をしていることを主張するが、海外生産に成功したことは、原告略称が
一般消費者に広く知られていることの根拠とはならないし、海外進出する企業は多
数に上り、草創期における注目度も時間の経過と共に低減する。原告が地下たびに
ついて高いシェアを有し、又は海外進出に成功した実績があっても、扱う商品が特
殊な分野に属する以上は、著名性がその商品分野を越えて広がるものではない。
    原告略称の著名性を立証するものとして提出された証拠中、世間一般の目
に触れる新聞、雑誌等は、ほとんどが本件商標の登録出願後の発行に係るものであ
る。また、本件商標の登録出願前に発行されたものは、原告が海外進出に成功した
ことに関連した取材記事が掲載されているにすぎず、原告略称を強く印象付けるも
のではない。新聞、雑誌には、多くの会社の紹介記事が掲載され、原告に関する記
事が掲載されているからといって、特に原告のみが注目を浴びていることを意味す
るものでもない。
    原告の広告には、「力王たび」「力王跣たび」と表示され、「力王」の文
字が「たび」「跣たび」の文字と不離一体の関係で結合され、また、「力王たび」
においては、その近傍に地下たびの図柄が描かれ、原告略称は、常に商品である地
下たびとの関係で認識される。また、地下たびは、その需要者が高所作業者、土木
作業員等、極めて限られた範囲の者であり、一般消費者にとってなじみの薄い商品
である。そうすると、原告略称が地下たびの商品分野を越えて他の商品分野にも広
く知られたものということはできない。
    原告は、原告略称が造語であり、ありふれたものではないと主張するが、
それだけでは人格権保護に十分ではない。また、自社の商品に「耐久力のある力強
いもの」「優れた品質のもの」というイメージを持たせるため、「力」及び「王」
の字を選択し結合することは、極めて容易である。現に、「力王」を含む4件の商
標が、原告以外の者によって登録されている。原告は、4件の商標しか登録されて
いないことは原告略称の独創性を裏付けるというが、類似する後願商標は登録が拒
絶されるし、ありふれた商標がすべて出願されるわけではないから、原告略称の独
創性を裏付けるものではない。
    原告は、地下たびが、履き物の小売店、ホームセンター等、一般消費者が
商品を購入する店舗で販売されることから、原告略称が一般消費者にも広く知られ
ていると主張するが、ホームセンター等に地下たびが陳列されている場合、原告略
称に注目するのは地下たびに興味を持つ者に限られ、その他の消費者は、原告略称
に注目することはない。店舗には多種多様な商品が陳列されているから、消費者
は、購入目的とし、又は興味のある商品にのみ注目し、それ以外の商品に対しては
注目しないものである。地下たびが、一般消費者が商品を購入する店舗で販売され
ていることは、原告略称が一般消費者に広く知られていることの根拠とはならな
い。なお、原告が地下たび以外に長靴等を販売していることは、何ら立証がない。
    原告は、地下たびの需要者である高所作業者、土木作業員等が本件商標の
指定商品の需要者でもあると主張するが、誤りである。高所作業者等が建築材料を
扱うことがあるとしても、工事現場において作業として扱うだけであって、商取引
に携わるわけではないから、建築材料の需要者ではない。原告は、土木建築分野で
は零細個人企業がほとんどであることを主張するが、建築資材の選定、購入等は、
通常、元請会社が行っているのであり、零細な下請、孫請企業が需要者ではない。
また、高所作業者等が地下たびを履用しかつ建築材料を扱っていることをもって需
要者が共通であるというならば、高所作業者等が着用している作業服、運転する自
動車等までが需要者を共通とすることになり、妥当でない。
    本件商標は、被告が建築金物について永年使用してきたものであり、本件
商標の登録出願前の昭和40年ころには、既に、建築金物業界において周知であっ
た。すなわち、被告は、建築金物である戸車等の商品について、旧被告商標を昭和
32年ころから使用しており、同年3月14日、建築金物等を指定商品としてその
商標登録出願をし、同年11月27日商標登録がされた。被告は、昭和62年6月
6日、旧被告商標と類似する本件商標の連合商標登録出願をしたが、旧被告商標の
商標権は、その更新手続を失念したため、同年11月27日、存続期間満了により
消滅した。そのため、被告は、上記連合商標登録出願を独立の商標登録出願に変更
し、登録を受けた。
    原告は、本件に関し旧被告商標を考慮することは許されないと主張する
が、本件商標は旧被告商標の連合商標として出願された経緯があり、両商標の関連
性を否定することはできない。被告は、昭和32年に登録された旧被告商標を用い
て商品展開を図り、昭和32年から現在に至るまで、旧被告商標及び本件商標を建
築金物について永年使用してきたものである。被告は、明治31年に建築用金物等
を取り扱う野口茂助商店として開業し、昭和27年に野口金物株式会社、昭和44
年に株式会社ノグチと商号変更し、平成10年に創業100周年を迎えた。現在、
得意先は、北海道から関西地方を含む千数百社を数えている。本件商標は、昭和4
0年ころには、建築金物業界において周知の商標となっており、本件商標の付され
た建築金物が、世間一般に、原告と何らかの関係のある商品であると誤信されるこ
とはない。したがって、被告が建築金物について本件商標を使用することは、何ら
原告の人格権を侵害しない。
 2 取消事由2(商品の出所混同のおそれの認定の誤り)について
  (1) 原告商標の周知性
    原告は、広義の混同を生ずるおそれについても主張するが、地下たびの専
業メーカーである原告と、建築金物を扱う被告との間で、何らかの連携関係がある
と誤信されることはあり得ない。また、原告は、地下たび以外にも長靴を製造販売
していると主張するが、その時期及び規模が不明である。原告は、松茸等の輸入を
扱っているとも主張するが、その時期、数量及び原告商標の使用の有無は不明であ
る。
    原告は、世界知的所有権機関の裁定について主張するが、同裁定は、原告
商標が著名であると判断しているわけではなく、また、上記裁定書は、本件商標の
登録出願の後である平成12年10月29日に発行されているから、その点でも本
件とは関係がない。同機関の紛争処理方針においては、登録者のドメイン名が申立
人の商標と同一又は類似であるかどうか等の観点から裁定が下され、申立人の商標
が周知、著名であるかどうかは、判断の要素とされていない。
  (2) 本件商標の周知性及び混同のおそれ
    本件商標は、上記(取消事由1(2))の事情により、被告の商標として、そ
の指定商品の取引者、需要者間で周知であるから、本件商標がその指定商品に使用
されても、原告と何らかの関係のある商品であると誤信されるおそれはない。指定
商品の需要者層が極めて限られている商標の著名性は、人的な範囲においてかなり
限定されたものと考えるのが相当であり、指定商品を異にする商標との間で商品出
所の誤認混同を生ずるおそれはない。
    原告商標と本件商標とが指定商品の需要者を同じくしないことは、上記の
とおりである。地下たびがホームセンター等で建築金物と近接した場所で販売され
ているとしても、ホームセンター等で扱われる多種多様な商品は、商品分野ごとに
流通ルートが明確に異なっており、また、店舗の近接した場所で販売されているか
らといって、流通ルートが共通しているものでもない。経験則上、共通性、関連性
を見いだし得る商品は、同一店舗で販売されている場合が多いが、そのような関係
を有しない商品間においては、同一店舗で販売されているからといって、流通ルー
トを共通にするということはできない。地下たびと建築用金物は、性質、用途、機
能等において明確に異なり、商品概念においても両者の結びつきをイメージするこ
とができないから、経験則上、共通性、関連性を見いだし得る商品ということはで
きない。
    被告は、上記のとおり、長年にわたり旧被告商標及び本件商標を使用して
おり、本件商標は、その指定商品の取引者、需要者間において周知である。このこ
とは、東京金物連合卸商業協同組合を始めとする関連事業3団体の証明書、被告の
ほぼ一定期間毎に継続発行された商品カタログ類、財団法人経済調査会発行の建築
資材関連出版物等の書証により明らかである。
    原告は、本件商標の周知性に関し、被告の事業所における取引量、カタロ
グの頒布数量、カタログ以外の宣伝広告費用等を示す証拠を提出しなければ本件商
標の周知性を認定することができないと主張するが、取り調べ済みの証拠により、
周知性を認定することができる。原告も、原告商標の周知性を主張しながら、この
ような証拠を提出していない。
    被告は、桜王冠商標と本件商標を建築金物の種類に応じて使用しており、
両商標とも永年使用されているものである。
    被告が旧被告商標の更新登録手続を行わなかったのは、飽くまで、手続期
間を失念したためであって、使用の事実がなかったためではない。被告は、旧被告
商標の連合商標として本件商標の登録出願をしたのであるから、旧被告商標を使用
していたものである。
 3 取消事由3(不正目的の認定の誤り)について
   原告商標は、本件商標の登録出願当時、著名ではなく、着想も困難ではな
く、本件商標と指定商品の需要者を同じくするものでもないし、被告は昭和32年
ころから旧被告商標を使用していたのであるから、被告が著名でもない原告商標を
模倣するとか、原告商標の存在を知ってこれにフリーライドする意図を持つことは
あり得ない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(原告略称の著名性の認定の誤り)について
  (1) 審決は、商標法4条1項8号の規定の趣旨は人格権保護にある(審決謄本
16頁26行目)とした上、「本件商標の登録出願時における請求人会社(注、原
告)名称の略称としての『力王』標章(注、原告略称)の著名性は、本件商標の指
定商品とする『金属製の建築又は構築専用材料』には及んでいなかったというべき
である。したがって、本件商標をその指定商品に使用しても、請求人会社の人格権
を毀損することにはならない」(同21頁26行目~30行目)と判断する。
  (2) まず、商標法4条1項8号の趣旨について検討するに、他人の名称を含む
商標について登録を受けることができないと規定する同号の趣旨は、当該他人の人
格権を保護するという点にあるところ、同号が、他人の名称について著名性を要件
としていないのに対し、他人の略称についてはこれを要件としているのは、略称に
ついては、これを使用する者がある程度恣意的に選択する余地があること、そし
て、著名な略称であって初めて名称と同様に特定人を指し示すことが明らかとな
り、氏名と同様に略称が保護されるべきことによるものと解される。したがって、
同号所定の他人の名称とは、使用する者が恣意的に選択する余地のない名称、すな
わち、会社の商号など法令上の正式名称であるというべきである。
    原告は、会社の商号から組織形態を除いた部分は、形式的には略称である
が、会社の人格権が実質的に化体している部分であるから、その著名性の程度は、
通常の略称よりも低いもので足りると解すべきであると主張するが、同号は、他人
の略称が会社の商号から組織形態を除いた部分である場合について、略称一般と区
別せず、一律に著名性を要件として規定しているから、他人の略称が会社の商号か
ら組織形態を除いた部分である場合について、特に著名性の要件を緩やかに解する
ことは、商標法上の根拠を欠く。
    同号に規定する著名とは、上記のとおり、当該略称を法令上の正式名称と
同様に保護するための要件であり、特定の商品の取引者、需要者に広く知られてい
るかどうかではなく、その略称が特定人を表示するものとして世間一般に広く知ら
れているかどうかを問題とすべきである。なぜならば、同号の趣旨は他人の人格権
の保護にあるところ、特定の商品の取引者、需要者のみに知られている略称につい
て、他の商品の商標として使用されても、当該他人の人格権が侵害されたというこ
とはできないし、また、同号所定の著名性が認められる他人の略称は、すべての指
定商品及び指定役務について商標登録を受けることができなくなるのであり、特定
の商品の取引者、需要者のみに知られている略称について、すべての指定商品及び
指定役務について商標登録の阻却事由となるため、商標登録を受けようとする者に
酷な結果をもたらすというべきだからである。その意味では、同号所定の著名と
は、指定商品又は指定役務ごとの著名性ではない。
    そうすると、他人の略称の著名性が特定の限られた商品の取引者、需要者
のみに限定されている場合には、当該略称が世間一般に広く知られているというこ
とはできないのであって、同号所定の著名性を具備しているということはできない
から、この点で、当該他人の業務に係る商品の種別を考慮すべきである。すなわ
ち、当該商品が日常生活の必需品であり、一般人が購入するようなものである場合
には、当該他人の略称が世間一般に広く知られて著名であるということができるの
に対し、当該商品が特殊なものであり、その取引者、需要者が限られている場合に
は、その限られた取引者、需要者の間において当該他人の略称が広く知られていて
も、世間一般に広く知られているといえない限り、同号所定の著名性を具備してい
ないというべきである。
    原告は、当該他人が主として活動する分野においてその略称の著名性が顕
著であり、かつ、その分野が世間一般に知られやすい分野であれば、その略称は著
名なものということができると主張し、その主張自体に誤りはないが、本件におけ
る問題は、原告の業務に係る商品が特殊なものであるかどうか、そして、その取引
者、需要者が限られているために、原告略称が世間一般に広く知られているといえ
るかどうかである。
  (3) そこで、原告の業務に係る商品について見ると、「地下たび」について、
広辞苑第5版には、「(『地下』は当て字。直(じか)に土地を踏む足袋の意)丈
夫な布と厚いゴム底から成る主として労働用のはだしたび。」との記載があり、
「1996年版シューズブック」(株式会社ポスティコーポレーション平成7年1
2月25日発行、甲第4号証の5)には、「足袋に底を縫い付けた縫付け地下たび
と両者を貼り付けた貼付け地下たびがある。縫付け地下たびは手間がかかりコスト
高である。コハゼの枚数は5~12枚と多く、脚絆代わりになって足首をよく締め
る。また底ゴムが薄くなっているので足裏の感触が良く高所作業に用いられる。主
な使用者は土木・建築作業者。貼付け地下たびはコハゼの枚数の多いもの(軽装地
下たび)と3枚を標準とするもの(普通地下たび)がある。軽装地下たびの用途は
縫付け地下たびと同じで、縫付け地下たびが量産しにくいため、これで補ってい
る。」(105頁左欄7行目~19行目)と記載されている。これらの記載及び当
裁判所に顕著な事実によれば、審決の「請求人(注、原告)に係る『地下足袋(じ
かたび)』は・・・主として高所作業者、土木作業員または農園芸分野において着
用されるわが国固有の商品であって、その用途特性、機能特性において、他のはき
もの類とは別個の商品分野を形成する一種独特の商品」(審決謄本17頁5行目~
10行目)であるとする認定に誤りはなく、原告略称の著名性の認定に当たって
は、上記商品の種別を考慮すべきである。
  (4) この点に関する原告の主張について、順次、検討する。
   ア 原告は、建築業及び農林業に従事する者全員が地下たびの需要者である
として、平成2年当時、全国で地下たびを履用する者が1000万人であったと主
張するが、建築業及び農林業に従事する者全員が地下たびの需要者であるとは認め
られないし、また、仮に、建築業及び農林業に従事するもののうち相当割合の者が
地下たびの需要者であるとしても、地下たびは上記のとおり商品として特殊であ
り、その需要者は、限られた特定の者であるといわざるを得ない。
   イ 原告は、昭和34年以来、原告略称を社名の中核を構成するものとして
使用し、また、昭和26年以来、自己の主力商品である地下たびに原告商標を使用
し、昭和27年には、その商標登録を行っており、原告製の地下たびは、70%近
くのシェアを有していると主張するが、特定の商品の取引者、需要者の間で原告の
略称が広く知られているとしても、商品の需要者が特定の者に限定されている以
上、上記のとおり、商標法4条1項8号所定の著名性を具備しないというべきであ
る。
   ウ 原告は、地下たびが、履物の小売店やホームセンターなど、一般消費者
が商品を購入する店舗で販売されるものであることを主張する。確かに、今日の大
型小売店舗では多種多様な商品が販売されているが、そうであるからといって、そ
こで販売されている商品のすべてが一般消費者の注目をひき、その製造販売業者の
略称が一般消費者に著名となるものでなく、特殊な商品は、当該商品を購入し又は
関心のある消費者のみの注目をひくことは、当然のことである。原告は、履物の小
売店やホームセンター等では、原告略称が掲げられ、一般消費者の目に頻繁に触れ
ているとも主張するが、地下たびが一般消費者に広く購入される商品ではない以
上、小売店舗に原告略称が掲げられていても、一般消費者の注目をひくとはいえな
いから、原告略称が著名性を獲得するということはできない。
   エ 原告は、一般消費者用の長靴等の製造販売も行い、年間40万足の長靴
を販売していると主張し、原告が長靴を販売していることの証拠もあるが(甲第9
号証)、仮に、原告が長靴の製造販売をこの程度行っているとしても、商標法4条
1項8号所定の著名性の判断に影響を及ぼすほどのものではない。
   オ 原告は、早い時期から海外に生産拠点を築き優良企業として地位と名声
を確立し、そのこと等が全国の一般紙、業界紙、経済誌等に頻繁に取り上げられた
こと、本件商標が出願された昭和62年6月に原告が地下たびの60ないし70%
のシェアを占めていたことなどを主張する。しかしながら、仮に、原告が主張する
これらの事実が存在したとするならば、地下たびの取引者、需要者の間で原告略称
が広く知られたことは推認することができるが、その周知性を獲得した範囲は、せ
いぜい地下たびに類似する商品又は役務の取引者、需要者間に限られ、世間一般に
広く知られるに至ったとは到底認められない。
   カ 原告は、原告略称が独創的であることを主張するところ、その独創性に
ついてはさておき、原告略称の著名性が世間一般に広まったと認められないことは
上記のとおりである。
   キ 原告は、旧被告商標が建築金物業界では相当の知名度を有しているなど
とする審決の認定(審決謄本21頁13行目~17行目)について、原告略称の著
名性を判断するに際して、被告の商標の周知性を問題とするのは失当であると主張
する。しかしながら、審決の上記認定は、原告略称の著名性が世間一般に広まって
いたとはいえないことの間接事実としてのものと解され、また、原告略称が世間一
般に広く知られたと認められないことは上記のとおりであるから、審決の上記認定
に問題はない。
   ク 原告は、仮に、著名性の判断に当たって指定商品を考慮すべきであると
しても、地下たびの需要者は本件商標の指定商品の需要者でもあると主張するが、
上記認定のとおり、原告略称が周知性を獲得した範囲は、せいぜい地下たびに類似
する商品又は役務の取引者、需要者間に限られ、世間一般に広く知られるに至った
とは到底認められないのであるから、地下たびの需要者と本件商標の指定商品の需
要者が共通するかどうかは、原告略称が著名性を欠くとの上記認定に影響を及ぼす
ものではない。
(5) そうすると、原告略称が商標法4条1項8号所定の著名性を欠くとの審決
の認定に誤りはなく、原告の上記主張は失当である。
 2 取消事由2(商品の出所混同のおそれの認定の誤り)について
  (1) 原告は、審決の「本件商標をその指定商品について使用したとしても、こ
れに接する需要者が請求人に係る商品の如くその出所について混同を生ずるおそれ
はなく、したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品等と混同を生ずるおそれ
はない」(審決謄本23頁16行目~19行目)との認定の誤りを主張するとこ
ろ、証拠を検討すると、以下の事実が認められる。
   ア 被告は、明治31年創業の建築用金物を扱う野口茂助商店を前身とし、
昭和27年1月24日、商号を「野口金物株式会社」、目的を「建築金物卸並小
売」として設立され、昭和44年12月1日、商号を現在の「株式会社ノグチ」に
変更して、建築用金物を扱ってきたが、平成10年に創業100周年を迎え、現
在、得意先は、関東一円、北海道、東北、信越、中部、東海、関西地方にかけて千
数百社を数えている(甲第3号証の2の1、13)。
   イ 被告は、昭和32年ころから、その販売する建築金物に旧被告商標を使
用していたが、同年3月14日、その商標登録出願をし、同年11月27日、商標
登録がされた(甲第3号証の2の2~4)。被告は、昭和62年6月6日、旧被告
商標と類似する本件商標の連合商標登録出願をしたが、旧被告商標の更新登録の出
願を行わず、同年11月27日、その商標権が存続期間満了により消滅したため、
本件商標の上記連合商標登録出願を独立の商標登録出願に変更し、平成8年1月3
1日、商標登録を受けた(甲第3号証の2の5~9)。旧被告商標は「RIKIO」の欧
文字を横書きした下に「力王」の文字を縦書きしたものであるのに対し、本件商標
は、「力王」の文字を縦書きしたものであって、「力王」の字体は旧被告商標のそ
れと全く同一であり、両商標は、実質同一ないし酷似する構成からなるものであ
る。
   ウ 被告の昭和35年、昭和40年、昭和46年、昭和59年、平成5年及
び平成9年のカタログには、いずれも、戸車、蝶番等の建築金物について、本件商
標が使用されている(甲第3号証の2の14~19)。
   エ 財団法人経済調査会発行の「積算資料ポケット版」1986年前期編、
1988年後期編、同1994年後期編、同2000年前期編及び同2000-1
特別増刊号(甲第3号証の2の20~24)は、建築設計や見積りのために公官
庁、民間会社等が利用するものであるが、いずれも、被告の建築金物に本件商標が
付されている。
オその他、平成元年ないし平成12年に作成された、被告の輸入品受注確
認書(甲第3号証の2の25)、商品台帳(同証の2の26)、お買い得商品一覧
表(同証の2の27~30)、総合展示会前売表(同証の2の31~33)、総合
展示会特別価格表(同証の2の34)、商品包装容器に貼付するレッテル(同証の
2の35~47)にも、本件商標の構成文字を横書き表記ないしローマ字表記して
なる標章が使用されている。
  (2) 以上の事実関係に加え、東京金物連合卸商業協同組合、東京建築金物卸商
業協同組合及び東京建築金物工業協同組合の証明書(甲第3号証の2の10~1
2)の記載を総合するならば、被告は、昭和32年から現在に至るまで、旧被告商
標及び本件商標を建築金物について永年使用しており、本件商標は、遅くともその
登録時である平成8年1月31日までの間に、その指定商品の取引者、需要者間に
おいて、被告の商標として広く知られるに至ったものと認められる。
    そうすると、本件商標は、被告の商標として、その指定商品の取引者、需
要者間で広く知られるに至ったのであり、一方、原告商標は、上記のとおり、指定
商品の需要者層が極めて限られ、その周知性は人的な範囲においてかなり限定され
たものであるから、本件商標がその指定商品に使用されても、これに接する取引
者、需要者が原告の商品に係るものであると誤認混同を生ずるとか、原告と何らか
の関係のある者の業務に係る商品であると誤信するおそれはないというべきであ
る。
  (3) これに対し、原告は、本件商標の周知性を客観的に証明する証拠はないと
主張するが、取調べ済みの証拠により本件商標の周知性を認定することができるこ
とは、上記のとおりである。そして、本件商標が建築金物について周知であるとい
うことは、これに類似するその余の指定商品についても相当程度に周知性が及んで
いることが推認され、他方、仮に、原告商標に周知性が認められるとしても、地下
たび及びこれに類似する指定商品の範囲に限定されるから、建築金物に属さない
「金属製の建築又は構築専用材料」について、原告商標との混同のおそれはなく、
本件商標登録が商標法4条1項15号に該当し無効とされるべきであるということ
はできない。
    原告は、また、本件商標の周知性を基礎付ける証拠について、その証明力
を争うが、被告のカタログについて、その内容の虚偽性が疑われるような点は見当
たらない。原告は、昭和62年の本件出願時から上記カタログ作成まで10年近く
が経過していると主張するが、同号該当性を理由とする無効審判請求が成り立つた
めには、本件商標の登録時においてその該当性が認められる必要があるから、登録
時に近接した平成9年のカタログに記載された内容を考慮することに問題はない。
もっとも、関係証拠によっても、各事業所における建築金物類の取引量がどの程度
であったか不明である上、関連事業組合の証明書類は、その記載内容を裏付ける客
観的資料を欠くけれども、関係証拠を総合すれば、本件商標の周知性を認めるに足
りることは上記のとおりである。原告が指摘する被告カタログの桜王冠印は、本件
商標と併行して使用されてきたものと考えて何ら不自然な点はなく、上記認定を左
右するものではない。さらに、原告は、被告が旧被告商標の更新登録の出願を行わ
ず本件商標の登録出願をした点をとらえて、その当時、旧被告商標の使用の事実が
なかったものと推認されると主張し、平成8年法律第68号による商標法の一部改
正前の更新出願制度の下では、更新登録の出願と同時にその出願に係る登録商標の
使用状況に関する必要な書類を提出すべきものとされていたが(同改正前の商標法
20条の2)、そのことから直ちに、旧被告商標について原告主張のような上記推
認をすべき根拠に欠けるばかりでなく、上記のとおり、両商標は実質同一ないし酷
似する構成からなるものであるから、旧被告商標の更新登録の出願がされなかった
ことも、上記認定に何ら影響を及ぼさない。
(4) そうすると、本件商標をその指定商品に使用しても商品の出所混同のおそ
れは認められないとした審決の認定は正当であり、原告の上記主張は理由がない。
 3 取消事由3(不正目的の認定の誤り)について
  (1) 原告は、被告が、著名な原告商標にフリーライドする不正の目的をもっ
て、あえて本件商標を出願し登録を受けたことが明らかであり、本件商標は商標法
4条1項7号に該当する旨主張する。
    しかしながら、上記のとおり、被告が昭和32年に出願した旧被告商標
は、本件商標と実質同一ないし酷似する構成からなるものであるから、原告主張の
不正目的の存否は、旧被告商標の使用の際における被告の意図についても考慮され
るべきであって、本件商標の登録出願が昭和62年6月にされ、その当時、原告商
標が既に周知であったとしても、このことから、直ちに、被告の不正目的を推認す
ることはできない。原告は、旧被告商標が出願された昭和32年の時点において
も、原告商標は既に著名であったと主張するが、その主張によっても、原告が原告
略称を社名の中核を構成するものとしたのが昭和34年であり、昭和43年当時も
原告の地下たびについてのシェアは40%にとどまっていたというのであるから、
旧被告商標が出願された昭和32年当時、原告商標が既に周知であったとは認めら
れない。また、原告商標と本件商標の需要者が上記のとおり相当程度異なることも
考慮すると、被告が原告商標にフリーライドする不正目的を有していたとも認め難
い。
(2) そうすると、本件商標が、著名な原告商標の顧客吸引力にただ乗りする不
正の目的をもって出願したものであって商取引の秩序を阻害し商道徳に反するもの
とはいえないとして、商標法4条1項7号該当性を否定した審決の認定判断は正当
であり、原告の上記主張は失当である。
 4 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消す
べき瑕疵は見当たらない。
 よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の
負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決
する。
   東京高等裁判所第13民事部
       裁判長裁判官  篠   原   勝   美
        
          裁判官   長   沢   幸   男
 
裁判官    宮   坂   昌   利

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