弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
一原判決中、上告人の敗訴部分のうち、上告人が被上告人に対
し専用使用料として平成四年一二月から毎月二五日限り一八万五〇〇〇円及
びこれに対する各月二六日から各支払済みまで年五分の割合による金員の支
払を求める請求に関する部分を破棄する。
二前項の部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
三上告人のその余の上告を棄却する。
四前項の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人塙悟、同山上知裕、同中村仁、同中村宏の上告理由第一点ない
し第四点について
第一審判決別紙第一物件目録記載三の土地(本件マンション北側土地)に
ついて被上告人が専用使用権を有しており、また、被上告人の本件各専用使
用権が無償のものとして設定されたとした原審の事実認定は、原判決挙示の
証拠関係に照らして是認するに足り、その過程にも所論の違法は認められな
い。この点に関する論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認
定を非難するものであって、採用することができない。
その余の論旨は、原判決の結論に影響を及ぼさない説示部分について、法
令解釈の誤り、理由不備等の違法があるというものであって、採用すること
ができない。
同第五点について
一論旨は、本件マンションについて被上告人の有する専用使用権を消滅
させ、又はこれを有償とする規約の設定及び集会決議が、被上告人の右権利
に、建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)三一条一項後段所
定の「特別の影響」を及ぼすか否かの争点に関するものである。
原審の確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
1被上告人は、昭和四八年、自己の所有地上に本件マンションを建築し、
二階ないし八階の建物専有部分(住居部分)の区分所有権と敷地の共有持分
を分譲した。一階店舗部分の区分所有権は、サウナ、理髪店等の営業をする
目的で被上告人が取得し、住居部分の一部についても被上告人が区分所有権
を取得した。区分所有者の数は、被上告人を含めて三五名である。
2本件マンションの敷地及び屋上、外壁、塔屋等の共用部分は、区分所
有者全員がその有する専有部分の床面積の割合に応じて共有している。
3被上告人は、本件マンションの分譲に際し、他の区分所有者全員の了
承を得て、「Dマンション規約書」(以下「旧規約」という。)を定めた。その
六条には、専用使用権に関し、「本建物のうち広告物その他の施設の設置のた
めの外壁の一部、屋上及び塔屋外壁の使用権は被上告人が保有する。」(一項)、
「本敷地の使用権は被上告人が保有する。」(二項)と規定されている。
4被上告人は、一階店舗部分における営業のため、昭和四八年以降、(1)
本件マンション屋上の塔屋外壁にネオン看板を、(2)屋上にサウナ用クーリ
ングタワーを、(3)二階屋上にサウナ用水槽二個を、(4)二階ないし四階
の非常階段の踊り場に支柱を設けて看板を設置したほか、(5)来客用及び自
家用のため、敷地の南側と南西側にそれぞれ自動車四台が駐車可能な駐車場
(以下、「南側駐車場」、「南西側駐車場」という。)を設置し、それぞれ無償
で専用使用してきた。なお、(4)の看板が設置されたのは平成四年以降であ
る。
5上告人は、被上告人を含む本件マンションの区分所有者全員により構
成される管理組合であり、平成元年一〇月二九日に第一回総会を開催した。
6上告人は、右同日、区分所有者及び議決権総数の各四分の三を超える
賛成決議により、旧規約に代えて、新たに「Dマンション管理規約」(以下「新
規約」という。)を設定した。
7新規約の一四条には、専用使用権に関し、「店舗部分の区分所有者は、
本建物のうち広告物その他の施設の設置のための外壁及び屋上の一部と塔屋
外壁、敷地の専用使用権を有することを承認する。」(二項)、「前項の専用使
用権を有している者は、総会の決定があった場合は、管理組合に専用使用料
を納入しなければならない。」(三項)、「二項の専用使用部分の変更について
は、管理組合の承認が必要である。また総会の決定によって専用使用部分を
変更することができる。」(四項)と規定されている。
8上告人は、平成四年一〇月一八日開催の平成四年度定期総会において、
区分所有者及び議決権総数の各四分の三を超える賛成により、新規約に基づ
き、被上告人の専用使用権に関して次の決議をした。
(一)南西側駐車場についての専用使用権は、平成四年一二月三一日を
もつて消滅させる(以下「消滅決議」という。)。
(二)その余の専用使用権については、被上告人は、平成五年一月以降、
専用使用料として、南側駐車場につき月額一〇万円、塔屋外壁につき月額四
万円、屋上につき月額一万円、二階屋上につき月額二万円、非常階段踊り場
につき月額一万五○〇〇円を、毎月二五日限り翌月分を上告人に支払う(以
下「有償化決議」という。)。
二原審は、消滅決議及び有償化決議ないしその前提となる新規約設定の
効力につき、次のとおり判示して、いずれもこれを無効であると判断した。
1本件各専用使用権は、一階店舗部分で行う被上告人の商業活動が継続
される限り効力を有するものとして設定された。したがって、右専用使用権
の存続の利益を上回る他の区分所有者の共同生活上の利益が認められないに
もかかわらずこれを廃止するのは、専用使用権者である被上告人に特別の不
利益を与えるものである。そして、本件マンションは居住者用の駐車場がな
い前提で分譲され、居住者は分譲直後から他に駐車場を求めている。また、
敷地内には自転車を置く余裕があるが、多くの者は盗難等を考慮して自転車
を自己の居宅の前に置いている。さらに、特に本件マンションに来る業者用
の駐車場を設ける必要もなく、以上の事情には、分譲直後から変化はない。
そうすると、上告人の主張する区分所有者の必要性が、商業活動上駐車場を
必要とする被上告人の利益を上回るものとはいえず、規約の設定によって南
西側駐車場についての専用使用権を消滅させることはできない。したがって、
消滅決議は無効である。
2本件マンションの維持運営に要する費用は、管理費や積立金として徴
収する仕組みであり、被上告人の専用使用権は、相応の経済的な負担の下で
維持されてきたものである。このような経済的負担の下で認められてきた権
利を更に有償化して使用料を徴収することは、被上告人に不利益を与えるも
のであり、本件専用使用権を有償化する規約の設定には、被上告人の承諾を
要する。したがって、有償化決議は無効である。
三しかし、原審の右判断のうち、消滅決議を無効とした部分は是認する
ことができるが、有償化決議を無効とした部分は是認ることができない。そ
の理由は、次のとおりである。
1法三一条一項後段の「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者
の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性
及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、
当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき
限度を超えると認められる場合をいうものと解される。そして、直接に規約
の設定、変更等による場合だけでなく、規約の定めに基づき、集会決議をも
って専用使用権を消滅させ、又はこれを有償化した場合においても、法三一
条一項後段の規定を類推適用して区分所有者間の利害の調整を図るのが相当
である(最高裁平成八年(オ)第二五八号同一〇年一〇月三〇日第二小法廷
判決参照)。
本件においては、前記一のとおり、専用使用権に関する新規約一四条が設
定された後、その定めに基づき、集会決議をもって被上告人の専用使用権を
消滅させ、又はこれを有償化したものであるところ、右新規約の定め自体は
いまだ被上告人に現実的、具体的な不利益を及ぼすものではないから、右の
「特別の影響」の有無は、消滅決議及び有償化決議について見るべきもので
ある。
2まず、消滅決議について、上告人は、南西側駐車場の専用使用権を消
滅させることは、区分所有者全体にとって、管理用自動車、緊急自動車の駐
車場を設置し、また、全員のための自転車置場を設置するという高度の必要
性があると主張している。しかしながら、本件区分所有関係についての前記
諸事情、殊に、(1)被上告人は、分譲当初から、本件マンションの一階店舗
部分においてサウナ、理髪店等を営業しており、来客用及び自家用のため、
南側駐車場及び南西側駐車場の専用使用権を取得したものであること、(2)
南西側駐車場の専用使用権が消滅させられた場合、南側駐車場だけでは被上
告人が営業活動を継続するのに支障を生ずる可能性がないとはいえないこと、
(3)一方、被上告人以外の区分所有者は、駐車場及び自転車置場がないこ
とを前提として本件マンションを購入したものであること等を考慮すると、
被上告人が南西側駐車場の専用使用権を消滅させられることにより受ける不
利益は、その受忍すべき限度を超えるものと認めるべきである。したがって、
消滅決議は被上告人の専用使用権に「特別の影響」を及ぼすものであって被
上告人の承諾のないままにされた消滅決議はその効力を有しない。消滅決議
を無効とした原審の判断は、結論において是認することができる。
3次に、有償化決議については、従来無償とされてきた専用使用権を有
償化し、専用使用権者に使用料を支払わせることは、一般的に専用使用権者
に不利益を及ぼすものであるが、有償化の必要性及び合理性が認められ、か
つ、設定された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であ
ると認められる場合には、専用使用権者は専用使用権の有償化を受忍すべき
であり、そのような有償化決議は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及
ぼすものではないというべきである。
また、設定された使用料がそのままでは社会通念上相当な額とは認められ
ない場合であっても、その範囲内の一定額をもって社会通念上相当な額と認
めることができるときは、特段の事情がない限り、その限度で、有償化決議
は、専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、専用使用
権者の承諾を得ていなくとも有効なものであると解するのが相当である(前
掲平成一〇年一〇月三〇日第二小法廷判決参照)。
4しかるに、原審は、被上告人が管理費等をもって相応の経済的な負担
をしてきた権利を更に有償化して使用料を徴収することは被上告人に不利益
を与えるものであるというだけで、有償化決議により設定された使用料の額
が社会通念上相当なものか否か等について検討することなく、有償化決議は、
被上告人の承諾がない以上、無効であると判断している。したがって、原審
の判断には、「特別の影響」の有無について、法令の解釈適用の誤り、審理不
尽の違法があるというべきであり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼす
ことが明らかである。この趣旨をいう論旨は理由があり、原判決中、上告人
の敗訴部分のうち、上告人が被上告人に対し専用使用料として平成四年一二
月から毎月二五日限り一八万五〇〇〇円及びこれに対する各月二六日から各
支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める請求に関する部分は、
破棄を免れない。
5そして、設定された使用料の額が社会通念上相当なものか否かは、当
該区分所有関係における諸事情を総合的に考慮して判断すべきものであると
ころ(前掲平成一〇年一〇月三〇日第二小法廷判決参照)、有償化決議により
設定された南側駐車場月額一〇万円、塔屋外壁月額四万円、屋上月額一万円、
二階屋上月額二万円、非常階段踊り場月額一万五〇〇〇円という使用料の額
が社会通念上相当なものか否か、さらには、もし右の使用料の額が相当な額
と認められない場合には幾らであれば相当といえるかについて、所要の審理
判断を尽くさせる必要がある。
以上の次第で、原判決中、上告人の敗訴部分のうち本判決主文第一項掲記
の部分は、破棄してこれを原審に差し戻すこととし、上告人のその余の上告
は、理由がないのでこれを棄却することとする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官福田博
裁判官根岸重治
裁判官河合伸一

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛