弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人両名の弁護人下山四郎の上告趣意第一点について。
(イ) 証人Aが第一審公判で論旨摘録のごとき供述をし、又被告人Bが原審で別
件の控訴取下の理由について所論のごとき供述をしたからといつて、直ちに所論被
告人Bに対する検事の聴取書中の同被告人の供述が任意性を欠くものと即断するこ
とはできない。其他本件において、右被告人の供述が任意性を欠くものと認むべき
証拠はない。
(ロ) 原判決挙示の証拠(殊に被告人Bに対する検事の聴取書中被告人の供述記
載)によれば、本件パンは未利用粉を混入しないものであることを認めることがで
きる。(原審において被告人等がこの点を争つた証跡は全くみとめられない。)
 同第二点について。
 被告人の原審公判における供述によれば被告人Bは原判示のごとく、本件犯行後
である昭和二二年一二月六日に(東京簡易裁判所で)物価統制令違反の罪により罰
金八千円に処せられ、該判決が確定した(昭和二三年一月頃控訴の取下により)事
実を認めることができる。従つて右判決によつて処断せられた犯罪と本件犯行とは
その中間に確定判決が存する関係ではなく、いずれも右確定判決以前のものにかか
り併合罪の関係に立つことは明らかであると云わなければならない。従つて、原判
決に所論のような違法ありということはできない。
 同弁護人の追加上告趣意書について。
 被告人Cの検事に対する自白が所論のごとく任意性を欠くことは、本件において
これを認める証跡はない。論旨は理由はない。
 被告人両名の弁護人山崎佐の上告趣意第一点について。
 原審公判調書(第二回)をみれば、裁判長は他の証拠書類と共に「任意提出始末
書」と題する書面について証拠調をしているのであるが、記録を調べてみると右「
任意提出始末書」と題する書面は、Dが所論パン伝票を証拠品として警視庁保安部
経済第一課長に提出したことに関する書面であり、右パン伝票は右書類に便宜添付
せられていることは所論の通りである。しかし右パン伝票は、訴訟法上は「証拠物」
に該当するものであつて、原審第一回公判調書によれば裁判長は被告人Bを訊問す
る途中で、同被告人に右伝票を示し、被告人に右伝票に押してあるBの印が同人の
ものであるか否かを問い同被告人の意見弁解を聞いているのであるから、右伝票に
対しては適法な証拠調が行われたものと解すべきである。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 原判決は、被告人Cに対し、原判決認定の同人の犯罪は連続犯であるにかかわら
ず、刑法五五条の適用に先立つて、物価統制令三六条を適用し法規適用の順序を間
違えた違法のあることは所論のとおりである。しかしながら、右Cの犯罪は、いず
れも同一罰条に触れる連続犯であつて、右法規適用の先後は、結局同人に対する処
断刑に何等の差違を生ずるものではないのであるから、右の違法は原判決の主文に
影響を及ぼさないものとして、原判決破毀の理由とはならないと解すべきである。
従つて、論旨は理由がない。
 同第三点について。
 物価庁告示によつて指定せられた統制額を越えて取引をした犯罪の後においてそ
の告示が改廃せられ、ために右統制額が廃止又は改訂せられたとしても、右犯罪は、
犯罪時の告示に従つて処断せらるべきであつて、この場合刑法六条、又は刑訴三六
三条にいわゆる犯罪後の法令に因り刑の変更、又は廃止ありたるときに該当しない
ものであることは、当裁判所の判例の示すところによつて明らかである。(昭和二
三年(れ)第八〇〇号同二五年一〇月一一日言渡大法廷判決参照)論旨は理由がな
い。
 よつて、刑訴施行法二条、旧刑訴法四四六条に従い主文のとおり判決する。
 右は、全裁判官一致の意見である。
 検察官 十蔵寺宗雄関与
  昭和二六年二月二日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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