弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人植田夏樹、同田中実の上告理由について。
 Dなる姓を同じくし、武一、文三と名を異にする候補者の存する本件選挙におい
て、「D文一」、「文一」、「D文一」と記載された各投票合計一一票につき、原
判決は、その名の発音面の類否を根拠とし、これをD武一の得票と認むべきで、D
文三を選挙しようとして音感を異にする「文一」と誤記する選挙人はありえないと
することも、またその名の字形上の異同を理由とし、これをD文三の得票と認むべ
きで、D武一に投票しようとして「武」を「文」と誤記する選挙人は考えられない
とすることも、いずれも正鵠をえたものではなく、「文三」を「文一」と誤記し、
あるいは「武一」を「文一」と誤記することは、ともにありうるところであつて、
そのいずれの可能性が強いかをもつてこれら投票の帰属を決することは困難とし、
結局候補者の何人を記載したか確認しがたい無効投票と解したのである。原判決が
その挙示の証拠に基づいて適法に認めた事情のもとにおいては、係争の一一票の投
票のうちにD文三の名を誤記されたものがあるとしても、他面これにD武一の名を
誤記されたものも含まれないとは断定しがたく、従つてこれら投票をすべて帰属を
決しがたい無効のものとした原判決の判断はやむをえないものと思量され、これを
所論のように経験則を無視した独断ということはできない。公職選挙法六七条後段
の規定は、記載に不備、不完全の点があるにもせよ、特定の候補者に対する投票意
思が明白に看取できる投票は、これを無効とすべきでない旨を注意的に規定したも
のにほかならず、何人を選挙したものか投票意思自体明確を欠くものについてまで
安易にその帰属決定を許す趣旨ではない。従つて、原判決の前叙の判断をもつて同
条の解釈を誤り同法六八条七号を不当に適用したものとする所論は、理由がない。
 なお論旨は、原審において上告人が係争の投票の帰属判定についてはその記載の
名の頭字に重点を置いてなすべきことを強く主張したのにかかわらず、原判決がこ
の点につきなんら判断を示さないのを審理不尽とするが、そのいうところは、ひつ
きようD武一を選挙しようとして「武」を「文」と誤記することはありえないから、
 「文」の字の記載に着眼してD文三に投票したものと認むべしとする主張に帰す
るのであり、これに対しては、前叙のように原判決は判断を欠くところがないので
あるから、論旨は採用しがたい。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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