弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件各控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、東京高等検察庁検事土田義一郎提出の水戸区検察庁検察官事
務取扱検察官検事藤井嘉雄作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答
弁は、弁護人岡部勇二作成の答弁書(二通)記載のとおりであるから、これ等を引
用し、右控訴趣意に対し当裁判所は次のとおり判断する。
 所論は、要するに、原判決は、水産資源保護法(以下法という)第二五条及び茨
城県内水面漁業調整規則(以下規則という)第二七条にいう採捕とは、とらえるこ
と乃至は容易にとらえ得る状態におくことであり、被告人等の本件各行為は右採捕
にあたらないとして、被告人等に対し無罪の言渡をしたが、右採捕とは、採捕の方
法を行うこと(採捕行為)を以て足りるものと解すべきであり、原判決には判決に
影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というのである。
 よつて、按ずるに、採捕という語句が、日常用語的には、とらえることを意味す
るものであることは明らかであるが、所論は、これを右日常用語的意味での行為の
未遂の段階にあたる所論の採捕行為にまで拡張して解釈すべきであるというのであ
る。ところで、刑罰法規の解釈は、その規範的意味を確定することであり、そのた
め形式的文理的解釈にとまらず、目的論的解釈を施し、時としては、法規に用いら
れている語句をその日常用語的意味より拡張して解釈する必要があることは勿論で
あるが、罪刑法定主義の要請を考慮すれば、拡張解釈は、当該法条の法益保護の目
的や法規相互の関係に照らし必要にして相当な範囲にとどめるべきであり、行政刑
罰法規の解釈においても、法規の特殊な性格に鑑み目的論的解釈方法が用いられる
範囲が広いことは否めないにしても、右の原則は適用さるべきものであり、徒らに
行政上の取締目的を理由に拡張解釈を用いることは許されない。而して、刑法にお
いては、犯罪定型としての既遂と未遂は明確に区別され、各本条に定めのない限り
未遂を罰することはできないのであり、各本条の構成要件としての行為を示す語句
を、その日常用語的意味での行為の未遂段階にあたる行為にまで拡張解釈すること
は皆無であるが、既遂、未遂の区別は、刑法犯と行政犯との区別に拘らず共通に用
いらるべき概念であり、且法及び規則には未遂罪に関する刑法総則規定の適用排除
の特別規定はないのであるから、目的論的解釈により特に法第二五条及び規則第二
七条について未遂罪についての刑法総則規定の適用を排除する趣旨が明確に認めら
れるのでない限り、刑法上の右の原則は、右二法条についても妥当するものと考え
られるのであり、右のような刑罰法規の語句の定型的な解釈方法があるという特殊
性に着目すると、右解釈方法を逸脱してまで目的論的解釈により採捕の意味を所論
のように拡張解釈しうるためには、一般の場合より高度の必要性と相当性が要求さ
れるものといわざるを得ない。(尚所論のように採捕行為を明確に可罰とするため
には、単にその旨の一条を設けるを以て足りるのであり、所論のような行政刑罰法
規の目的論的解釈を必要ならしめる行政法規の目的の特殊性或はこれに用いる語句
の技術的性格は、本件拡張解釈の当否の判断に直接かかわりはないものと思われ
る。)
 そこで、まず法第二五条及び規則第二七条の保護法益の観点から考えてみると、
右二法条が所論のよう立法目的、法益を有していることは明らかであり、又所論の
いう採捕行為自体右法益を侵害し乃至侵害するおそれがなく、従つて、右法益保護
のため右行為を処罰の対象とする必要性がないとは断定できないのではあるけれど
も、採捕行為ととらえることとでは、右法益を侵害する態様及び程度において著し
く異るものがあることは明らかである(これに反し、原判示のいう、容易にとらえ
得る状態におく(例えば綱にかかつた)ときには、とらえた場合と殆んど異るとこ
ろはない)。而して、同一の法益を保護するため必要であつても、そのため如何な
る範囲の行為を処罰の対象とするかは、立法政策上の問題であり、法益保護のため
必要なあらゆる方法を法が講じているとすることは、合理的な考え方であるとはい
えないことも考え合わせると、拡張解釈をすべき必要性と相当性があるというため
には、日常用語的解釈をした場合に比し、右法益侵害の一般的抽象的にみた態様及
び程度において異るところがないことを要するものと解するのを相当とし、本件の
場合未だ十分の必要性及び相当性があるということはできない。次に、法及び規則
を仔細に検討しても、他の規定との関係で所論のように解するのが必要で相当であ
ると認められる事由を発見することができない(もつとも、規則中には採捕という
語句を採捕行為を含めた意味に用いたと思われないでもない規定((例えば、同第
一〇条、第二一条等))があるが、これ等の規定と同第二七条とはその内容を異に
するものであり、これを以て所論のように解釈する根拠とはなし得ない)。所論
は、規則第二七条の採捕を原判示のように解すると、同第六条との関係で不合理な
結果が生ずる旨を事例を示して主張するが、右主張は、規則第六条の誤解に基くも
のである。すなわち、同条は、同第三七条第一項第一号と合せて刑罰法規としてみ
れば、単に「知事の許可を受けないで…水産動植物を採捕した者は……に処す」と
いう趣旨であり、規則第二七条は一般的禁止規定であるのに対し、同第六条は知事
の許可なき場合の禁止規定であると解すべきものであり、そうとすれば所論のよう
な不合理な結果を生ずるものではない(右判示から考えると、原判決が規則第六条
と同第二七条とが用語を使い分けしているとして、これを原判示の見解の論拠とし
ていることは誤りといわねばならない)。尚、所論は、原判示のように解するとき
は、取締面において、採捕するまで検挙できないで拱手傍観していなければなら
ず、又採捕した者が目的物を隠匿放棄して処罰を免れることとなつて不当である旨
主張するが、前者の場合、検挙、処罰まではできないにしても、法益を保護するた
めこれを規制する法的手段が必ずしもないわけではなく、又いずれも単に取締の難
易の問題にすぎないのであつて、原判示の解釈を非難すべき論拠とするに足りな
い。又所論は、原判示のように解するときは、漁具に目的物がからむか否かという
人為以外の偶然事象により犯罪の成否を決することとなり、法の適用上著しく公平
を欠く旨を事例を挙げて主張するが、右の如きは、結果の発生を要件とする犯罪に
つき未遂罪の定めのない場合一般に起る事柄であつて、これを所論の見解の根拠と
することは、本末顛倒のそしりを免れないのであり、これも亦原判示の解釈の反論
たり得ない。右説示したとおりであつて、本件の採捕の解釈につき、目的論的解釈
によつて所論のように拡張解釈すべき必要性と相当性があると認めることができな
い。又法第二五条及び規則第二七条について未遂罪の刑法総則規定の適用を排除す
る趣旨も亦認められない。
 以上を総合すると、法第二五条及び規則第二七条にいう採捕につき所論のように
解釈することは、合理的根<要旨>拠なく刑罰法規の語句の定型的解釈方法を逸脱す
る不当な拡張解釈であるというべく、右採捕とは、原判示と同じく、とらえ
ること乃至は未だ現実にとらえていなくても、容易にとらえ得るような、換言すれ
ば、自己の実力支配内に入れたと認められるような状態に置くことを意味するもの
と解するのを相当と認める。その他所論(判例理論についての主張を含め)に鑑み
検討しても、原判決に所論のような法令適用の誤りがあるとは認められない。論旨
は理由がない。
 よつて、本件各控訴は理由がないから、刑事訴訟法第三九六条によりこれ等をい
ずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 脇田忠 判事 高橋幹男 判事 環直弥)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛