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裁判例


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主文
1本件訴えのうち,東京入国管理局長が原告に対し平成18年11月7日
付けでした原告の在留を特別に許可しない決定の取消しを求める部分を却
下する。
2東京入国管理局長が原告に対し平成18年11月7日付けでした原告の
出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出が理由がない旨
の裁決を取り消す。
3東京入国管理局主任審査官が原告に対し平成18年11月7日付けでし
た退去強制令書発付処分を取り消す。
4東京入国管理局長は,原告に対し,原告の在留を特別に許可せよ。
5原告のその余の請求を棄却する。
6訴訟費用は,これを4分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の
負担とする。
事実及び理由
第1請求
1東京入国管理局長が原告に対し平成18年11月7日付けでした原告の在留
を特別に許可しない決定を取り消す。
2主文第2項と同旨
3主文第3項と同旨
4東京入国管理局長は,原告に対し,在留資格「日本人の配偶者等,在留期

間3年との条件を附して,原告の在留を特別に許可せよ。
第2事案の概要
本件は,ガーナ共和国(以下「ガーナ」という)国籍を有する原告が,本

邦に不法残留したことに基づく退去強制手続において,法務大臣の権限の委任
を受けた東京入国管理局長(以下「東京入管局長」という。また,東京入国管
理局を「東京入管」という)から,出入国管理及び難民認定法(以下「法」

という)49条1項に基づく異議の申出が理由がない旨の裁決を受け,東京

入管主任審査官から退去強制令書発付処分を受けたことについて,上記裁決及
びこれに伴ってされた在留特別許可をしない決定には,原告が日本人女性と内
縁関係にあることなどの事情を看過して裁量権を逸脱,濫用した違法があり,
上記裁決を前提とする退去強制令書発付処分も違法であると主張し,これら各
処分の取消しを求めるとともに,在留特別許可の義務付けを求めた事案である。
1前提となる事実(各掲記の証拠により認められる)

(1)原告は,▲(昭和▲)年▲月▲日,ガーナにおいて出生したガーナ国籍
を有する外国人男性である(甲20,25,乙20)

(2)原告の入国及び在留状況等
ア原告は,昭和63年5月11日,成田空港に到着し,平成元年法律第7
9号による改正前の法4条1項4号に規定する在留資格(短期滞在」に

相当,在留期間15日の上陸許可を受けて本邦に上陸し,その後在留期

間15日の在留期間更新許可を受けたが,同年6月10日の在留期限を超
えて本邦に不法残留した(乙1,12)

イ原告は,平成18年11月8日,日本国籍を有するa(昭和▲年▲月▲
日生)との婚姻の届出をした(甲1,21)
。。
(3)本件の退去強制手続に関する経緯
ア埼玉県狭山警察署警察官は,平成18年9月4日,原告を法違反(旅券
不携帯)の嫌疑により現行犯逮捕した(乙3)

イ東京入管入国警備官は,平成18年9月25日,原告が法24条1号
(不法入国)に該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして,東京入
管主任審査官から収容令書の発付を受け,同日,同令書を執行し,同月2
6日,原告を東京入管入国審査官に引き渡した(乙6,7)

ウ東京入管入国審査官は,平成18年10月19日,原告が法24条4号
ロ(不法残留)に該当し,かつ,出国命令対象者に該当しない旨の認定を
行い,原告にこれを通知したところ,原告は,同日,特別審理官による口
頭審理を請求した(乙10,11)

エ東京入管特別審理官は,平成18年11月1日,原告について口頭審理
を実施した結果,同日,入国審査官の認定は誤りがない旨の判定を行い,
原告にこれを通知したところ,原告は,同日,法務大臣に対し,法49条
1項に基づく異議の申出をした(乙12ないし14)

オ法務大臣の権限の委任を受けた東京入管局長は,平成18年11月7日,
原告の異議の申出が理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という)を

し,その通知を受けた東京入管主任審査官は,同日,原告にこれを告知す
るとともに,原告に対し,送還先をガーナとする退去強制令書を発付した
(以下「本件退令発付処分」という(乙15ないし18)



カ東京入管入国警備官は,平成18年11月7日,本件退令発付処分に係
る退去強制令書を執行して原告を東京入管収容場に収容し,平成19年1
月19日,原告を入国者収容所東日本入国管理センターに移収した(乙

18)
(4)本件訴訟の提起及びその後の事実経過
ア原告は,平成19年4月10日,本件訴訟を提起した。
イ入国者収容所東日本入国管理センター所長は,平成19年7月25日,
原告を仮放免した(甲6,乙21の1,2)

2争点
本案前の争点は,在留特別許可をしない決定の取消しを求める訴えの適法性
(争点1)及び在留特別許可の義務付けを求める訴えの適法性(争点2)であ
り,本案の主な争点は,東京入管局長が本件裁決に当たり原告に在留特別許可
を与えなかった判断に裁量権の逸脱,濫用があるか否か(争点3)である。
3争点に関する当事者の主張
(1)争点1(在留特別許可をしない決定の取消しを求める訴えの適法性)
(原告の主張)
東京入管局長は,平成18年11月7日付けで,本件裁決をするとともに,
原告に対し在留特別許可をしない決定をし,この決定は処分に当たるから,
前記第1の1の訴えは,処分の取消しの訴えとして適法である。
(被告の主張)
法は,在留特別許可を求める実体上の権利及び手続上の権利(申請権)を
外国人に認めていないから,在留特別許可をしない旨の法務大臣の判断は,
当該容疑者に恩恵を付与しないという不作為にすぎず,その者の権利義務に
変動を生じさせるものではない。したがって,東京入管局長が平成18年1
1月7日付けの本件裁決に際して行った,原告に在留特別許可をしない旨の
判断は,取消訴訟の対象となる処分に当たらないから,前記第1の1の訴え
は,存在しない処分の取消しを求めるものか,又は,処分に該当しない行為
の取消しを求めるものであり,不適法である。
(2)争点2(在留特別許可の義務付けを求める訴えの適法性)
(原告の主張)
原告は,在留特別許可処分がされないことにより重大な不利益を受け,か
つ,在留特別許可の義務付けを求める以外にその不利益を避ける適当な方法
がないから,前記第1の4の訴えは適法である。
(被告の主張)
法は,在留特別許可を求める申請権を外国人に認めていないから,在留特
別許可の義務付けを求める訴えは,行政事件訴訟法3条6項1号の非申請型
の義務付けの訴えに当たる。そして,同法37条の2第1項は「一定の処

分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり,かつ,その損害
を避けるために他に適当な方法がないとき」を訴訟要件とするところ,原告
は,在留特別許可がされないことにより生ずる重大な損害を避けるため,本
件裁決又はこれを前提とする本件退令発付処分の取消訴訟を提起することが
できるから,前記第1の4の訴えは「その損害を避けるために他に適当な

方法がないとき」の要件を満たさない不適法な訴えである。
(3)争点3(東京入管局長が本件裁決に当たり原告に在留特別許可を与えな
かった判断に裁量権の逸脱,濫用があるか否か)
(原告の主張)
原告とaは,平成元年9月に知り合い,平成2年1月から同居を始め,本
件裁決時まで約17年間にわたって同居し,その間,婚姻手続の準備をし,
また,aが交通事故に遭い,後遺症で苦しんでいるときは,原告がaを献身
的に看護し夫婦の絆を強めてきたものであり,継続して真摯な意思に基づく
内縁関係にあった。たしかに,原告が警察官及び東京入管職員に対し,自己
の身分事項や入国歴について虚言を弄し,虚偽の身分証明書を提示したこと
は良くないが,原告は,そのことを反省し,また,不法残留以外に違法行為
をしたこともなく,その在留状況は良好である。そうすると,本件裁決は,
原告と日本人であるaとの真摯な内縁関係についての事実を誤認し,裁量権
を逸脱,濫用した違法な処分というべきである。
(被告の主張)
在留特別許可は,退去強制事由に該当し本邦からの退去を強制されるべき
外国人に対し,特別に在留を認める処分であり,その許否に係る裁量の範囲
は極めて広いから,その判断が裁量権の逸脱,濫用となるのは,当該外国人
について,本邦に在留することを認めなければならない積極的な理由があっ
たにもかかわらずこれが看過されたなど,在留特別許可の制度を設けた法の
趣旨に明らかに反するような極めて特別な事情がある場合に限られる。
原告は,不法就労目的で来日した上,18年以上にわたり本邦に不法に残
留して不法就労を継続し,虚偽の身分証明書を使用するなどして逮捕,摘発
を免れたり,外国人登録法で定められた登録義務にも違反するなど,その入
国・在留状況は悪質である。また,原告とaとの内縁関係は,そもそも原告
の不法残留という違法状態の下で築かれたものであり,当然に法による保護
の対象となるものではなく,また,特段の理由もなく長期間にわたり婚姻手
続を行わず,婚姻が成立したのは本件退令発付処分がされた後であることか
らすると,本件裁決当時,その関係が真摯な婚姻意思に基づくものであった
とも認め難い。さらに,原告が本国に帰国することに特段の支障があるとも
認められない。そうすると,原告に在留特別許可を付与しなければならない
積極的な理由はないから,本件裁決には裁量権の逸脱,濫用がない。
第3当裁判所の判断
1争点1(在留特別許可をしない決定の取消しを求める訴えの適法性)について
法49条1項の異議の申出があった場合の法務大臣の応答については,同条
3項が,法務大臣は,同条1項の規定による異議の申出を受理したときは,異
議の申出が理由があるかどうかを裁決しなければならないと定め,また,法5
0条1項が,法務大臣は,上記の裁決に当たって,異議の申出が理由がないと
認める場合でも,当該容疑者が同項各号のいずれかに該当するときは,その者
の在留を特別に許可することができると定めている。しかしながら,法務大臣
が法50条1項の在留特別許可をしないとの判断をしたときに,その旨の処分
をすべき旨を定めた規定は存在しない。したがって,法は,法49条1項の異
議の申出に対しては,法務大臣が,①異議の申出が理由がある旨の裁決,②異
議の申出が理由がない旨の裁決,③在留を特別に許可する旨の処分の3通りの
裁決又は処分を行うことを予定し,これらとは別に,在留特別許可をしない旨
の処分を独立の処分として行うことは予定していないものと解される。そして,
法務大臣が法50条1項の在留特別許可をしないとの判断をしたときは,異議
の申出が理由がないとの判断に従って,異議の申出が理由がない旨の裁決をす
れば足りるとしたものと解される。
ところで,法務大臣が法50条1項の判断権限を発動し,その結果在留特別
許可が付与されるか否かは,異議の申出をした容疑者にとって本邦への在留が
認められるか否かの重大な利益に関わる事柄であり,また,後記3に説示する
とおり,在留特別許可を付与するか否かの判断に法務大臣の広範な裁量が認め
られているとしても,法務大臣がそのようにして与えられた権限を誠実に行使
しなければならないことはいうまでもなく,上記のような容疑者の重大な利益
に関わる判断権限を法務大臣の裁量で発動しないことが許されているとは到底
解し得ない。したがって,法務大臣は,法49条1項の異議の申出を受理し,
その異議の申出が理由がないと認める場合には,当該容疑者が法50条1項各
号に該当するか否かを審査する義務があり,その結果,その者に在留特別許可
を付与すべきであると判断したときは,その旨の許可処分を,在留特別許可を
付与すべきでないと判断したときは,異議の申出が理由がない旨の裁決をそれ
ぞれ行うことによって,在留特別許可の許否についての判断の結果を当該容疑
者に示す義務があると解するのが相当である。
そうすると,法49条1項の異議の申出に対しては,法務大臣によって,①
異議の申出が理由があるとの判断,②異議の申出が理由がなく,かつ,在留特
別許可を付与しないとの判断,及び,③異議の申出が理由がないが,在留特別
許可を付与するとの判断のいずれかの判断が行われ,これらがそれぞれ,①異
議の申出が理由がある旨の裁決,②異議の申出が理由がない旨の裁決,及び,
③在留を特別に許可する旨の処分として示されることとなるから,在留特別許
可を付与しないとの判断の当否を裁判で争おうとする場合には,異議の申出が
理由がない旨の裁決を対象としてその取消訴訟を提起しなければならず,かつ,
それで足りるというべきである。
以上のことからすると,本件における在留特別許可をしない決定の取消しを
求める訴え(前記第1の1)は,存在しない処分を対象としたものか,又は,
併合提起されている本件裁決の取消しを求める訴え(前記第1の2)と実質的
に重複する訴えというべきであり,取消しの対象又は訴えの利益を欠くものと
して,不適法な訴えであるといわざるを得ない。
2争点2(在留特別許可の義務付けを求める訴えの適法性)について
法50条1項の在留特別許可は,法49条1項の異議の申出があったときに
初めて付与され得るものであり,同項の異議の申出とは無関係に法50条1項
の在留特別許可が付与されることはない。そこで,仮に,容疑者が,退去強制
対象者に該当する旨の入国審査官の認定に誤りがない旨の特別審理官の判定を
争っている場合でない限り,法49条1項の異議の申出をすることができない
ものと解すると,自己が退去強制対象者であることを争う者にはいかにその主
張が不合理なものであっても在留特別許可を受ける機会が与えられるのに対し,
自己が退去強制対象者であることを正直に認めた者にはかえって在留特別許可
を受ける機会が全く与えられないという不合理な結果を招くこととなる。した
がって,法は,特別審理官の判定そのものは争わないが,自己が退去強制され
ることには不服があり,在留特別許可を希望するという者に対しても,異議の
申出を認めていると解するのが相当であり,法49条1項にいう「判定に異議
があるとき」とは,上記のような場合も含むものと解するのが相当である。な
お,このような解釈に対しては,仮に在留特別許可を求める異議の申出が認め
られるとすると,審理の結果在留特別許可を付与すべきであるとの結論に至っ
た場合には当該異議の申出は理由があったことになるが,これは異議の申出が
理由がない場合に在留特別許可を付与することができるとした法50条1項の
定めと矛盾するという反論が考えられないでもない。しかしながら,法49条
4項ないし6項の定めによれば,法において「異議の申出が理由がある」とは,
容疑者が法24条各号のいずれにも該当せず又は出国命令対象者に該当するこ
と,すなわち,退去強制対象者(法45条1項)に該当しないことをいい,
「異議の申出が理由がない」とは,これとは逆に,容疑者が退去強制対象者に
該当することをいうと解されるから,法50条1項は,要するに,容疑者が退
去強制対象者に該当すると認められる場合でも,在留特別許可を付与すること
ができる旨を定めたものにすぎず,上記の当裁判所の解釈と何ら矛盾するもの
ではない。
そして,法務大臣が,このような異議の申出を受理し「異議の申出が理由

がない」と認める場合,すなわち,容疑者が退去強制対象者に該当すると認め
る場合には,法務大臣に,当該容疑者が法50条1項各号に該当するか否かを
審査し,在留特別許可の許否についての判断の結果を当該容疑者に示す義務が
生じるものと解すべきことは,前記1に説示したとおりである。
以上のような法の仕組みによれば,法は,法49条1項の異議の申出権を法
50条1項の在留特別許可を求める申請権としての性質を併せ有するものとし
て規定し,かつ,当該申請に対しては在留特別許可を付与するか否かの応答を
すべき義務を法務大臣に課したものと解するのが自然であるから,本件におけ
る在留特別許可の義務付けを求める訴え(前記第1の4)は,行政事件訴訟法
3条6項2号にいういわゆる申請型の義務付けの訴えであると解するのが相当
である。
そして,本件において,原告は,行政事件訴訟法37条の3第2項の「法令
に基づく申請又は審査請求をした者」に,本件裁決は,同条1項2号の「当該
法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決」にそ
れぞれ該当し,また,同条3項2号の「処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効
等確認の訴え」として,本件裁決の取消しを求める訴え(前記第1の2)が併
合提起されており,さらに,後記3及び4のとおり,本件裁決は取り消される
べきものであって,同条1項2号の「当該処分又は裁決が取り消されるべきも
のであり,又は無効若しくは不存在であること」との要件も満たすから,本件
における在留特別許可の義務付けを求める原告の訴えは,適法である。
3争点3(東京入管局長が本件裁決に当たり原告に在留特別許可を与えなかっ
た判断に裁量権の逸脱,濫用があるか否か)について
(1)法24条各号の退去強制事由に該当する外国人に対し,法50条1項の
在留特別許可を付与するか否かは,法務大臣(法務大臣の権限の委任を受け
た地方入国管理局長を含む。以下同じ)が,当該外国人の在留状況等の個

人的事情を検討し,さらに国際情勢,国内の政治,経済,社会の諸事情,労
働事情などにも配慮した上で判断すべきものであり,その判断については,
法務大臣の広範な裁量が認められていると解される。しかしながら,その裁
量権の内容は全く無制約のものではなく,その判断の基礎とされた重要な事
実に誤認があること等により判断が全く事実の基礎を欠く場合や,事実に対
する評価が明白に合理性を欠くこと等により判断が社会通念に照らし著しく
妥当性を欠くことが明らかである場合には,法務大臣の判断が裁量権を逸脱,
濫用したものとして違法になるものと解される。
ところで,日本人と婚姻関係にある外国人に対して在留資格を付与するか
否かは,当該日本人にとっては,配偶者の選択,住居の選定等,婚姻及び家
族に関する憲法上の保護利益(憲法24条)に関わる事柄であり,このよう
な憲法上の保護利益は,出入国管理行政の上でも最大限の尊重を要するもの
であることはいうまでもない。そして,憲法24条1項が,婚姻は両性の合
意のみに基づいて成立するものである旨を定めていることに鑑みると,上記
のような憲法上の保護が及ぶ「婚姻」の範囲は,婚姻の届出によって成立す
る法律上の婚姻にとどまらず,婚姻の届出はしていないが事実上これと同様
の事情にある関係,すなわち,内縁関係をも含むものと解するのが相当であ
る。
そうすると,本邦への在留を希望する外国人が,日本人との間に法律上又
は事実上の婚姻関係がある旨を主張し,当該日本人も当該外国人の本邦への
在留を希望する場合において,両者の関係が,両性が永続的な精神的及び肉
体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むという婚姻の本質
に適合する実質を備えていると認められる場合には,当該外国人に在留特別
許可を付与するか否かの判断に当たっても,そのような事実は重要な考慮要
素として斟酌されるべきであり,他に在留特別許可を不相当とするような特
段の事情がない限り,当該外国人に在留特別許可を付与しないとする判断は,
重要な事実に誤認があるために全く事実の基礎を欠く判断,又は事実に対す
る評価が明白に合理性を欠くために社会通念に照らし著しく妥当性を欠くこ
とが明らかな判断として,裁量権の逸脱,濫用となるものと解するのが相当
である。
(2)本件においては,原告はaとの事実上の婚姻関係(本件裁決時)を主張
し,aも原告の本邦への在留を希望しているので(甲19,a,原告とa

との関係が,両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思
をもって共同生活を営むという婚姻の本質に適合する実質を備えていると認
められるか否かについて検討するに,前記第2の1の事実に加え,証拠(該
当箇所に付記したもののほか,甲18,19,a,原告本人)によれば,次
の事実が認められる。
ア原告は,平成元年9月ころ,aと知り合い,交際を始め,同年11月こ
ろ,aに求婚した。aは,これを一旦は断ったが,その後,原告が住む場
所を失って困窮していたことから,平成2年1月ころ,aが当時一人暮ら
しをしていたアパートに原告を迎え入れて,原告と同居するようになった。
その後,aも原告の求婚を受け入れる気持ちになり,同年12月ころ,原
告とaは2人で現在の住居に転居して,同居生活を続けることとなった
(甲2,24,26の1ないし5。

イ原告は,aと同居を始めたころは金属工場で稼働し,その後,平成5,
6年ころには,雑誌やCDジャケットにイラストを載せる仕事をしたこと
もあったが(甲23,その後は金属加工業者やリサイクル業者等の下で

勤務していた。他方,aは,派遣社員として企業の経理事務の仕事に従事
する傍ら,副業としてイラストの製作や金属アクセサリーの製造販売の仕
事をしていた。2人の生活費のうち,原告が月約8万円の家賃のうちの半
分以上と食費を負担し(乙12,aが家賃の残りと光熱費,水道代,電

話代等の費用を負担していた。原告は,外泊したことがなく,仕事が終わ
ると帰宅して,夜はaと一緒に過ごしていた。休日には,2人で掃除,洗
濯をしたり,食事に出かけたり,クラブや楽器屋に行ったりしていた。
ウ原告の本国においては,結婚登録をする人がほとんどいなかったため,
原告にはもともと,法的に婚姻するために役所に婚姻の届出をするという
知識がなく,また,aも,形式にこだわらない性格で,子どもができない
限り婚姻の届出をする必要はないと考えていた。ところが,平成11年初
めころ,原告の就労先が警察と入国管理当局による摘発を受けたことを契
機として,原告は,aとの生活を安定させるため,正式に婚姻の届出をす
る必要を感じるようになり,aも,そのころ,自己の年齢を考えて原告と
の間に子どもを持つことを切望するようになった。そこで,原告とaは,
婚姻の届出をして,原告の在留資格を得ようと考え,aの戸籍謄本(平成
11年2月25日付け)や原告の出生証明書(同年4月26日付け)を取
り寄せ(甲16,乙20,婚姻の届出の準備をした。ところが,原告の

旅券については,当時既に有効期限が過ぎており(乙12,新たな旅券

の発給を受ける必要があったが,在日本ガーナ大使館において申請書式が
ないことを理由に旅券の発給を拒否されたため,本国にいる原告の弟に旅
券発給の手続を依頼せざるを得なくなり,その手続がなかなか進まなかっ
たことから,婚姻の届出ができないままになっていた。
エそうした中,平成12年8月9日,aは,交通事故に遭い(乙19,

頸椎を痛め,その後遺症による極端な目眩等によって起きることも困難な
状態となったことから,原告との同居を一時的に中断し,静岡県の実家に
戻って療養に専念した。当時のaは,この体調不良のため原告との婚姻の
届出を考えるどころではなくなっており,原告との関係解消を言い出すこ
ともあったが,原告は,aに電話をかけたり,手紙や現金を送ったりして
aを精神的に支えていた。aは,平成13年10月ころから2,3か月に
一度の頻度で原告の住居に戻るようになり,平成15年春から原告との同
居生活を再開した。原告は,家事全般を担当し,家計を支え,aにマッサ
ージを施すなどして,体調の優れないaを物理的,精神的に支えた。
オaは,平成18年になると体調が以前よりは安定し,原告との婚姻の届
出を考える精神的余裕ができたことから,原告とaは,改めて婚姻手続を
することについて話し合った。また,aは,交通事故後の後ろ向きな自分
と決別して思い切ったことをしてみようと思い立ち,原告の婚姻のための
書類が届くまでの間,ヨーロッパでデザインを学び,アクセサリー製作を
本格的に始めることを計画し,原告の承諾を得て,平成18年6月中旬こ
ろ,オーストリアの美術学校のサマースクールに入学を申し込んだ。aは,
渡航準備を整える一方で,自己の戸籍の新しい記録事項証明書(同年7月
10日付け)を取り寄せるなど(甲17,婚姻の届出のための準備を行

い,帰国後に婚姻の届出をすることを原告と約束した上で,同年7月18
日,オーストリアに向けて出国した(乙23。aは,同年9月16日に

帰国する予定であった。
カaは,平成18年9月4日,原告が逮捕された旨の電話連絡を受け,原
告の身を案じたが,あいにく航空機に空席がなく,予定どおり同月16日
の帰国となった(乙23。aは,帰国後,婚姻の届出を行うため,原告

の友人を介して,在日本ガーナ大使館から原告の新しい旅券と婚姻要件具
備証明書の発行を受けたが(甲21,25,一旦発行された婚姻要件具

備証明書の記載に誤りがあり再発行を受けたことや,その翻訳に時間を要
したことなどから,婚姻の届出が受理されたのは,本件裁決及び本件退令
発付処分がされた日の翌日(同年11月8日)であった。
(3)以上の事実関係によれば,原告とaは,まず原告がaに求婚し,aもそ
の後の原告との約1年に及ぶ同棲生活を送る中でこれを受け入れる気持ちを
固め,改めて新居を構えて同所を2人の生活の本拠とし,以後,本件裁決時
までの期間に限っても,aが交通事故後遺症の療養のため実家に戻っていた
一時期を挟んで,実に約16年もの長期にわたる共同生活を続けてきたもの
であり,この間の原告とaとの生活状況は,婚姻の届出こそないものの,経
済的な相互扶助関係を含め,社会一般の夫婦生活と比べても遜色のない,内
縁関係と呼ぶにふさわしい実質を備えたものであったことがうかがわれ,一
時,aが交通事故に遭い実家に戻っていたときには,内縁関係解消の危機が
訪れたものの,原告の献身的な努力でこの危機を乗り越え,本件裁決の翌日
には遅ればせながら婚姻の届出も行ったことが認められる。そして,婚姻の
届出が遅れたことについても,上記認定の事実によれば,一応それなりの理
由があったものということができることをも併せ考慮すれば,原告とaとの
関係は,遅くとも本件裁決の時点においては,相互の協力と扶助によって相
当程度安定した状態にあったと認めることができるのであって,両性が永続
的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営む
という婚姻の本質に適合する実質的な関係にあったということができる。
なお,以上の事実のほか,証拠(前掲各証拠のほか,以下に付記したも
の)によれば,原告はaに対して「b」と名乗っていたほか「c」という名
前も使用していたこと,aが原告の本名を知った時期についてのaの記憶が
あいまいであること,aが原告の新旅券等を申請する時点まで原告の生年月
日を正確に記憶していなかったこと,原告がaに話していた原告の家族構成
が違反審査時に原告が審査調書別紙に記載した家族構成(乙10)と異なっ
ていること,原告が就労中に腕を負傷した時期に関する原告とaの供述が齟
齬していること,aが平成17年8月30日に自己名義の旅券の発給を受け
ていること(乙12)など,被告が疑問点として指摘するいくつかの事情も
認められるが,前記認定の事実関係に照らし,これらの事情はいずれも原告
とaとの真摯な事実上の婚姻関係を否定するに足りるほどのものではないと
いうべきである。
(4)もっとも,原告は,前記認定のとおり,現行犯逮捕されるまで約18年
にわたって不法残留を継続し,この間不法に就労していたほか,証拠(乙1,
3ないし5,8ないし10,12)によれば,原告は,所定の期間内に外国
人登録法に基づく新規登録申請をせず,また,警察官や東京入管入国警備官
及び入国審査官らに対し,自己の本名でない氏名等が記載されたアメリカ合
衆国発行の永住者カードを示すなどして,自己の身分事項や入国歴等につい
て嘘の供述をしていたことが認められるのであって,その在留状況が問題の
ないものであったとは言い難い。また,原告は,稼働能力を有する成人であ
って,前掲各証拠によれば,原告は,本国で生まれ育ち,本国には母親や弟
らが居住していることが認められるから,原告が本国に帰国したとしても,
本国での生活に特段の支障はないものと認められる。
しかしながら,不法残留の点は,一定期間を限って本邦への上陸が拒否さ
れる事由となるにすぎず(法5条1項9号,また,不法就労,外国人登録

法違反,警察官及び入国審査官らに対する嘘の供述などの点も,それのみで
直ちに退去強制事由となるものではないから,これらのことをもって,日本
人の事実上の配偶者としての真摯な実体を有する原告に対し,なお在留特別
許可を不相当とするような特段の事情とみることはできない。また,本国で
の生活に支障がないという点も,在留特別許可を積極的に不相当とするよう
な事情ではない。
(5)以上のことからすれば,東京入管局長は,本件裁決に当たり,原告とa
との内縁関係が婚姻の本質に適合する実質を備えていると認められるにもか
かわらず,これを誤認したか,又はこれを過少に評価することによって,原
告に在留特別許可を付与しないとの判断をしたものということができる。し
たがって,他に在留特別許可を不相当とするような特段の事情が認められな
い以上,上記の判断は,重要な事実に誤認があるために全く事実の基礎を欠
く判断,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くために社会通念に照ら
し著しく妥当性を欠くことが明らかな判断として,裁量権の逸脱,濫用とな
るというべきである。
4本件裁決及び本件退令発付処分の適法性について
前記3のとおり,本件裁決は,裁量権を逸脱,濫用した違法な裁決として取
り消されるべきである。
また,退去強制令書は,法49条1項の異議の申出に理由がない旨の法務大
臣の裁決が適法に行われたことを前提として発付されるものであるところ,本
件退令発付処分の前提となる本件裁決が取り消されるべきであることは上記の
とおりであるから,本件退令発付処分もまた根拠を欠く違法な処分として取り
消されるべきである。
5在留特別許可の義務付けについて
前記4のとおり,本件裁決の取消しを求める原告の請求には理由があり,か
つ,前記3に説示したところに加え,前記認定のとおり,原告とaが平成18
年11月8日に婚姻の届出をしたことにより,現在(口頭弁論終結時)では,
原告とaとの間に法律上の婚姻関係が成立していることが認められることをも
併せ考慮すれば,東京入管局長が原告に対して在留特別許可をしないことは,
その裁量権の逸脱,濫用になると認められる。
したがって,行政事件訴訟法37条の3第5項に基づき,当裁判所としては,
在留特別許可をすべき旨を命ずる判決をすべきこととなるが,在留特別許可に
係る在留資格及び在留期間等の条件については,法50条2項及び法施行規則
44条2項によれば,東京入管局長の裁量により,原告の請求に係る在留資格
「日本人の配偶者等,在留期間3年との条件のほか,在留資格「永住者,
」」
在留期間無期限との条件,あるいは,在留資格「日本人の配偶者等,在留期

間1年との条件などを附することも可能であるというべきであって,その内容
が一義的に定まるものではないから,原告の在留特別許可の義務付けの請求
(前記第1の4)については,これに附すべき条件を指定する部分を除いて認
容するのが相当である。
第4結論
以上の次第で,本件訴えのうち在留特別許可をしない決定の取消しを求める
部分は不適法であるから却下し,その余の請求のうち本件裁決及び本件退令発
付処分の取消しを求める部分並びに在留特別許可の義務付けを求める部分(こ
。,
れに附すべき条件を指定する部分を除く)はいずれも理由があるから認容し
その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件
訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文を適用して,主文のとおり判決す
る。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官古田孝夫
裁判官工藤哲郎
裁判官古市文孝

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