弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審の訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 論旨は先ず原判示第一乃至第五の事実はいずれも被告人がA又はBその他の者と
共謀して犯したものでなく、単に同人等の犯行を容易ならしめて幇助したに過ぎな
いのであると主張する。しかし原判決挙示の証拠を綜合すると被告人は原判示第一
乃至第四の事実についてAと共謀し、第五の事実についてはB、C、D等と順次連
絡協議の上共謀して原判示の如き犯行を行つたことが明らかであつて、記録を精査
するも被告人が所論の如く単にA又はBその他の者の犯行を容易ならしめて幇助し
たに過ぎないものとは認め難い。次に論旨は原判示第六の事実は被告人が株式会社
E銀行F支店の次長をしていたGに対し金員を供与したというのであるが、Gは手
形の支払保証をする権限がないので唯個人としてGに手形の支払保証をして貰い、
その謝礼として金員を贈与したのであるから贈賄罪は成立しないと主張する。よつ
て記録を調査するとGは原審及び当審において証人として、自分は株式会社E銀行
F支店の次長をしていたが自分が被告人の依頼により手形に支払保証をしたのはG
個人としてしたのであつて、肩書に銀行名のゴム印を押したのは住所を表示するた
めであり、被告人より受領した金員は個人として受領したものであると供述してい
るが、Gが本件手形に支払保証をするに当り自己の記名捺印の肩書に株式会杜E銀
行F支店と刻した同支店のゴム印を押印したことが明らかであるから、右保証は単
にG個人としてしたものではなく同支店次長たる資格において同支店長を代理して
いたものと認めるのが相当である。また記録中の株式会社E銀行総務部長H提出の
答申書及び同銀行人事部長I作成の行員G勤務経歴に関する件と題する書面による
と同銀行においては、手形の支払保証をすることは銀行業務の一部であつて本店に
対し正規の稟議承認を経た後支店長名を以て手形保証を行つてきたが、終戦後の社
会混乱時一般に不正規の越権行為による手形保証又は偽造手形保証問題が頻発の傾
向にあり、該当事件発生の事実があつたので、昭和二十三年十一月十一日付業例第
二九三号業務部長通達により、尓後頭取の調印なきものは無効とし右必要起りたる
ときはその都度業務部に頭取調印を依頼する手続をとられ度く、尚右通達に違反し
てなしたる行為については断乎たる処置をとる旨達したことが認められるが、手形
の支払保証をすることは銀行業務に属することは一般に公知の事実であるばかりで
なく記録上も明らかなところであり、また銀行の支店長は支配人でなくてもその支
店の営業に関しては支配人と同一の権限を有するものと看做され、裁判上の行為を
除き営業主に代り一切の行為をなす権限を有し、しかも支配人の代理権を加えた制
限はこれを以て善意の第三者に対抗することを得ないことは商法第四十二条第三十
八条の規定するところである。而して株式会社E銀行の内部規定によれば支店の次
長は支店長に参与し、これを補佐して所管の事務を処理する職責を有し、尚同銀行
F支店においては支店長は同銀行J支店長Kが兼務し常時不在のため、次長<要旨>
たるGが事実上支店長の事務を処理していたことが記録上明らかであるから、たと
え前記の如く銀行の内部通達により手形の支払保証をなす権限が支店長にな
く頭取のみこれをなし得るものと定められていたとしても、支店長が右通達に反し
てなした手形の支払保証を以て支店長の権限外の行為として善意の第三者に対抗す
ることを得ないのであり、従て支店次長が支店長に代つてなした手形の支払保証も
亦これを権限外の行為として善意の第三者に対抗することを得ない筋合である。故
に株式会社E銀行F支店長は対外的には法律上手形の支払保証をする権限を有し同
支店次長は右支店長の職務を代行する権限を有していたものと認めるべきである。
然らば右の如き権限を有する支店次長たるGに対し支店長に代つてなした手形の支
払保証に対する謝礼として金員を贈与するときは贈賄罪を構成するものと解すべき
である。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 工藤慎吉 判事 渡辺辰吉 判事 江崎太郎)

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