弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決中、被告人らに関する部分を破棄する。
     本件を広島高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 被告人両名の弁護人森川金寿、同曾我部東子の上告趣意第一点(そのうちの一の
イ)について。
 所論は要するに、本件は親告罪であるが、第一審判決及び原判決は、本件公訴の
提起前に告訴の取消があつた事実を看過し、実体判決をした違法があると主張する
ものであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 しかし右の点につき、当裁判所は職権をもつて調査するに、第一、二審裁判所が、
被告人ら両名及び第一、二審までの相被告人Aの三名に対し有罪とした本件結婚誘
拐の罪が親告罪であることは、刑法二二九条の規定によつて明らかである。そこで
記録を調べるに本件の告訴は昭和二九年九月二九日附府中警察署長宛提出された被
害者B名義による告訴状(記録八八〇丁)によるものであるが(尤も、第一審証人
府中警察署警察官Cは、別に同日Bの口頭による告訴がありその告訴調書が作成さ
れ、右告訴状は実際は昭和二九年一〇月一六、七日頃同警察署に提出されたもので
あつて、その日附を昭和二九年九月二九日に遡らせたものである旨供述しているが、
右告訴調書なるものは記録上存在せず、右日附遡及の点もにわかに措信できない)、
他面右Bの父Dは、本件の公訴提起前である昭和二九年一〇月八日、同警察署司法
警察員Eに対し、口頭をもつて告訴の取消を為し、これに基づき右警察員による告
訴取消調書が作成(刑訴二四一条、二四三条)されていることが明らかである(記
録九八五丁)。
 そこで父Dのした右告訴取消が、第一審で無罪と判断された非親告罪である不法
監禁の事実に対する部分の告訴取消だけではなく、第一、二審で有罪とされた本件
親告罪である結婚誘拐の事実に関する告訴をも取消したものであり、且つその取消
が被害者Bの代理人として為したもの(刑訴二四〇条)であるとするならば、本件
結婚誘拐の事実に対する公訴の提起は、その適法条件を欠き無効のものといわなけ
ればならない。
 よつて以下右告訴取消の範囲並びに該取消が適法のものか否かについて検討する。
(イ)先づ取消の範囲について考えるに、該告訴取消調書中の「告訴事実」の項に
おいて、「F、G及びA等が共謀して私の長女B当二十才を騙して誘い出し結婚し
て呉れと言うて娘Bを監視づきでF方に閉じ込めどうしても家に帰して呉れず云々」
と記載しあり、次に「告訴取消事由」の項において、本件告訴を取消すに至つた事
情と経緯が記載されてあるのであるが、その要旨は「Fの父H及び祖父Iが共に謝
罪し来り、なお隣保班長であるJ、K、Lの三名並びにD方の親族Mらの奔走によ
り本件を円満解決するようにとの勧説及び斡旋があり、Fの方で今後一切Fは娘B
を手がけぬこと、Bとは結婚しないことを約束したので、私も円満に話しを済ませ、
告訴を取消すことを約束したので、告訴を取消したい」との趣旨の記載があつて、
これらを総合すれば、本件告訴取消の対象範囲は告訴事実の全部、即ち誘拐行為よ
り不法監禁の事実にわたる一連の全事実の告訴取消であるように解せられるのであ
つて、該調書冒頭前文記載の「不法監禁被疑事件について」との記載は右全事実を
含めた事件名の表示に過ぎないものと解するを相当とするのではないかと思料され
るのである。もしそれ右告訴取消は不法監禁の事実だけを取消したものであるとす
るならば、却つて右告訴取消調書中、誘拐行為については取消はしないとの明確な
趣旨が記載されるを相当と考えられるのであるが、該調書中のいづこにもかゝる記
載は発見できないのである。(ロ)次に告訴取消についてのDの代理権の有無につ
いて考えるに、前記告訴取消調書中の「告訴の年月日時」の項の「昭和二十九年九
月二十九日午後六時」との記載と前記告訴状の日附とが一致している事実、及び本
件事案のような場合、殊にその取消に至つた前記の事情経緯に鑑みると、告訴取消
については、O家はその近親特に被害者本人であるBの意思を無視して取消すこと
は通常為し得ないところと思料されるのである。そして刑訴二四〇条の代理人によ
る告訴取消の場合につき、当該代理権の存在の証明について格段なる要式を規定し
ていないところ等から考えて、その代理権の存した事実は実質的に証明せられる限
りにおいて、当該告訴取消は適法有効のものと解するを相当とすべきである。され
ば本件告訴取消に、当のBの委任状の添付または該取消調書に「代理」の記載がな
いとの一事によつて直ちに該告訴取消を無効と断ずべきものではない。それ故、本
件代理権の有無の事実は十分に解明されなければならないところである。しかるに
記録によれば、Bは第一審において証人として尋問を受け、被告人らに対して厳重
処罰を望む旨の供述(記録一二二丁)はあるが、、本件告訴取消に同意し父にその
代理を任せたか否かの点についての判断の資料とはなし難く、また父Dは第一審で
証人として尋問を受けているが、告訴取消についての代理権の有無の点については
何等の供述なく、また被害者Bの兄Nの第一審証人としての供述中、告訴取消は父
の独断でやつたものと思う旨の供述(記録一〇二九丁)もあるが、他方には、父か
ら告訴取消について意見を求められたことがあり、別段これに対し意見を述べない
で、父親に一任する形であつたとの趣旨の供述(記録一〇二九丁)をもしているの
てあつて、これを素直に取れば告訴取消は、B本人をも含めてO家近親一同父Dに
その処置を一任したものと解せられないことはないのである。これを要するに、父
Dのした告訴取消につきB本人の同意の有無特にその代理権授与事実の有無につき
明確にこれを何れとも断定するについての資料は存在しないのである。
 以上の如くにして、原判決は本件親告罪の告訴取消の有効無効の点につき審理不
尽乃至理由不備の違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、
爾余の論旨並びに他の各弁護人の論旨に対する判断をまつまでもなく、原判決は既
にこの点において破棄を免がれない。
 よつて、刑訴四一一条一号、四一三条に則り、裁判官全員一致の意見で、主文の
とおり判決する。
 本件公判出席検察官 斎藤三郎。
  昭和三五年八月一九日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛