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裁判例


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平成16年(ワ)第274号未払賃金請求事件
(口頭弁論終結日平成18年6月30日)
判決
当事者別紙当事者目録記載のとおり(省略)
主文
1被告は,別紙「資料(6)資料(1)∼(5)の合算分」記載の番号1ないし39
の各原告に対し,同「差額として控除された合計金額」欄記載の各金額をそ
れぞれ支払え。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1請求の趣旨
主文同旨
2請求の趣旨に対する答弁
(1)原告らの請求をいずれも棄却する。
(2)訴訟費用は,原告らの負担とする。
第2事案の概要
本件は,私立学校を経営する学校法人である被告と労働契約を結んでいる教
職員である原告らが,被告に対し,被告が平成15年冬期賞与,同年12月給
与,平成16年1月給与及び同年2月給与を違法に減額し,その一部しか支払
わなかったとして,その差額の支払いを求めた事案である。
1前提事実
(1)当事者等(証拠が引用されていない事実は当事者間に争いのない事実で
ある)。
原告らは,いずれもA学院中学校及び高等学校に在籍する教職員で構成さ
れるA学院教職員組合(以下「教職員組合」という)の組合員である(甲。
3。)
被告は,幼児教育,中等普通教育,高等普通教育及び専門教育を施すこと
を目的に,A学院幼稚園,A学院中学校,A学院高等学校及び九州A学院大
学を設置する学校法人である。なお,被告の名称は,平成13年3月31日
まで,学校法人九州B学院であった。
(2)団体交渉及び賃金引下げの経緯
①教職員組合は,被告に対し,平成15年1月17日付の「団体交渉開催
の申し入れをもって団体交渉の開催を申し入れ同年3月31日付の団」,「
体交渉開催の申し入れ」で前歴換算問題など3項目について再度交渉を申
し入れた。教職員組合と被告は,上記問題について,同年7月2日から団
体交渉を開始し,その後,同月25日,9月2日,同月10日,10月2
0日及び11月11日に団体交渉を行った。
その間,教職員組合は,同年11月5日付で「団体交渉開催要求書」を
被告に提出して,平成14年度,平成15年度の人事院勧告に伴う給与に
関する件について,団体交渉を申し入れた。
これに対し,被告は,教職員組合に対して,同年11月10日付の「今
年度の給与改定について」と題する書面を送付して,同年8月8日の人事
院勧告に伴い,同年12月より給与の改定を行う旨を通知した。
②そして,同年11月27日に開催された教職員組合及び被告との団体交
渉の席上で,教職員組合は,教職員組合代理人である原告ら代理人作成の
同日付「意見書」を提出し,給与規定の不利益変更の問題点,給与全額払
いの原則と調整的相殺の問題点をそれぞれ指摘した。
これに対して,被告代理人は,教職員組合の上記「意見書」に対して,
給与引下げの根拠についてはきちんと説明しなければならないことを認め
たが,当日,被告は資料の準備ができておらず,被告から給与引下げの必
要性について,具体的な説明は行われなかった。
③被告は,同年11月28日,被告事務局長名で「今年度の給与改定につ
いて」と題する書面を職員室の黒板に掲示した。
そこで,教職員組合は,被告に対して,人事院勧告に伴う給与引下げを
撤回するように申し入れたが,被告は「組合との妥結までの仮支給」と,
して,別紙「資料(1)2003年冬期賞与分」の「差額として控除された
金額」欄記載の金額を,原告らの平成15年冬期賞与からの引下げ分とし
て相殺を行った。
そして,被告は,平成15年12月給与,平成16年1月給与及び2月
給与について,それぞれ,別紙「資料(2)2003年12月給与分,別」
紙「資料(3)2004年1月給与分,別紙「資料(4)2004年2月給与」
分」の各「差額として控除された金額」欄記載の金額を,それぞれ引下げ
分として給与から相殺した上で支給したため,教職員組合は,被告による
給与引下げに対する抗議を行った。
本件引下げにより,原告らが冬期賞与から控除された金額は,別紙「資
料(1)2003年冬期賞与分」の「差額として控除された金額」に記載の
とおりであり,最高額は18万6724円,最低額は6万8205円であ
る。なお,控除された金額は,平成15年4月の給与から同年10月の給
与までの引下げ額の合計である。
④また,被告は,育児休業中の教職員組合員(原告28及び同34。以下
「育休職員」という)については,別紙「資料(5)産休期間中の給与分」。
の「差額として控除された金額」欄記載の金額を,人事院勧告に伴う給与
引下げ分として被告に送金するように求め,育休職員はそれぞれ差額分の
送金手続を行った(以下,平成15年冬期賞与,同年12月,平成16年
1月及び同年2月の各給与について,被告による引下げ分の相殺及び返還
請求について「本件引下げ」という。,。)
2争点
(1)本件引下げの違法性の有無
(原告らの主張)
①就業規則の不利益変更に該当すること
給与の改定(引下げ)は,就業規則としての性格を持つ学院給与規定の
,,不利益変更に該当するところ不利益変更を伴う給与の改定にあたっては
手続面及び内容面から,それぞれ検討されなければならず,特に内容面に
ついては,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容する
ことができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるこ
とが必要とされる(最高裁判所第一小法廷平成12年9月7日判決・民集
54巻7号2075頁。)
被告は,本件引下げに際し,人事院勧告に準じて本件引下げを実施する
というだけの説明しかなく,上記「高度の必要性」に関しては,平成15
年11月27日に開催された団体交渉の席上でも明らかにされなかった。
したがって,教職員組合の同意がないもとで,本件引下げを行うことは
就業規則の不利益変更に該当し,違法である。
②本件協約に違反すること
平成11年12月28日に教職員組合と被告が締結した協約(以下「本
」。)「。」件協約というの人事院の定めたものに準拠することを原則とする
,,,という文言は以下のとおり不利益変更禁止を内包するものであるから
本件引下げは,本件協約に違反し違法である。
被告において,平成10年4月から事務・技労職の給与引下げが実施さ
,,,れたため教職員組合は労使間の話し合いによる解決を求めたが被告は
教職員組合の要求を一切受け入れなかった。そこで,教職員組合は,平成
11年1月,熊本県地方労働委員会(以下「地労委」という)にあっせ。
んの申立てを行い,同年7月,地労委から「労使双方は,給与規定にお,
ける運用原則について,早急に労働協約を締結すること」という提案を。
盛り込んだあっせん案が提示された。これを受けて,同年12月28日,
教職員組合と被告は「覚え書き(甲27)を取り交わし,また,本件協」
約を締結した。このような経緯のもと,本件協約が締結されたのであり,
教職員組合としては被告による一方的な給与引下げを防止するとともに,
一定の給与水準を維持する限度で,人事院勧告に準拠する運用原則に了解
したのである。
したがって,教職員組合は,被告との間で,労働条件の不利益変更に該
当する給与引下げを容認するために,人事院勧告に準拠するという本件協
約を締結したのではない。
なお,本件協約中「準拠することを原則とする」という意味は,労働。
者の労働条件の不利益変更については,別途教職員組合と被告とで,協議
するという意味合いを含んでいる。
③「確認事項」に違反すること
本件引下げは,学院給与規定第3条基本給のうち,2高校教諭ないし3
技労職員(寮務を含む)の基本給に関する第3条別表(2),(3)及び(4)。
の不利益変更に該当する。そして,教職員組合と被告との間で,新たな労
働協約として締結された「確認事項(甲25)は「理事会側と組合は,」,
規定集のうち,労働条件の不利益変更を含む内容については,誠意をもっ
て,協議を行い,合意に達するように努力する」と定めており,本件引。
下げは労働組合と被告との協議によって解決しなければならない事項であ
り,本件協約を根拠に一方的に引き下げられるものではない。
したがって,本件引下げは「確認事項」に反するものであり,違法であ
る。
④権利の濫用に該当すること
本件協約中「人事院の定めたものに準拠することを原則とする」と,。
されているにもかかわらず,国家公務員に認められた特別昇給などについ
て被告は一切これを採用しないなど,国家公務員の労働条件を原告らに保
障せず,逆に労働条件の切下げにつながる部分だけについて人事院勧告を
援用する被告の行動は,労使間の信義に反するものであり,本件協約を根
拠に給与を一方的に切り下げることは権利の濫用に該当する。
(被告の主張)
そもそも,被告は,被告の学院給与規定を変更して本件引下げを実施した
ものではないから,就業規則による不利益変更には該当しない。
そして,本件協約においては「本学院における給与規定の運用は,人事,
。」,院の定めたものに準拠することを原則とするとされているのであるから
被告が労働協約にしたがって人事院勧告の基準によることは,原告らとの契
約に従ったことであり,何ら違法はない。
そして,平成15年8月,人事院は同年の月例給の引下げ(1.1パーセ
ント,期末・勤勉手当の引下げ(1.5パーセント)を勧告したのである)
から,被告は本件協約の実行として,この勧告にならい本件引下げを行った
のであるから,原告らの請求には理由がない。
なお,本件協約は給与の改定についての運用を定めたものであるから,原
告らの給与が全て国家公務員と同じでなければならないということにはなら
ず,この点からも原告らの主張には理由がない。
(2)本件引下げの方法・時期等が違法であるか
(原告らの主張)
労働基準法24条1項は賃金全額払いの原則を定めているところ,使用者
が,労働者の債務不履行や不法行為を原因とする損害賠償債権を自働債権と
して,労働者の賃金債権と相殺することは許されない。
また,過払い賃金の清算のための調整的相殺については,過払いのあった
時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期において
なされ,また,あらかじめ労働者に告知されるとかその額が多額にわたらな
いとか,労働者の経済生活の安定を脅かすおそれにないときに限り許容され
る(最高裁判所第一小法廷昭和44年12月18日判決・民集23巻12号
2495頁。)
本件引下げに伴う調整的相殺は,平成15年4月分の給与から11月分の
給与まで遡って調整を行うものであり,合理的に接着した時期になされる調
整とはいい難い。また,その額も平成15年冬期賞与分については,最高で
18万6724円,最低でも6万8205円に及んでおり多額にわたる相殺
が行われている。さらにその後,平成15年12月分から毎月「組合との,
妥結までの仮支給」と称して調整的相殺が続けられており,労働者の経済生
活の安定を著しく脅かしている。
したがって,被告の調整的相殺は,労働基準法が定める賃金全額払いの原
,,,則に反するものでありまた労働者の経済生活の安定を脅かすものであり
違法である。
(被告の主張)
平成15年の人事院勧告は同年8月8日に出されたが,同年4月から実施
日の前日までの分を12月期の期末手当の額で調整するとしており,被告も
かかる人事院勧告に従って調整を行ったのであるから,原告らの主張には理
由がない。
また,被告は,同年11月28日,給与改定・引下げとなることを予め原
告らを含む教職員に通知している。
第3当裁判所の判断
,(,,,,1前記前提事実に加え本件証拠甲124ないし2325ないし29
,,,,,,,31ないし33374041ないし576566乙1ないし14
証人C,原告31,同12)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実を認め
ることができる。
(1)本件引下げに至るまでの経緯等
①被告による規範類の差し替え,差し込みによる給与規定等の変更
被告は,昭和61年10月30日,教職員組合との間で,中学校・高等
学校教諭給については,熊本県人事委員会の給与勧告表,教育職(二)表の
2級を適用することなど6項目について確認を行った。被告は,被告教職
員の賃金及び諸手当支給については人事院勧告に準じて支給していたが,
賃金等については熊本県職員並みを原則としていたため,熊本県における
決定と人事院勧告とに差異がある場合には後日清算していた。
その後,被告は,平成6年10月から,規則集もしくは規定集と題する
被告の規範類の配布を下記のとおり行い,これを「差し替え」や「差し込
み」することで,被告教職員の労働条件の変更を実施してきた。なお,か
かる「差し替え「差し込み」の際に,被告は,教職員組合との間で協」,
議などをすることはなく,また,かかる「差し替え「差し込み」につ」,
いて,労働基準監督署に対して届出を行っていなかった。

(一)第1回規則集平成6年10月配布
(二)第2回規則集平成7年1月配布
(三)第3回規則集平成7年4月配布
(四)第4回規則集平成7年6月配布
(五)第5回規則集平成8年配布
(六)第6回規則集平成9年配布
(七)第7回規則集平成9年配布
(八)第8回規則集平成9年11月配布
(九)第9回規則集平成9年配布
(一〇)第10回規則集平成10年4月配布
(一一)第11回規則集平成10年10月16日配布
(一二)第12回規則集平成10年10月配布
(一三)第13回規則集平成10年12月25日配布
(一四)第14回規則集平成11年配布
(一五)第15回規則集平成11年7月31日配布
(一六)第16回規則集平成12年9月30日配布
(一七)第17回規則集平成13年8月17日配布
(一八)第18回規則集平成14年3月20日配布
(一九)第19回規定集平成14年10月30日配布
②被告による被告事務職及び技労職の給与引下げ
当時,被告理事長であったC(以下「C」という)は,教職員組合に。
対し「学院の給与体系につき点検を進めておりましたが,同体系につき,
ましては,構造的に矛盾を抱き,ひいてはそうした矛盾が財政破綻の原因
のひとつとなっているものと判断し,これの改正を本年度(H10)から
実施致します」としたうえで「前記に関係する事項は「事務職」及び,,
「技労職」に関する俸給表の「援用原則」の改正,即ち無条件の「県・準
拠」原則の修正に当たります」と書かれた平成10年3月10日付の「通
知」と題する書面(甲40)を提示した。
そして,同年4月から,事務・技労職の給与引下げが実施されたため,
教職員組合は,労使合意に基づく給与の改定を求め,被告との協議会で交
渉を続けたが,Cは同年9月28日の団体交渉の場において「合意に達,
せずとも実施しなければならないときもある。特に現在のB学院の経営は
破綻状態にあり今回の給与規定の変更は緊急の措置である。団体交渉にお
いては誠実に対応する」などと回答した。。
③教職員組合と被告間における「覚え書き」及び本件協約の締結
そこで教職員組合は平成11年1月地労委にあっせんの申立て熊,,,(
労委平成11年(調)第1号)を行った。
また,同年3月15日,教職員組合と被告との間で,県準拠の給与規定
の変更などの点について団体交渉が行われた。被告との団体交渉の中で,
教職員組合は「変更の合意なしに「人勧準拠」という表現が出てきたの,
は納得できない」などと述べたが,理事会は「教員に関しては,人事院。
の規定と県のものとは全く同じと言えるので,その意味では,文書で「人
勧準拠」という表現をしても問題はない。その方が給与の確認もしやす
い」などと回答した。。
地労委は,同年7月12日,上記あっせんの申立て事件において「あ,
っせん案(甲26)を提示し,その中には「学校は,今後,労働条件」,
の変更にあたっては,理事会開催日の少なくとも一月前に,組合に対して
事前説明を行うこと(第5項「労使双方は,平成11年4月に改定さ)」,
れた事務・技労職給与変更について,早急に団体交渉を行い,合意に達す
るよう努力すること(第6項「労使双方は,給与規定における運用原)」,
則について,早急に労働協約を締結すること(第7項」などの条項が盛)
り込まれた。
これを受けて,教職員組合と被告は,同年12月28日「5.学校の,
都合により,教職員の労働条件について変更を及ぼす場合においては,学
校は,当該労働条件について検討する理事会開催日の少なくとも1カ月前
,。」「」までに組合に対して事前説明を行うなどの条項を含んだ覚え書き
(甲27)を取り交わした。
また,同日,教職員組合と被告は本件協約を締結し,被告教職員の給与
水準の安定的な確保を図る旨合意した。
④教職員組合と被告間における「和解協定書」の締結
教職員組合及び被告との間で,平成12年9月25日,定年制と再雇用
制度,事務・技労職給について団体交渉が行われた。教職員組合は,事務
・技労職給の問題について「大幅変更のときは根拠を示して説明すべき,
だ」などと訴えたが,Cは「適正な表に戻しただけだ。特に技労職に。,
ついては適正化した」などと回答した。。
そこで,教職員組合は,同年12月,地労委に対して不当労働行為の救
済申立てを行った(熊労委平成12年(不)第3号。その結果,教職員)
組合と被告は,平成14年2月14日「和解協定書(甲28)を取り,」
交わし,その中で「なお,被申立人は,今後,組合に対し,学校の経営,
状況について適宜情報を示すとともに教職員の労働条件に変更を及ぼすよ
うな事項については,あらかじめ十分な事前説明を行って理解を求める。
(第3項」などと合意した。)
⑤教職員組合と被告間におけるその後の交渉経緯等
被告は,その後も,前記認定のとおり,規則集の「差し替え「差し」,
込み」という方法により,原告らの労働条件の変更を行ってきた。
教職員組合は,平成14年10月4日,Cに対し,労働条件が変更とな
る場合の手続について,団体交渉を行いたい旨,申し入れを行った。これ
,,,,「()に対し被告は同月10日被告事務局長D名で適当な速やかな
時期に事務折衝すること。必要に応じて次の段階として団体交渉をする。
なお,議題が「労働条件が変更になる場合の手続き」については団体交渉
の議題にふさわしくないと思料する」と回答した。。
その後,教職員組合及び被告との間で,同年11月21日,協議会を開
催し,教職員組合から,被告に対し,第18回規則集に記載の定年制など
4項目について質問がなされた。被告は,同年12月6日,上記質問につ
いて,教職員組合に文書にて回答を送ったが,教職員組合は,理解できな
い点が多数あるなどとして,被告に対し,同月17日,協議会の開催を申
し入れた。
そして,教職員組合及び被告との間で,平成15年2月25日,団体交
渉が行われたが,教職員組合は「平成10年12月28日付覚え書き以,
降の理事会による一方的変更を撤回し,労使合意を目指し協議する」との
内容で,さらに協議をしたいとのことで,被告に対し,同年3月31日,
再度団体交渉を申し入れた。
上記教職員組合からの申し入れから約3か月後の同年7月2日,教職員
,,「,組合と被告は団体交渉を行い教職員組合と被告理事会は理事会側は
覚え書き(1999年12月28日付)5.に定める手続によらずに,規
定集の差し替えという形で労働条件の変更を伴う規則改正の事実があった
ことを認める「理事会側は,覚え書き(1999年12月28日付)。」,
5.に定める手続によらずに,今後,規定集の差し替えという形で労働条
件の変更することを一切しない。理事会側と組合は,規定集のうち,労働
条件の不利益変更を含む内容については,誠意をもって,協議を行い,合
意に達するように努力する」などの事項について確認した。。
教職員組合は,平成15年11月5日付の「団体交渉開催要求書」を被
告に提出し,被告は,同月27日,給与改定問題に関する教職員組合との
団体交渉に応じた。被告代理人は,同日の団体交渉の席上において,就業
規則による労働条件の不利益変更については,手続的には教職員組合代理
人作成の意見書のとおりであると回答した。同月28日,被告は事務局名
「」。の今年度の給与改定についてと題する書面を職員室の黒板に掲示した
(2)平成9年から平成16年までの人事院勧告の内容及び被告における給与
等の改定
平成9年から平成16年までの人事院勧告の内容及びこれを受けた被告に
おける給与等の改定については,以下のとおりである。なお,昭和35年以
降の人事院勧告において,平成14年までいわゆるマイナス勧告がなされた
ことはなかった。
①平成9年
平成9年度人事院勧告においては,(ア)俸給表の改定(行政職(一)の初
任給アップ,(イ)扶養手当について,高校生・大学生の子がいる場合の)
加算額を,1人につき3000円を4000円とし,扶養親族でない配偶
者を有する場合の1人目の子等5500円を6500円とし,(ウ)期末・
勤勉手当について,3月期の期末手当の支給割合を,0.50月分を0.
55月分とする(年間支給割合5.20月分を5.25月分とする)など
とされた。
これを受けて被告は,上記(ア),(イ),(ウ)に従い改定した。なお,行
政職表は,原告において事務職及び用務職にあてられている。
②平成10年
平成10年度人事院勧告においては,(ア)俸給表の改定,(イ)55歳を
超える職員は,特別の場合を除き昇給停止,(ウ)扶養手当について,高校
生・大学生等の子がいる場合の加算額を,1人につき4000円を500
0円とするなどとされた。
これを受けて被告は,被告は上記(ア),(イ),(ウ)に従い改定した。
③平成11年
平成11年度人事院勧告においては,(ア)俸給表の改定(行政職(一)の
初任給の改定,(イ)期末・勤勉手当について,年間支給月数5.25月)
分を4.95月分とする,また,6月期2.20月分,12月期2.50
.,..,,月分を225月分3月期055月分を050月分とするさらに
来年度(平成12年)は,6月期2.50月分,12月期2.35月分,
3月期0.55月分とするなどとされた。
これを受けて被告は,被告は上記(ア),(イ)に従い改定した。
④平成12年
平成12年度人事院勧告においては,(ア)扶養手当について,子等のう
ち2人目までの手当額1人につき5500円を6000円とする(引上
げ,子等のうち3人目以降の手当額1人につき2000円を3000円)
(),,.とする引上げとされ(イ)期末・勤勉手当について年間支給月数4
95月分を4.75月分とする(0.2月分引下げ,12月期で引下げ)
るものとして,期末手当1.75月分を1.6月分とする,勤勉手当0.
6月分を0.55月分とするとされた。
これを受けて被告は,被告は上記(ア),(イ)に従い改定した。
⑤平成13年
,,平成13年度人事院勧告においては(ア)暫定的な一時金の支給として
俸給表の改定は行わず,当分の間,3月1日に在職する職員に対して原則
,,年額3756円の一時金を支給をすること(イ)期末・勤勉手当について
年間支給月数4.75月分を4.7月分とする(0.05月分引下げ,)
12月期の期末手当引下げとして,一般職員1.6月分を1.55月分
(0.05月分引下げ)とするなどとされた。
これを受けて被告は,被告は上記(ア),(イ)に従い改定した。
⑥平成14年
平成14年度人事院勧告においては,(ア)俸給表の改定として,引下げ
及び特例一時金(年間3756円)の廃止,(イ)扶養手当として,配偶者
に係る支給月額を引下げ(16000円を14000円とする,子等。)
のうち,3人目以降の支給月額を引上げ(3000円円を5000円とす
る,(ウ)期末・勤勉手当について,4.7月分を4.65月分に引下。)
げ(0.05月分引下げ)するなどとされた。
これを受けて被告は,被告は上記(ア),(イ),(ウ)に従い改定した。
⑦平成15年
,,平成15年度人事院勧告においては(ア)俸給表の改定として引下げを
(イ)扶養手当として,配偶者に係る支給月額を500円引下げ(1400
0円を13500円とする,(ウ)期末・勤勉手当等について,4.6。)
5月分を4.4月分とする(6月期の期末手当を1.55月,12月期の
期末手当を1.45月,6月期の勤勉手当を0.7月,12月期の勤勉手
当を0.7月)とされた。
これを受けて被告は,被告は上記(ア),(イ),(ウ)に従い改定した。
⑧平成16年
平成16年度人事院勧告においては,教育職俸給表の改定などがなされ
たが,被告はこれに基づく改定は見送った。
(3)被告の経営状況
平成11年から平成16年までの被告の財政推移状況は,別紙「財政推移
状況」のとおりであり,平成13年から平成16年までの被告のA学院中学
校,A学院高等学校における年度別消費収支等については,別紙「2001
年∼2004年度中高年度別消費収支比較表」のとおりである。
なお,帰属収入とは生徒・学生などの納付金その他の収入を合計したもの
をいい,消費収入とは帰属収入から基本金組入れを控除したものをいう。消
費支出とは,人件費及び経費等をいう。当年度消費収支差額とは,消費収入
から消費支出を控除したものをいい平成11年から平成16年までの間,平
成12年に100万円プラスとなったのみで,その他はマイナスである。帰
属収支差額とは,帰属収入から消費支出を控除したものをいい,平成11年
から平成16年まで10パーセント未満となっている。
2争点(1)について
(1)前記のとおり,被告における給与規定の運用については,平成11年1
2月28日の本件協約締結以降,人事院勧告の定めたものに準拠することが
原則とされ,平成15年まで,当該年度の人事院勧告に従って,被告教職員
の給与等の改定が行われてきたことが認められるまた被告の就業規則乙。,(
2)によれば,給与規定は就業規則の一部を構成し,給与規定(3条)によ
っても人事院勧告に従うものとされている(3条別表。)
また,前記認定のとおり,被告において,遅くとも昭和61年以降は熊本
県人事委員会の当該年度の給与勧告表に従って,被告教職員の給与が決めら
れてきたが,被告教職員の賃金及び諸手当を支給するに際しては,人事院勧
告に準じて支給し,熊本県の決定と人事院勧告とに差異がある場合には後日
清算していた。その後,被告において被告教職員の給与の準拠基準を熊本県
人事委員会から人事院勧告準拠に変更したが,これは人事院勧告がなされる
時期が一定であり基準として明確であること,熊本県人事委員会の給与基準
については文書等で基準を確認することが困難であったこと,教員の給与に
関しては,熊本県人事委員会による勧告と人事院勧告は同じであると被告が
認識していたことによるものであることなどの点からすれば,本件協約締結
前も被告において被告教職員の給与等については人事院勧告に準拠すること
を原則としてきたことが認められる。
なお,本件協約が締結された以降は,教職員組合及び被告とも被告におけ
る給与規定の運用については人事院勧告に準拠することを原則にして,被告
教職員の給与水準を維持していく旨の合意が形成されていたものと認められ
る。
(2)そして,人事院勧告は,物価の変動や一般職国家公務員給与の民間企業
におけるそれとの格差の有無・程度などの諸事情を勘案してなされるもので
あるから,その勧告内容は相応の客観的な根拠を有するものと評価すること
ができる。
しかし,同じく人事院勧告に準拠するといっても,その勧告内容の如何に
よっては労働者側にとっては大きな差が出現することになるのは見易いとこ
ろである。そして,昭和35年以来,人事院は一貫していわゆるプラス勧告
をしてきたのであり,人事院勧告の直接の対象である一般職国家公務員はも
とより,労働者側,使用者側,さらには国民一般においてもそのこと自体を
疑うようなことは絶えて無かったのである。そうすると,本件引下げをなす
に際して被告が準拠したとする平成15年度の人事院勧告のように,マイナ
ス勧告がなされるというような事態はおよそ想定されていなかったものと言
わざるをえず(平成14年度においてはじめてマイナス勧告がなされたこと
は,前記認定のとおりである,これらの事情からすると,教職員組合及。)
び被告が,本件協約を締結するに際し,人事院勧告においてマイナス勧告が
なされうることを前提にしていたものとまで認めることはできない。特に,
本件協約は,被告による事務・技労職の給与引下げが契機となって締結され
たという前記認定の経緯に照らすと,教職員組合が,本件協約において被告
教職員の給与減額までを容認していたと認めることはできない(甲45,4
6,原告12,同31。むしろ,教職員組合は,被告による給与を含む労)
働条件の不利益変更の防止を図ろうとしていたことが認められるのであるか
ら,本件協約もかかる経緯などを勘案して解釈しなければならない。
そうであれば,被告において,長年にわたって被告教職員の給与等につい
ては人事院勧告に準拠することを原則とした運用がなされてきたこと,さら
に本件協約が教職員組合・被告間で締結され,その後は人事院勧告に準拠し
て給与規定の運用がなされてきた事実が認められるものの,それは勧告内容
がプラス勧告であり,労働者側にとって相応の利益になるものであったが故
に,たまたま労働者側の個別の同意を得るまでもなかったというに過ぎず,
本件のようにマイナス勧告がなされた場合についてまで,安易にこれと同視
することは許されない。
そして,本件協約締結日に合意された「覚え書き」には「5.学校の都合
により,教職員の労働条件について変更を及ぼす場合においては,学校は,
当該労働条件について検討する理事会開催日の少なくとも1カ月前までに,
組合に対して事前説明を行う」とされていたが,理事会において「覚え書。
き」5.に定める手続によらずに規定集差し替えという形で労働条件の変更
を伴う規則改正の事実があったことから,平成15年7月2日においては,
教職員組合と被告理事会は「規定集のうち,労働条件の不利益変更を含む,
,,,。」内容については誠意をもって協議を行い合意に達するように努力する
旨の「団体交渉での確認事項」と題する労働協約が締結されていたことをも
考慮すれば,マイナス勧告がなされたからといって,被告が,安易にこれに
従い,労働者側の個別の同意を得ることなどをせずに,一方的に,原告らを
。,含む被告教職員の給与を減額することはできないというべきであるつまり
本件引下げは労働契約の内容を労働者に不利益に変更するものにほかなら
ず,それが有効であるためには,原則として個別に労働者側の同意がなけれ
ばならず,かかる同意がない場合においては,その減額が必要やむを得ない
ものであるなど合理的な理由があり,かつ相当であるなど,特段の事情が認
められなければならない。
(3)これを本件についてみるに,前記認定事実のとおり,本件引下げについ
ては,原告らを含む教職員組合の同意がなかったことは明らかである。
また,平成15年11月27日,教職員組合・被告間の団体交渉の場にお
いて被告代理人としても給与の引下げを実施するに際してその理由を説明し
なければならないことを認めながら,被告において給与引下げの必要性につ
いての説明がなされなかったことに照らせば,本件において上記特段の事情
が被告に存在したということは何ら認められないといわざるを得ない。
以上から,本件引下げは何らの理由もなく一方的に労働契約の内容を労働
者に不利益に変更する点で,違法なものである。
(4)また,前記のとおり,被告の給与規定は就業規則の一部を構成し,かか
る給与規定の第3条によれば「教員及び教職員の基本給は,次の各号につ,
いてこれを別表(第3条別表)に定める」とされ,第3条別表によれば,。
「.,「」,a給与に関わる各表はすべて毎年の人事院月報9月号に公示され
国会で決議されたところに拠って,これを援用する」とされており,本件。
引下げは就業規則を不利益に変更するものであるといえる(証人C。)
この点,就業規則の変更によって労働者の既得の権利を奪い,労働者に不
利益な労働条件を一方的に課することは,原則として許されないが,当該規
則条項が合理的なものである限りその適用が認められるところ,当該規則条
項が合理的であるか否かを判断するに当たっては,就業規則の変更が,その
必要性及び内容の両面からみて,それによって労働者が被ることになる不利
益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を
是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい,特に,
賃金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼ
す就業規則の変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法
的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた
合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずるものというべき
である(最高裁判所第一小法廷平成12年9月7日判決・民集54巻7号2
075頁参照。)
これを本件についてみるに,前記認定のとおり,被告は,本件引下げに際
し,人事院勧告に準じて本件引下げを実施するというだけの説明しかなく,
何ら本件引下げの理由については団体交渉等の場において説明を行っていな
いことからすると,本件引下げは,就業規則の不利益変更の点からも違法で
あることを免れない。
3争点(2)について
次に,被告は,本件引下げの方法・時期等については人事院勧告に準じて実
施したものであること,実際の支給額も労働者の経済生活を脅かすものではな
いことなどから,違法ではない旨主張する。
しかし,被告が人事院勧告に準拠したと強調する引下げ方法等については,
法律(一般職の職員の給与に関する法律)で,その支給すべき俸給等が定めら
れる一般職国家公務員の場合には,その改定時期をいつからと定めるかは,国
会の法律案の議決で決められるが,民間給与を決定する場合にも,それが当然
合理性を持ちうることにはならない。この場合には,労働条件を遡って不利益
に変更出来るかという問題に直面せざるを得ず,しかも,その金額自体は全体
の額からすれば僅少にとどまるとは言い難いことからすれば(平成15年冬期
賞与においては,別紙「資料(1)2003年冬期賞与分」に記載のとおり,原
告らにもたらされた減額額は多額のものであって18万6724円(原告2)
,.()。),であり割合にして最も多いもので約193パーセント原告5である
そのような調整をすることが許されるためには,さらに特段の事情が必要であ
ると考えられる。
然るに,被告は,人事院勧告に準拠したということ以上には何ら特段の事情
を主張せず,それだけでは上記のような引下げ方法等を合理的なものであると
,(,することができないことは前記判示のとおりである以上の各争点について
福岡高等裁判所平成17年8月2日判決・判例タイムズ1213号143頁参
照。。)
4結論
以上によれば,本件引下げは,原告らの個別の同意を得ることもないまま,
また,そのような結果もやむを得ないとするだけの特段の事情も認められない
にもかかわらず,平成15年度の人事院勧告に従って,給与規程に基づく給与
の減額改定をした上,さらにはそれを4月に遡らせるという労働者にとって不
利益(減額)をもたらす結果となる内容の平成15年度の人事院勧告に漫然と
従って支給したという点において違法かつ無効であるものと言わなければなら
ない。
第4結論
よって,原告らの請求は理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負担につ
き民訴法61条に従い,主文のとおり判決する。
熊本地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官亀川清長
裁判官川野雅樹
裁判官結城真一郎
(別紙省略)

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