弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人海野普吉、同中村高一、同中村護、同浜谷知也、同柳沼八郎の上告趣意第
一点の一、二について。
 所論は、起訴状記載第二の事実(電通局向け食卓三個を移出した際の物品税逋脱)
について税務署長の通告処分ならびに告発がなかつた旨主張するが、昭和二六年一
二月一七日附昭和税務署長Aの告発書(記録二二七丁)に引用せられている同書添
附の通告書案四には、「昭和二十五年六月三日より昭和二十五年六月二十九日間同
家具類戸棚外七拾六点此の税抜移出価格参拾万七千円(課税標準価格弐拾七万五千
六百円)のものをB商事株式会社又はC産業株式会社名義にて電通局外二件に夫々
課税最低限以上の価格を以つて移出販売し此の税額八万弐千六百八拾円を(逋脱し)」
と記載されており、他方証人D提出にかかるC産業株式会社に対する物品税法違反
事件移出表(一)(記録一四六丁)によれば、同年六月中の移出先の内に電通局は
なく、これより早く同年五月三〇日に食卓三個をB商事を通じて電通局に移出した
ように記載されている。而して証第一八号の受註明細簿五枚目には、受註先電通と
して、食卓三箇を一箇六、〇〇〇円合計一八、〇〇〇円で注文を受け六月三日に納
入して七月一二日に入金している旨の記載があり、証第一七号のB商事昭和二五年
度売上帳三枚目によると、五月三〇日に食卓三箇を一箇三、三八〇円、合計一〇、
一四〇円で移出したように記載されている。これらの事実その他記録に現われた証
拠を綜合すれば、実際には昭和二六年五月三〇日に電通局向け移出した食卓三個を、
同年六月三日に移出したものと誤認し、これを同年六月中の移出分に含ませて通告
処分をしたものであることが明らかであり、右の程度の日時の誤認は通告処分の効
力を左右しないと解せられるから、起訴状記載第二の事実について税務署長の通告
処分ならびに告発があつたものと認めざるを得ない。
 つぎに所論は、公訴事実第五(2)(3)および第六(1)の各事実について税
務署長の通告処分ならびに告発がなかつた旨主張するが、前記通告書案六、七の記
載、前記C産業株式会社に対する物品税法違反事件移出明細表(一)の記載、その
他記録に現われた証拠を綜合すれば、右各事実についても通告処分ならびに告発が
あつたものと認めるを相当とする。
 而して本件通告書が昭和二六年一一月七日被告会社代表者に配達されたことは記
録上明らかであるから、所論各公訴事実についての公訴の時効は、国税犯則取締法
一五条の規定により、同日をもつて中断されたものというべきである。
 したがつて、所論公訴事実について告発がなかつたことを前提とする判例違反の
主張および公訴の時効により公訴権消滅後であるに拘らず有罪判決をした旨の法令
違反の主張は、いずれもその前提を欠き、採用することができない。
 同第二点の一、二について。
 所論は事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当
らない。(原判決が、B商事経由販売分につき、被告会社代表者が被告会社の業務
に関し不正に物品税を逋脱せんがためB商事の名義を形式的に利用して注文を受け、
被告会社にその製造を課税最低限価格未満の価格または注文価格を著しく低下せし
めた価格で請負わせて被告会社がB商事にその製品を右価格で移出したように仮装
したものと認定したことは十分首肯でき、従つてこれに対し物品税法一八条一項二
号、二二条を適用したのは、正当である。)
 同第三点の一について。
 所論は単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(
原審の維持した第一審判決は、被告会社が直接販売した分について、その数量、販
売先等よりしてこれを卸売と認め、その販売価格がそのまま課税標準たる移出価格
になるものと判断した趣旨に解せられ、記録によるも右判断に違法の点は認められ
ない。また被告会社がB商事を経由して販売した分について、被告会社の利益のた
めB商事を独立した販売部門と認め、一〇パーセント相当額だけを控除した価格を
課税価格としていることが記録上明らかであつて、この点についての所論はその前
提を欠くものである。)
 同第三点の二について。
 所論は単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。の
みならず、原審の維持した第一審判決は判示第一の(1)および(2)において、
被告会社代表者が被告会社の業務に関し不正に物品税を逋脱しようと企て課税物件
を移出したのに移出なき旨の虚偽の申告をして物品税を逋脱したとの事実を認定し
ているのであつて、右被告会社代表者の行為が物品税法一八条一項所定の不正行為
に該当することは明らかであり、また第一審判決判示第三(5)、第一五(5)、
第一六(2)、第一七(4)ないし(7)については、同条所定の不正行為の事実
摘示としてやや不十分な点も認められなくはないが、挙示の証拠によれば、被告会
社代表者が判示各課税物件の移出に際し、物品税を逋脱する意図の下に、これをそ
のまま正規の帳簿に記載せずして二重帳簿的性格を有する秘密帳に記載し、毎月税
務署に提出すべき課税標準額申告書を提出しなかつた事実すなわち同条所定の不正
行為に該当する事実が認められるのであつて、右瑕疵は判決に影響を及ぼさない。
 また記録を調べても本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとお
り決定する。
  昭和三五年一〇月二五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    河   村   又   介
            裁判官    島           保
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    高   橋       潔
            裁判官    石   坂   修   一

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