弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告が平成16年7月29日付けで千葉県行政書士会(以下「県行政書士会」という。)
に対してした千葉県行政書士会会則(以下「本件会則」という。)の変更の認可(以下「本件
認可」という。)を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,県行政書士会の会員である原告が,被告が県行政書士会に対して行政書士
法(以下「法」という。)16条の2に基づいてした本件認可は違法であるとして,その取消しを
求めた事案である。
1 前提となる事実(末尾に証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがないか,明ら
かに争わない事実である。)
(1) 当事者
ア 原告は,県行政書士会の会員である。
イ 被告は,本件会則の変更の認可について,権限を有する者である。
(2) 県行政書士会は,平成16年6月22日付けで,被告に対し,本件会則の一部変更の
認可を求める旨の申請(以下「本件申請」という。)をした。
 前記変更は,県行政書士会の事業として「会員の研修に関すること」(3条8号),「個
人会員は,本会及び連合会が行う所定の研修を受け,その資質の向上を図るよう努めなけ
ればならない。」(19条の2),「本会は個人会員の資質の向上を図るため『研修センター』を
設置する。」(54条1項),「研修センターの運営に必要な事項は別に定める。」(同条2項)と
いう規定の新設等を内容とするものである。
(甲1,乙2,5,6の1・2,弁論の全趣旨)
(3) 被告は,平成16年7月29日付けで,本件申請のあった本件会則の変更(以下「本
件変更」という。)について,認可(本件認可)した。
2 争点
(1) 原告適格の有無
(2) 本件認可の適法性
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(原告適格の有無)について
(原告)
ア 本件変更により,県行政書士会の研修センターにおいて行政書士の個人的質的
向上が図られない場合は,行政書士の「業務の適正を図ることにより,行政に関する手続の
円滑な実施に寄与し,あわせて,国民の利便に資すること」(法1条)という法の目的に反し
て,原告が行政に関する手続の円滑な実施や国民の利便に寄与できなくなるおそれがあ
り,原告に本件訴訟の結果について「法律上の利益」がある。
イ 被告は,本件認可は,法律上の効果を完成させる行為にすぎない旨主張するが,
被告による行政書士会の会則の変更の認可にあたっては,申請に係る会則の変更の内容
が公益に合致するか否かを判断しなければならないのであって,本件認可が法律上の効
果を完成させる行為にすぎないとはいえない。
(被告)
ア(ア) 法は,行政書士の制度を定め,その業務の適正を図ることにより,行政に関す
る手続の円滑な実施に寄与し,あわせて,国民の利便に資することを目的としており(法1
条),法16条の2の規定による会則についての認可は,行政書士会が公益性を有するが故
に,都道府県知事による認可によってその会則の適正を確保しようとするものである。
よって,法が「不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させ
るにとどめず,それが帰属する個々人の具体的利益としてもこれを保護すべきものとする趣
旨を含む」と解される余地は全くない。
(イ) 本件認可は,県行政書士会の議決によりなされた本件会則の変更という法律行
為を補充してその法律上の効果を完成させる行為にすぎないから,本件認可によって県行
政書士会の会員たる原告の権利若しくは法律上保護された利益が侵害され,又は必然的
に侵害されるおそれはない。
イ したがって,原告は,本件訴訟による判決により救済を受けるに値する正当な利益
の主体といえず,法律上の利益を侵害され又は法律上の不利益を課された者でもなく原告
適格を有さず,また,裁判所が原告の請求について判断を与えるに足る具体的実益も必要
性も存在しないから,本件訴えは不適法であり,却下されるべきである。
(2) 争点(2)(本件認可の適法性)について
(被告)
ア 被告は,本件申請には,本件変更が本件会則の定めるところによりなされたことを
証する書面として県行政書士会の平成16年度定時総会議事録写しが添付されていたほ
か,変更後の本件会則案等が添付されており,研修センターの創設等会則変更の内容とし
ても法改正の趣旨に沿った適法な変更であったことから,本件認可をしたものであり,本件
認可には何ら違法な点はない。
イ 原告は,本件変更後の本件会則(以下「新会則」という。)が,研修センターの設置
規定を設けただけで,具体的な研修実施に関する規定がない旨主張するが,新会則3条8
号では,県行政書士会の事業として「会員の研修に関すること」が掲げられ,新会則54条1
項では,「本会は個人会員の資質の向上を図るため『研修センター』を設置する。」と規定さ
れ,同条2項では,「研修センターの運営に必要な事項は別に定める。」と規定されている
のであって,違法と評価される余地は全くない。
(原告)
本件認可は,本件変更が,次のとおりの瑕疵を有し,公益に反するため,違法であ
る。
ア 新会則3条8号には,「会員の研修に関すること」と規定されたが,明確な研修実施
に関する規定がない。
イ 新会則19条の2には,「個人会員は,本会及び連合会が行う所定の研修を受け,
その資質の向上を図るよう努めなければならない。」と規定されたが,会員の研修受講努力
義務だけで,県行政書士会の研修実施規定がない。
ウ 新会則54条には,1項として「本会は個人会員の資質の向上を図るため『研修セン
ター』を設置する。」,2項として「研修センターの運営に必要な事項は別に定める。」とある
が,この規定は,「研修センター」設置規定であり,これにより理事会と同格の組織が生ま
れ,屋上屋となり,組織運営上好ましくなく,県行政書士会の理事会の会務執行権を侵害
する。また,日本行政書士連合会の単位会会則準則の「14 『研修』規定の新設について」
の「本会は,個人会員の資質の向上を図るため,必要な研修に関する施策を行う。」という
規定例にも反する。
エ 定時総会において,他の必要な本件会則の変更が行われなかった。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(原告適格の有無)について
(1) 本件訴えは,行政事件訴訟法3条2項の「処分の取消しの訴え」として提起されたも
のであると解されるところ,処分の取消しの訴えの原告適格については,同法9条1項が規
定している。
同項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該
処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害される
おそれのある者をいうが,本件のように,当該処分の相手方以外の者について前記の法律
上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の趣旨及
び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し(同条2
項),当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中
に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護す
べきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益も前記の法律上保護された
利益に当たる(最高裁昭和49年(行ツ)第99号同53年3月14日第三小法廷判決・民集32
巻2号211頁,最高裁昭和52年(行ツ)第56号同57年9月9日第一小法廷判決・民集36
巻9号1679頁,最高裁昭和57年(行ツ)第46号平成元年2月17日第二小法廷判決・民集
43巻2号56頁,最高裁平成元年(行ツ)第130号同4年9月22日第三小法廷判決・民集4
6巻6号571頁参照)が,そのような趣旨を含むと解されない場合には,当該処分の取消し
を求める者は,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は
必然的に侵害されるおそれがある者ということができず,当該処分の取消訴訟における原
告適格を有しないものというべきである。
(2) 本件認可は,法16条の2に基づいてなされているが,同条の趣旨・目的は,行政書
士及び行政書士法人の強制加入団体として都道府県の区域ごとに,会則を定めて,1個設
立される法人である行政書士会(法15条1,3項,16条の5,16条の6)の会則の制定及び
変更について,都道府県知事の認可を受けなければならないものとすることによって,会員
である行政書士及び行政書士法人の品位を保持し,その業務の改善進歩を図るため,会
員の指導及び連絡に関する事務を行うこと(法15条2項)という行政書士会の目的を実現
し,ひいては,行政書士の制度を定め,その業務の適正を図ることにより,行政に関する手
続の円滑な実施に寄与し,あわせて,国民の利便に資すること(法1条)という法の目的を実
現するというものであると解される。そして,行政書士会が前記のような目的を有し公益性を
有する法人であるため,法16条の2は,行政書士会の会則の制定及び変更について,前
記の法の目的という専ら公益的見地から,都道府県知事の認可を受けなければならないも
のとするという制約を加えているものであり,同条は,行政書士会の会員の個別的利益を保
護すべきものとする趣旨を含むと解することは困難である。
そうすると,県行政書士会の会員である原告は,本件認可により自己の権利若しくは
法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがある者ということがで
きず,本件認可の取消訴訟における原告適格を有しないものというべきである。
(3) この点,原告は,本件認可により,原告が行政に関する手続の円滑な実施や国民の
利便に寄与できなくなるおそれがあり,原告に「法律上の利益」がある旨主張するが,「行政
に関する手続の円滑な実施に寄与し,あわせて,国民の利便に資すること」という法の目的
は,専ら公益的目的であって,行政書士の個別的利益と解することはできず,このような法
の目的が実現できないことをもって,原告が「法律上の利益を有する者」であるということは
できない。
(4) もっとも,認可に係る会則の変更部分が,直接行政書士会の会員の権利義務を形
成し又はその範囲を確定するような内容のものである場合には,行政書士会の会員も認可
により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそ
れがある者にあたると解する余地もあるが,前記第2の1の事実及び証拠(乙1ないし5,6の
1・2)によれば,本件変更は,行政書士法の一部を改正する法律(平成15年法律第131
号)が平成16年8月1日に施行されたことに伴い,前記第2の1(2)の研修に関する事項,行
政書士法人制度に関する事項等を本件会則に規定したものと認められるところ,本件変更
が直接行政書士会の会員の権利義務を形成し又はその範囲を確定するような内容のもの
であるとはいえない。
(5) 以上によれば,原告は本件認可の取消訴訟における原告適格を有しないものであ
り,本件訴えは,不適法である。
2 よって,本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし,主文のとおり判決する。
千葉地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官    山 口   博
裁判官    武 田 美和子
裁判官    佐々木 清 一

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