弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人清瀬一郎同内山弘上告趣意第一点について。
 横領罪は「自己の占有スル他人ノ物ヲ」擅に処分することによつて成立するので
ある。犯人がその物を占有するに至つた原由である寄託契約乃至保管場所の賃貸借
契約等における契約当事者が爾後如何に変動したかというようなことは横領罪の成
否を左右するものではない。原判決の認定した事実によれば要するに被告人が自己
の保管に係る他人の財物を擅に処分したことを明確にしているのであつて、横領罪
の判示事実として何等欠くるところはない。しかもこの原審の事実認定は、その挙
示する証拠に照らしてこれを肯認するに難くないのである。弁護人は被告人が本件
圧搾茶についてはその保管料又は保管場所の賃料請求権を有しその弁済を受くるた
めには動産保存の先取特権に基ずき保管物件の一部を売却し得るとなす慣習により
本件圧搾茶につき処分権を有していたのであり、少くともかく信ずるにつき正当の
事由があつたのであるから、被告人の本件所為は横領の犯意を欠くと主張する。し
かし所論のような慣習の存在は肯認することができないばかりでなく、担保物権の
実行に関する法規は担保物換価の公正を確保し、唯に担保権者のみならず競合する
他の債権者の利益をも併せ保護する強行規定であり、権利者と雖も法定の手続によ
らず担保物を任意処分することは法の厳禁するところであるから、所論のような民
間慣習が法律上有効に成立する余地なきは勿論である。しかも所論の事実について
は当審においてはじめて主張せられたところであり事実審たる原審においてこれが
主張のなされた形成は存在しないのである。被告人等がその保管にかかる本件圧搾
茶の一部を自家用に使用することの許諾を受けていたとの所論の事実についても、
また同様である。されば原審がこれらの点につき何等考慮を払わなかつたとしても、
原判決に所論のような違法があるということはできない。所論は上告審において新
たな事実を主張し、これを前提として原判決に法令違反ありとなすものに外ならな
いのであつて、上告適法の理由となすに足りない。論旨はすべて採用に値しない。
 同第二点について。
 原判決は判示第二の犯罪事実として不当高価販売の罪を認定したものであること
は、その判文上明白である。しかるに原審は論旨の指摘する通り右不当高価販売の
事実中昭和二二年四月一五日までの所為に対して同年四月一六日勅令一三三号によ
る改正前の物価統制令一一条三四条三五条を適用している。もし改正前の物価統制
令により所断せんとするものであるならば同令一一条二項三六条を適用しなければ
ならないのであつてその誤りであることは所論の通りである。しかし、判示第二の
不当高価販売の所為は、右勅令一三三号による物価統制令改正の前後に亘つて行わ
れたものであり、原審は右の所為が連続犯たることを認定しているのである。しか
るところ連続犯の行われた中間においてその罪刑に関する規定が改正せられた場合
においても、連続犯は一罪として所断すべきものであるから新旧両法を比較し軽き
に従い処断すべきものではなく、唯新法のみを適用すれば足るものと解するのを相
当とする(大審院大正一一年(れ)一九七七号同一二年一月二六日刑事一部判決刑
事判例集二巻三五頁、同昭和九年(れ)五二三号同年六月二三日刑事三部判決同判
例集一三巻八七九頁参照)。従つて判示第二の不当高価販売の所為に対しては右勅
令一三三号により改正せられた物価統制令九条の二、三四条を適用すれば足るもの
であつたのである。しかるに原審は昭和二二年四月一六日以後の不当高価販売の所
為に対しては右法条を適用し結局判示第二の所為全体については、同法所定の刑に
従い所断しているのであるから前示原判決の法令適用上の瑕疵は判決の主文に何等
影響するところなく従つて判決破棄の理由となすに足りない。されば論旨は採用に
値しない。
 同第三点について。
 しかし、原判決は、被告人両名が共謀して売却した判示第二掲記の圧搾茶がそれ
ぞれ同上(一)売却当時施行に係る昭和一九年農商務省告示二〇七号の荒茶煎茶の
四級品そのものに、また同上(二)の売却当時施行に係る同二一年大蔵省告示二九
二号の荒茶煎茶の三級品そのものに、各該当すると認定したものではなく、要する
に被告人等が所論の圧搾茶を処分した価額が、その規格において最も近似する前掲
各告示の荒茶煎茶の四級品及び三級品の各適正価格に対比し不当に高価であること
を判示したに過ぎないのである。その事は原判決を通読すれば容易に了解し得ると
ころなのである。そして適正価格の指定なき統制品を不当高価に販売したか否かを
判断するに当りその規格において最もこれに近似する統制品の適正価格を基準とす
ることは、むしろ当然というべきであるから、原判決にはこの点に関し所論のよう
な違法はなく、また本件圧搾茶の規格がそれぞれ前示告示の荒茶煎茶の四級品又は
三級品に最も近似するものであるとなす原判決の事実認定はその挙示する証拠就中
被告人Aの原審公判における供述並びに本件取引における買受人等に対する司法警
察官の訊問調書及び聴取書添付の買受関係一覧表中の買受品名規格欄の記載に照ら
しこれを肯認するに難くないのである。原判決には所論のような違法はなく論旨は
採用し得ない。
 よつて旧刑訴四四六条に従い主文の通り判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二五年一二月二一日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    齋   藤   悠   輔

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