弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一 原判決中、被上告人B1管理組合理事長B2に関する部分を破棄し、
同部分につき第一審判決を取り消す。
     二 前項の部分に関する被上告人B1管理組合理事長B2の予備的請求
を棄却する。
     三 上告人A1株式会社の上告及び同A2興産株式会社のその余の上告
を棄却する。
     四 第一、二項の部分に関する訴訟の総費用は被上告人B1管理組合理
事長B2の負担とし、前項の部分に関する上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人吉田雄策の上告理由書記載の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係の概要及び記録によって認められる本件訴訟
の経過は、次のとおりである。
 1 上告人A2興産株式会社(以下「上告人A2興産」という。)は、マンショ
ン分譲業者であるが、関連会社である上告人A1株式会社が所有していた本件敷地
上に本件マンションを建築し、昭和六〇年六月から昭和六二年六月ころまでの間に、
その建物専有部分の区分所有権及び本件敷地の共有持分を分譲販売した。本件マン
ションの専有部分の建物戸数は、三八戸(居宅が三七戸)である。
 2 上告人A2興産は、本件マンションを分譲販売するに際して、建物一階部分
と本件敷地の各一部に一四区画の駐車場を設け、マンションの購入者のうち駐車場
の使用を希望する者一二名に対し、本件マンションの分譲とは別に、駐車場の専用
使用権を一区画一〇〇万円ないし一二〇万円で分譲し、合計一四一〇万円を受領し
た。
 3 本件マンションの購入者と上告人A2興産との間の土地付区分建物売買契約
書には、「買主は、専用駐車場の代金として、別途金○○円を上告人A2興産に支
払う。」(三条)、「本件敷地は区分所有者全員の共有に属するものとし、その共
有持分は区分所有者が所有する専有部分の床面積の割合による。」(五条一項)、
「本件マンションの買主は、本件敷地の一部を専用駐車場又は庭園として特定の区
分所有者に専用使用させることを認諾する。」(一三条二項)との趣旨の規定があ
る。右三条の専用駐車場の代金欄には、駐車場の専用使用権を取得した者について
は「一二○万円」等と記入され、それ以外の者については空欄とされている。
 4 また、本件マンションの購入者に交付された図面集の二箇所には、駐車場に
ついて「分譲一四区画、一区画一二〇万円」と記載されている。
 5 上告人A2興産は、営利の目的で、右のとおり、本件マンションの購入者の
うちの希望者に対し、駐車場の専用使用権を分譲して所定の対価の支払を受け、こ
れを自己の利益として受領したものである。
 6 上告人A2興産と本件マンションの購入者との間では、管理組合が業務を開
始するまでの間、同上告人が本件敷地の管理業務を行うことについての委任契約等
は締結されておらず、また、同上告人は管理規約案も作成していない。
 7 本件マンションの区分所有者は、昭和六一年一二月に管理組合の第一回総会
を開き、管理規約を設定した。被上告人B1管理組合理事長B2(以下「被上告人
B2」という。)は、平成五年四月に開催された臨時総会において、管理組合の理
事長に選任されたものである。
 8 本件訴訟は平成二年に提起されたものであるが、このうち、上告人A2興産
と被上告人B2との間の紛争は、本件マンションの管理者である同被上告人におい
て、区分所有者のために、主位的に不当利得返還請求権に基づき、予備的に委任契
約における受任者に対する委任事務処理上の金員引渡請求権に基づき、同上告人に
前記駐車場専用使用権分譲の対価合計一四四〇万円の返還又は引渡しを求めるもの
である。第一審は、主位的請求を棄却した上、予備的請求のうち一四一〇万円とこ
れに対する遅延損害金の支払を求める部分を認容し、原審も、第一審の判断を正当
として上告人A2興産の控訴を棄却した。
 二 被上告人B2の予備的請求に関する原審の判断は、要旨、次のとおりである。
 1 本件マンションの分譲に際し、その購入者は、駐車場専用使用権(以下「専
用使用権」という。)の性質、効力等、契約の基本的な部分について十分に理解し
ないまま契約を締結したものであるから、上告人A2興産と本件マンションの購入
との間において、同上告人が専用使用権を分譲し、その対価を得ることについて、
有効な合意が成立したと解することはできない。上告人A2興産による専用使用権
の分譲は、その効力を否定すべきである。
 2 一方、委任契約に基づく委任事務を処理するにつき、受任者が、外形的に委
任の範囲に属する行為を、自己のためにする意思の下に行い、これにより金員を収
受したときは、委任者は、受任者に対し、右金員を委任事務処理を行うにつき収受
したものとして、受取物引渡請求権を行使することができると解される。
 3 本件の場合、上告人A2興産と本件マンションの購入者との間で本件敷地の
管理業務を行うことについて委任契約は締結されていないが、同上告人は、本件マ
ンションの購入者から、本件敷地の管理運営・使用収益ないしは本件敷地の使用に
関する共有者相互間の調整を行うことの委任を受けていたものというべきである。
そして、本件敷地の一部につき特定の共有者のために専用使用権を設定し対価を取
得するのは、外形的に右委任事務の範囲に含まれるということができるから、本件
マンションの購入者は、上告人A2興産に対し、同上告人が専用使用権分譲の対価
として収受した一四一〇万円の引渡しを求めることができる。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
 本件マンションの建物一階部分と本件敷地の一部に設けられた駐車場の専用使用
権は、本件マンションの分譲に伴い、上告人A2興産から特定の区分所有者に分譲
されたものであるところ、前記一の売買契約書、図面集の記載に照らすと、右専用
使用権を取得した特定の区分所有者は右駐車場を専用使用し得るものとされ、また、
右専用使用権を取得しなかった区分所有者は右専用使用を認諾・承認すべきものと
されていることが明らかである。そのほか、本件において、分譲業者である上告人
A2興産が、購入者の無思慮に乗じて専用使用権分譲代金の名の下に暴利を得たな
ど、専用使用権の分譲契約の私法上の効力を否定すべき事情も存しない。
 そして、前記一のとおり、分譲業者である上告人A2興産は、営利の目的に基づ
き、自己の利益のために専用使用権を分譲し、その対価を受領したものであり、さ
らに、専用使用権の分譲を受けた区分所有者もこれと同様の認識を有していたと解
されるから、右対価は、右分譲契約における合意の内容に従って同上告人に帰属す
るものというべきである。この点に関し、上告人A2興産が、区分所有者全員の委
任に基づき、その受任者として専用使用権の分譲を行ったと解することは、右分譲
契約における当事者の意思に反するものであるといわなければならない。また、あ
る者が自己のためにする意思の下にした行為が、他の者からの受任によってする行
為と外形的に同一であったとしても、そのことだけで、関係者の具体的意思に反し
て、両者の間に委任契約が成立していたということはできないし、具体的な当事者
の意思や契約書の文言に関係なく、およそマンションの分譲契約においては分譲業
者が専用使用権の分譲を含めて包括的に管理組合ないし区分所有者全員の受任者的
地位に立つと解することも、その根拠を欠くものである。
 したがって、委任契約における受任者に対する委任事務処理上の金員引渡請求権
に基づき右対価の引渡しを求める被上告人B2の予備的請求は、理由がない。
 四 そうすると、右と異なる原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があ
り、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は右の趣旨
をいうものとして理由があり、原判決中、被上告人B2に関する部分は破棄を免れ
ない。そして、以上に説示したとおり、被上告人B2の予備的請求は理由がないか
ら、第一審判決中、右予備的請求を認容した部分を取り消した上、同部分に関する
予備的請求を棄却することとする。
 同上告理由書(二)記載の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属す
る証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論
難するものであって、採用することができない。したがって、上告人A1株式会社
の上告及び上告人A2興産のその余の上告は、理由がないから、これを棄却するこ
ととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    河   合   伸   一
            裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    福   田       博
 裁判官大西勝也は、退官につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    河   合   伸   一

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