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平成22年10月28日判決言渡
平成22年(行ケ)第10024号審決取消請求事件
平成22年9月28日口頭弁論終結
判決
原告日本電動式遊技機特許株式会社
訴訟代理人弁護士山崎優
同三好邦幸
同川下清
同河村利行
同加藤清和
同沢田篤志
同伴城宏
同今田晋一
同坂本勝也
同梁沙織
同小林悠紀
同安達友基子
同高橋幸平
同古賀健介
同中村昭喜
同笹山将弘
同池垣彰彦
訴訟代理人弁理士梁瀬右司
同振角正一
被告株式会社三共
訴訟代理人弁理士岩壁冬樹
同塩川誠人
同川村武
同眞野修二
主文
1特許庁が無効2009−800093号事件について平成21年12
月15日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
被告は,平成10年6月18日,発明の名称を「遊技機」とする発明につい
て,特許出願をし(特願平10−188142号),平成11年3月5日,特許
権の設定登録を受け(特許第2896369号。以下「本件特許」という。),
その後,平成12年7月7日,特許異議手続において,訂正請求を行った(以
下,平成12年7月7日付けの訂正明細書を「本件基準明細書」という。)。原
告は,平成21年5月14日,本件特許について特許無効審判請求をし(無効
2009−800093号),被告は,同年8月27日付けで訂正請求をした(以
下「本件訂正」という。)。特許庁は,平成21年12月15日,「訂正を認める。
本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下,単に「審決」という。)
をし,その審決の謄本は,同月28日に原告に送達された。
2特許請求の範囲の記載
(1)本件基準明細書の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。
【請求項1】
表示状態が変化可能な可変表示部を含み,変動開始の条件の成立に応じて
前記可変表示部に表示される識別情報の変動を開始し,識別情報の表示結果
があらかじめ定められた特定の表示態様となった場合に所定の遊技価値が付
与可能となる遊技機であって,
遊技進行を制御する遊技制御手段が搭載された遊技制御基板と,
前記遊技制御基板からの信号にもとづいて前記可変表示部の表示制御を行
う表示制御手段が搭載された表示制御基板とを有し,
前記表示制御基板内に,遊技制御基板と表示制御基板との間の信号につい
て前記遊技制御基板からの信号の入力のみを可能とする信号伝達方向規制手
段を実装し,
前記遊技制御基板内に,遊技制御基板と表示制御基板との間の信号につい
て前記表示制御基板への信号の出力のみを可能とする信号伝達方向規制手段
を実装した
ことを特徴とする遊技機。
【請求項2】
信号伝達方向規制手段は,汎用のバッファIC回路で構成されている請
求項1記載の遊技機。
【請求項3】
バッファIC回路のイネーブル端子は,常に入出力導通状態に設定されて
いる請求項2記載の遊技機。
(2)本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(本件訂正によ
る訂正箇所に下線を付した。以下,これらの請求項に係る発明を項番号に対応
して,「本件訂正発明1」などといい,これらをまとめて「本件訂正発明」と
いう。なお,請求項1の各分説冒頭の符号は,審決において付したものである。)。
【請求項1】
(α)表示状態が変化可能な可変表示部を含み,変動開始の条件の成立に応じ
て前記可変表示部に表示される識別情報の変動を開始し,
(β)識別情報の表示結果があらかじめ定められた特定の表示態様となった場
合に所定の遊技価値が付与可能となる遊技機であって,
(γ)遊技進行を制御する遊技制御手段が搭載された遊技制御基板と,
(δ)前記遊技制御基板からの信号にもとづいて前記可変表示部の表示制御を
行う表示制御手段が搭載された表示制御基板とを有し,
(ε)前記表示制御基板内に,遊技制御基板と表示制御基板との間の全ての信
号について,信号の伝達方向を前記遊技制御基板から前記表示制御基板への
一方向に規制するために,前記遊技制御基板からの信号の入力のみを可能と
し,前記遊技制御基板への信号の出力を不能とする信号伝達方向規制手段を
実装し,
(ζ)前記遊技制御基板内に,遊技制御基板と表示制御基板との間の全ての信
号について,信号の伝達方向を前記遊技制御基板から前記表示制御基板への
一方向に規制するために,前記表示制御基板への信号の出力のみを可能とし,
前記表示制御基板からの信号の入力を不能とする信号伝達方向規制手段を実
装した
(η)ことを特徴とする遊技機。
【請求項2】
信号伝達方向規制手段は,汎用のバッファIC回路で構成されている請
求項1記載の遊技機。
【請求項3】
バッファIC回路のイネーブル端子は,常に入出力導通状態に設定されて
いる請求項2記載の遊技機。
3審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,審決は本件訂正
を認めた上で,本件訂正発明1は,特開平8−224339号公報(甲3),特
開平7−24108号公報(甲4),特開平10−118273号公報(甲5),
特開平7−299209号公報(甲6),特開平10−113438号公報(甲
7),特開平5−23425号公報(甲8),特開平9−173564号公報(甲
9)に記載された発明に基づいて,当業者が容易になし得るとはいえず,また,
本件訂正発明2,3は,本件訂正発明1に従属し,本件訂正発明1の構成を更
に限定したものであるから,上記甲3ないし9及び株式会社日立製作所発行の
データブック「日立Bi−CMOS/CMOSロジックHD74BC/AC
/HC/UHシリーズ」(甲10)に記載された発明に基づいて,当業者が容易
になし得るとはいえないから,本件特許を無効とすることはできないとするも
のである。
審決は,上記結論を導くに当たり,本件訂正発明と特開平8−224339
号公報(甲3)記載の発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1)一致点
表示状態が変化可能な可変表示部を含み,変動開始の条件の成立に応じて前
記可変表示部に表示される識別情報の変動を開始し,識別情報の表示結果があ
らかじめ定められた特定の表示態様となった場合に所定の遊技価値が付与可能
となる遊技機であって,
遊技進行を制御する遊技制御手段が搭載された遊技制御基板と,前記遊技制
御基板からの信号にもとづいて前記可変表示部の表示制御を行う表示制御手段
が搭載された表示制御基板とを有し,
遊技制御基板と表示制御基板との間の信号について,信号の伝達方向を前記
遊技制御基板から前記表示制御基板への一方向に規制するための信号伝達方向
規制手段を設けた遊技機。
(2)相違点
本件訂正発明1では,表示制御基板内及び遊技制御基板内各々に信号伝達方
向規制手段が実装され,表示制御基板内の信号伝達方向規制手段が前記遊技制
御基板からの信号の入力のみを可能とし,前記遊技制御基板への信号の出力を
不能とし,遊技制御基板内の信号伝達方向規制手段が前記表示制御基板への信
号の出力のみを可能とし,前記表示制御基板からの信号の入力を不能とするの
に対し,甲3記載の発明は,そもそも信号伝達方向規制手段がメイン制御部1
及びサブ制御部6各々の内部に設けられておらず,両制御部の間の信号のすべ
てを伝達方向の規制の対象とするのか明らかでない点。つまり,本件訂正発明
1の構成(ε)及び構成(ζ)を具備していない点。
第3取消事由に関する原告の主張
審決には,新規事項追加による訂正(取消事由1),本件訂正発明1について
の進歩性の判断の誤り(取消事由2),本件訂正発明2,3についての進歩性の
判断の誤り(取消事由3)があるから,違法として取り消されるべきである。
1取消事由1(新規事項追加による訂正)
本件基準明細書には,「表示制御コマンドデータ」と「ストローブ信号」の2
種類の信号が,それぞれの出力ポートから出力されること,その信号が表示制
御基板80においてバッファ回路105を介して表示制御用CPU101に入
力されることが記載されているのみであり,「全ての信号」とは記載されていな
い。他方,甲3には,割込み信号,CE信号及びWR信号のオフ信号と出力バ
ッファOUTの値について,メインCPU2から出力されること,それらの制
御信号や転送データが一方向データ転送手段40を介してサブCPU8の入力
ポートに入力されることが記載されており,これらの記載は,本件基準明細書
の記載と何ら変わりない。また,本件基準明細書の図7(別紙図面1。以下同
じ),16(別紙図面2。以下同じ)には,遊技制御基板31から表示制御基板
80への複数の矢印がすべて一方向となることが記載されているのに対し,甲
3の図1(別紙図面3。以下同じ)にも,メイン制御部1からサブ制御部6へ
の複数の矢印がすべて一方向となっていることが記載されており,この点でも
本件基準明細書と甲3に変わりはない。
この点について,審決は,本件基準明細書の記載及び図から「全ての信号」
という構成を読み取る一方で,甲3の記載及び図からはこれが明らかでないと
しており,その判断には矛盾がある。仮に,審決が,甲3の記載及び図からは,
両制御部の信号のすべてを規制の対象としていないとの理解を前提とするので
あれば,本件基準明細書の記載及び図からも同様に,「全ての信号」との構成を
読み取ることはできないはずである。そうだとすると,本件訂正は,本件基準
明細書の記載に基づかない新規事項の追加に当たり,違法である。
2取消事由2(本件訂正発明1についての容易想到性判断の誤り)
(1)前記1のとおり,本件基準明細書の記載及び図からすべての信号を規制の
対象としていると解釈できるのであれば,甲3記載の発明についても同様に
すべての信号が規制の対象になっていると解釈することができる。そうする
と,本件訂正発明1と甲3記載の発明との相違点は,本件訂正発明1では表
示制御基板内及び遊技制御基板内の各々に信号伝達方向規制手段が実装され
ているのに対し,甲3記載の発明にはその構成がないことのみとなる。
そして,特開平9−173564号公報(甲9)記載の発明は,遊技制御
手段から払出動作制御手段への一方向通信としたことを特徴とする発明であ
る上,異なる基板に各々実装された信号回路209,217は,一方向への
信号の流れを可能にするという点で,本件訂正発明(ε),(ζ)の信号伝達
方向規制手段と同一の構成となっている。また,本件特許出願当時,パチン
コ等の遊技機の分野では,不正改造を防止するために,画像表示等を制御す
るサブ基板は,遊技全体を制御するメイン基板からのコマンドを一方的に受
信するのみで,メイン基板へコマンドやその他の制御信号を送ることができ
ない構成にしなければならないとする法的な規制があった。このため,当業
者にとって,パチンコ等の遊技機の製造に関して,一方向通信は周知技術で
あり,このことは,特開平7−24108号公報(甲4),特開平10−11
8273号公報(甲5),特開平7−299209号公報(甲6),特開平1
0−113438号公報(甲7),特開平5−23425号公報(甲8)の記
載からも明らかである。審決は,甲4ないし8の記載を前提として,「弾球遊
技機において,遊技制御手段199と払出制御回路基板152との間での情
報通信は,遊技制御手段199から,払出制御回路基板152への一方向通
信とした」こと(以下「技術事項A」という。)を周知技術と認定している。
さらに,甲9の段落【0062】,特開平9−294854号公報(甲26)
の段落【0062】,特開平10−118288号公報(甲27)の段落【0
063】,【0065】,【0070】の記載によれば,本件出願当時,遊技制
御基板又は遊技制御用マイクロコンピュータと払出制御基板の双方に,信号
伝達方向規制手段であるフォトカプラを実装することも周知技術であった。
以上のとおり,本件訂正発明1の相違点に係る構成は,当業者において,
甲3記載の発明に甲9の構成を組み合わせることが容易な発明である。また,
技術事項Aは周知技術であり,メイン基板とサブ基板の双方に一方向規制手
段を実装することも周知技術であるから,本件出願当時,当業者にとって甲
3記載の発明に甲9の構成を組み合わせることは,設計事項というべきであ
る。
(2)審決は,甲9には,「払出制御回路基板152には払出制御用マイクロ
コンピュータ220が設けられ,払出制御回路基板152には賞球センサ1
87が接続され,賞球モータ189の回転に伴って賞球センサ187が切欠
部192を検出すれば,その検出信号が払出制御回路基板152に入力され,
払出制御回路基板152は,前記賞球センサ187からの検出信号に基づい
て,コネクタ153b,199bを介して遊技制御基板199に入賞信号を
出力し,遊技制御基板199は,その入賞信号に基づいて前述した賞球個数
信号をコネクタ199b,153bを介して払出制御回路基板152に返信
する」との技術事項(以下「技術事項C」という。)が記載されているとして,
これを根拠に,甲9において,払出制御回路基板からコネクタを通して遊技
制御基板に入賞信号を出力するとの構成が示されており,遊技制御基板から
払出制御基板への伝達される信号は,D0∼D3がすべてであると認定する
ことができないと判断している。しかし,審決の上記判断は,以下のとおり
誤りである。すなわち,甲9には,段落【0071】以外に,払出制御回路
基板から遊技制御基板への信号回路(技術事項C)についての記載はなく,
また,技術事項Cは,制御回路を示す図12(別紙図面4。以下同じ)と整
合しない。そうすると,甲9に開示された技術内容は,図12の記載とその
説明に基づいて認定すべきであり,信号回路209と217の間の一方向性
の通信回路とは別個の技術を記載した技術事項Cを前提とすべきではない。
(3)審決は,発光素子と受光素子を一次側と二次側で互い違いに配置する等
して信号の伝達方向を双方向にしたフォトカプラであれば,双方向の信号伝
達の回路になると判断している。しかし,審決の上記判断は,以下のとおり
誤りである。すなわち,フォトカプラは,発光素子と受光素子を1つのケー
ス内に収納し,一次側に発光素子,二次側に受光素子をそれぞれ配置して入・
出力を電気的に絶縁し,入力側から出力側に一方向に信号を伝達するという
のが,その基本構成であり,一方向への信号伝達の流れのみを許容するもの
である。また,甲9と出願人が同一である特開平6−304318号公報(甲
25),特開平9−294854号公報(甲26),特開平10−43390
号公報(甲28)には,賞球個数信号が遊技制御回路基板からフォトカプラ
を介して払出制御回路基板へ伝送されることが記載されるとともに,このフ
ォトカプラの回路構成が図示されており,D0∼D3の信号いずれについて
も遊技制御回路基板から払出制御回路基板へ伝送される向きで4つのフォト
カプラが配置されている。そうすると,甲9の回路構成は,上記甲25,2
6,28と同様に,すべてのフォトカプラを同一方向に向けて配置している
と認定するのが合理的である。
したがって,甲9における信号回路209,信号回路217は,フォトカ
プラを利用して信号の伝達方向を一方向に規制する回路構成である。
(4)審決は,「賞球センサからの検出信号を遊技制御回路基板に直接出力し,
払出された景品玉の個数を遊技制御回路基板側でカウントする構成(以下「構
成A」という。)を示す証拠は何も挙げられていないと判断する。しかし,審
決の上記判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,甲25の段落【00
50】には,遊技制御回路基板と払出制御回路基板との双方向通信を回避し
て,一方向通信とするため,入賞玉検出器を払出制御回路基板ではなく遊技
制御回路基板だけに接続する構成が示されている。また,特開平10−11
8288号公報(甲27)の段落【0074】には,入賞玉検出器を遊技制
御回路基板だけに接続する場合や遊技制御回路基板を通じて払出制御回路基
板に接続する構成が示されている。そうすると,検出信号を遊技制御回路基
板と払出制御回路基板のどちらと接続するかは設計事項にすぎず,構成Aは
周知事項でないとした審決の判断は誤りである。
(5)以上のとおり,本件訂正発明1は,甲3記載の発明に,甲9及び甲4な
いし9に記載された周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易にな
し得るものといえる。
3取消事由3(本件訂正発明2,3についての容易想到性判断の誤り)
本件訂正発明2は,本件訂正発明1に従属し,信号伝達方向規制手段を汎用
のバッファIC回路で構成すると具体的に記載したものである。また,本件訂
正発明3は,本件訂正発明2に従属し,バッファIC回路のイネーブル端子に
ついて具体的に記載したものである。そうすると,本件訂正発明2,3におい
て示された構成は設計事項にすぎず,本件訂正発明2,3は,本件訂正発明1
と同様,甲3記載の発明に甲4ないし10に記載された発明を組み合わせるこ
とで当業者が容易になし得るものであり,進歩性を欠いている。
第4被告の反論
1取消事由1(新規事項追加による訂正)に対し
(1)本件訂正のうち「遊技制御基板と表示制御基板との間の信号」を「遊技
制御基板と表示制御基板との間の全ての信号」とする訂正は,本件基準明細
書の段落【0030】の記載,図7及び図16の記載に基づいて,遊技制御
基板と表示制御基板との間の「信号」を「全ての信号」と限定するものであ
り,新たな技術事項の導入に該当しない。
(2)本件基準明細書の段落【0035】【0060】には,信号伝達方向規制
手段に相当するバッファ回路は,汎用のCMOS−ICである74HC24
4で構成されることが記載されている。また,74HC244は,1つのI
Cが8端子で構成されているのが通常である。そうすると,本件基準明細書
に記載されているように8つの表示制御信号CD0∼CD7と1つのストロ
ーブ信号をメイン基板(遊技制御基板に相当)と表示制御基板との間でやり
とりする場合には,2個の74HC244が必要となり,メイン基板と表示
制御基板との間では,7本の未使用の信号線が存在することになる。この点
に関し,本件基準明細書には,段落【0057】【0060】において,バッ
ファ回路の各バッファは,イネーブル端子を常にローレベルにすることが記
載されており,未使用の7つの信号線も含むすべての信号線を一方向にのみ
通信可能にする構成が開示されている。
したがって,本件基準明細書の段落【0035】【0057】【0060】,
図7及び図16には,遊技制御基板と表示制御基板との間のすべての信号に
ついて信号伝達方向を一方向のみに規制することが開示されており,本件訂
正のうち「遊技制御基板と表示制御基板との間の信号」を「遊技制御基板と
表示制御基板との間の全ての信号」とする訂正は,特許請求の範囲の減縮を
目的とした適法な訂正であり,新規事項の追加に当たらない。
(3)甲3では,メイン制御部1のメインCPU2から出力されたデータやC
E信号,WR信号,割込み信号が通信インターフェース5及び一方向データ
転送手段40を介してサブ制御部6のサブCPUへと転送されることが開示
されており,甲3の段落【0014】によれば,一方向データ転送手段はト
ランジスタアレイにより構成されている。また,技術常識によれば,甲3で
は,本件訂正発明1と同様に,端子数が8端子等の汎用ICを用いて構成さ
れるものと推測される。そうすると,メイン制御部1とサブ制御部6との間
では,8本のデータ伝送ライン,CE信号,WR信号及び割込み信号のほか
に未使用の信号線が生じることになる。しかし,甲3には,上記未使用の信
号線について通信方向を規制する開示はなく,「全ての信号」について通信方
向を規制することが開示されているとはいえない。また,甲3には,メイン
制御部1の内部に設けられている信号伝達方向規制手段と,サブ制御部6の
内部に設けられている信号伝達方向規制手段とが,各々個別に,両制御部の
間の信号のすべてを伝達方向規制の対象としていることは開示されていない。
したがって,審決の本件基準明細書と甲3の解釈に不整合な部分はなく,
甲3記載の発明について,両制御部の間の信号のすべてを伝達方向規制の対
象とするのか明らかでないとした審決の判断に誤りはない。
2取消事由2(本件訂正発明1についての容易想到性判断の誤り)に対し
(1)前記1のとおり,本件訂正発明1と甲3記載の発明は,本件訂正発明1
では表示制御基板内及び遊技制御基板内の各々に信号伝達方向規制手段が実
装されているのに対し,甲3記載の発明にはその構成がないことのほか,本
件訂正発明1ではすべての信号を規制の対象としているのに対し,甲3記載
の発明にはその構成がない点でも相違している。また,フォトカプラが電気
信号の一方向への流れのみを許容するのは,電気信号から変換した光信号を,
一次側の発光素子から二次側の受光素子へ伝達する際の,発光素子から受光
素子に至る光信号の経路においてのことであり,単にフォトカプラ構成の信
号回路ということのみでは,甲9に記載されている信号回路209,217
が信号の伝達方向を一方向に規制する回路構成であると解することはできず,
上記回路が本件訂正発明1の構成(ε),(ζ)の各信号伝達方向規制手段に
相当するとはいえない。
したがって,本件訂正発明1は,甲3記載の発明に甲9の構成及び甲4ない
し9に記載された周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易になし
得るものであるとはいえず,審決の判断に誤りはない。
(2)甲9には,段落【0071】において,「払出制御回路基板(賞球玉貸
制御基板)152は,前記玉払出検出器(賞球センサ)187からの検出信
号に基づいて,コネクタ153b,199bを介して遊技制御基板199に
入賞信号を出力し」と記載され,信号回路209,217とは別の通信経路
が明確に示されていること,図14(別紙図面5。以下同じ)においても,
賞球玉貸制御基板152上のコネクタ153bと遊技制御基板199上のコ
ネクタ199bを結ぶ信号線が図示され,「玉払出検出器(賞球センサ)18
7」からの検出信号を賞球玉貸制御基板152から遊技制御基板199に出
力する信号経路が明確に図示されていることからして,遊技制御基板と払出
制御回路基板との間の信号を完全に一方向に規制したものとはなっていない。
(3)甲9の段落【0062】では,「信号回路209,217(ともにフォ
トカプラで構成されている)」と記載されているところ,信号回路209,2
17を構成する部品としてフォトカプラが使用されていることが分かるもの
の,上記回路の具体的な内部構成については何ら開示がなく,フォトカプラ
が用いられているとの記載をもって直ちに本件訂正発明1の構成(ε),(ζ)
の信号伝達方向規制手段を導き出すことはできない。また,甲9には,フォ
トカプラを用いている信号回路214,216が双方向通信を行っているこ
とが示されており,フォトカプラを用いることのみを理由として,信号回路
209,217が信号伝達方向規制手段となっていると解することはできな
い。さらに,甲25,26,28を参酌しても,フォトカプラの回路構成は
ともかく,信号回路209,217の具体的な回路構成は判然とせず,むし
ろそこには双方向通信が示されている。さらに,甲25,27には,賞球セ
ンサではなく,入賞玉検出器を遊技制御基板に接続することが記載されてい
るにすぎず,構成Aを示しているとはいえない。
3取消事由3(本件訂正発明2,3についての容易想到性判断の誤り)に対し
前記2のとおり,本件訂正発明1について進歩性が認められるところ,同発
明に従属する本件訂正発明2,3についても進歩性が認められる。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(新規事項追加による違法な訂正)について
(1)当裁判所は,本件訂正について,本件基準明細書(特許請求の範囲を
含む。以下同じ。)又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技
術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものと認めるこ
とができ,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載し
た事項の範囲内において」するものと判断する。以下,その理由を述べる。
(2)特許法134条の2第5項により準用する同法126条3項は,訂正
が許されるためには,いわゆる訂正の目的要件を充足するだけでは足りず,
「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の
範囲内」であることを要するものと定めている。法が,いわゆる目的要件以
外に,そのような要件を定めた理由は,訂正により特許権者の利益を確保す
ることは,発明を保護する上で重要ではあるが,他方,新たな技術的事項が
付加されることによって,第三者に不測の不利益が生じることを避けるべき
であるという要請を考慮したものであって,特許権者と第三者との衡平を確
保するためのものといえる。
このように,訂正が許されるためには,いわゆる目的要件を充足すること
の外に,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した
事項の範囲内」であることを要するとした趣旨が,第三者に対する不測の損
害の発生を防止し,特許権者と第三者との衡平を確保する点にあることに照
らすならば,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載
した事項の範囲内」であるか否かは,訂正に係る事項が,願書に添付された
明細書,特許請求の範囲又は図面の特定の箇所に直接的又は明示的な記載が
あるか否かを基準に判断するのではなく,当業者において,明細書,特許請
求の範囲又は図面のすべてを総合することによって導かれる技術的事項(す
なわち,当業者において,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべてを総合
することによって,認識できる技術的事項)との関係で,新たな技術的事項
を導入するものであるか否かを基準に判断するのが相当である(知的財産高
等裁判所平成18年(行ケ)第10563号平成20年5月30日判決,同
平成22年(行ケ)第10019号平成22年7月15日判決参照。)。
(3)これを本件訂正についてみるに,本件訂正の内容は,前記第2の2(2)
のとおりであり,「遊技制御基板と表示制御基板との間の信号」を「遊技制御
基板と表示制御基板との間の全ての信号」(判決注・訂正部分は下線部分)と
訂正することを含むものである。そこで,以下,上記訂正部分が,本件基準
明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項と
の関係で,何らかの新たな技術的事項を導入するものであったか否かを検討
する。
(4)本件基準明細書には,以下の記載がある。
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
以上に述べたように,不正行為を受けると遊技店や一般遊技客が大きな損
失を受けるために,不正行為を受けにくい遊技機の出現が強く望まれてい
る。特に,遊技機裏面に設置されている各種回路基板に対する不正改造は
発見されにくいので,遊技機において,回路基板改造による不正行為の防
止は重要な課題になっている。
【0007】
本発明は,そのような課題を解決するためになされたものであって,回路
基板改造による不正行為を効果的に防止して不正行為を受けにくくする遊
技機を提供することを目的とする。」
「【0060】
図16は,本発明の他の実施の形態を示すブロック図である。この実施の
形態では,メイン基板31において,出力ポート571,572の外側に
信号伝達方向規制手段としてのバッファ回路63が設けられている。バッ
ファ回路63として,例えば,汎用のCMOS−ICである74HC24
4が2チップ用いられる。イネーブル端子には常にローレベル(GNDレ
ベル)が与えられている。このような構成によれば,外部からメイン基板
31の内部に入力される信号が阻止されるので,表示制御基板80からメ
イン基板31に信号が与えられる可能性を,さらに確実になくすことがで
きる。なお,信号伝達方向規制手段として,個別のトランジスタ等の他の
回路素子を用いてもよい。」
「【0094】
【発明の効果】
以上のように,本発明によれば,遊技機を,遊技制御基板からの信号の入
力のみを可能とする信号伝達方向規制手段が表示制御基板に設けられてい
る構成にしたので,表示制御基板改造による不正行為を効果的に防止して,
遊技機に対する不正行為を受けにくくすることができる効果がある。
【0095】
信号伝達方向規制手段が汎用のバッファIC回路で構成されている場
合には,特殊な回路構成を採用しなくても,容易に表示制御基板改造によ
る不正行為を防止することができる。また,バッファIC回路のイネーブ
ル端子が常に入出力導通状態に設定されている場合には,バッファIC回
路の出力レベルが遊技制御基板からの信号レベルに確定しているので,表
示制御基板側から遊技制御基板側に信号が伝わる余地はなく,確実に信号
の不可逆性を達成することができる。
【0096】
遊技制御基板にも,表示制御基板への信号の出力のみを可能とする信号伝
達方向規制手段が搭載されているので,表示制御基板側から遊技制御基板
側に信号が入力されてしまうことがさらに確実に防止される。」
(5)本件基準明細書添付の図16によれば,メイン基板および表示制御基
板における表示制御コマンドデータ送受信に関わる部分を示す回路図に
は,表示制御コマンドデータ及びストローブ信号がバッファ回路105及
び63を介して表示制御用CPU101に入力することが開示されてい
る。
(6)前記(4),(5)によれば,本件基準明細書又は図面に記載された
発明は,回路基板改造による不正行為の防止を課題とし,上記不正行為を
効果的に防止して不正行為を受けにくくする遊技機を提供することを目
的としており(前記段落【0006】【0007】),遊技制御基板から
の信号の入力のみを可能とする信号伝達方向規制手段を表示制御基板に
設けるとともに,表示制御基板への信号の出力のみを可能とする信号伝達
方向規制手段を遊技制御基板に搭載する構成とし(図16),更に信号伝
達方向規制手段をバッファIC回路で構成していることが認められる(前
記段落【0060】)。これにより,本件基準明細書又は図面に記載され
た発明は,表示制御基板側から遊技制御基板側に信号が伝わることなく,
確実に信号の不可逆性を達成することができるようにしており,表示制御
基板改造による不正行為を効果的に防止するものである(前記段落【00
94】【0095】【0096】)。そうすると,本件基準明細書又は図
面のすべての記載を総合すると,本件基準明細書又は図面に記載された遊
技機は,当業者において,不正行為を防止するため,遊技制御基板から表
示制御基板への信号の伝達のみを可能とし,表示制御基板側から遊技制御
基板側に信号が伝わる余地がないよう,確実に信号の不可逆性を達成する
ことができるように構成していること,すなわち,信号の不可逆性に例外
を設けないとの技術的事項が記載されていると認定するのが合理的であ
る。そうすると同技術的事項との関係において,「遊技制御基板と表示制
御基板との間のすべての信号について,信号の伝達方向を前記遊技制御基
板から前記表示制御基板への一方向に規制する」ことは,新たな技術的事
項を導入するものであるとはいえない。
これに対し,原告は,甲3記載の発明について,メイン制御部からサブ
制御部へのすべての信号を規制の対象としていないと解釈するならば,本
件基準明細書についても同様に解釈するべきであり,本件訂正は,新たな
技術的事項を導入するものに当たると主張する。しかし,前記のとおり,
訂正の適否の判断において,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又
は図面・・・に記載した事項の範囲内」であるか否かは,当業者において,
明細書,特許請求の範囲又は図面のすべてを総合することによって,認識
できる技術的事項との関係で,新たな技術的事項を導入するものであるか
否かを基準に判断すべきものであり,他の公知文献等の解釈により判断が
左右されるものではないから,上記原告の主張は採用することができない。
したがって,遊技制御基板と表示制御基板との間の「信号」を「全ての
信号」と限定する本件訂正は,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲
又は図面・・・に記載した事項の範囲内」においてするものということが
できるので,審決が本件訂正を認めた点に違法はない。
2取消事由2(本件訂正発明1についての進歩性の判断の誤り)について
当裁判所は,原告が主張する取消事由2(本件訂正発明1についての進歩性
の判断の誤り)には理由があるものと判断する。その理由は,以下のとおりで
ある。
(1)審決は,①甲3記載の発明には,信号伝達方向規制手段がメイン制御
部1及びサブ制御部6各々の内部に設けられておらず,両制御部の間の信号
のすべてを伝達方向の規制の対象とするのか明らかでないこと,②技術事項
Aが周知の技術であるとしても,甲9には技術事項Cが開示されており,遊
技制御基板199から払出制御回路基板152へ伝達される信号は,賞球個
数信号D0∼D3がすべてであると認定できないこと,③信号の伝達方向を
双方向としたフォトカプラも信号回路として慣用されており,単にフォトカ
プラ構成の信号回路というだけでは電気信号の一方向への流れのみを許容す
る回路構成になるとは一概にいえず,甲9に記載された信号回路209,2
17が,信号の伝達方向を一方向に規制する回路構成であると解することが
できないことを理由に,本件訂正発明1は,甲3に記載された発明に甲9の
構成及び周知技術を組み合わせることで当業者が容易になし得るとはいえな
いと判断している。そこで,以下,これらの点について,順次検討する。
(2)甲3記載の発明について
ア甲3には,以下の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】パチンコ機のパチンコ遊技全体に関わる制御を行うためのメイ
ン制御部と,前記パチンコ機が備えた図柄表示装置に配備されると共に,
前記メイン制御部からの制御信号に応じて前記図柄表示装置を表示駆動制
御するためのサブ制御部と,前記メイン制御部とサブ制御部との間に介在
されると共に前記メイン制御部からサブ制御部へのみコマンドデータの転
送を可能とし,前記サブ制御部からメイン制御部へのデータ信号入力を禁
止する一方向データ転送手段とを設けたことを特徴とするパチンコ機にお
けるデータ伝送装置。」
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,パチンコ機において配備されたメイン制御
部及びサブ制御部において,メイン制御部からサブ制御部に対して送信さ
れる制御コマンドデータの伝送を行うパチンコ機におけるデータ伝送装置
に関するものである。」
「【0002】
【従来の技術】パチンコ遊技機においては,例えば,図柄表示装置を設け,
その表示画面において,複雑な表示動作を行わせたり,遊技態様に応じて
数種類の表示画面を切り換え動作を行わせたりすることにより,遊技者の
多様な趣向を満たすようにしている。このようなパチンコ遊技機にあって
は,パチンコ機のパチンコ遊技全体に関わる制御を行うためのメイン制御
部のみでは,パチンコ機に配備された各駆動制御要素を全て制御すること
がメイン制御部の処理タイミングやメモリの記憶容量に制限があって困難
であるため,駆動制御要素毎に専用のサブ制御部が配備されており,メイ
ン制御部から制御信号並びに出力データからなる制御用のコマンドデータ
をサブ制御部に転送し,前記制御用のコマンドデータに応じてサブ制御部
により駆動制御要素を制御駆動するようにしている。
【0003】メイン制御部から転送される制御用のコマンドデータは,例え
ば,サブ制御部が図柄表示装置である場合には,パチンコ機における遊技
状況を示すステータスデータ及び図柄表示装置に複数設定されている各図
柄表示部に表示する図柄の種類並びに表示位置を示す各データ等である。」
「【0006】従来のメイン制御部とサブ制御部との間におけるコマンドデー
タの伝送は,図18のタイミングチャートに示すように,送信側であるメ
イン制御部側からコマンドデータを送信したことをWR信号を出力して,
受信側のサブ制御部側に知らせ,受信側はコマンドデータを受け取ったこ
とをREADY信号を出力してメイン制御部側に知らせるハンドシェイク
方式によりデータ転送を行っている。このため,メイン制御部側のデータ
転送処理における処理タイムにおいて,WR信号を出力した後,サブ制御
部から送信されるREADY信号の入力が検出されるまでの間の待ち時間
が設定されている。
【0007】しかしながら,前述のように図柄表示装置において実行する表
示駆動処理が複雑化すればする程,コマンドデータのデータ量が大きくな
るため,前記待ち時間を長く設定する必要がある。また,サブ制御部から
送信されるREADY信号の入力が検出されないと,次のコマンドデータ
が転送されないため,一定時間内に転送できるコマンドデータのデータ量
が減少するため,図柄表示装置の表示動作が,特定の遊技状態の発生に遅
れるといった場合がある。さらに,送受信の切り換え動作が行われるため,
切り換え時にノイズが侵入する場合がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,メイン制御部側のデータ
転送処理における処理タイムにおいて,待ち時間の設定を必要とせず,デ
ータ転送を円滑に行うことができ,図柄表示装置の表示動作が特定の遊技
状態の発生に遅れることなく起動され,かつデータ転送においてノイズの
侵入を排除することが可能なパチンコ機におけるデータ伝送装置を提供す
ることにある。」
「【0010】
【作用】メイン制御部は,パチンコ機のパチンコ遊技全体に関わる制御を行
うと共にサブ制御部に対し,遊技態様に応じた図柄の表示内容を指令する
コマンドデータを一方向データ転送手段を介して転送する。パチンコ機が
備えた図柄表示装置に配備されたサブ制御部は,メイン制御部からの制御
信号に応じて,即ち,コマンドデータに応じて図柄表示装置を表示駆動制
御する。一方向データ転送手段は,メイン制御部からサブ制御部へのみコ
マンドデータの転送を可能とし,前記サブ制御部からメイン制御部へのデ
ータ信号入力を禁止する。一方向データ転送手段により,メイン制御部か
らサブ制御部へのみコマンドデータの転送が可能とされるので,メイン制
御部側のデータ転送処理における処理タイムにおいて,待ち時間の設定を
不要とし,これによりデータ転送を円滑に行うこと可能とし,図柄表示装
置の表示動作が特定の遊技状態の発生に遅れることなく起動されることを
実現する。また,送受信の切り換え動作が行われないため,データ転送に
おいてノイズの排除を可能とする。
【0011】一方向データ転送手段により,サブ制御部からメイン制御部へ
のデータ信号入力が禁止されるため,図柄表示装置を介するサブ制御部か
らメイン制御部への不正信号の入力が防止され,入賞が成立していないに
もかかわらず,入賞状態となるといったことが防止される。」
「【0126】
【発明の効果】本発明のパチンコ機におけるデータ伝送装置によれば,メイ
ン制御部からサブ制御部へのみコマンドデータの転送が行われるため,メ
イン制御部側のデータ転送処理における処理タイムにおいて,待ち時間の
設定が不要となり,これによりデータ転送を円滑に行うことができ,この
結果,図柄表示装置の表示動作が特定の遊技状態の発生に遅れることなく
実現することができる。
【0127】また,メイン制御部が常に送信側であり,サブ制御部が常に受
信側であることから,送受信の切り換え動作が行われないため,ノイズを
排除できる。
【0128】さらに,サブ制御部からメイン制御部へのデータ信号入力が禁
止されるため,何等かの手段により,図柄表示装置を介してサブ制御部か
らメイン制御部へ不正信号の出力がなされたとしても,サブ制御部からの
メイン制御部への不正信号の入力を防止することができ,したがって,入
賞が成立していないにもかかわらず,入賞状態となるといったことが防止
することができる。」
イ前記アによれば,従来のパチンコ機のメイン制御部とサブ制御部との間
におけるコマンドデータの伝送は,いわゆるハンドシェイク方式によりデ
ータ転送を行っているため,メイン制御部側のデータ転送処理における処
理タイムにおいて,WR信号を出力した後,サブ制御部から送信されるR
EADY信号の入力が検出されるまでの間の待ち時間が設定されること
(前記段落【0001】【0006】),サブ制御部から送信されるREA
DY信号の入力が検出されないと,次のコマンドデータが転送されないた
め,図柄表示装置の表示動作が,特定の遊技状態の発生に遅れる場合があ
ること,送受信の切り換え動作が行われるため,切り換え時にノイズが侵
入する場合があることとの技術課題が存在すること(前記段落【000
7】)が認められる。
上記技術課題に対し,甲3記載の発明は,メイン制御部側のデータ転送
処理における処理タイムにおいて,待ち時間の設定を必要とせず,データ
転送を円滑に行うことができ,図柄表示装置の表示動作が特定の遊技状態
の発生に遅れることなく起動され,かつデータ転送においてノイズの侵入
を排除することが可能なパチンコ機におけるデータ伝送装置を提供するこ
とを目的とするものである(前記段落【0008】)。
上記目的を達成するため,甲3記載の発明は,メイン制御部からサブ制
御部へのみコマンドデータの転送を可能とし,前記サブ制御部からメイン
制御部へのデータ信号入力を禁止する一方向データ転送手段とを設けたも
のである(前記【請求項1】)。甲3記載の発明においては,上記一方向デ
ータ転送手段により,メイン制御部からサブ制御部へのみコマンドデータ
の転送が可能とされるので,メイン制御部側のデータ転送処理における処
理タイムにおいて,待ち時間の設定を不要とし,これによりデータ転送を
円滑に行うことが可能となるとともに,図柄表示装置の表示動作が特定の
遊技状態の発生に遅れることなく起動されることが実現される(前記段落
【0126】)。また,甲3記載の発明においては,送受信の切り換え動作
が行われないため,データ転送においてノイズの排除を可能とするもので
ある(前記段落【0010】【0127】)。
上記のとおり,甲3記載の発明の課題及びその解決手段によれば,一方
向データ転送の対象となるのは,メイン制御部から図柄表示装置のサブ制
御部へ転送される制御用のコマンドデータ(パチンコ機における遊技状況
を示すステータスデータ,図柄表示装置に複数設定されている各図柄表示
部に表示する図柄の種類及び表示位置を示す各データ等)であり(前記段
落【0002】【0003】),甲3には上記コマンドデータ以外のデータ転
送について,明示的な記載はされていない。
しかし,甲3には,「サブ制御部からメイン制御部へのデータ信号入力が
禁止されるため,何等かの手段により,図柄表示装置を介してサブ制御部
からメイン制御部へ不正信号の出力がなされたとしても,サブ制御部から
のメイン制御部への不正信号の入力を防止することができ,したがって,
入賞が成立していないにもかかわらず,入賞状態となるといったことが防
止することができる。」との効果を奏することが記載されている(前記段落
【0011】【0128】)。上記の効果は,サブ制御部からメイン制御部へ
のすべてのデータ信号入力を禁止することによりもたらされる効果である
から,甲3記載の発明においては,メイン制御部とサブ制御部の間のすべ
ての信号経路に,メイン制御部への不正信号入力防止手段として,一方向
データ転送手段が介在することを前提にしているものと解される。
したがって,甲3には,一方向データ転送手段により,両制御部間のす
べての信号について,サブ制御部からメイン制御部へのデータ信号入力を
禁止する構成が開示されているものと認められる。
ウこれに対し,被告は,甲3について,未使用の信号線に関して通信方向
を規制する構成の開示がないから,すべての信号を規制の対象とする構成
が開示されているとはいえないと主張する。
しかし,被告が主張する未使用の信号線が存在するか否かは判然としな
い上,仮にこれが認められるとしても,前記イのとおり,甲3の記載全体
からみれば,両制御部間のすべての信号経路に一方向データ転送手段が介
在することを前提としているものと認められ,当業者であれば,サブ制御
部からメイン制御部への不正信号の入力を防止するとの作用・効果を達成
するため,必要な回路構成を採用することは当然のことといえる。
したがって,上記被告の主張は採用することができない。
エ以上のとおり,甲3記載の発明は,両制御部間の信号のすべてを伝達方
向の規制の対象とするものと認められるから,この点が明らかでないとす
る審決の判断には誤りがある。
(3)甲9記載の発明について
ア甲9には,以下の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,たとえば,パチンコ遊技機やコイン遊
技機等で代表される弾球遊技機に関し,詳しくは,打玉を遊技領域に打込ん
で遊技が行なわれる弾球遊技機に関する。」
「【0003】また,この種の従来の弾球遊技機においては,弾球遊技機の遊
技状態を制御する遊技制御手段と,玉を払出す玉払出装置を制御する払出
動作制御手段とを有しており,前記入賞玉検出手段の検出出力が前記払出
動作制御手段に入力され,払出動作制御手段から前記遊技制御手段に対し
入賞玉が検出されたことを表わす入賞玉検出信号が送信され,その信号を
受けた遊技制御手段は,その入賞玉に対して払出すべき景品玉の個数を特
定する払出個数情報を前記払出動作制御手段に返信するように構成されて
いた。そしてその払出動作制御手段は,払出個数情報に従った個数だけの
景品玉の払出を前記玉払出装置に行なわせる制御を行なう。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】一方,この種の従来の弾球遊技機において
は,前記遊技制御手段が弾球遊技機の遊技状態を制御するものであるため
に,たとえば賭博性の高い遊技動作が行なわれるように改造するべく前記
遊技制御手段が不正改造される不都合があった。特に,前記遊技制御手段
は,前記払出動作制御手段から入賞玉検出信号が入力されるため,その信
号の入力ポートから不正なデータを入力して遊技制御手段を通常の正常な
動作とは異なった動作をするように不正改造するおそれがあった。
【0005】また,入賞玉が短期間のうちに大量に発生した場合には,前記
入賞玉処理手段による入賞玉の処理動作速度を速めて迅速に入賞玉の処理
を行ないたいというニーズもあった。
【0006】本発明は,係る実情に鑑み考え出されたものであり,その目的
は,前述した遊技制御手段の不正改造を極力防止するとともに,入賞玉の
処理動作速度を速めることのできる弾球遊技機を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】請求項1に記載の本発明は,打玉を遊技領域
に打込んで遊技が行なわれる弾球遊技機であって,弾球遊技機の遊技状態
を制御する遊技制御手段と,前記遊技領域に設けられ,打玉が入賞可能な
入賞領域と,該入賞領域に入賞した入賞玉に基づいて景品玉の払出動作を
行なうために該入賞玉を処理する入賞玉処理装置と,玉を払出す玉払出装
置と,該玉払出装置と前記入賞玉処理装置とを制御する払出動作制御手段
とを含み,前記入賞玉処理装置は,前記入賞玉を保持する入賞玉保持手段
と,該入賞玉保持手段により保持されている入賞玉を検出してその検出出
力を前記遊技制御手段に出力する入賞玉検出手段と,前記入賞玉保持手段
により保持されている入賞玉を排出する入賞玉排出手段とを含み,前記遊
技制御手段は,前記入賞玉検出手段からの検出出力が入力されることを条
件として,該入賞玉に対応して払出すべき景品玉の個数を特定する払出個
数情報を前記払出動作制御手段に出力し,前記払出動作制御手段は,前記
払出個数情報が入力されたことを条件として,その入力された払出個数情
報に従った個数の景品玉を前記玉払出装置から払出す制御を行なうととも
に,該払出制御に伴う景品玉の払出の終了を待たずに前記入賞玉排出手段
による入賞玉の排出動作を開始する制御を行ない,前記遊技制御手段と前
記払出動作制御手段との間での情報通信は,前記遊技制御手段から,前記
払出動作制御手段への一方向通信としたことを特徴とする。」
「【0055】カードユニット制御基板210aには,RAM,ROM,CP
U,I/Oポート等を含むカードユニット制御用マイクロコンピュータ2
10と,スイッチからの検出信号をカードユニット制御用マイクロコンピ
ュータ210に入力するためのスイッチ回路211と,カードユニット制
御用マイクロコンピュータ210からの表示制御信号を各種表示器に出力
するための表示回路212と,カードユニット制御用マイクロコンピュー
タ210と払出制御回路基板152の払出制御用マイクロコンピュータ2
20との間で信号のやり取りを行なうためのフォトカプラで構成される信
号回路214と,電源回路215とが設けられている。このように両マイ
クロコンピュータ210,220間での信号のやり取りをフォトカプラを
介して一旦光信号に変換して行なっているために,両マイクロコンピュー
タ210,220間が電気的に遮断された状態となり,一方の故障等に起
因した異常高電圧等が他方のマイクロコンピュータにまで伝送されないた
めに,一方の故障が他方にまで悪影響を及ぼすことを防止できる。さらに,
このカードユニット制御基板210aには,前記スイッチ回路211に接
続された端数表示スイッチ52と玉貸額設定スイッチ213とが設けられ,
さらに,前記表示回路212に接続された,ユニット使用可表示器51と
カード挿入表示器54と連結方向表示器53とが設けられている。また,
図2の57は,インターフェイス基板138のコネクタ138aと接続さ
れるコネクタである。」
「【0060】遊技制御基板199には,ワンチップ化された遊技制御用マイ
クロコンピュータ202が設けられている。この遊技制御用マイクロコン
ピュータ202には,CPU203,RAM205,I/Oポート206,
セキュリティ回路204等が設けられている。そして,ワンチップ化され
た遊技制御用マイクロコンピュータ202の外部にROM207と,アド
レスデコード回路208とが設けられている。アドレスデコード回路20
8は,遊技制御用マイクロコンピュータ202からのアドレスデータをデ
コードし,遊技制御用マイクロコンピュータ202内のRAM205,I
/Oポート206,あるいは前記ROM207にそれぞれチップセレクト
信号を与える。」
「【0062】前記ROM207には,打玉がどの入賞領域に入賞したかに応
じて払出すべき景品玉の数である賞球個数データが記憶されている。そし
て,入賞玉検出器122(図7参照。判決注・添付省略)が入賞玉を検出
してその検出信号がスイッチ回路229を介して遊技制御用マイクロコン
ピュータ202に入力されてくれば,遊技制御用マイクロコンピュータ2
02は,打玉が入賞した入賞領域に対応する賞球個数データをROM20
7から読出して,信号回路209,217(ともにフォトカプラで構成さ
れている)を介して払出制御用マイクロコンピュータ220に返信する。
本実施例では,賞球個数信号は,図示するように4本の信号線からなる4
ビットデータ(D0∼D3)の形で払出制御用マイクロコンピュータ22
0に伝送される。」
「【0070】払出制御回路基板(賞球玉貸制御基板)152には,コネクタ
153aを介して,入賞玉排出ソレノイド127,玉払出検出器(賞球セン
サ)187,玉切れスイッチ87a,87bがさらに接続されている。そし
て,払出モータ(賞球モータ)189の回転に伴って玉払出検出器(賞球セ
ンサ)187が切欠部192を検出すれば,その検出信号が払出制御回路基
板(賞球玉貸制御基板)152に入力される。また,玉切れスイッチ87a,
87bの検出信号がコネクタ153aを介して払出制御回路基板(賞球玉貸
制御基板)152に入力される。払出制御回路基板(賞球玉貸制御基板)1
52は,コネクタ153aを介して入賞玉排出ソレノイド127を励磁制御
し,入賞玉を下方に通過させて落下させる制御を行なう。」
「【0132】
【課題を解決するための手段の具体例】前記遊技制御基板199により,前
記遊技機の遊技状態を制御する遊技制御手段が構成されている。前記始動
入賞口34,可変入賞球装置35,通常の入賞口42a,42bにより,
前記遊技領域に設けられ,打玉が入賞可能な入賞領域が構成されている。
入賞玉処理装置115により,前記入賞領域に入賞した入賞玉に基づいて
景品玉の払出動作を行なうために該入賞玉を処理する入賞玉処理装置が構
成されている。玉払出装置97により,玉を払出す玉払出装置が構成され
ている。払出制御回路基板152により,前記玉払出装置と前記入賞玉処
理装置とを制御する払出動作制御手段が構成されている。
【0133】前記入賞玉処理装置は,入賞玉を保持する入賞玉保持手段(第
2玉係止部130)と,該入賞玉保持手段により保持されている入賞玉を
検出してその検出出力を前記遊技制御手段に出力する入賞玉検出手段(入
賞玉検出器122)と,前記入賞玉保持手段により保持されている入賞玉
を排出する入賞玉排出手段(ソレノイド127,第1玉係止部124)と
を含んでいる。そして,前記遊技制御手段は,前記入賞玉検出手段からの
検出出力が入力されたことを条件として,該入賞玉に対応して払出すべき
景品玉の個数を特定する払出個数情報を前記払出動作制御手段に出力する。
また払出動作制御手段は,前記払出個数情報が入力されたことを条件とし
て,その入力された払出個数情報に従った個数の景品玉を前記玉払出装置
から払出す制御を行なうとともに,該払出制御に伴う景品玉の払出の終了
を待たずに前記入賞玉排出手段による入賞玉の排出動作を開始する制御を
行なう。また,前述したように,入賞玉の排出時期は景品玉払出開始と同
時でなくてもよい。そして,前記遊技制御手段と前記払出動作制御手段と
の間での情報通信は,前記遊技制御手段から,前記払出動作制御手段への
一方向通信となっている。」
「【0136】
【課題を解決するための手段の具体例の効果】請求項1に関しては,入賞玉
が発生した場合には,その入賞玉に対応して払出すべき景品玉の個数を特
定する払出個数情報が遊技制御手段から払出動作制御手段に出力され,そ
の払出動作制御手段がその入力された払出個数情報に従った個数の景品玉
を払出す制御を行うために,入賞玉に基づいた払出動作を行なうに際し,
前記払出動作制御手段から前記遊技制御手段への情報の送信を何ら行なう
ことなく払出動作が可能となり,払出動作制御手段から遊技制御手段へ入
力される情報の入力部を利用した不正なデータの入力による不正改造等を
極力防止し得ることができる。しかも,景品玉の払出動作の終了を待たず
に入賞玉の排出動作が開始されるために,入賞玉の処理を迅速に行なうこ
とができる。」
イ前記アによれば,パチンコ遊技機等の弾球遊技機に関し,従来の弾球遊技
機においては,遊技制御手段は,払出動作制御手段から入賞玉検出信号が
入力されるため,その信号の入力ポートから不正なデータを入力して遊技
制御手段を通常の正常な動作とは異なった動作をするように不正改造する
おそれがあるとともに,入賞玉が短期間のうちに大量に発生した場合には,
入賞玉の処理動作速度を速めて迅速に入賞玉の処理を行ないたいとの技術
課題が存在した(前記段落【0001】【0003】【0004】【00
05】)。甲9記載の発明は,上記技術課題に基づいて,遊技制御手段の
不正改造を極力防止するとともに,入賞玉の処理動作速度を速めることが
できる弾球遊技機を提供することを目的としたものである(前記段落【0
006】)。このため,甲9記載の発明においては,遊技制御手段は,入
賞玉検出手段からの検出出力が入力されることを条件として,該入賞玉に
対応して払い出すべき景品玉の個数を特定する払出個数情報を払出動作制
御手段に出力し,払出動作制御手段は,上記払出個数情報が入力されたこ
とを条件として,その入力された払出個数情報に従った個数の景品玉を上
記玉払出装置から払い出す制御を行うとともに,該払出制御に伴う景品玉
の払出動作の終了を待たずに入賞玉排出手段による入賞玉の排出動作を開
始する制御を行う。上記遊技制御手段と上記払出動作制御手段との間での
情報通信は,上記遊技制御手段から,上記払出動作制御手段への一方向通
信とした構成を採用することにより,入賞玉に基づいた払出動作を行うに
際し,上記払出動作制御手段から上記遊技制御手段への情報の送信を何ら
行うことなく払出動作が可能となり,払出動作制御手段から遊技制御手段
へ入力される情報の入力部を利用した不正なデータの入力による不正改造
等を極力防止し得ることができる上,景品玉の払出動作の終了を待たずに
入賞玉の排出動作が開始されるため,入賞玉の処理を迅速に行うことがで
きるとの効果を奏するものといえる(前記段落【0007】【0133】
【0136】)。
また,甲9には,その実施例について,「入賞玉検出器122・・・が入
賞玉を検出してその検出信号がスイッチ回路229を介して遊技制御用マ
イクロコンピュータ202に入力されてくれば,遊技制御用マイクロコン
ピュータ202は,打玉が入賞した入賞領域に対応する賞球個数データを
ROM207から読出して,信号回路209,217(ともにフォトカプ
ラで構成されている)を介して払出制御用マイクロコンピュータ202に
返信する。」との記載があり(前記段落【0062】),「前記遊技制御
手段と前記払出動作制御手段への一方向通信とした」(前記段落【000
7】)との構成を具体化したものと認められる。そうすると,上記信号回
路209,217(ともにフォトカプラで構成されている)は,一方向通
信を実現するための一要素であり,甲9添付の図12によれば,信号回路
209は遊技制御基板199に,信号回路217は払出制御回路基板15
2に,それぞれ設けられていることが認められる。
さらに,証拠(甲11ないし13,23)及び弁論の全趣旨によれば,フ
ォトカプラは,一旦電気信号から変換した光信号を,一次側の発光素子か
ら二次側の受光素子へ伝達する構成を有し,発光素子から受光素子に至る
光信号の経路において,信号の一方向伝達特性が維持されるとの特徴を有
することは周知の技術的事項であると認められる。
なお,甲4(特開平7−24108号公報,平成7年1月27日公開)の
段落【0004】には,「遊技機の不正改造を防止するための法的規制か
ら,サブ基板の画像制御基板はメイン基板の遊技機制御基板からのコマン
ドを一方的に受信するのみで,メイン基板の遊技機制御基板へコマンドや
その他の制御信号を送ることができない。」との記載があり,甲5(特開
平10−118273号公報,平成10年5月12日公開)の段落【00
04】には,「パチンコ機においては,主基板側から映像表示装置への制
御信号等の転送のみが許可され,映像表示装置側からの主基板側への応答
信号を返すような双方向通信は規制により許可されていない。」との記載
がある。上記記載に照らすと,本件特許出願当時,パチンコ等の遊技機の
分野では,不正改造を防止するために,画像表示等を制御するサブ基板は,
遊技機全体を制御するメイン基板からのコマンドを一方的に受信するのみ
で,メイン基板への信号送信ができないとの一方向通信に関する規制があ
ったものと認めることができる(上記の規制が存在したことについて当事
者間において争いがない。)。
上記フォトカプラの特性,本件特許出願当時の遊技機に関する規制が存在
したこと等に照らすと,甲9の記載に接した当業者は,甲9のフォトカプ
ラで構成された信号回路209,217について,メイン基板である遊技
機制御基板からのコマンドをサブ基板へ一方的に転送することのみを許可
し,双方向通信を禁止する回路を技術常識として認識するものと解される。
また,信号回路217は,払出制御回路基板152(サブ基板)に,信号
回路209は,遊技制御基板199(メイン基板)に,それぞれ設けられ
ているから,信号回路217は,サブ基板内に実装された「信号の伝達方
向を遊技制御基板(メイン基板)からサブ基板への一方向に規制するため
に,前記遊技制御基板からの信号の入力のみを可能とし,前記遊技制御基
板への信号の出力を不能とする信号伝達方向規制手段」(本件訂正発明1
の構成(ε)参照)に相当し,「信号回路209」は,遊技制御基板(メ
イン基板)内に実装された「信号の伝達方向を遊技制御基板(メイン基板)
からサブ基板への一方向に規制するために,前記サブ基板への信号の出力
のみを可能とし,前記サブ基板からの信号の入力を不能とする信号伝達方
向規制手段」(本件訂正発明1の構成(ζ)参照)に相当することは,当
業者が容易に認識し得るものと認められる。
ウなお,審決は,甲9には技術事項Cが開示されており,「遊技制御基板1
99」から「払出制御回路基板152」へ伝達される信号は賞球個数信号
D0∼D3がすべてであるとは認定できないとする。
しかし,以下の理由から,審決の上記認定には誤りがある。
甲9には,「【0071】払出制御回路基板(賞球玉貸制御基板)152
は,前記玉払出検出器(賞球センサ)187からの検出信号に基づいて,
コネクタ153b,199bを介して遊技制御基板199に入賞信号を出
力し,遊技制御基板199は,その入賞信号に基づいて前述した賞球個数
信号をコネクタ199b,153bを介して払出制御回路基板(賞球玉貸
制御基板)152に返信する。」との記載がある。しかし,甲9記載の発
明において,玉払出検出器(賞球センサ)187からの検出信号に基づい
て遊技制御基板199に入賞信号が出力され,この入賞信号に基づいて賞
球個数信号が出力されるとすると,この賞球個数信号を受け取った払出制
御用マイクロコンピュータ220が賞球モータ189をONに制御するの
であるから(段落【0075】参照),賞球モータ189の回転を検出す
る玉払出検出器(賞球センサ)187からの検出信号が再び入賞信号を出
力することになり,賞球モータ189の回転がどのように制御されるのか
不明となり,当該入賞信号の技術的意味が不明瞭になる。
また,甲9には,玉払出検出器(賞球センサ)187は,払出制御回路
基板152に接続されており,払出モータ(賞球モータ)189の回転に
伴って切欠部192を検出すれば,その検出信号が払出制御回路基板(賞
球玉貸制御基板)152に入力されることが記載されている(前記段落【0
070】,図14参照)。しかし,賞球センサ(受光素子)187の出力
信号(パルス信号)は,賞球モータ189の回転検出及び制御と各種エラ
ー検出等に利用されることが開示されている(段落【0038】,【00
75】ないし【0078】)のみであって,その他に玉払出検出器(賞球
センサ)187からの検出信号に基づいて入賞信号を出力することは,前
記段落【0071】を除いて,記載ないし示唆されていない。
さらに,甲9の前記段落【0003】には,従来技術として,「払出動
作制御手段から前記遊技制御手段に対し入賞玉が検出されたことを表わす
入賞玉検出信号が送信され,その信号を受けた遊技制御手段は,その入賞
玉に対して払出すべき景品玉の個数を特定する払出個数情報を前記払出動
作制御手段に返信するように構成」される弾球遊技機が示され,甲9記載
の発明の解決課題について,「遊技制御手段は,前記払出動作制御手段か
ら入賞玉検出信号が入力されるため,その信号の入力ポートから不正なデ
ータを入力して遊技制御手段を通常の正常な動作とは異なった動作をする
ように不正改造する」旨が記載されている。そうすると,甲9記載の発明
は,上記従来技術における課題解決の手段として,前記遊技制御手段と前
記払出動作制御手段への一方向通信としたものであるから(前記段落【0
007】),技術事項Cとされる払出制御回路基板152が,コネクタ1
53b,199bを介して遊技制御基板199に入賞信号を出力すること
は,上記甲9の課題解決手段に反するといえる。
以上によれば,審決が認定する技術事項Cが前記段落【0071】の記
載に基づくものであるとしても,同段落の記載は,甲9の他の部分の記載
や甲9記載の発明が解決しようとする課題及びその解決手段と整合しない
か,又は,技術的に解決不可能な内容を含むものであって,誤った記載と
解される。したがって,前記段落【0071】の記載のみから,甲9には
技術事項Cが実質的に開示されていると認めることはできない。
審決が,技術事項Cを根拠に,甲9において,「遊技制御基板199」
から「払出制御回路基板152」へ伝達される信号は賞球個数信号D0∼
D3がすべてであるとは認定できないと判断したことは誤りである。
エこれに対し,被告は,①甲9には,信号回路209,217の具体的な内
部構成についての開示がなく,単にフォトカプラ構成の信号回路というの
みでは,甲9に記載されている信号回路209,217が信号の伝達方向
を一方向に規制する回路構成であると解することはできない,②甲9では,
フォトカプラで構成された信号回路214,216を介して,カードユニ
ット制御用マイクロコンピュータ210と払出制御用マイクロコンピュー
タ220との間で双方向に送受信が行われる構成が開示されており,信号
回路214,216と同様に,信号回路209,217も信号伝達方向規
制手段としての機能を果たしていない,③甲9の段落【0055】に記載
されているとおり,信号回路209,217を設けたのは,一方のマイク
ロコンピュータの故障等に起因した異常高電圧等が他方のマイクロコンピ
ュータに伝達されるなど,一方の故障が他方にまで悪影響を及ぼすことを
防止するためであって,信号の伝達方向を規制して不正行為を防止すると
いう目的ではないと主張する。
しかし,被告の上記主張は,次のとおり,いずれも採用することができ
ない。
まず,フォトカプラで構成された信号回路として,発光素子と受光素子
を一次側と二次側で互い違いに配置するなどして信号の伝達方向を双方向
とすることが可能であり,フォトカプラを用いた信号回路が直ちに一方向
通信の信号回路を意味するものではないとしても,前記イのとおり,一般
的にみれば,単体のフォトカプラの基本構成は,発光素子と受光素子を1
つのケース内に収納し,一次側に発光素子,二次側に受光素子をそれぞれ
配置し,入出力を電気的に絶縁し,入力側から出力側に一方向に信号を伝
達するものと認められる。そして,甲9には,その実施例(前記段落【0
062】,図12)として,遊技制御基板199と払出動作制御基板15
2との間の情報通信について,共にフォトカプラで構成されている信号回
路209,217を経由する信号線のみが記載されており,当該信号線に
より伝送される賞球個数信号D0∼D3は,遊技制御基板199から払出
動作制御基板152への一方向通信を予定した信号であると解するのが合
理的であり,信号回路209,217を双方向通信とする合理的な理由は
ないのみならず,そのような構成に関する記載も示唆もない。そうすると,
フォトカプラで信号回路209,217を構成するならば,信号線(賞球
個数信号D0∼D3)それぞれについて,遊技制御基板側を入力側(発光
素子側)とし,払出動作制御基板側を出力側(受光素子側)とする一方向
通信とすることが,当業者における技術常識であるといって差し支えない。
このことは,同じ技術分野に属する甲25(特開平6−304318号公
報),甲26(特開平9−294854号公報)における回路構成からも
裏付けることができる。したがって,甲9記載の発明は,課題を解決する
手段である「前記遊技制御手段と前記払出動作制御手段との間での情報通
信は,前記遊技制御手段から,前記払出動作制御手段への一方向通信」と
するため,発光素子から受光素子に至る光信号の経路において一方向通信
を行うフォトカプラで構成された信号回路209,217を用いているの
であるから,信号回路209,217は,信号の伝達方向を一方向に規制
する回路構成であると解するのが相当である。
次に,甲9記載の発明においては,カードユニット制御用マイクロコンピ
ュータ210と払出制御用マイクロコンピュータ220との間は,双方向
に受送信が行われる構成となっており,信号回路214,216は,全体
としては,信号伝達方向規制手段としての機能を果たしていない(前記段
落【0055】参照)。しかし,甲9記載の発明において,信号回路21
4,216と信号回路209,217は,その目的を異にしている上,上
記のとおり,フォトカプラは,発光素子から受光素子に至る光信号の経路
において一方向伝達特性を示すものであり,信号回路214,216は,
各信号線についてみれば,信号の伝達方向を一方向に規制するものである
と認められる。したがって,信号回路214,216の構成をもって,信
号回路209,217が信号の伝達方向を一方向に規制する回路構成でな
いことの証左ということはできない。
さらに,甲9記載の発明において,フォトカプラで構成される信号回路を
設けることの作用・効果が,一方のマイクロコンピュータの故障が他方に
まで悪影響を及ぼすことを防止できることにあるとしても(前記段落【0
055】参照),これはフォトカプラが本来有している機能の1つにすぎ
ず,フォトカプラが信号の一方向伝達特性を有するとの機能と相反するも
のではない。したがって,甲9の段落【0055】の記載は,フォトカプ
ラで構成された信号回路209,217を介することにより,信号の伝達
方向を規制して不正行為を防止するとの作用・効果を否定するものではな
い。
(4)小括
前記(2)のとおり,甲3には,サブ制御部6からメイン制御部1へのデー
タ信号入力を禁止し,サブ制御部6からメイン制御部1への不正信号の入力を
防止するため,メイン制御部1とサブ制御部6との間のすべての信号について,
信号の伝達方向を前記遊技制御基板から前記表示制御基板への一方向に規制
するための信号伝達方向規制手段を設けることが実質的に記載されているも
のと認められる。そうすると,本件訂正発明1と甲3記載の発明との相違点は,
本件訂正発明1は表示制御基板内及び遊技制御基板内の各々に信号伝達方向
規制手段が実装されているのに対し,甲3記載の発明は,メイン制御部1(「遊
技制御基板」に相当)及びサブ制御部6(「表示制御基板」に相当)の各々に
信号伝達方向規制手段が実装されていないこととなる。また,前記(3)のと
おり,甲9には,遊技機に関し,メイン制御部からサブ制御部への一方向通信
とした構成を採用することにより,サブ制御部からメイン制御部へ入力される
情報の入力部を利用した不正なデータの入力による不正改造等を防止するこ
とが記載されており,その具体的手段として,信号の伝達方向を遊技制御基板
(メイン基板)からサブ基板への一方向に規制するために,前記遊技制御基板
からの信号の入力のみを可能とし,前記遊技制御基板への信号の出力を不能と
する信号伝達方向規制手段である信号回路209を遊技制御基板199(メイ
ン基板)に設けるとともに,信号の伝達方向を前記遊技制御基板(メイン基板)
からサブ基板への一方向に規制するために,前記サブ基板への信号の出力のみ
を可能とし,前記サブ基板からの信号の入力を不能とする信号伝達方向規制手
段である信号回路217を払出制御回路基板152(サブ基板)に設けること
が開示されていると認められる。さらに,甲9に記載された技術事項は,甲3
記載の発明と同様に遊技機に関する技術分野において,不正信号の入力を防止
するという目的を達成するためのものであり,甲3記載の発明においては1つ
であった一方向データ転送手段を,甲9のように入力側基板と出力側基板のそ
れぞれに設けることにより,より高い効果が期待できることは当然のことであ
るから,甲9記載の技術事項を甲3記載の発明に適用することは,当業者にお
いて容易であるといえる。なお,前記(3)のとおり,審決が技術事項Cとし
て認定した事項は,甲9記載の技術的思想に基づく適切な開示事項とは認めら
れず,甲9記載の技術事項を甲3記載の発明に適用する際の阻害要因とはなら
ない。したがって,甲9記載の技術事項を甲3記載の発明に適用することによ
り,本件訂正発明1の構成(ε)及び構成(ζ)を得ることは当業者が容易に
想到し得ることといえる。
以上によれば,本件訂正発明1は,甲3に記載された発明に甲9記載の技術
事項及び周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到することができ
るものであるから,本件訂正発明1の進歩性を肯定した審決の判断は誤りであ
り,取消事由2は理由がある。
3取消事由3(本件訂正発明2,3についての容易想到性判断の誤り)につい

本件訂正発明2,3についての審決の容易想到性の判断も,以下のとおり,
同様に誤りがある。
すなわち,本件訂正発明2は,本件訂正発明1を引用して記載された発明で
あり,本件訂正発明3は,本件訂正発明2を引用して記載された発明である。
そして,前記2のとおり,本件訂正発明1は,甲3に記載された発明に甲9記
載の技術事項及び周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到し得る
といえる。
本件訂正発明2は,信号伝達方向規制手段として,汎用のバッファIC回路
が用いられているのに対し,甲3記載の発明ではトランジスタアレイが用いら
れている。しかし,汎用のバッファIC回路として本件基準明細書において例
示されている「74HC244」(甲17段落【0035】)は,甲10に記載
されている公知のものにすぎず,これが信号伝達方向規制手段として機能し得
ることは,当業者にとって自明のことである。したがって,信号伝達方向規制
手段として,汎用のバッファIC回路を採用することは,当業者が容易になし
得る。
本件訂正発明3は,バッファIC回路のイネーブル端子が常に入出力導通状
態に設定されているが,甲10によれば,汎用のバッファIC回路として本件
基準明細書において例示されている「74HC244」のイネーブル端子を常
に「L」レベルにしておけば,入出力導通状態となるのであり,そのような設
定をすることは設計事項といえる。
4結論
以上のとおり,原告の主張する取消事由1は理由がないが,取消事由2,3
には誤りがあり,審決には,その結論に影響を及ぼす誤りがある。
よって,原告の請求は理由があるから,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
中平健
裁判官
知野明
(別紙)図面1
図面2
図面3
図面4
図面5

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