弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原判決のうち上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を札幌高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人嶋田敬昌,同嶋田敬,同平井喜一の上告受理申立て理由について
1本件は,函館市の住民である被上告人らが,函館市議会の6会派が平成13
年度に上告人から交付を受けた政務調査費について使途基準に違反する違法な支出
を行っており,上記各会派は同市に対して上記支出額に相当する金員を不当利得と
して返還すべきであるのに,上告人はその返還請求を違法に怠っているとして,地
方自治法242条の2第1項4号に基づき,上告人に対し,上記各会派に対して上
記不当利得の返還請求をすべきことを求めている事案である。
2原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)函館市では,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)1
00条12項の規定を受けて,函館市議会政務調査費の交付に関する条例(平成1
3年函館市条例第6号。以下「本件条例」という。)を制定し,函館市議会におけ
る会派に対して,政務調査費を交付することとしている。
本件条例5条は,会派は,政務調査費を規則で定める使途基準に従って使用する
ものとし,市政に関する調査研究に資するため必要な経費以外のものに充ててはな
らないと定めている。これを受けた函館市議会政務調査費の交付に関する条例施行
規則(平成13年函館市規則第4号)は,その6条及び別表により,上記使途基準
として,別紙記載のとおり,政務調査費の使途を6項目に区分してその内容を定め
ており(以下,この使途基準を「本件使途基準」という。),その具体的な定めを
見ると,例えば調査旅費を「会派が行う調査研究に必要な先進地調査または現地調
査に要する経費」と規定するなど,いずれの使途区分においても「会派が行う」と
の表現を用いている。
(2)平成13年度当時,函館市議会には,上告補助参加人民主・市民ネット,
同公明党函館市議団,市政クラブ,新政21,新緑クラブ及び市民クラブの6会派
を含む10会派が存在した。
上告人は,本件条例に基づき,平成13年度の政務調査費として,上記6会派に
対し,その所属議員数に応じた所定の金額をそれぞれ交付した。同6会派は,交付
を受けた政務調査費から,原判決別紙政務調査費支出一覧表の「支出日」欄記載の
各日付けで,同表の「対象議員」欄記載の各所属議員に対し,当該議員が研修会参
加,調査旅行,資料購入等の調査研究活動に要した経費として,同表の「支出金
額」欄記載の各金額を支出した。
(3)上告人は,上記(2)の支出に関し,上記6会派の所属議員は,具体的な調査
研究活動ごとに,その活動内容及びこれに必要な政務調査費からの支出を求める金
額を会派に申請し,会派の代表者及び経理責任者からその活動内容及び金額の承認
を得た上で,経理責任者からその金員の交付を受けたと主張している。
3原審は,上記事実関係等の下において,上記2(2)の政務調査費の支出のう
ち新緑クラブ及び市民クラブ以外の4会派(以下「本件各会派」という。)がした
支出(以下「本件各支出」という。)について,要旨次のとおり判断し,本件各支
出は本件使途基準に合致しない支出であるから違法であり,本件各会派はその支出
額に相当する金員を不当利得として返還すべきであるとして,被上告人らの請求を
認容すべきものとした。
(1)本件使途基準によれば,函館市における政務調査費の支出は,「会派が行
う」調査研究活動に対するものでなければならず,この要件を満たさない政務調査
費の支出は,違法となる。
(2)「会派が行う」調査研究活動といえるためには,会派としての意思統一が
され,当該活動が「会派」として行うものであるとの会派の了承が存在することが
必要である。上告人は,上記2(3)のとおり主張するが,会派の代表者の承認があ
るだけでは「会派が行う」調査研究活動とはいえない。
4しかしながら,原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理
由は,次のとおりである。
本件使途基準にいう「会派が行う」調査研究活動には,会派がその名において自
ら行うもののほか,会派の所属議員等にこれをゆだね,又は所属議員による調査研
究活動を会派のためのものとして承認する方法によって行うものも含まれると解す
べきである。そして,一般に,会派は,議会の内部において議員により組織される
団体であり,その内部的な意思決定手続等に関する特別の取決めがされていない限
り,会派の代表者が会派の名においてした行為は,会派自らがした行為と評価され
るものである。
そうすると,本件各支出について,上告人が主張する前記2(3)の事実が認めら
れれば,本件各会派の代表者がした承認は,会派の名において,各所属議員の発
案,申請に係る調査研究活動を会派のためのものとして当該議員にゆだね,又は会
派のための活動として承認する趣旨のものと認める余地があり,そのように認めら
れる場合には,本件使途基準にいう「会派が行う」との要件は満たされることにな
る。
したがって,上告人が主張する前記2(3)の事実が本件各支出について存在する
かどうか,存在するとしてその場合の本件各会派の代表者の承認を上記の趣旨のも
のと認めることができるかどうかなどの点について十分に審理することなく,本件
各支出が本件使途基準に適合しないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすこ
とが明らかな法令の違反があるというべきである。
5以上のとおりであるから,論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分
は破棄を免れない。そして,上記の点のほか,本件各支出が市政に関する調査研究
に資するため必要な経費に当たるかどうかについて,更に審理を尽くさせるため,
同部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官那須弘平裁判官
田原睦夫裁判官近藤崇晴)
(別紙)
区分内容
研究研修費会派が行う研究会および研修会の実施に要する経費ならびに他の
団体が開催する研究会,研修会等への参加に要する経費
調査旅費会派が行う調査研究に必要な先進地調査または現地調査に要する
経費
資料作成費会派が行う調査研究に必要な資料の作成に要する経費
資料購入費会派が行う調査研究に必要な図書,資料等の購入に要する経費
広報広聴費会派が行う調査研究活動,議会活動および市の政策について市民
に報告し,および広報するために要する経費ならびに会派が市民
からの市政および会派の政策等に対する要望および意見を聴取す
るための会議の開催等に要する経費
事務費会派が行う調査研究活動に係る事務遂行に要する経費

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