弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
一 原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
二 被上告人兵庫県信用保証協会は、上告人らに対し、第一審判決別紙物件目録記
載の(一)ないし(三)の各物件について同判決別紙登記目録記載の(一)の各登
記の抹消登記手続をせよ。
三 被上告人株式会社B1銀行は、上告人らに対し、同物件目録記載の(一)ない
し(三)の各物件について同登記目録記載の(二)の各登記の抹消登記手続をせよ。
四 被上告人B2は、上告人らに対し、同物件目録記載の(一)ないし(三)の各
物件について同登記目録記載の(三)の各登記の、同物件目録記載の(三)の物件
について同登記目録記載の(四)の登記の、同物件目録記載の(四)の物件につい
て同登記目録記載の(五)の登記の抹消登記手続をせよ。
五 被上告人株式会社B3は、上告人らに対し、同物件目録記載の(一)の物件に
ついて同登記目録記載の(六)の登記の、同物件目録記載の(二)の物件について
同登記目録記載の(七)の登記の、同物件目録記載の(三)の物件について同登記
目録記載の(八)及び(九)の各登記の抹消登記手続をせよ。
六 被上告人株式会社B3の反訴請求を棄却する。
七 訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。
         理    由
 上告人A1の代理人八代紀彦、同佐伯照道、同西垣立也、上告人A2及び同A3
の代理人新原一世、同田口公丈、同浜口卯一の上告理由二について
 一 原審の適法に確定した事実等の概要は、次のとおりである。
 1 Eは、第一審判決別紙物件目録記載の各物件(以下「本件各物件」という。
なお、右各物件は、同目録記載の番号に従い「物件(一)」のようにいう。)を所
有していたが、遅くとも昭和五八年一一月には、脳循環障害のために意思能力を喪
失した状態に陥った。
 2 昭和六〇年一月二一日から同六一年四月一九日までの間に、被上告人兵庫県
信用保証協会は物件(一)ないし(三)について第一審判決別紙登記目録記載の(
一)の各登記(以下「登記(一)」という。なお、同目録記載の他の登記について
も、同目録記載の番号に従い右と同様にいう。)を、被上告人株式会社B1銀行(
以下「被上告銀行」という。)は物件(一)ないし(三)について各登記(二)を、
被上告人B2は物件(一)ないし(三)について各登記(三)、物件(三)につい
て登記(四)、物件(四)について登記(五)を、被上告人株式会社B3(以下「
被上告会社」という。)は物件(一)について登記(六)、物件(二)について登
記(七)、物件(三)について登記(八)及び登記(九)をそれぞれ経由した。し
かし、右各登記は、同六〇年一月一一日から同六一年四月一九日までの間に、Eの
長男であるFがEの意思に基づくことなくその代理人として被上告人らとの間で締
結した根抵当権設定契約等に基づくものであった。
 3 Fは、昭和六一年四月一九日、Eの意思に基づくことなくその代理人として、
被上告会社との間で、Eが有限会社Gの被上告会社に対する商品売買取引等に関す
る債務を連帯保証する旨の契約を締結した。
 4 Fは、昭和六一年九月一日、死亡し、その相続人である妻のH及び子の上告
人らは、限定承認をした。
 5 Eは、昭和六二年五月二一日、神戸家庭裁判所において禁治産者とする審判
を受け、右審判は、同年六月九日、確定した。そして、Eは、同人の後見人に就職
したHが法定代理人となって、同年七月七日、被上告人らに対する本件各登記の抹
消登記手続を求める本訴を提起したが、右事件について第一審において審理中の同
六三年一〇月四日、Eが死亡し、上告人らが代襲相続により、本件各物件を取得す
るとともに、訴訟を承継した。
 二 本件訴訟において、上告人らは、被上告人らに対し、本件各物件の所有権に
基づき、本件各登記の抹消登記手続を求め、被上告会社は、反訴として、上告人ら
に対し、Eの相続人として前記連帯保証債務を履行するよう求めている。被上告人
らは、本件各登記の原因となる根抵当権設定契約等がFの無権代理行為によるもの
であるとしても、上告人らは、Fを相続した後に本人であるEを相続したので、本
人自ら法律行為をしたと同様の地位ないし効力を生じ、Fの無権代理行為について
Eがした追認拒絶の効果を主張すること又はFの無権代理行為による根抵当権設定
契約等の無効を主張することは信義則上許されないなどと主張するとともに、被上
告銀行及び被上告会社は、Fの右行為について表見代理の成立をも主張する。これ
に対し、上告人らは、Eが本訴を提起してFの無権代理行為について追認拒絶をし
たから、Fの無権代理行為がEに及ばないことが確定しており、また、上告人らは
Fの相続について限定承認をしたから、その後にEを相続したとしても、本人が自
ら法律行為をしたのと同様の効果は生じないし、前記根抵当権設定契約等が上告人
らに対し効力を生じないと主張することは何ら信義則に反するものではないなどと
主張する。
 三 原審は、前記事実関係の下において、次の理由により、上告人らの請求を棄
却し被上告会社の反訴請求を認容すべきものとした。
 1 Eは被上告銀行及び被上告会社が主張する表見代理の成立時点以前に意思能
力を喪失していたから、右被上告人らの表見代理の主張は前提を欠く。
 2 上告人らは、無権代理人であるFを相続した後、本人であるEを相続したか
ら、本人と代理人の資格が同一人に帰したことにより、信義則上本人が自ら法律行
為をしたのと同様の法律上の地位を生じ、本人であるEの資格において本件無権代
理行為について追認を拒絶する余地はなく、本件無権代理行為は当然に有効になる
ものであるから、本人が訴訟上の攻撃防御方法の中で追認拒絶の意思を表明してい
ると認められる場合であっても、その訴訟係属中に本人と代理人の資格が同一人に
帰するに至った場合、無権代理行為は当然に有効になるものと解すべきである。
 四 しかしながら、原審の右三2の判断は是認することができない。その理由は、
次のとおりである。
 本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合には、その後に無権代理人が本人を相
続したとしても、無権代理行為が有効になるものではないと解するのが相当である。
けだし、無権代理人がした行為は、本人がその追認をしなければ本人に対してその
効力を生ぜず(民法一一三条一項)、本人が追認を拒絶すれば無権代理行為の効力
が本人に及ばないことが確定し、追認拒絶の後は本人であっても追認によって無権
代理行為を有効とすることができず、右追認拒絶の後に無権代理人が本人を相続し
たとしても、右追認拒絶の効果に何ら影響を及ぼすものではないからである。この
ように解すると、本人が追認拒絶をした後に無権代理人が本人を相続した場合と本
人が追認拒絶をする前に無権代理人が本人を相続した場合とで法律効果に相違が生
ずることになるが、本人の追認拒絶の有無によって右の相違を生ずることはやむを
得ないところであり、相続した無権代理人が本人の追認拒絶の効果を主張すること
がそれ自体信義則に反するものであるということはできない。
 これを本件について見ると、Eは、被上告人らに対し本件各登記の抹消登記手続
を求める本訴を提起したから、Fの無権代理行為について追認を拒絶したものとい
うべく、これにより、Fがした無権代理行為はEに対し効力を生じないことに確定
したといわなければならない。そうすると、その後に上告人らがEを相続したから
といって、既にEがした追認拒絶の効果に影響はなく、Fによる本件無権代理行為
が当然に有効になるものではない。そして、前記事実関係の下においては、その他
に上告人らが右追認拒絶の効果を主張することが信義則に反すると解すべき事情が
あることはうかがわれない。
 したがって、原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判
決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決はその余
の上告理由について判断するまでもなく破棄を免れない。そして、前記追認拒絶に
よってFの無権代理行為が本人であるEに対し効力を生じないことが確定した以上、
上告人らがF及びEを相続したことによって本人が自ら法律行為をしたのと同様の
法律上の地位を生じたとする被上告人らの主張は採用することができない。また、
前記事実関係の下においては、被上告銀行及び被上告会社の表見代理の主張も採用
することができない。上告人らの請求は理由があり、被上告会社の反訴請求は理由
がないから、第一審判決を取り消し、上告人らの請求を認容し、被上告会社の反訴
請求を棄却することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    河   合   伸   一
            裁判官    福   田       博

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