弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を破棄し、本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 被上告人は、本件上告は上告期間経過後提起せられたものであるから不適法とし
て却下すべきであると主張するので、まずこの点につてい判断する。
 記録中の控訴人(上告人)Aに対する控訴判決正本郵便送達報告書、当審におけ
る上告代理人申出の証人D、Eの各証言、上告人本人の供述によれば、本件控訴判
決正本は、昭和三六年九月二八日郵便局集配員の過誤により武雄市a町大字bc番
地訴外F方においてその母Dに手交され、さらにDより訴外Eを経て同年一〇月一
五日に至り漸く控訴人方に届けられ控訴人がこれを受領したことが認められる。そ
うすると、その後二週間以内である同月二三日に控訴人が原審福岡高等裁判所に本
件上告状を提出したものであること記録上明らかな本件上告は、適法の期間内に提
起せられたものというべきであつて、被上告人の前記主張は採用できない。
 つぎに、本案について判断する。
 上告代理人大町卯六の上告理由第一点は、原判決の証拠となつた交書が偽造せら
れたものであつて、偽造者につき有罪の判決が確定したから、原判決は破棄せらる
べきであるという。
 原判決の引用する一審判決は、原告(被上告人)提出の本件約束手形(甲第一号
証)が真正に成立したものとし、これを証拠として被告(上告人)が訴外Gをして
振出人の記名押印を代行せしめて本件約束手形を振出したと認定し、よつて原告の
被告に対する本訴手形金請求を認容したものであること判文上明らかである。しか
るに、当審における上告人の主張事実中、訴外Gが本件約束手形を偽造したとして
昭和三六年五月一一日佐賀地方裁判所において有罪の判決を受けたとの点は、被上
告人の認めるところであり、右判決が同月二六日確定したことは上告人提出の当該
判決の確定証明書により認められる。民訴四二〇条一項六号二項によれば、文書そ
の他の物件が偽造または変造せられたことの有罪判決が確定したときは、その文書
または物件を証拠とした民事判決が既に確定した後でも、当該判決を為した裁判所
に対し再審の訴により新に審理を求めることができる。ただし、当事者が上訴によ
りその事由を主張したときまたはこれを知つて主張しなかつたときはこの限りでな
い旨を規定するが、右規定の趣旨に徴すれば、当該判決が控訴判決であつて、これ
に対し上告がなされたときは、上告人は前記の理由によつて控訴判決を破棄し、控
訴裁判所において新に審理すべきことを求めうるものと解すべきである(大審院昭
和六年(オ)第二〇四四号昭和九年九月一日判決民集一三巻一七六八頁参照)。本
件において、原判決の証拠となつた文書が偽造せられたものとして偽造者につき有
罪の判決が確定したこと前示のとおりであるから、原判決を破棄し、右事実を斟酌
してさらに審理判断せしめるため、本件を原審に差し戻すことを要するものという
べきであり、論旨はこの点において理由がある。なお、被上告人は、上告人は原審
において右Gの有罪判決を知つてこれを主張しなかつたものであるから、当審にお
いて右事実をもつて原判決を論難することが許されないと抗争することろ、記録に
よれば原審の口頭弁論が昭和三六年九月二日終結したことが認められるから、前記
Gの有罪判決確定はその以前となるが、原審において上告人が右事実を知つて主張
しなかつたことを認むべき証拠がないから、被上告人の右主張は採用できない。
 よつて、その余の争点についての判断を省略し、民訴四〇七条一項に従い、裁判
官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介

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