弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの弁護人松本一郎の上告趣意第一点について。
 原判決が、被告人Aをもつて、同判示参議院議員選挙の立候補者Bの選挙運動を
総括主宰した者と認定したうえ、右候補者の立候補届出前における同被告人の行為
として認定した同判示第一の四、八の(一)、一二の(一)から(五)まで、一三
の(一)および(二)ならびに一四の(一)の(1)から(3)までの各犯罪事実
について、公職選挙法(昭和三七年法律一一二号による改正前のもの)二二一条一
項一号とともに同条三項の規定を適用していることは、所論のとおりである。同条
三項は、公職の候補者、選挙運動を総括主宰した者または出納責任者が当該選挙に
おいて有する特殊な地位やその果たすべき役割の重要性にかんがみて、他の者が同
条一項の罪を犯した場合よりも特に刑を重くする趣旨の規定であつて、その解釈適
用にあたつては、いわゆる連座規定との関連も考慮して、まず、これらの者の意義
とその範囲を明確にしておく必要がある。この観点から、当裁判所各小法廷が、同
条三項にいう公職の候補者について、公職選挙法の規定に基づく正式の立候補届出
または推薦届出により候補者としての地位を有するにいたつた者に限るとし(昭和
三四年(あ)第一一九〇号同三五年二月二三日第三小法廷判決、昭和三五年(あ)
第一四三二号同年一二月二三日第二小法廷判決、昭和四一年(あ)第一四一三号同
年一二月二二日第一小法廷判決等)、また、同条項にいう出納責任者について、同
法所定の手続により出納責任者として選任届出のなされた者を指すものとした(昭
和四〇年(行ツ)第七四号同四一年六月二三日第一小法廷判決)見解は、いずれも
正当な解釈として維持されるべきであり、その趣旨は、刑罰および前記連座規定の
適用の権衡を期するうえから、右条項にいう選挙運動を総括主宰した者の解釈につ
いても、当然推し及ぼされなければならない。もつとも、右条項の選挙運動を総括
主宰した者とは、当該公職の候補者の選挙運動を推進する中心的存在として、これ
を掌握指揮する立場にあつた者をいい、従前の選挙事務長のごとく法令上届出を要
するものとはされていないから、その意義は、形式や外見にとらわれることなく、
現実に行なわれた選挙運動の実情に即して実質的に理解されるべきであるが、少な
くとも、右にいう選挙運動とは、当該公職の候補者が正式の立候補届出または推薦
届出により候補者としての地位を有するにいたつてから以後に行なわれたものを指
称し、それより前に行なわれたいわゆる事前運動はこれに包含されないものと解す
るのが相当である。したがつて、当該公職の候補者の立候補届出または推薦届出が
なされるまでは、事実上選挙に関する運動の中心となつてこれを掌握指揮した者で
あつても、右条項に定める選挙運動を総括主宰した者ということはできないから、
かかる者によつて行なわれた同条一項に該当する行為について同条三項を適用する
余地はないものと解すべく、この点の法理は、その者が後に当該公職の候補者の右
届出以後における選挙運動を総括主宰した者となつた場合にも、なんらの変更をみ
ないものと解すべきである。かくして、所論引用の各高等裁判所判例の判旨は、右
の解釈と一致する限度において、いずれも正当なものとして是認されるべきであり、
前示のとおり、本件公職の候補者Bの立候補届出前に行なわれた被告人の各行為に
ついて同条三項の規定を適用した原判決は、法令の解釈適用を誤り、前記各高等裁
判所の判例に違反するものといわなければならない。しかしながら、原判決は、被
告人Aについて、前示各犯罪事実のほかに、右候補者の立候補届出以後に行なわれ
た同判示各犯罪事実を認定し、これらに対しては刑罰法令を正当に適用しているの
であつて、このうち同判示第一の一の罪の刑に法定の併合罪加重がなされている関
係から、右の過誤を是正した場合にも処断刑の範囲に変更をきたすことなく、その
他本件事案の内容に徴しても、所論指摘の判例違反をもつて判決に影響を及ぼすも
のとは認められないので、結局、この点の所論は原判決破棄の理由とするには足り
ない。
 同弁護人のその余の上告趣意について。
 所論は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であつて、適法な上告理由
にあたらない。
 被告人両名の弁護人石橋信の上告趣意について。
 所論中には、原審の裁判は、迅速な裁判を保障した憲法三七条一項に違反すると
の主張もあるが、右主張が理由のないものであることは、当裁判所大法廷の判例(
昭和二三年(れ)第一〇七一号同年一二月二二日判決)の示すとおりであり、その
余の所論は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であつて、適法な上告理
由にあたらない。
 被告人Cの弁護人遊田多聞の上告趣意について。
 所論は、事実誤認、単なる訴訟法違反の主張であつて、適法な上告理由にあたら
ない。
 よつて、刑訴法四一〇条一項但書、四一四条、三九六条により、主文のとおり判
決する。
 この判決は裁判官色川幸太郎の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によ
るものである。
 裁判官色川幸太郎の反対意見は、次のとおりである。
 公職選挙法二二一条三項にいわゆる選挙運動を総括主宰した者(以下単に総括主
宰者とする。)とは、多数意見の示すとおり、当該公職の候補者(以下単に候補者
とする。)の選挙運動を推進する中心的存在として、これを掌握指揮する立場にあ
つた者を指称するものである。問題は、右にいう選挙運動とは、当該候補者が、立
候補の届出又は推薦の届出(以下単に届出とする。)により候補者としての地位を
有するに至つてから以後に行なわれたもののみに限られるのか、あるいはまた届出
前の、いわゆる事前運動を含むものであるかに存するのであるが、この一点におい
て、私は多数意見に到底同調できないのである。
 ところで、届出前といえども選挙運動のありうることは疑問の余地があるまい。
これこそ公職選挙法一二九条の正に予想しているところなのである(当裁判所昭和
三六年(あ)第一六七六号同年一一月二一日第三小法廷判決、刑集一五巻一〇号一
七四二頁)。同法二二一条一項二項に定められた買収罪等の規定その他選挙罰則の
大部分が届出前の行為にも適用されることはいうまでもない。同条一項にいう選挙
運動者たる地位も、正規の前記届出がなされた後でなければ認められないと解すべ
きものでないことは、同法二二二条と対比すれば自ら明らかであると考える。しか
るに多数意見は、同法二二一条中三項についてのみ、選挙運動の意義を届出以後に
限定せんとするのであるが、その理由とするところは、結局、候補者および出納責
任者との関連における刑罰および連座規定の適用の権衡以外に出ないのである。
 公職選挙法は立候補について届出の制度をとつている。したがつて届出前には、
候補者となろうとする者があるだけでいまだ候補者は存在しない。出納責任者につ
いてもまた、候補者もしくは推薦届出人が選任し、これを届出るものである以上(
同法一八〇条)候補者が候補者としての地位を取得した以後でなければ存在し得ず、
両者いずれも届出という形式を地位取得の法律上の要件としているわけである。こ
れに対し、総括主宰者は全くその性質を異にしているのであつて、選任や届出につ
いては何らの規定もなく、多数意見の正当に指摘するとおり、その意義は「形式や
外見にとらわれることなく、現実に行なわれた選挙運動の実情に即して実質的に理
解」せらるべきものなのである。これを立法の沿革に徴しても、総括主宰者の地位
の取得は届出のような形式的な手続とはそもそも無縁であつて、立法者の意図した
ところは、むしろ意識的にその間の連絡を断ち切ろうとしたものであることが窺わ
れる。総括主宰者なる概念が、はじめて選挙法中に持ちこまれたのは昭和九年の法
改正(同年法律第四九号)の時であるが、当時の資料によれば、選挙事務長(この
地位は正規の届出によつてのみ取得される。)は、これをロボツトとしてしまい、
実質上の事務長に選挙運動をすべて主宰せしめて、この実力者が選挙犯罪により刑
に処せられるようなことがあつても候補者の安泰だけは期せられるという、要する
に連座規定の適用を免れんとした、この種の脱法行為を封殺するのが制度新設の趣
旨であつたのである。刑罰の加重規定が設けられたのは、昭和二九年(同年法律第
二〇七号)であるけれども、総括主宰者の用語及び概念については、昭和九年以降
今日にいたるまで何ら変るところがない。
 ところで現在における選挙の実情を見るのに、任期満了による選挙の場合にはい
うには及ばず、解散を原因とする選挙にあつても、そのことを見越しての、組織的
な事前運動が、そのつど大規模に展開される事実はおおうべくもないのである。選
挙区の広汎、選挙人人口の厖大なるに比し、正規の選挙運動期間があまりにも短い
からだという批判もあるが、制度の是非はとにかくとして、法による禁圧にもかか
わらず、事前運動の横行は否定し得ない現象である。ところで、かくの如き事前運
動においては、それが全体として違法であればあるほど、これを企画し、立案し、
実行するにあたつて、その中心となつて推進する指揮者を欠くことは到底できない
であろう。候補者が、ひとりのブレーンをも持つことなく、あらゆる活動について
自ら釆配を振るという異例な場合を除いては、何びとも、この場合総括主宰者の厳
存する事実を認めざるを得ないのではあるまいか。そうであるにもかかわらず、法
にいう総括主宰者は正規の運動期間中のそれに限るべきだとする見解には、果して
いかなる合理的な根拠がありうるであろうか。
 もつとも、もし総括主宰者の意義を広義に解するならば、多数意見のいうごとく、
候補者との間に刑罰の適用につき権衡を失することなしとはいえないかも知れない
(出納責任者については、運動における役割と比重とにおいて総括主宰者とは決定
的な差異があるから同列に論ずる必要はない。後にふれる連座規定の適用について
も同様である。)。しかし、私は右の程度の不権衡はいまだ解釈を左右するに足り
ないと考えるものである。もともと同法二二一条一項に列挙された罪は、選挙をと
毒する実質犯の尤なるものであつて、選挙制度がいかように変ろうとも、かかる行
為を防あつするのでなければ選挙の公正は所詮期することができないのである。而
して、これらの買収等の行為が、届出前においてなされた場合でも罪となることは
前述のとおりであるが(前示判例参照)、届出前の買収行為と、正規の運動期間中
における買収行為とが、仮りにその態様、実質等を同じくした場合、違法の程度に
おいていずれを重しとし、いずれを軽しとすべきであるか。いうまでもなく選挙を
腐敗堕落せしめる点においてその間何らの径庭もあり得ないのである。そしてまた、
特に枢要の地位にある者によつてこれら買収等の悪質行為がなされるならば、選挙
人の自由なる判断を妨げ選挙の公明、適正を失わしめること一層甚しいものがあれ
ばこそ、同法条三項の加重規定が設けられているわけであるから、届出のごとき一
片の形式に拘泥することなく、実態に即しての解釈適用がなされてはじめて法の趣
旨が生かされるのではあるまいか。当裁判所の判例が同条項にいう候補者をもつて
法定の届出をしたことを要件としているのは、届出制度があること及び用語例とし
ても同法一九九条の二、一九九条の三、一九九条の四などに「公職の候補者」と「
公職の候補者となろうとする者」を異別に規定してあるがためにほかならないので
あつて、それ以外には格別な実質的理由はないものと考えざるを得ない。元来届出
制度は候捕者の濫立を防ぎ選挙費用の増嵩を抑制するところに主たる狙いがあるの
である。選挙の腐敗を防あつせんとする刑罰規定と届出の有無とは、もともと直接
に結びつくものでないことに留意する要があるであろう。
 次に連座規定であるが、多数意見は、右規定の適用上も権衡を失するものがある
という。しかし、その当らないことは以下述べるとおりである。同法二五一条は、
当選人がその選挙に関して一定の選挙の罪を犯し刑に処せられたときは、当選を無
効とすると規定しているものであるところ、その犯行の時期については、もとより
届出の前後を問うものではないが故に、未だ候補者たる地位を取得しない間におい
て、即ち、同法にいう候補者となろうとする者が犯した場合であつても、その者が
当選し、そして刑に処せられたときは当選を失うことになるわけである。したがつ
て、事前運動における総括主宰者とこの点においては何ら異なるところがない。而
も同法条を字義通りに読めば、当選人が自分自身のためにした選挙運動でなく、当
該選挙に関するものである限り、他の候補者または候補者となろうとする者のため
にした、同法所定の行為によつて刑に処せられた場合にも当選無効を招来すること
になるであろう。これに対し、総括主宰者の場合は当該候補者のための所為に限る
と解するほかはないのである。さらに当選人にあつては、同人に課せられた刑の確
定とともにただちに当選を失うに反し、総括主宰者への課刑による連座の場合は、
訴訟手続を俟つてでなければそのことがないこと(同法二一一条)、なおまた、前
者については当選無効を招来する犯罪の類型が、後者の場合の限定的なるに比し、
極めて網羅的であることなども考慮されてしかるべきである。
 以上の次第で私は刑罰及び連座の規定の適用における権衡を理由とした多数意見
には賛成することができないのである。
 検察官 平出禾公判出席
  昭和四三年四月三日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛