弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役拾五年に処する。
     原審竝びに当審における訴訟費用は、全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は被告人並びに弁護人菅野虎雄及び原審検察官伊藤嘉孝各自作成
名義の控訴趣意書記載のとおりであるからいずれもこれを引用する。
 検察官の控訴趣意第一点及び第二点について、
 被告人に対する本件公訴事実の第一は、被告人は一定の職業なく無為徒食して金
銭に窮していたものであるが、昭和二十八年七月二十五日午前一時十分頃、三養基
郡a町大字b町c番地A方に窃盗の目的を以て侵入し屋内にて金品を物色中、家人
に発見されたためその目的を遂げず逃走し、右A方より南東約百米位の同郡d村大
字e字f町B所有の水田附近まで引返えした時後方より追跡してきた鳥栖地区警察
署田代警部補派出所刑事係巡査C(当時三十八年)に誰何され、慌てて逃げのびん
としたるも組付かれ将に同巡査より現行犯人として逮捕されようとしたところ、こ
れを免かれるため、右水田中において約十五分間にわたり抵抗格闘を続けるうち、
同巡査の執拗なる逮捕を免かれんとして突嗟に、寧ろ、同巡査を殺害するに如かず
と決意するに至り渾身の力を以て水田中に同巡査を組み敷き半ば乗りかかるように
して、両手を以て同人の後頭部を力任せに押えつけてその顔を泥中に没せしめたま
ま、苦しみもがくもその手を緩めなかつたため、遂に同日午前三時頃その場におい
て同巡査を窒息死に至らしめ、以て殺害して同巡査の公務の執行を妨害したという
のであつて、強盗殺人罪と公務執行妨害罪の起訴事実であるのに対し、原判決は、
(一)強盗殺人のは、被告人のC巡査に対する逮捕を免かれるための殺害行為は窃
盗未遂の現場でなされたものでないことは勿論、その窃盗の機会継続中に行われた
ものとは認められないとしてこれを窃盗未遂(これを公訴事実第二の常習特殊窃盗
の一部と認定)と単純殺人の併合罪として認定し、(二)公務執行妨害の点は、C
巡査が被告人を逮捕しようとした行為は適法な職務の執行行為とはいえないので、
公務執行妨害罪は成立しないとしていることは所論のとおりである。
 そこでまず、被告人の本件所為が、強盗殺人罪を構成するものであるかどうかの
点を検討すると、原判決挙示の証拠によると、被告人は家族や、近所の者に対し、
久留米市内の新聞社に記者として夜間だけ勤務しているような風を装つていたが、
その実一定の職もなく、無為徒食して金銭に窮したため原判示第一のとおり昭和二
十八年五月下旬頃から同年七月二十二日頃までの間、二十三回に亘り、いずれも午
前一時頃から午前三時頃までの深夜、肩書居町や隣接町村で常習として他人の住居
に侵入し、屋内で食糧品や日用雑貨等の窃盗を続けていたものであるところ、同年
七月二十四日夜も出動するような風を装つて久留米市に行き、そこでパチンコ遊技
などをして遊んでの帰途、同夜十一時半過ぎ頃、鳥栖駅に下車したとき、窃盗をし
ょうと思いたち、地理に詳しい判示a町方面に行く途中、道路沿いの杉木立の間
に、下駄を列べ、その上、ぬいだ看物を帯でしばつておき、褌一つの裸姿で、はだ
しとなり懐中電燈と風呂敷一枚を携えてa町大通りを横切り露地から裏に廻わつ
て、翌二十五日午前一時十分頃判示A方裏口から屋内に侵入して同家八畳の間で金
品を物色中、家人に発見されたため、一物をも得ずに逃げ出して、元きた道を約百
米位引き返えし、同町D工場附近の崖下で一時間ばかり休んで、さらに他家に窃盗
に這入ろうかどうかと考えたが結局、今夜は止めて自宅に帰ろうと思い、前記のと
おり褌一つの裸姿ではだしのまま、空風呂敷を首にかけ、手に懐中電燈を携えて犯
行後、約一時間半位経過した頃そこから東方に約百数十米位距てた昼なお淋しい小
道を歩いていたところ、後方から判示C巡査から懐中電燈で照らされ、振り返える
と同時に「誰か」と声を掛けられるや、直ちに逃走し、同巡査に追跡されて南東の
方に低くなつている段々畑をつつきり、約八十米走つて判示水稲田の中に逃げこん
だとき、追跡してきた同巡査に組付かれ、そこで約十五分間にわたり格闘を続ける
うち、殺意を生じ判示のとおりの方法により遂に同巡査を殺害した事実、そして判
示A方家人は被告人が逃走した後、これを追跡することもなく、ただ妻Eが、同日
午前二時頃自宅から約百米位距てた田代町警部補派出所に赴きC巡査に対し、金品
は盗まれなかつたが自宅に泥棒が這入つた旨の届出をしたので同巡査は、十数分
後、私服で同人方に行き、約二十分位被害状況を調査して、同家裏口附近のぬかる
みの地面や、座敷の畳などについていた足跡を調べてそれが素足の足型であること
を確かめ、且つ、Eから犯人の人相、風体、背格好こそきかなかつたが犯人が懐中
電燈を携えていることを聴き知つた上、「一応この附近を捜してみよう、泥棒を捕
えたらまた忙しい、上町から一廻して来る」と言い残して、同日午前二時三十分す
ぎ頃、同家を辞して犯人の捜査に出掛けて行つた事実を認定することができる。
 <要旨第一>ところで、刑法第二百三十八条にいわゆる準強盗罪における暴行又は
脅迫は、窃盗の現場又は、その機会の継続中においてなされることを要
するものと解すべきであるから、本件において準強盗による強盗殺人罪の成立する
ためには、逮捕を免かれるために被告人のした殺害行為が、判示窃盗未遂の犯行の
現場又はその機会の継続中になされたものでなければならないところ、前認定の事
実によつて明らかなとおり被告人は窃盗の未遂に終つた犯行現場のA方から約百米
位距てた判示D工場附近の崖下まで逃げたとき、別に被告人を窃盗犯人として追跡
してきた者もなく、そこで一時間位も休んで窃盗を断念して帰りがけ、さらに、そ
こから百数十米位はなれた判示地点にさしかかつた際、届出によつて窃盗未遂の犯
罪の発生を知り犯人を捜査中、たまたまそこを通り合わせた判示C巡査に誰何され
て逃走し、逮捕を免かれるために同巡査を殺害したものであつて、被告人の該殺害
行為は判示窃盗未遂の犯行の現場でなされたものでないことは勿論、右犯行の現場
から窃盗犯人として追跡をうけているときになされたものではなく、到底窃盗未遂
の犯行の機会継続中においてなされたものとも認めることができないので、被告人
の右所為は逮捕を免かれるためになされた殺害行為ではあつても、これを以て所論
のように準強盗による強盗殺人罪を構成するものということはできない。してみれ
ば原判決が被告人の右所為を窃盗未遂(判示第一の常習特殊窃盗の一部)と単純殺
人の二罪に分けて認定したことは正当であり所論のように事実を誤認し又は法令の
適用を誤つた違法は存しない。この点の論旨は採用するに由ない。
 つぎに被告人の本件C巡査を殺害した行為が同時に公務執行妨害罪をも構成する
ものであるかの点について案ずるに、誰何されて逃走しようとした者が、罪を行い
終つてから間がないと明らかに認められるときはこれを現行犯人とみなして、何人
ても逮捕状なくしてこれを逮捕することができることは、刑事訴訟法第二百十二条
第四号、第二百十三条の規定するところであるから、右の場合、司法警察職員たる
司法巡査が、逮捕状なくしてこれを逮捕することは、その適法な職務の執行行為で
あること、もとより多言を要しないところである。
 <要旨第二>ところで、前段既に認定した事実によつて明らかなとおり、C巡査は
届出により判示A方に窃盗未遂の犯罪の発生したことを知り、犯人はは
だして懐中電燈を携えていることを唯一の手懸として犯人捜査中、右犯行後、間も
ない約一時間半位を経過した頃、犯行の現場から二百数十米位しか離れていない昼
なお淋しい地点において、午前二時半過ぎ頃の深夜、夏とはいえ褌一つの裸体で首
に空風呂敷をかけ、しかも手懸りどおり、はだしで懐中電燈を携えた異様の風体を
して歩いて行く被告人の姿を目撃して誰何したところ被告人が突如逃走しようとし
たので、てつきり前記窃盗未遂の犯人と認めて追跡しこれを逮捕しようとしたので
あつて、この場合、誰何されて逃走しようとした被告人は諸般の情況からみて、罪
を行い終つて間がないものと明らかに認められ、現行犯人とみなさるべきものであ
るから、C巡査が被告人を逮捕しようとした行為は前示説明したところにより準現
行犯人の逮捕として同巡査の適法な職務の執行行為であることが明らかである。そ
して原判決挙示の証拠によると、なお、被告人は、判示地点においてCが深夜、自
分を誰何し、判示のとおり約八十米も追跡して水稲田の中でも飽迄逮捕しようとし
たことなどから、同人は私服ではあるが、警察官であるかもしれないとの未必的認
識を有していたことが認められるから右C巡査の逮捕行為に対し判示のとおり暴行
を加えて同巡査を殺害した被告人の所為は、殺人罪の外、これと競合的に公務執行
妨害罪をも構成するものといわねばならない。
 しかるに、原判決が本件の場合、被告人を本来の意義における窃盗の現行犯人と
認め得ないことは勿論、窃盗の犯罪を犯して間がないことが明白なものとして準現
行犯人と認めることも妥当でないと解した結果、C巡査としては被告人に対し、職
務質問をするのは格別、これを現行犯人として逮捕する権限がないので、逮捕しよ
うとした行為は適法な職務の執行行為といい難いとして結局、公務執行妨害罪の成
立を否定したのは、法令の解釈適用を誤つた結果、事実を誤認するに至つたもの
で、その誤が原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから原判決はこの点におい
て刑事訴訟法第三百九十七条第一項、第三百八十二条に則り破棄を免かれない。論
旨は理由がある。
 被告人の控訴趣意について、
 しかし、記録を精査しても、原判示犯罪事実認定の証拠に供された被告人の司法
警察員に対する各供述調書中の供述が、所論のように、司法警察員の誘導若しくは
詐術によつてなされ又は強制、脅迫などによつてなされた不任意の供述を録取した
ものであることは認められないので、これを証拠に採用したことに少しも違法の点
はない。そして原判決の挙示した証拠を綜合すると、被告人が判示A方で窃盗未遂
の犯行をしたこと、判示のような経緯で判示C巡査に誰何さるや逃走し判示水稲田
の中で、追跡してきた同巡査に組付かれて逮捕を免かれるために格斗中、殺意を生
じて判示のとおり同巡査を死に致して殺害した事実を認めることができるし、記録
を調べても、右の事実に誤はないので、被告人の控訴は理由がない。
 以上説明したところにより検察官の控訴は理由があるので検察官並びに弁護人の
量刑不当の主張に対する判断を省略して原判決を破棄した上、刑事訴訟法第四百条
但書に従い、更に判決をすることとする。
 当裁判所の認定した事実竝びに証拠は、原判示第二の事実中、「同日午前三時前
頃」とあるを「同日午前二時三十分過ぎ頃」、と「後方より国警佐賀県鳥栖地区警
察署田代警察部補派出所勤務巡査Cに誰何されたので、逮捕されるものと直感し、
東南方に約八十米逃走した後」とあるを、「後方から右犯罪の発生を知つて犯人捜
査中の国警佐賀県鳥栖地区警察署田代警部補派出所勤務の巡査Cに誰何されて逃走
するや、同巡査において諸般の情況から右犯罪の現行犯人とみなし、逮捕しようと
して追跡してきたため、東南方に約八十米逃走して、」と竝びに末尾に「以て殺害
し」とあるのを「以て殺害するとともに同巡査の公務の執行を妨害し」とそれぞれ
訂正する外、原判示各事実竝びにその証拠と全く同一であるからこれを引用する。
 そこで、右の事実に法律を適用すると、被告人の判示所為中第一の常習特殊窃盗
の点は、盗犯等の防止及処分に関する法律第二条第四号(刑法第二百三十五条及び
その未遂罪)に、第二の殺人の点は刑法第百九十九条に、公務執行妨害の点は同法
第九十五条第一項に該当するが、殺人と公務執行妨害とは一個の行為で数個の罪名
に触れる場合であるから、同法第五十四条第一項前段第十条に則つて重い殺人罪の
刑に従い、所定刑中、有期懲役刑を選択し、以上は同法第四十五条前段の併合罪で
あるから、同法第四十七条本文第十条により、犯情の重い殺人罪の刑に同法第十四
条の制限に従つて法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人を懲役十五年に処し、
原審竝びに当審における訴訟費用は、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により被
告人をして全部これを負担させることとする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 西岡稔 判事 後藤師郎 判事 大曲壮次郎)

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