弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主     文
被告人を懲役1年6か月に処する。
この裁判が確定した日から5年間刑の執行を猶予する。
理     由
(犯罪事実)
被告人は,平成13年7月29日施行の第19回参議院議員通常選挙に際し,愛知県
選挙区から立候補する決意を有していたAの組織的選挙運動管理者として,同人の立
候補届出後は総括主宰者として,その選挙運動を掌握指揮していた者であるが,同人
の選挙運動者であるBと共謀の上,Aに当選を得させる目的で,
第1 別表1記載のとおり,立候補届出前の同月2日ころから同月8日ころまでの間,前
後7回にわたり,名古屋市a区bc丁目d番e号所在のA政経塾事務所において,C
ら19名に対し,上記選挙に関し,上記選挙区の選挙人に対しビラを配布するなど
してAへの投票を依頼する選挙運動をすることの報酬として,後日時給1000円の
割合で計算した金額を供与する旨の約束をするとともに立候補届出前の選挙運動
をした。
第2 別表2記載のとおり,同月12日ころから同月15日ころまでの間,前後5回にわた
り,同所所在のA選挙事務所において,Dら8名に対し,上記選挙に関し,上記選
挙区の選挙人に対しビラを配布するなどしてAへの投票を依頼する選挙運動をす
ることの報酬として,後日時給1000円の割合で計算した金額を供与する旨の約
束をした。
第3 別表3記載のとおり,同月13日ころから同月28日までの間,同市f区gh丁目i番j
号所在のE付近等において,いずれも年齢満20年未満の者であるFら15名をし
て,上記選挙区の選挙人に対しビラを配布させるなどしてAへの投票を依頼する選
挙運動をさせ,もって,年齢満20年未満の者を使用して選挙運動をした。
(証拠)(省略)
(法令の適用)
罰 条
第1
金銭供与の約束をした点 別表1の番号1ないし3,5,6はいずれも刑法60条,
公職選挙法221条1項1号
別表1の番号4,7はいずれも包括して刑法60条,
公職選挙法221条1項1号
事前運動をした点    別表1の番号1ないし3,5,6はいずれも刑法60条,公
職選挙法239条1項1号,129条
別表1の番号4,7はいずれも包括して刑法60条,
公職選挙法239条1項1号,129条
第2           別表2の番号1は包括して刑法60条,公職選挙法221条3
項2号,1項1号
別表2の番号2ないし5はいずれも刑法60条,公
職選挙法221条3項2号,1項1号
第3           別表3の番号1ないし4,6ないし14はいずれも包括して刑法
60条,公職選挙法239条1項1号,137条の2第2
項本文
別表3の番号5,15はいずれも刑法60条,公職選
挙法239条1項1号,137条の2第2項本文
科刑上の一罪の処理(第1) 刑法54条1項前段,10条(別表1の番号1ないし7は,
いずれも1個の行為が2個の罪名に触れる場合であ
るから,それぞれ1罪として重い金銭供与約束罪の
刑で処断する。)
刑種の選択
第1(別表1の番号1ないし7),第2(別表2の番号1ないし5)
いずれも懲役刑
第3(別表3の番号1ないし15)
いずれも禁錮刑
併合罪の処理        刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重
い第2の別表2番号1の罪の刑に加重をする。)
刑の執行猶予        刑法25条1項
(量刑の理由)
本件は,平成13年7月に施行された参議院議員通常選挙に際し,同選挙に立候補
する決意を有していたAの組織的選挙運動管理者であり,同人の立候補届出後は総括
主宰者であった被告人が,Aの当選を得させる目的で,同人の選挙運動者である共犯
者と共謀の上,Aの選挙運動者らに対し選挙運動をすることの報酬として金銭を供与す
る旨の約束をするとともに事前の選挙運動をし,さらに,未成年者を使用して選挙運動
をしたという事案である。
被告人らは,Aの立候補届出の前後を通じ,報酬を支払うことを約束することでアル
バイトを雇用し,その後同人らを選挙運動に従事させたものであり,無報酬でなされるべ
き選挙運動をゆがめ,選挙制度の公正を害した。また,被告人らが金銭を供与する旨の
約束をしたアルバイトの人数は27名と多数に及び,同人らにそれぞれ時給1000円の
割合で計算した金額を供与する旨の約束をしており,その供与約束額は決して少ないと
はいえない。精神的に未成熟な未成年者を多数選挙運動に従事させた点も悪質であ
る。そして,被告人は,Aとの関係やかつて選挙運動に従事した経験を有していたことな
どから同人の選挙対策組織の中で絶対的な指導力を発揮した首謀者であって,果たし
た役割が重大であり,共犯者を本件犯行に引きずり込んだ点や,警察による捜査が開
始された後に罪証隠滅工作を行った点も併せると,犯情が悪い。さらに,被告人は,事
前運動及び法定外選挙運動文書の頒布を行ったという公職選挙法違反罪により罰金刑
に処せられた前科があるにもかかわらず,違法性を十分認識しながら本件犯行に及ん
だものであり,被告人の選挙の公正さについての規範意識は乏しかったといわざるを得
ない。そうすると,被告人の刑事責任は決して軽くみることができない。
しかし,他方,供与を約束した金銭が選挙運動者らに支払われるには至らなかったこ
と,Aが本件選挙に落選し,被告人らの本件犯行が結果として功を奏しなかったこと,被
告人が,捜査段階から一貫して事実を認めて本件を反省する態度を示し,関係者に多
大な迷惑をかけたとして謝罪の気持ちを表していること,被告人には上記の罰金前科以
外に前科がないこと,被告人が顧問を務める会社の関係者らが,同社の経営に被告人
が是非とも必要であるとして,被告人に対する寛大な刑を求めていることなど,被告人
のために酌量すべき事情もある。
そこで,これらの諸事情を総合考慮して主文の量刑とし,刑の執行を猶予することと
する。
(求刑-懲役1年6か月)
平成13年10月30日
名古屋地方裁判所刑事第3部
裁判長裁判官   片   山   俊   雄
裁判官   橋   本       一
裁判官   高   橋   正   幸
(別表1から3省略)

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