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平成25年11月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(ワ)第32528号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成25年9月10日
判決
東京都港区<以下略>
原告株式会社東京機械製作所
同訴訟代理人弁護士松本好史
鈴木雅人
松井保仁
岸野正
同訴訟代理人弁理士仲晃一
広島県三原市<以下略>
被告三菱重工印刷紙工機械株式会社
同訴訟代理人弁護士大野聖二
飯塚暁夫
清水亘
同訴訟代理人弁理士鈴木守
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙被告製品目録2記載の輪転機(以下「被告製品2」とい
う。)の製造,販売及び販売の申出を行ってはならない。
2被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成23年10月18日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,被告による別紙被告製品目録1記載(1)~
(9)の各ガイドローラー(以下,それぞれを「被告製品(1)」,「被告製品
(2)」などといい,これらを「被告製品1」と総称する。)及び被告製品2
の製造,販売及び販売の申出が原告の有する2件の特許権の侵害に当たる旨
主張して,特許法100条1項に基づき被告製品2の製造等の差止めを求め
るとともに,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金の支払を求めた事案
である。
1前提となる事実(後記(4)の被告製品1の構成の一部を除き,当事者間に
争いがない。)
(1)当事者
原告は,新聞用輪転機,新聞輪転機用自動化・省力化機器,商業用輪転
機,商業輪転機用自動化・省力化機器等の製造及び販売等を業とする株式
会社である。被告は,印刷機械・紙工機械及びその部品の製造及び販売等
を業とする株式会社である。
(2)原告の特許権
原告は次の2件の特許権を有している(以下,アの特許を「本件特許
1」,この特許権を「本件特許権1」と,イの特許を「本件特許2」,こ
の特許権を「本件特許権2」という。)
ア特許第2090241号
発明の名称「ガイドローラー」
出願年月日平成4年3月4日(特願平4-81396号)
登録年月日平成8年9月2日
イ特許第3422416号
発明の名称「2種以上の印刷物を並行して各別に作成可能な輪転
機」
出願年月日平成12年1月7日(特願2000-5890号)
登録年月日平成15年4月25日
(3)特許発明の内容
ア本件特許1
(ア)本件特許1の特許請求の範囲は請求項1~4から成り,請求項1
の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本件発明1」という。
また,その特許出願の願書に添付された明細書及び図面(ただし,後
記補正後のもの)を「本件明細書1」という。)。
「印刷を施した料紙を走行させて取り扱う装置において,料紙が接
触する外周面をそれぞれ軸方向に同径にした大径周面と小径周面と
を段差をもって隣接した状態で混在させて一体に形成し,大径周面
と小径周面とに一斉に接触して走行する料紙との摩擦力によって回
転するようにするとともに,このときの角速度ωは,料紙の走行速
度をV,大径周面部の半径をR3,小径周面部の半径をR4とした
ときに,大径周面と料紙との間のすべりによる摩擦力と,小径周面
と料紙との間のすべりによる摩擦力とが均衡して
(V/R3)<ω<(V/R4)
となるようにしたことを特徴とするガイドローラー。」
(イ)本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,
各構成要件を「構成要件1A」などという。また,構成要件1Dに記
載された不等式を「本件不等式」という。)。
1A印刷を施した料紙を走行させて取り扱う装置において,
1B料紙が接触する外周面をそれぞれ軸方向に同径にした大径周面
と小径周面とを段差をもって隣接した状態で混在させて一体に形
成し,
1C大径周面と小径周面とに一斉に接触して走行する料紙との摩擦
力によって回転するようにするとともに,
1Dこのときの角速度ωは,料紙の走行速度をV,大径周面部の半
径をR3,小径周面部の半径をR4としたときに,大径周面と料
紙との間のすべりによる摩擦力と,小径周面と料紙との間のすべ
りによる摩擦力とが均衡して
(V/R3)<ω<(V/R4)
となるようにした
1Eことを特徴とするガイドローラー。
イ本件特許2
(ア)本件特許2の特許請求の範囲は請求項1~6から成り,請求項1
の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本件発明2」という。
また,その特許出願の願書に添付された明細書及び図面(ただし,後
記補正後のもの)を「本件明細書2」という。)。
「連続紙を供給する複数の給紙部と,少なくとも給紙部と同数の印
刷部と,連続紙を裁断し折り畳む1つの折畳部を構成単位とし,給
紙部から印刷部を経て折畳部に連続紙を案内して印刷物を生産する
輪転機において,印刷部は,それぞれが個別駆動可能である個別の
駆動手段を有して設けられ,折畳部は,それぞれ個別の駆動手段を
有して個別に駆動可能な2つ以上の裁断折畳機構と,少なくとも裁
断折畳機構と同数からなるフォーマーと,裁断折畳機構のいずれか
1つと整合するようにそれぞれ個別に駆動されるとともに,各フォ
ーマーのすぐ上流に当該フォーマーに対応して少なくとも1つ設け
られ,対応するフォーマーに向けて連続紙を案内する少なくともフ
ォーマーと同数からなる駆動ローラーと,を有して設けられ,少な
くとも印刷部の駆動手段と,裁断折畳機構の駆動手段とを適宜組み
合わせ,各組み合わせ毎に駆動制御可能な駆動制御手段とを有する
ことを特徴とする2種以上の印刷物を並行して各別に作成可能な輪
転機。」
(イ)本件発明2を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,
各構成要件を「構成要件2A」などという。)。
2A連続紙を供給する複数の給紙部と,少なくとも給紙部と同数の
印刷部と,連続紙を裁断し折り畳む1つの折畳部を構成単位とし,
給紙部から印刷部を経て折畳部に連続紙を案内して印刷物を生産
する輪転機において,
2B印刷部は,それぞれが個別駆動可能である個別の駆動手段を有
して設けられ,
2C折畳部は,
2C-1それぞれ個別の駆動手段を有して個別に駆動可能な2つ
以上の裁断折畳機構と,
2C-2少なくとも裁断折畳機構と同数からなるフォーマーと,
2C-3裁断折畳機構のいずれか1つと整合するようにそれぞれ
個別に駆動されるとともに,各フォーマーのすぐ上流に当
該フォーマーに対応して少なくとも1つ設けられ,対応す
るフォーマーに向けて連続紙を案内する少なくともフォー
マーと同数からなる駆動ローラーと,
を有して設けられ,
2D少なくとも印刷部の駆動手段と,裁断折畳機構の駆動手段とを
適宜組み合わせ,各組み合わせ毎に駆動制御可能な駆動制御手段
とを有する
2Eことを特徴とする2種以上の印刷物を並行して各別に作成可能
な輪転機。
(4)被告製品1
ア被告は,別紙被告製品目録1及び別紙被告製品1説明図に記載された
構成の被告製品1を製造し,販売した(ただし,被告製品(1),(3)及び
(5)の直径については争いがあり,上記各別紙の記載は原告の主張によ
るものである。被告は,外周面の直径は大径が121.13~121.
74mm,小径が120.61~121.12mmであり,大径と小径の差
は0.51~0.62mmであると主張している。)。
イ被告製品1の構成の概略は次のとおりである。
(ア)被告製品(1)~(6)
a印刷を施した料紙を走行させて取り扱う装置に設置され,
b料紙が接触する外周面をそれぞれ軸方向に同径にした大径周面5
面と小径周面4面を有し,外周面の直径が大小の各外周面がそれぞ
れ交互に段差を有して配置された
cガイドローラー
(イ)被告製品(7)~(9)
a印刷を施した料紙を走行させて取り扱う装置に設置され,
b料紙が接触する外周面をそれぞれ軸方向に同径にした大径周面3
面と小径周面2面を有し,外周面の直径が大小の各外周面がそれぞ
れ交互に段差を有して配置された
cガイドローラー
(5)被告製品2
ア被告は,別紙被告製品目録2及び別紙被告製品2説明図に記載された
構成の被告製品2を製造し,販売した。
イ被告製品2の構成の概略は次のとおりである。
a連続紙A1を供給する給紙部AR1,連続紙A2を供給する給紙部
AR2,連続紙B1を供給する給紙部BR1及び連続紙B2を供給す
る給紙部BR2と,
連続紙A1,A2,B1及びB2を各印刷する各印刷部AP1~4,
AP5~8,BP1~2及びBP3~4と,連続紙A1及びA2を裁
断し折り畳む裁断折畳機構A並びに連続紙B1及びB2を裁断し折り
畳む裁断折畳機構Bを有し,給紙部から印刷部を経て折畳部に連続紙
を案内して新聞紙面を生産する新聞用輪転機「DIAMONDSPI
RIT」において,
b印刷部AP1~8,BP1~4にはそれぞれ個別駆動可能の駆動手
段APD1~8,BPD1~4を有しており,
c折畳部は,
c-1それぞれ駆動手段ACD,BCDを有し,各駆動手段は個別
に駆動可能であり,
c-2裁断折畳機構AにはフォーマーAF1及びAF2が,裁断折
畳機構BにはフォーマーBF1及びBF2が各設置され,
c-3裁断折畳機構Aに整合するようにフォーマーAF1,AF2
の上流にフォーマーAF1,AF2に連続紙を案内する駆動ロ
ーラーAD1,AD2と
裁断折畳機構Bに整合するようにフォーマーBF1,BF2
の上流にフォーマーBF1,BF2に連続紙を案内する駆動ロ
ーラーBD1,BD2と
(駆動ローラーAD1及びAD2と駆動ローラーBD1及びB
D2は,それぞれ裁断折畳機構A,Bに整合して,それぞれ個
別に駆動される。),
を有して設けられ,
d印刷部AP1~8の駆動手段APD1~8と裁断折畳機構Aの駆動
手段ACDとの駆動制御を同期させ,これとは別に印刷部BP1~4
の駆動手段BPD1~4と裁断折畳機構Bの駆動手段BCDとの駆動
制御を同期させて,裁断折畳機構Aの系統の駆動速度と裁断折畳機構
Bの系統の駆動速度の組み合わせ毎に駆動制御できる駆動制御手段を
有する
eことを特徴とする2種以上の新聞紙面を並行して各別に作成可能な
新聞用輪転機
2争点及び争点に関する当事者の主張
被告は,被告製品1が本件発明1の構成要件1A,1B及び1Eを充足す
ること,被告製品2が本件発明2の構成要件2A,2B,2C-1,2C-
2,2D及び2Eを充足することを争っていない。
争点は,被告製品1が本件発明1の構成要件1C及び1Dを充足し,その
技術的範囲に属するか(争点1-1),本件特許1に無効理由があるとして
原告による権利行使が特許法104条の3第1項により制限されるか(争点
1-2),被告製品2が本件発明2の構成要件2C-3を充足し,又はこれ
と均等であるとして,その技術的範囲に属するか(争点2-1),本件特許
2に無効理由があるとして原告による権利行使が上記規定により制限される
か(争点2-2),被告が賠償すべき原告の損害額はいくらか(争点3)で
あり,争点に関する当事者の主張は次のとおりである。
(1)争点1-1(被告製品1が本件発明1の技術的範囲に属するか)につ
いて
(原告の主張)
ア構成要件1Cの充足
被告製品1の小径周面には料紙が接触して走行しているところ,小径
周面に料紙が接触している以上,同時に大径周面にも料紙が接触してい
るはずであるから,大径周面と小径周面とに一斉に接触して走行する料
紙との摩擦力によって被告製品1が回転していることは明らかである。
したがって,被告製品1は構成要件1Cを充足する。
イ構成要件1Dの充足
(ア)定常状態において料紙が大径部と小径部に一斉に接触していれば,
料紙は小径周面よりも周速の速い大径周面と料紙との間のすべりによ
る摩擦力の影響を必ず受ける。したがって,小径部と大径部を有する
段付きガイドローラーでは,料紙が大径部及び小径部と接触していれ
ば,ローラーと料紙の間の摩擦係数がゼロでない限り,料紙の走行速
度Vは,理論的に大径部の回転速度V3と小径部の回転速度V4の間
となるから,本件不等式は必ず成立する。
被告は被告製品1の小径部と料紙が接触していることを認めており,
そうだとすると料紙と大径部が接触しているのは明らかであるから,
料紙と大径部及び小径部との摩擦力によって被告製品1が回転してい
ることも明らかである。したがって,被告製品1は,測定を待つまで
もなく,理論的に当然に本件不等式を満たしている。
(イ)さらに,実際の測定結果からも,被告製品1が構成要件1Dを充
足することが認められる。
a原告による接触式の測定
原告は,3回にわたり,被告製品(1)及び(2)について,日本電産
シンポ株式会社製の接触タイプハンドヘルド形回転速度計DT-1
07NS(以下「本件ハンドヘルド形速度計」という。)により,
大径周面の速度及び料紙の走行速度を測定し,別紙原告測定結果一
覧の測定1~3の「測定結果」欄記載の測定結果を得た(以下,各
測定を上記別紙の測定番号に従い「原告測定1」,「原告測定2」
及び「原告測定3」という。)。これによれば,V/R3,ω及び
V/R4の関係は同別紙の「不等式」欄の記載のとおりであり,こ
れらはいずれも本件不等式を満たしている。
b原告による非接触式の測定
原告は,被告製品(1)及び(2)について,アクト電子株式会社製の
高感度ドップラセンサMODEL1502S及び非接触レーザドッ
プラ方式2チャンネル速度・回転ムラ測定システムMODEL25
02(以下「本件ドップラ速度計」という。)により測定を行い,
別紙原告測定結果一覧の測定4の「測定結果」欄記載の測定結果を
得た(以下,この測定を「原告測定4」という。)。これによれば,
上記aと同様に,本件不等式を満たすことになる。
c被告による非接触式の測定
被告による非接触式の測定は,料紙の走行速度の算出に際して,
料紙の伸びが与える影響を考慮していないから,そのままでは採用
できないが,料紙の伸び率を0.1%として補正し,料紙の走行速
度を計算し直すと,本件不等式を充足するものとなる。
d被告製品(3)及び(5)は被告製品(1)と同様であり,また,被告製
品(4),(6),(7)~(9)は被告製品(2)と同様であるから,V/R3,
ω及びV/R4の数値も同様である。したがって,被告製品1は全
て本件不等式を充足する。
(ウ)これに対し,被告は後記のとおり主張するが,いずれも失当であ
る。
a接触式測定について
(a)手ぶれによる影響
本件ハンドヘルド形速度計の測定精度は,すべりのある対象物
を測定することを前提として,1000~9999.9rpmの場
合には±0.6rpmであり,本件における測定誤差は0.08%
程度にすぎない。また,本件ハンドヘルド形速度計と同様の速度
計測ホイルによる接触式測定と非接触式測定において,すべりの
ある接触式測定と非接触式測定における測定精度にほとんど差は
ない。したがって,接触式であるからといって精度が劣るとはい
えない。
さらに,原告において本件ハンドヘルド形速度計による測定を
行った者は,品質保証業務に22年携わっているベテランであり,
本件ハンドヘルド形速度計を用いて駆動ローラーの回転速度を速
度調整誤差0.05%程度の精度で測定している。原告測定1~
3は,輪転機が定常状態になってから,速度計測ホイルの回転軸
をガイドローラーに平行に沿わせるよう角度を調整し(速度計測
ホイルのガイドローラーや料紙に接する角度を連続的に微妙に変
更しつつ測定し,最大値が安定して表示される状態を待って角度
を固定する。),これに引き続き,速度計測ホイルのガイドロー
ラー又は料紙に対する押付け力を連続的に微妙に変更しつつ測定
し,最大値が安定して表示される状態を待って押付け力を固定し
た上で,その後約5秒間の測定を行い,その間の最大値を採用し
て測定結果としている。最大値はすべりの最も少ない値であるか
ら,5秒間の測定中に得られた最大値を選択することで適正な速
度が測定される。したがって,原告による測定結果は信頼できる
ものであり,手ぶれにより信頼性がないとする被告の主張は当た
らない。
(b)被測定物の摩擦係数の違い
摩擦力は摩擦係数と押付け力の積であるから,摩擦係数が異な
っても速度計測ホイルの押付け力を調整することにより,すべり
が最も少ない最適な摩擦力が得られた状態で速度計測ホイルが回
転し,精度の高い回転速度を測定できる。
b非接触式測定について
本件ドップラ速度計は,回転するロールの周速度やロールに接し
て走行するフィルムや紙の走行速度を測定する機器であり,ロール
が回転することによる振動は元々想定されている。
また,本件ドップラ速度計のセンサーは,原告が業務上,測定の
ために使用しているものであり,設置方法に問題はない。
(エ)以上のとおり,被告製品1においては本件不等式が成立するから,
構成要件1Dを充足する。
ウしたがって,被告製品1は,本件発明1の技術的範囲に属する。
(被告の主張)
ア構成要件1Cの非充足
高速で回転しているガイドローラーの大径周面と小径周面に料紙が一
斉に接触しているか否かを視認することは不可能であるし,その他の方
法で物理的に直接確認することも技術的に困難である。
したがって,被告製品1が構成要件1Cを充足するとは認められない。
イ構成要件1Dの非充足
(ア)原告の測定結果について
a接触式測定
本件ハンドヘルド形速度計は,速度計測ホイルを回転方向に平行
かつ接触面に直角に常時正確に接触させた状態を保つ必要があるが,
手ぶれによる影響を受けるので,人間の手でこれを行うのは困難で
あり,速度を正確に測定することはできない。
また,摩擦係数は被計測物の材質によって異なるのであり,料紙
とガイドローラーでは当然に異なるから,料紙とガイドローラーの
速度を単純に比較することはできない。
b非接触式測定
原告測定4に際して,本件ドップラ速度計が適切に設置されたか
どうかは明らかではない。さらに,原告測定4によるωとV/R4
の差は小さく,本件ドップラ速度計の測定確度からすると,機器特
有の誤差の範囲に含まれるというべきである。
(イ)被告による測定結果
a被告は,本件ハンドヘルド形速度計で原告の接触式の測定の追試
を行ったが,極めて頻繁に数値が変動し,回転速度の正確な値を測
定することは困難であった。
b被告は,また,輪転機フレームに固定した台に設置した光電セン
サーを用いて,非接触の方法でガイドローラーの速度と料紙の走行
速度を測定したところ,ω>(V/R4)又はω=(V/R4)と
なり,本件不等式を充足していなかった。
なお,料紙の走行速度は,料紙に線状絵柄を印刷して1つの線状
絵柄から次の線状絵柄に達するまでの時間(線状絵柄の通過時間)
を測定し,線状絵柄の間隔である546.1mmを線状絵柄の通過時
間で除して算出した。ウェブパス装置では印刷時に伸びた紙を元に
戻すように駆動ローラー速度が設定されており,料紙の伸びはほと
んどないから,上記線状絵柄の間隔につき料紙の伸び率を考慮する
必要はない。
(2)争点1-2(本件特許1に無効理由があるか)について
(被告の主張)
ア実施可能要件違反(無効理由1)
本件明細書1には,大径部と小径部の面積比や,外径の比率等をどの
ように調整すれば本件不等式を満たすのかが記載されておらず,出願に
際して実験を行った形跡もなく,ω及びVの測定方法も記載されていな
い。したがって,本件明細書1の記載に基づいて本件発明1を実施する
ことは不可能であるので,本件特許1は実施可能要件(平成6年法律第
116号による改正前の特許法36条4項)違反の無効理由を有する。
イ明確性要件違反(無効理由2)
ガイドローラーの外周面と料紙の走行速度に差があっても,ガイドロ
ーラー上の汚れを確実かつ自動的に拭浄することはできないから,大径
部と小径部を設けることでガイドローラーの外周面の汚れが拭浄される
という本件発明1の効果を達成することはできない。また,本件明細書
1にはω及びVの測定方法が記載されていない上,原告及び被告が行っ
た全ての測定結果において数値が異なっている。したがって,本件発明
1については,発明を特定する事項の技術的意味を理解することができ
ないので,明確性要件(平成6年法律第116号による改正前の特許法
36条5項2号)違反の無効理由がある。
ウ新規性欠如(無効理由3)
原告は,ガイドローラーが大径部と小径部を有すれば(構成要件1A,
1B),料紙が大径周面及び小径周面と必ず接触し(構成要件1C),
必ず本件不等式(構成要件1D)を充足すると主張しているところ,か
かる原告の主張を前提とすれば,構成要件1A及び1Bを備えたガイド
ローラーは必ず構成要件1C及び1Dを備えることになる。
一方,構成要件1A及び1Bを備えたガイドローラーは,本件特許1
の出願前に刊行された「新聞技術」1991年1月号(乙20),実願
昭62-60254号(実開昭64-43058号)のマイクロフィル
ム(乙21)及び「新聞印刷技術」創刊30周年記念増刊号「カラー紙
面製作の実際」(乙22)に記載されている。
そうすると,本件発明1は,これらの文献に記載された発明と同じで
あるから,新規性を欠いている(平成11年法律第41号による改正前
の特許法29条1項3号)。
(原告の主張)
ア実施可能要件違反(無効理由1)について
ガイドローラーに大径部と小径部を設け,料紙が大径周面と小径周面
に一斉に接触する構成は,特許請求の範囲及び本件明細書1の段落【0
009】に記載されており,十分に実施可能である。
イ明確性要件違反(無効理由2)について
被告製品1には拭浄効果が認められるし,原告の測定により本件不等
式の充足性は確かめられているから,明確性を欠くことはない。
ウ新規性欠如(無効理由3)について
被告は,構成要件1A及び1Bを充足すれば構成要件1C及び1Dを
充足するとの前提で新規性の欠如を主張するが,原告はそのような主張
をしておらず,被告の主張は前提を欠く。
(3)争点2-1(被告製品2が本件発明2の技術的範囲に属するか)につ
いて
(原告の主張)
ア構成要件2C-3の充足(文言侵害)
(ア)本件発明2は,2つ以上の裁断折畳機構を有する輪転機において,
互いに干渉されない2種類以上の印刷工程を同時に行うことを可能に
したことに技術的特徴がある。駆動ローラーに対応して設けられる具
体的なフォーマーの個数は駆動ローラーに案内される連続紙の紙幅に
よって変わり(新聞2頁幅毎に1個),このような複数のフォーマー
は異なる印刷工程を行うことができるわけではなく1つのフォーマー
として機能する。1つの駆動ローラーにより案内される新聞4頁幅の
連続紙を2個のフォーマーの直前で2頁幅に切断して折り畳む方法は
公知技術であるから,駆動ローラーに対応して設けられる1つのフォ
ーマーを構成する具体的なフォーマーの個数は,連続紙の紙幅に応じ
て当業者が適宜選択すべきものである。
以上によれば,本件発明2の「フォーマー」とは,同時に2種類以
上の印刷工程を行う運転時に1つの裁断折畳機構に対応して1つの印
刷工程しか行えない1個以上のフォーマーのことを指す。
(イ)被告製品2のフォーマーAF1及びAF2は,異なる印刷工程を
行うことができず,2個で1つのフォーマーとして機能しているから,
2個で「それぞれ同時に2種類以上の印刷工程を行う運転時に1つの
裁断折畳機構に対応して1つの印刷工程しか行えない1個以上のフォ
ーマー」といえる。フォーマーBF1及びBF2も同様である。
したがって,被告製品2の駆動ローラーAD2と駆動ローラーBD
2は,「各フォーマーのすぐ上流に当該フォーマーに対応して少なく
とも1つ設けられ」「少なくともフォーマーと同数からなる駆動ロー
ラー」に当たる。
イ均等侵害
仮に,被告製品2が構成要件2C-3を充足しないとしても,駆動ロ
ーラー1個に対応して設けられるフォーマーの個数を1個から2個に置
き換えた被告製品2の構成は,次のとおり,本件発明2の特許請求の範
囲に記載された構成と均等なものとして,その技術的範囲に属する。
(ア)本質的部分でないこと(第1要件)
本件発明2は,同時に2種類以上の印刷工程を行うために,運転時
に相互に独立して駆動できる「裁断折畳機構・フォーマー・駆動ロー
ラーのセット」が2つ以上存在する折畳部が必要であり,その点に技
術的特徴がある。各セット内において駆動ローラーに対応して設けら
れる具体的なフォーマーの個数は,駆動ローラーに案内される連続紙
の紙幅に応じて当業者が適宜選択すれば足り,駆動ローラーに対応し
て設けられる具体的なフォーマーの個数を1個から2個に置換したと
しても,課題解決原理は本件発明2と同じである。したがって,構成
要件2C-3に含まれるフォーマーと駆動ローラーの個数の関係を本
件発明2の本質的部分ということはできない。
(イ)置換可能性(第2要件)
駆動ローラーに対応して設けられる具体的なフォーマーの個数を1
個から2個に置換したとしても,同時に2種類以上の印刷工程を行う
という本件発明2と同一の作用効果を奏する。
(ウ)置換容易性(第3要件)
1つの駆動ローラーにより案内される新聞4頁幅の連続紙を2個の
フォーマーの直前で2頁幅に切断して折り畳む方法は公知技術であり,
駆動ローラーに対応して設けられる具体的なフォーマーの個数を1個
から2個に置き換えることは極めて容易である。
(エ)公知技術との関係(第4要件)
審査過程における引用文献2(乙11)には,1つの駆動ローラー
により案内される新聞4頁幅の連続紙を2個のフォーマーの直前で2
頁幅に切断して折り畳む例が記載されているが,本件発明2は引用文
献2記載の発明とは相違するから,被告製品2は,本件発明2の特許
出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に
推考できたものに当たらない。
(オ)意識的除外等(第5要件)
構成要件2C-3の「各フォーマーのすぐ上流に当該フォーマーに
対応して少なくとも1つ設けられ」との部分は補正により追加された
ものである。しかし,駆動ローラーに対応して設けられる具体的なフ
ォーマーの個数が駆動ローラーに案内される連続紙の紙幅によって変
わることは当業者の技術常識であり,原告は,横に並んだフォーマー
2個を機能的に1つのフォーマーと捉えていたから,補正によって特
許請求の範囲から意識的に除外したわけではない。
(被告の主張)
ア構成要件2C-3の非充足(文言侵害)
特許請求の範囲の記載によれば,フォーマーは少なくとも裁断折畳機
構と同数であり,駆動ローラーは各フォーマーのすぐ上流に少なくとも
1つ設けられていることを要する。本件明細書2の全ての実施形態にお
いても各フォーマーのすぐ上流に1つの駆動ローラーが設けられている。
ところが,被告製品2においては,2個のフォーマーのすぐ上流には1
個の駆動ローラーしか設けられていないから,構成要件2C-3を充足
しない。
イ均等侵害に当たらないこと
原告が本件発明2の技術的特徴であると主張する構成は,拒絶理由通
知における引用文献2(乙11)に開示されており,これを本件発明2
の特徴的原理ということはできない。本件発明2に特徴的原理があり得
るとすれば,拒絶理由通知に対して補正によって追加された構成要件2
C-3であって,これが本件発明2の本質的部分である。
一方,構成要件2C-3を置き換えた被告製品2の構成は,上記引用
文献2に開示されており,公知の技術である。
さらに,原告は,補正により構成要件2C-3の構成を追加して特許
請求の範囲を減縮し,上記引用文献との相違点を主張して特許登録を受
けたのであるから,当該追加された構成以外の構成を技術的範囲から除
外したことは明らかである。
したがって,均等侵害を認めるための要件のうち少なくとも第1要件,
第4要件及び第5要件を充足しない。
(4)争点2-2(本件特許2に無効理由があるか)について
(被告の主張)
原告の主張する「フォーマー」の解釈を前提とすれば,本件発明2はそ
の特許出願の前に刊行された文献(乙11)に記載された発明と同じであ
るから,本件発明2は新規性を欠いている(特許法29条1項3号)。
(原告の主張)
上記文献の発明は1つの折畳部に1つの駆動手段が設けられているだけ
であるのに対し,本件発明2は,1つの折畳部に2つ以上の駆動手段が設
けられている点で異なるから,新規性を欠くことはない。
(5)争点3(原告の損害額)について
(原告の主張)
被告は,被告製品1を平成8年9月2日から平成23年10月5日まで
の間に少なくとも4億5000万円分,被告製品2を平成15年4月25
日から平成23年10月5日までの間に少なくとも35億円分,それぞれ
製造,販売しており,その利益率はいずれも10%を下らないから,原告
の損害は少なくとも3億9500万円となる(特許法102条2項)。
よって,原告は,被告に対し,上記損害のうち1億円(本件特許権1に
つき3500万円,本件特許権2につき6500万円)及びこれに対する
不法行為の後の日である同月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済み
まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
争う。
第3争点に対する判断
1争点1-1(被告製品1が本件発明1の技術的範囲に属するか)について
(1)前記前提となる事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,次
の事実が認められる。
ア本件明細書1(甲2)の【発明の詳細な説明】欄には,以下の趣旨の
記載がある。
(ア)従来の技術(段落【0002】及び【0003】)
輪転機のガイドローラー装置におけるガイドローラーは,給紙部か
ら印刷部を経て折畳部に向って走行する料紙を,所望の向きにガイド
できるように適宜に配設され,走行紙との摩擦力によって走行紙の走
行速度と略同じ周速度で回転する。したがって,印刷部で印刷を施さ
れた後の料紙が接触するガイドローラーの外周面は,接触する料紙か
らインキ等の異物が付着し,後続の料紙を汚損して印刷品質を低下さ
せる。また付着したインキ等の異物は,印刷を休止して又は印刷の終
了後に,作業者が手作業で又は専用装置によって除去する必要があっ
た。
上記不都合を解決するために原告が提案したガイドローラー装置
(特開平1-209139号)は,2つ以上のガイドローラーのうち
の少なくとも1つのガイドローラーの回転周速度が他のガイドローラ
ーの回転周速度と異なるように伝動機構装置によって連係させて設け,
連係させた全ガイドローラーの外周面と走行中の料紙との間に働くそ
れぞれの摩擦力による回転トルクが均衡した状態で,連係させた全ガ
イドローラーが回転するようにし,その回転周速度と料紙の走行速度
との間に生じる若干の差によって,ガイドローラーの外周面を走行す
る料紙で擦り,インキ等の異物が付着するのを防止するとともに,自
動的に拭浄するようにしたものである。
(イ)発明が解決しようとする課題(段落【0004】及び【000
5】)
上記装置は,複数のガイドローラーを連係維持する伝動機構装置が
必要で,それだけ構成が複雑となり,かつ,メンテナンス等の付随作
業が増し,コスト高にもなった。また,連係させたうちの1つのガイ
ドローラーと走行中の料紙との間に働く摩擦力が他のガイドローラー
と走行中の料紙との間に働く摩擦力に比べて極めて大きなときは,前
記1つのガイドローラーは,他のガイドローラーの影響をほとんど受
けずに回転し,その回転周速度と料紙の走行速度との差がほとんどな
くなり,このガイドローラーの外周面については,走行する料紙によ
って効果的に擦ることができなかった。
本件発明1は,極めて簡単かつ安価で,しかもメンテナンス等の作
業の増加がなく,さらに,走行する料紙と接触して回転するときに,
回転周速度を料紙の走行速度と確実に相違させ得るガイドローラーを
提供することを目的とするものである。
(ウ)課題を解決するための手段(段落【0006】)
上記目的を達成するために,本件発明1のガイドローラーは,特許
請求の範囲に記載の構成となっている。
(エ)作用(段落【0007】)
ガイドローラーの大径周面と小径周面とに接触して走行する料紙は,
大径周面と小径周面とを同じ速度で回転させようとする。ところが,
大径周面と小径周面とは半径が異なるから,大径周面と小径周面の角
速度は必然的に異なろうとする。このとき,ガイドローラーは,大径
周面と料紙との間のすべりによる摩擦力と,小径周面と料紙との間の
すべりによる摩擦力とが均衡して,本件不等式を充足するようになっ
ていることにより,大径周面の角速度と小径周面の角速度とが互いに
影響しあい,これら2つの角速度の間の適宜の角速度ωで回転する。
したがって,大径周面と小径周面の回転周速度は,いずれも,そこに
接触した状態で走行する料紙の走行速度とは異なり,大径周面と小径
周面は,そこに接触した状態で走行する料紙との間ですべり,料紙に
よって擦られる。
(オ)実施例(段落【0009】及び【0010】,図3)
本件発明1の実施例であるいずれのガイドローラーにおいても,大
径周面と小径周面の半径の差は,ガイドローラーの外周面に料紙が接
触する際に大径周面と小径周面とに一斉に接触でき,かつ,後で説明
する料紙とガイドローラーの外周面との間のすべりを生じさせること
ができる程度とし,料紙の剛性等を考慮して適宜に定められ,例えば
小径周面の半径は大径周面の半径の95~99.5%に設けられる。
また,大径周面と小径周面との面積比率は,料紙とガイドローラーの
外周面との間のすべりを生じさせることができるように,大径周面及
び小径周面と料紙との各接触面積のバランスを考慮して適宜に定めら
れ,例えば1:3~3:1に設けられる。
次に,このガイドローラーによる料紙のガイドについて説明する。
ガイドローラーの外周面によって走行する料紙を案内すると,ガイド
ローラーは,外周面とそこに接触する料紙との摩擦力によって,料紙
の走行に連れて回転する。ところで,ガイドローラーの外周面は大径
周面と小径周面とで形成されており,料紙は大径周面と小径周面とに
一斉に接触した状態で走行する。このときの角速度ωは,大径周面と
料紙との間のすべりによる摩擦力と,小径周面と料紙との間のすべり
による摩擦力とが均衡して,本件不等式の関係になっている。その結
果,大径周面と料紙との間及び小径周面と料紙との間にすべりを生じ,
ガイドローラーの外周面は,そこに接触して走行する料紙によって確
実に擦られ,インキ等の異物が付着せず,また自動的に拭浄される。
なお,大径周面と料紙との間と,小径周面と料紙との間のそれぞれ
の間ですべりを生じさせるためには,それぞれの周面部における料紙
から受ける回転力を略同一にする必要がある。この回転力は各周面部
において料紙から受ける接線方向の力と半径との積であるが,この半
径は両周面部において大・小異なるため,大径周面部における接線方
向の力を,小径周面部におけるものより小さくする。この接線方向の
力は各周面の料紙に対する接触力,接触面積及び摩擦係数によって決
まる。したがって,この接線方向の力を変えるには,接触力が両周面
部で略同一であるとして,接触面積と摩擦係数を適宜変えてやればよ
い。
(カ)発明の効果(段落【0012】)
本件発明1の実施により,印刷を施されて走行する料紙を案内する
ガイドローラーにインキ等の異物が付着して汚れることがなく,かつ,
ガイドローラーの外周面が確実かつ自動的に拭浄されるようになった。
したがって,後続の印刷物を汚損し印刷品質を損うことがなく,また,
印刷を中断し,又は印刷が終了した後のガイドローラーの拭浄作業や
洗浄作業の必要がなくなり,省力化,省人化を進めることができた。
イ本件特許1の出願経過は,次のとおりである。(甲2,乙18)
本件特許1の出願当時の特許請求の範囲には,構成要件1Dに相当す
る構成は含まれていなかった。
この出願に対し拒絶理由通知が発せられたが,その理由は,料紙がガ
イドローラーの大径周面と小径周面に同じ接触圧で接触走行する場合,
両接触面における料紙とローラー周面の摩擦力が等しいとはいえ,ガイ
ドローラーの回転中心軸からの距離(半径)の大きい大径周面における
中心軸回りの力のモーメントが大きくなり,大径側の周面が料紙の速度
について回ることになるので,大径周面・小径周面ともに,走行する料
紙の走行速度とは異なる速度で回転して両者が常に擦られた状態で走行
するという効果を奏しないとの点で特許法(平成6年法律第116号に
よる改正前のもの)36条4項又は5項及び6項に規定する要件を満た
していないというものであった。
原告は,この拒絶理由通知に対して,特許請求の範囲に構成要件1D
として本件不等式等の記載を追加するなどの補正を行った。
ウ原告は,次のとおり,原告測定1~4を行った。
(ア)原告測定1及び2(甲6の1~3,甲11~13)
原告は,平成23年1月27日(原告測定1)並びに同年12月3
日及び4日(原告測定2),仙台高速オフセット株式会社において,
新聞用輪転機「DIAMONDSPIRIT」に設置された被告製品
(1)及び(2)の回転数,料紙の走行速度等の測定を行った。
上記各測定は本件ハンドヘルド形速度計の計測軸に速度計測ホイル
を取り付けて行われ,ガイドローラーの角速度ωを求めるために,被
告製品(1)及び(2)の大径周面の料紙が走行していない部分に速度計測
ホイルを当てて,回転数(rpm)及び速度(m/s)を測定した。料紙の
走行速度Vについては,各ガイドローラーと同じ走行ライン上の段差
なしのガイドローラー上を走行する料紙に速度計測ホイルを当てて,
回転数(rpm)及び速度(m/s)を測定した。測定に当たっては,本件
ハンドヘルド形速度計のメモリに記録された数値の最大値が採用され
た。
測定の結果は,別紙原告測定結果一覧の測定1及び2の「測定結
果」欄記載のとおりであり,いずれも本件不等式を満たすとされてい
る。
(イ)原告測定3(甲6の4及び5,甲23,24,32)
原告は,平成24年8月1日から3日まで,上記(ア)の輪転機に設
置された被告製品(1)及び(2)の回転数,料紙の走行速度等の測定を行
った。測定方法は前記(ア)と同様であり,測定の結果は,別紙原告測
定結果一覧の測定3の「測定結果」欄記載のとおりであり,本件不等
式を満たすとされている。
(ウ)原告測定4(甲26,27)
原告は,平成24年8月2日ころ,上記(ア)の輪転機に設置された
被告製品(2)について,本件ドップラ速度計を用いて料紙の走行速度
及び大径周面の速度を同時に測定した。その結果は,別紙原告測定結
果一覧の測定4の「測定結果」欄記載のとおりであり,本件不等式を
満たすとされている。
(エ)取扱説明書の記載(甲5,乙24)
a本件ハンドヘルド形速度計の取扱説明書には,速度計測ホイルを
取り付けて測定する場合は,被測定物に平行に沿わせて測定を行い,
過度な力で押し付けないことと記載されている。
また,本件ハンドヘルド形速度計の仕様は,次のとおりである。
回転速度0.10~25000(rpm)
速度0.005~127.00(m/s)
測定精度0.10~999.99rpm:±0.06rpm
1000.0~9999.9rpm:±0.6rpm
b本件ドップラ速度計の取扱説明書には,本件ドップラ速度計は高
精度の光学測定器であり,衝撃や振動には敏感なので,振動の激し
い場所での設置は避けること,ドップラセンサのセッティングの方
向が重要であり,走行方向に対して傾くと実際の速度より小さく測
定されることが記載されている。
また,本件ドップラ速度計の測定確度は,±(0.2%+0.1m
/min)以内である。
エ被告による測定(乙5)
(ア)被告は,平成24年3月15日,公証人の立会いの下,原告が測
定したのと同じ仙台高速オフセット株式会社に設置された輪転機につ
き,接触式及び非接触式の方法により,被告製品(1)及び(2)の回転数,
料紙の走行速度等の測定を行った。
(イ)接触式の測定は本件ハンドヘルド形速度計と同種の速度計を用い
て行われたが,極めて頻繁に数値が変動し,速度表示では5桁表示の
うち下3桁,回転速度表示では同下2桁の数値の振れがあった。この
測定結果によれば,ガイドローラーの角速度ωは,V/R3より小さ
いもの,又は,V/R4より大きい若しくはこれと同一のものとなっ
ており,いずれも本件不等式を満たしていなかった。
(ウ)非接触式の測定は光電センサーを用いて行われ,ガイドローラー
については,光電センサーに反応する反射テープを貼り付けてローラ
ーの1回転毎のパルス時間差と対象ローラーの周長から速度を測定し
た。また,料紙については,線状絵柄を印刷し,これを光電センサー
で検出して線状絵柄の通過時間を測定した上,線状絵柄の間隔をその
通過時間で除して走行速度を算出した。この測定結果によれば,ωと
V/R3の関係は全て(V/R3)<ωとなっていたが,ωとV/R
4の関係は,合計24回の測定のうち22回がω=(V/R4),2
回がω>(V/R4)であり,いずれも本件不等式を満たしていなか
った。
(2)上記事実関係に基づき,まず,構成要件1Dの充足性について検討す
る。
ア本件不等式は,輪転機等におけるガイドローラーの角速度ωとこれに
接触して走行する料紙の速度V及びガイドローラーの半径(大径周面部
R3,小径周面部R4)の関係を規定したものであり,「大径周面と料
紙との間のすべりによる摩擦力と,小径周面と料紙との間のすべりによ
る摩擦力とが均衡して(V/R3)<ω<(V/R4)となるようにし
た」との特許請求の範囲の文言に照らせば,料紙が,大径周面及び小径
周面の双方から摩擦力を受けつつも,いずれかに連れて(いずれかと同
速度で)回転することはなく,双方との間にすべりを生じながら,大径
周面より遅く,小径周面より速く走行するようにしたことを本件発明1
の必須の構成としたものと理解することができる。したがって,構成要
件1Dの充足性を判断するためには,ガイドローラーに料紙を走行させ
た際のガイドローラーの角速度,料紙の速度及びガイドローラーの半径
を正確に測定し,立証することが必要となる。
イこの点に関し,原告は,料紙が大径周面及び小径周面の双方に接触し
て走行している場合には,ガイドローラーと料紙の間の摩擦係数がゼロ
でない限り,料紙の走行速度は,理論的に当然に,大径部の周速度と小
径部の周速度の中間の値となり,本件不等式が成立するから,料紙の速
度等の測定は必要でない旨主張し,これに沿う意見書(甲33,37)
を提出する。その上で,原告は,被告製品1において料紙が大径周面及
び小径周面の双方に接触していることは明らかであるから,測定を待つ
までもなく,被告製品1は構成要件1Dを充足する旨主張する。
そこで判断するに,原告の主張は,構成要件1C(大径周面と小径周
面とに一斉に接触して走行する料紙との摩擦力によって回転すること)
を充足すれば,構成要件1Dも当然に充足されることをいうに等しいも
のであり,それ自体特許請求の範囲の記載と相いれないものである。そ
して,前記(1)イ認定のとおり,構成要件1Dが拒絶理由通知を受けて
補正により追加された要件であること(構成要件1Cのみでは特許を受
けられなかったこと)を考慮すると,上記主張を直ちに採用することは
困難である。
これに加え,上記拒絶理由通知は,料紙が大径周面と小径周面の双方
に接触していても,大径周面が料紙の速度に連れて回転することがあり
得る旨を指摘するものである。すなわち,料紙が大径周面と小径周面に
一斉に接触して走行していても,そのことから当然に両周面との間にす
べりが生じるとはいえないのであり,料紙が各周面部に及ぼす力が異な
る場合には,一方の周面部が料紙と同速度で回転することがあり得る旨
を指摘するものと解され,この指摘が誤りであることをうかがわせる証
拠はない。
さらに,本件明細書1には,上記(1)ア認定のとおり,①大径周面と
小径周面の半径の差は,料紙が大径周面と小径周面に一斉に接触でき,
かつ,料紙との間にすべりを生じさせることができる程度とし,料紙の
剛性等を考慮して適宜に定められ,例えば小径周面の半径は大径周面の
半径の95~99.5%に設けられる旨(段落【0009】),②大
径周面と小径周面と面積比率は,料紙との間のすべりを生じさせること
ができるように,料紙との接触面積のバランスを考慮して適宜に定めら
れ,例えば大径周面と小径周面の面積比率は1:3~3:1に設けられ
る旨(同),③大径周面と料紙の間と,小径周面と料紙の間のそれぞ
れにすべりを生じさせるためには,各周面部における料紙から受ける回
転力を略同一にする必要があるところ,その力は各周面の料紙に対する
接触力,接触面積及び摩擦係数等によって決まるので,これを変えるに
は接触面積及び摩擦係数を適宜変えてやればよい旨(段落【001
0】)の記載がある。これらの記載は,本件発明1の実施例に関するも
のであるが,料紙が大径周面と小径周面の双方に接触している場合でも,
各周面に対して及ぼす力が均衡しないときは,一方の周面が料紙の速度
に連れて回転することがある旨の上記拒絶理由通知の指摘を裏付けるも
のと解することができる。
以上によれば,本件不等式が成立し,構成要件1Dを充足するという
ためには,料紙の剛性,摩擦係数等を考慮して大径部と小径部の半径の
差及び面積比率を適宜に調整する必要があると考えられる。
したがって,原告の上記主張を採用することはできず,被告製品1が
構成要件1Dを充足するかどうかは,料紙を走行させた際のガイドロー
ラーの回転数,料紙の速度等の測定結果に基づいて判断すべきものであ
る。
ウそこで,前記(1)ウ及びエ認定の測定結果により,被告製品1につき
本件不等式が成立すると認められるかどうかを検討する。
(ア)測定精度について
本件不等式の成否は,ガイドローラーの角速度ω及び料紙の速度V
とガイドローラーの半径(大径部R3,小径部R4)に依存するとこ
ろ,原告の測定(別紙原告測定結果一覧参照)によれば,被告製品
(1)における大径部の直径と小径部の直径の差は0.56~0.62
mm,この差の大径部の直径に対する割合は0.46~0.51%であ
り,また,被告製品(2)における直径の差は0.65mm,大径部の直
径に対する割合は0.65%である。そうすると,本件不等式が成立
すると認めるためには,0.46%~0.65%程度の相違を区別す
るに足りる十分な測定精度を要するものと解される。
(イ)原告による接触式測定(原告測定1~3)について
原告による上記各測定結果によれば被告製品1において本件不等式
が成立するとされているところ,原告は,①本件ハンドヘルド形速
度計の測定誤差は0.08%程度にすぎないこと,②測定を行った
のは,本件ハンドヘルド形速度計を用いた駆動ローラーの回転速度の
測定に精通し,誤差0.05%の精度で測定できる技術者であること,
③被測定物の摩擦係数が異なっても押付け力を調整すれば最適な速
度を得られることなどを根拠に,原告による接触式の測定結果は十分
な正確性を有する旨主張する。
そこで判断するに,本件ハンドヘルド形速度計の速度計測ホイルに
よる測定に際しては,被測定物に平行に沿わせるとともに,過度な力
で押し付けないことを要するのであり(前記(1)ウ(エ)a),測定者
が上記ホイルを被測定物に押し付ける際の向きや力加減によって測定
結果が変動することになる。なお,接触式の速度計における仕様上の
測定誤差には,上記のような押付け力の違いにより発生する誤差は反
映されていないと考えられる(乙25)。そして,上記(ア)のとおり,
本件不等式の成否を判断するためには高い精度をもって測定する必要
があるから,測定者の力加減によって数値が変動し,誤差が生じるよ
うな測定方法を用いること自体が相当ではないというべきである。こ
の点は測定者が熟練した技術者であっても異なることはなく,原告の
従業員による測定結果を判断の根拠とすることは客観的中立性を欠く
というほかない。
また,速度計測ホイルを用いて2種以上の被測定物の速度を比べる
場合には,被測定物の摩擦係数の違いによる誤差が考えられるところ,
原告測定1~3においては料紙とガイドローラーの摩擦係数の違いに
よる誤差も考慮されていない。なお,原告は上記③のとおり押付け力
を調整すれば足りる旨主張するが,その調整に当たっては測定者の主
観が介入し得るものであり,客観性を欠くものといわざるを得ない。
したがって,原告測定1~3の測定結果から本件不等式が成立する
と認めることはできない。
(ウ)原告による非接触式測定(原告測定4)について
前記(1)ウ(エ)bのとおり,本件ドップラ速度計は,被測定物に対
して適正な方向にセッティングすることが重要であり,また,振動の
影響を受ける場所には設置すべきではないとされている。ところが,
本件における測定の対象である輪転機を高速で稼働させた場合には相
当の振動があるものと解されるが,原告は,原告測定4に際してこれ
らの点につきいかなる留意をしたのかを明らかにしていない。
また,原告は,原告測定4の測定結果から,ω<(V/R4)であ
ることが認められる旨主張するが,ωは1.630,V/R4は1.
631(単位省略)であり,その差は僅か0.06%であって,本件
ドップラ速度計の測定確度である±0.2%を下回っている。
以上によれば,原告測定4の測定結果によっても,本件不等式が成
立するとは認められないと解すべきものである。
(エ)被告による非接触式測定について
被告が行った非接触式の測定結果によれば,ωとV/R4がほぼ等
しいこと(すなわち,料紙の走行速度と小径部の周速度が同じで,料
紙と小径部の間にすべりが生じていないこと)が示されている。これ
に対し,原告は,料紙の伸び率を0.1%であるとみて計算し直すと
本件不等式を満たすと主張するが,0.05~1.5%とされる料紙
の伸び率(甲18)のうち0.1%を選択した根拠は明らかではなく,
原告の主張をにわかに採用することはできない。
むしろ,上記イのとおり,本件不等式を成立させるためには大径部
と小径部の半径の差及び面積比率を適宜に調整する必要があると解さ
れるところ,被告製品1における半径の差は上記(ア)のとおり0.4
6%~0.65%であり,また,面積比率は被告製品(1)~(6)が大径
部352mm:小径部1368mm(1:3.9),被告製品(7)~(9)が
大径部210mm:小径部708mm(1:3.4)である(ただし,両
端の大径部の一部は料紙が走行しないので(甲11参照),料紙が走
行する部分における大径部に対する小径部の割合は上記比率より大き
くなる。)。一方,本件明細書1には,料紙が大径部及び小径部の双
方との間にすべりを生じさせる場合の例として,両者の半径の差を5
~0.5%とし,面積比率を1:3~3:1とすることが挙げられて
いる(上記(1)ア(オ)参照)。そうすると,この例示の範囲を超える
被告製品1においては,料紙と小径部の間にはすべりが生じていない
と推認することが可能である。
(オ)以上を総合すると,原告による測定結果に基づいて本件不等式が
成立すると認めることはできず,このほかに被告製品1における料紙
の走行速度等の関係が本件不等式を満たしていると認めるに足りる証
拠はないと解すべきである。
エしたがって,被告製品1が構成要件1Dを充足するとは認められない。
(3)以上によれば,構成要件1Cについて検討するまでもなく,被告製品
1が本件発明1の技術的範囲に属すると認めることはできない。
2争点2-1(被告製品2が本件発明2の技術的範囲に属するか)について
(1)構成要件2C-3の充足性(文言侵害)について
ア本件発明2の特許請求の範囲には「各フォーマーのすぐ上流に当該フ
ォーマーに対応して少なくとも1つ設けられ,対応するフォーマーに向
けて連続紙を案内する少なくともフォーマーと同数からなる駆動ローラ
ー」と記載されており,各フォーマーのすぐ上流に,当該フォーマーに
対応して,フォーマーと同数以上の駆動ローラーを設けることが本件発
明2の必須の構成とされている。
一方,被告製品2においては,別紙被告製品2説明図のとおり,横に
並んだ2個のフォーマーAF1及びAF2のすぐ上流に,これら2個の
フォーマーに対応して,1個の駆動ローラーAD2が設けられている
(フォーマーBF1及びBF2と駆動ローラーBD2の関係も同様であ
る。)。したがって,フォーマーに対応する駆動ローラーの数がフォー
マーの数を下回っているから,上記の構成を有していないことは明らか
である。
したがって,被告製品2は構成要件2C-3を充足しない。
イこれに対し,原告は,①具体的なフォーマーの個数は「1個,2
個」などと,機能的なまとまりを示すフォーマーの組合せの個数は「1
つ,2つ」などと使い分けており,②本件発明2における「1つ」の
フォーマーは,同時に2種類以上の印刷工程を行う運転時に1つの裁断
折畳機構に対応して1つの印刷工程しか行えない1個以上のフォーマー
の組合せの数をいうものである,③被告製品2における2個のフォー
マーAF1及びAF2は,上記②の印刷工程しか行えない1つの組合せ
であり,④そのすぐ上流に1個の駆動ローラーAD2が設けられてい
るから,被告製品2は構成要件2C-3を充足する旨と主張する。
そこで判断するに,「個」及び「つ」はいずれも事物の数を表すのに
用いる一般的な数詞であり,通常,両者は同じ意味に用いられるもので
ある。原告が上記②の意味でフォーマーの数を表そうというのであれば,
「1組,2組」などと呼べば足りるものと解される。
また,本件明細書2(甲4)の記載をみても,フォーマーの数を表す
のに当たり,原告が主張するように「個」と「つ」を使い分けている部
分は見当たらないし,本件発明2の実施形態として,フォーマーのすぐ
上流に当該フォーマーに対応して設けられた駆動ローラーの個数がフォ
ーマーの具体的な個数を下回る構成は記載されていない。
原告の上記主張は,特許請求の範囲の文言及び本件明細書2の記載に
基づかないものであり,失当というほかない。
(2)均等による特許権侵害の成否
ア特許請求の範囲に記載された構成中に特許権侵害訴訟の対象とされた
製品と異なる部分が存する場合であっても,①上記部分が特許発明の
本質的部分ではなく,②上記部分を当該製品におけるものと置き換え
ても特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するもの
であって,③そのように置き換えることに特許発明の属する技術の分
野における通常の知識を有する者(当業者)が当該製品の製造時点にお
いて容易に想到することができたものであり,④当該製品が特許発明
の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容
易に推考することができたものではなく,かつ,⑤当該製品が特許出
願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるな
どの特段の事情もないときは,当該製品は,特許請求の範囲に記載され
た構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解す
べきである(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻
1号113頁参照)。
被告製品2は,上記(1)で判示したところによれば,本件発明2の構
成要件2C-3にいう「各フォーマーのすぐ上流に当該フォーマーに対
応して少なくとも1つ設けられ」,「少なくともフォーマーと同数から
なる駆動ローラー」との部分を,「横に並んだ2個のフォーマーAF1
及びAF2のすぐ上流に,これら2個のフォーマーに対応して1個設け
られ」,「フォーマーより少ない数からなる駆動ローラーAD2」と置
き換えたものであるが,原告は被告製品2について均等による特許権侵
害が認められる旨主張するので,以下検討する。
イ原告は,まず,上記アの要件①につき,本件発明2の技術的特徴は,
同時に2種類以上の印刷工程を行うために,相互に独立して駆動するこ
とのできる「裁断折畳機構・フォーマー・駆動ローラーのセット」を2
つ以上設けた点にあるのであって,各セット内で駆動ローラーに対応し
て設けられる具体的なフォーマーの個数は,駆動ローラーに案内される
連続紙の紙幅に応じて当業者が適宜選択すれば足りるものであるから,
本件発明2の本質的部分には当たらない旨主張する。
そこで判断するに,本件明細書2(甲4)の【発明の詳細な説明】欄
には,①従来の輪転機は,新聞4頁幅の連続紙を供給する複数の給紙
部と,これと同数の印刷部と,1つの折畳部で構成され,折畳部は,裁
断折畳機構90,90’と,フォーマー6,6’と,そのすぐ上流に位
置しフォーマー6,6’に向けて連続紙W1,W2を案内する駆動ロー
ラー91で構成されていた(段落【0002】~【0004】),②
上記輪転機では,給紙部及び印刷部が各6つの場合,2つの裁断折畳機
構90,90’と全ての給紙部及び印刷部を使用して最大24頁の新聞
を同時に2部生産し,又は1つの裁断折畳機構90と全ての給紙部及び
印刷部を使用して(裁断折畳機構90’は休止する。)最大48頁の新
聞を生産することができた(段落【0008】~【0011】,【00
14】及び【0015】,図12~15),③しかし,例えば40頁
の新聞を印刷する場合には,使用しない裁断折畳機構90’が生じるほ
か,給紙部及び印刷部の一部が使用されないことになるため,これら使
用されない給紙部及び印刷部を別個の印刷工程に利用することが望まれ
るが,2つある裁断折畳機構90,90’の一方が使われている場合に
は,他方の裁断折畳機構は,他に駆動源がないため,個別では駆動する
ことができないので,給紙部及び印刷部を有効に利用する手段がないの
が実情であった(段落【0016】,図16及び17),④本件発明
2は,このような従来技術の課題を解決するものであり,上記の利用さ
れていなかった裁断折畳機構,印刷部及び給紙部を有効に利用して,輪
転機の稼働率を向上させ,印刷物の生産を向上させる輪転機を提供する
ことを目的とする(段落【0017】),⑤上記課題を解決するため,
本件発明2の輪転機は特許請求の範囲に記載された構成を採用したもの
であり,折畳部は,2つ並べて設けられた裁断折畳機構5,5’と,2
つのフォーマー6,6’と,2つの駆動ローラー7,7’から構成され,
2つの裁断折畳機構5,5’は個別に駆動することが可能であり,また,
2つの駆動ローラー7,7’は,フォーマー6,6’のすぐ上流に位置
し,各フォーマー6,6’と対応して設けられ,別個の駆動手段により
個別に駆動することが可能なように設けられている(段落【0018】,
【0028】~【0031】),⑥本件発明2の実施形態である給紙
部及び印刷部を各6つ有する輪転機においては,第1の印刷工程及び第
2の印刷工程が並行して実施可能であり,第1の印刷工程で40頁の新
聞を印刷する場合,5つの給紙部及び5つの印刷部を使用するとともに,
1つの裁断折畳機構5と,この裁断折畳機構5に対応するフォーマー6
と,フォーマー6に対応する駆動ローラー7が使用され,また,第1の
印刷工程で使用されなかった給紙部及び印刷部の各1つと,裁断折畳機
構5’,フォーマー6’と駆動ローラー7’を使用することにより,第
2の印刷工程を実施し,最大8頁の印刷をすることが可能になる(段落
【0033】~【0036】,図1及び2)との記載がある。
以上の記載によれば,従来技術においては,フォーマー6,6’のす
ぐ上流に位置する駆動ローラーが1個(駆動ローラー91)しかなく,
フォーマー6の使用中はフォーマー6’を他の印刷工程に使用すること
ができないとの問題点があったので,これを解決するため,フォーマー
6,6’のすぐ上流に位置する駆動ローラーを2個(駆動ローラー7,
7’)とすることにより,並行して別個の印刷工程を実施することを可
能にした点に本件発明2の課題解決上の特徴的原理があると認められる。
そうすると,フォーマーのすぐ上流にある駆動ローラーの数が少なく
ともフォーマーと同数であるとの点が本件発明2の本質的部分に当たら
ないとみることは困難である。
ウ次に,上記アの要件⑤について検討する。
(ア)証拠(乙4,6~8,10,11)及び弁論の全趣旨によれば,
本件特許2の出願経過に関して,①出願当初の特許請求の範囲の請
求項1には,構成要件2B及び2C-3に相当する構成は記載されて
いなかったこと,②この出願に対し,引用文献1(特開平8-85
196号公報。乙6)には,1つの折畳部が,それぞれ個別駆動可能
な2つの裁断折畳機構と,少なくとも裁断折畳機構と同数からなるフ
ォーマーと,フォーマーと同数からなる駆動ローラーとを有すること
が記載されており,また,引用文献2(特許第2822166号公報。
乙11)には,裁断折畳機構と,フォーマーと,フォーマーと同数か
らなる駆動ローラーとを有する折畳部を複数備え,それぞれ個別に駆
動可能とすること及び複数の印刷部をそれぞれ個別駆動可能に構成す
ることが記載されているところ,複数の折畳部を近接配置させるなど
して1つの折畳部として構成することに困難性は認められないから,
特許法29条2項により特許を受けることができないとの理由により
拒絶理由通知が発せられたこと,③これに対し,原告は,構成要件
2B及び2C-3に相当する構成を特許請求の範囲に追加する旨の補
正をするとともに,補正後の構成は引用文献1に記載された構成とは
相違している旨及び引用文献2には構成要件2C-3に記載された駆
動ローラーについての開示はない旨を述べた意見書を提出したこと,
以上の事実が認められる。
(イ)本件特許2の上記出願経過に照らせば,原告は,補正により追加
した構成要件2C-3とは異なる構成,すなわち,各フォーマーのす
ぐ上流に当該フォーマーに対応して少なくとも1つの駆動ローラーが
設けられたものではない構成を特許請求の範囲から意識的に除外した
ものと解することが相当である。
エしたがって,均等による特許権侵害をいう原告の主張も失当である。
第4結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はい
ずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官長谷川浩二
裁判官清野正彦
裁判官髙橋彩
(別紙)
被告製品目録1
(1)被告製品「DIAMONDSPIRIT」に設置され,料紙が接触する外
周面をそれぞれ軸方向に同径にした外周面の直径が121.16~121.
73mmの周面5面と外周面の直径が120.62~121.11mmの周
面4面を有し,かつ,大径と小径の差が約0.6mmで,外周面の直径が大
小の各外周面がそれぞれ交互に段差を有して配置されたガイドローラー
(2)被告製品「DIAMONDSPIRIT」に設置され,料紙が接触する外
周面をそれぞれ軸方向に同径にした外周面の直径が99.67~99.70
mmの周面5面と外周面の直径が99.04~99.05mmの周面4面を
有し,外周面の直径が大小の各外周面がそれぞれ交互に段差を有して配置さ
れたガイドローラー
(3)被告製品「DIAMONDSTAR」に設置され,上記(1)と同じ構成
を有するガイドローラー
(4)被告製品「DIAMONDSTAR」に設置され,上記(2)と同じ構成
を有するガイドローラー
(5)被告製品「DIAMONDSPACE」に設置され,上記(1)と同じ構
成を有するガイドローラー
(6)被告製品「DIAMONDSPACE」に設置され,上記(2)と同じ構
成を有するガイドローラー
(7)被告製品「DIAMONDSPIRIT」に設置され,料紙が接触する外
周面をそれぞれ軸方向に同径にした外周面の直径が99.71~99.72
mmの周面3面と外周面の直径が99.10mmの周面2面を有し,外周面
の直径が大小の各外周面がそれぞれ交互に段差を有して配置されたガイドロ
ーラー
(8)被告製品「DIAMONDSTAR」に設置され,上記(7)と同じ構成
を有するガイドローラー
(9)被告製品「DIAMONDSPACE」に設置され,上記(7)と同じ構
成を有するガイドローラー
(別紙)
被告製品目録2
2媒体同時印刷機能「PRINTCOMPLEX」を備えた新聞用オフセ
ット輪転機「DIAMONDSPIRIT」

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