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令和2年10月13日判決言渡
令和2年(行ケ)第10017号審決取消請求事件
口頭弁論終結日令和2年9月17日
判決
原告株式会社空調服
同訴訟代理人弁護士鮫島正洋
高橋正憲
被告株式会社サンエス
同訴訟代理人弁護士林いづみ
堀籠佳典
加治梓子
同弁理士福田伸一
水﨑慎
高橋克宗
伊藤表
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が取消2017−300275号事件について令和元年12月24日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
⑴被告は,指定商品を第25類「作業服,その他被服」とする「空調風神服」(標
準文字)なる以下の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である(甲1,2,
142,143)。
登録出願日平成28年5月19日(商願2016-054136号)
登録査定日平成28年10月17日
設定登録日平成28年12月9日(商標第5903051号)
⑵原告は,平成29年4月20日,特許庁に対し,本件商標登録を取り消すこ
とを求めて審判請求をした(甲130)。
⑶特許庁は,これを,取消2017−300275号として審理し,令和元年1
2月24日,「本件請求は成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)を
し,その謄本は,令和2年1月9日,原告に送達された。
⑷原告は,令和2年2月10日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し
た。
2本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決(写し)記載のとおりである。要するに,被告による
別紙商標目録記載の商標(以下「本件使用商標」という。)は,原告が使用する「空
調服」なる商標(以下「引用商標」という。)との関係で,故意に,商品の品質の誤
認又は他人の業務に係る商品と混同を生ずるものとは認められず,商標法51条1
項に該当しない,というものである。
3取消事由
商標法51条1項該当性の判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
1本件使用商標の使用が「混同を生ずるもの」といえるか
⑴本件使用商標と引用商標との類似性
ア被告は本件使用商標を使用し,原告は引用商標を使用している。
イ本件使用商標は,「空調」「服」の文字を太字にし,太字の部分をその余の部分
の2倍程度の太さに強度に強調したものであるから,本件使用商標からは,「空調服」
との商標と同一の外観,称呼及び観念も生じる。したがって,「空調服」との文字か
らなる引用商標と本件使用商標は類似し,その類似性の程度は極めて高い。
「空調服」の語は,原告が独自開発したそれまで世の中に存在しなかった商品に
原告が付した造語であり,創造標章である。「空調」は室内の空気調整について使用
される語であり,その観念は「服」との語との親和性に乏しく,これらの語を結合さ
せて意味付けることは困難であり,全体として一種の造語を表してなるものと認識
されるから,特定の観念を生じさせるものではない。
⑵引用商標の周知性
アカタログの頒布
「空調服」が掲載された原告のカタログ(甲7)の部数は,平成17年には200
0部であったが,平成24年には1万部に増え,平成30年には7万5000部ま
で増えた。カタログの頒布数は,平成28年に3万7000部余,平成29年には
4万1000部余,平成30年は5万2000部余であり,全国に広く頒布されて
いる(甲144)。
イ新聞・雑誌・テレビ等
本件審決において認定された新聞記事,雑誌等及びテレビでの原告の商品の紹介
のほか,さらに次の事実が認定されるべきである。
(ア)原告の商品である「空調服」について,著名なタレント(A)を起用したC
Mが平成28年8月に公開され(甲4,21),多くのメディアで取り上げられた(甲
22)。上記CMはYoutubeで再生され,その再生回数は,平成29年3月2
8日時点で61万5805回,同年9月12日時点で63万2749回であり,ま
た,全国の映画館でも上映された(甲4,32,33)。このCMの波及的効果は非
常に大きく,152件の記事がウェブサイト上に掲載された(甲156)。
(イ)原告がこれまでに支払った原告の商品の広告宣伝費の総額は,少なくとも5
211万円である(甲4)。
(ウ)「空調服」の名称が,原告の会社名ないし原告の商品名であることが掲載さ
れたウェブサイト上の記事は9件(甲26の1・12・17・118・134・13
6,甲68の29,甲70の139・140)存在する。このようなウェブサイト上
の記事の影響は,周知性に大きな影響を与える。
(エ)「空調服」の名称が,原告の会社名ないし原告の商品名であることを放映し
たテレビは,本件審決が明示的に認定した12件以外に,38件存在する(甲15
7)。
ウ売上げ・シェア
(ア)原告の商品である「空調服」の売上げは,平成16年度が6000万円,平
成17年度が1億2500万円,平成23年度が2億3000万円,平成25年度
が4億5800円,平成26年度が16億8800万円,平成27年度が22億8
800万円,平成28年度が23億0100万円であり,その合計額は85億13
00万円を超えた(甲4,29)。
(イ)調査会社による市場調査結果(調査会社との守秘義務の関係で調査結果は提
出できない。甲34)によると,原告の商品である「空調服」の電動ファン付きウェ
ア市場におけるシェアは,平成16年から平成26年までは100%,平成27年
は94%,平成28年は84%であった。このことは,平成29年のシェア予測に
関する記事(甲146)によっても裏付けられる。
エ引用商標の自他識別機能
前記⑴イのとおり,「空調服」の語は,原告が独自開発したそれまで世の中に存
在しなかった商品に原告が付した造語であり,強い独創性がある。
原告の商品の取引は,個人向け(BtoC)のほか法人向け(BtoB)も多いと
ころ,ユニフォーム業界の主要な業界紙において,空調機能を備えた作業服一般を
表す用語として「電動ファン付きウェア」(EFウェア)との用語を用いているし,
競合他社も同様の語を使用している(甲146,149~153)。その他,業界に
おいて,空調機能を備えた作業服一般を表す用語として,「電動ファン付きウェア」,
「ファン付き作業服」,「EFウェア」等の用語を用い,原告の会社名・商品名を示す
際に「空調服」を用いて,両者を区別している例が多数ある(甲24の1・3~1
5・17・18・20・21・24・26~29・32~37・39~42・45~
57・60・63・65~70,甲26の1~15・17~93・95~103・1
05・107~132・134~141・143~146,甲37,38,45,甲
66の166・171,甲68の29,甲70の139・140,甲159の1~1
13)。
本件審決は,わずか6件の新聞記事と5件の登録実用新案公報及び公開特許公報
を根拠に,引用商標の自他商品識別機能を否定しているが,誤りである。
オ以上によれば,引用商標は原告の商品の出所を表示するものとして周知性を
有する。
⑶商品の性質,用途又は目的における関連性の程度,取引の実情
ア本件使用商標が付された被告の商品(商品名:「空調風神服」)と,原告の業務
に係る商品(商品名:「空調服」)は,いずれも電動ファン付きウェアで同一の商品で
あり,性質,用途及び目的が同一である。
イ原告の商品と被告の商品の形態等は,基本的構成及び具体的構成が共通し,
ほぼ同一といえるほどに酷似し(甲7の13・14,甲8),需要者が取り違えをす
るほどである。
ウ被告は,原告の親会社である株式会社セフト研究所(以下「セフト研究所」と
いう。)が保有する特許や製造ノウハウ等についてセフト研究所からライセンスを受
け(甲12,13),「空調服」の構成部材である服の受託製造を行い,また,ライセ
ンシーとして(甲14の1~3),原告の商品である「空調服」を販売してきた(甲
15の1・2)が,被告において契約違反に及んだため,上記契約は解除された(甲
16)。「空調服」について製造,販売する権限を失った被告は,セフト研究所の特許
を回避するために設計変更を行い(甲4),商品名を「空調風神服」に変更して,自
社製品の販売を継続しており(甲17の1~15),このことは,確定した別件訴訟
においても認定されている(甲154)。
このように,原告がファン付き作業服について,平成16年から販売を開始した
先行者であるのに対し,被告は平成29年に販売を開始した後行者として,原告の
周知の引用商標を組み込んだ本件使用商標を名称として使用し,上記イのとおり商
品の形態等も酷似させている。このような被告の行為は,原告の商品の名声にフリ
ーライドして自社製品を販売したと評価でき,取引の実情として考慮すべきである。
エ被告は,平成29年のカタログ(甲160)に,株式会社中電工が平成17年
から「空調風神服」を採用しているかのような表示を行っている。しかし,「空調風
神服」の販売が開始されたのは平成29年で(甲17の1),株式会社中電工が平成
17年から採用していたのは原告の商品である「空調服」である(甲161,16
2)から,上記表示は虚偽であり,被告は,意図的に原告の商品と被告の商品の混同
を生じさせている。
⑷小括
以上によれば,本件使用商標の具体的表示態様が原告の業務に係る商品との間で
具体的に混同を生ずるおそれを有するのであり,商標法51条1項の「混同を生ず
るおそれ」があるというべきである。
2故意の有無
前記1⑶ウのとおり,被告は,かつては,原告の受託製造業者であり,また,一販
売店(ライセンシー)として原告の商品(空調服)を販売してきたのであるから,被
告は,「空調服」の販売状況を熟知していた。また,被告は,同イのとおり商品の形
態等を酷似させ,同エのとおり虚偽の表示を行うなどしている。
以上によれば,被告は,本件商標に類似する本件使用商標を使用するに当たり,
上記使用の結果,原告の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していたも
のであり,商標法51条1項の「故意」を有していたというべきである。
3まとめ
以上によれば,被告は,故意に指定商品についての登録商標に類似する商標の使
用であって他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたといえるから,本件商
標について商標法51条1項の取消理由が存在する。
〔被告の主張〕
1本件使用商標の使用が「混同を生ずるもの」といえるか
⑴本件使用商標と引用商標との類似性
本件使用商標は,その構成から全体として特定の意味合いが生じない造語,あるい
は「風神」の部分から「風を司る神」の観念が生じる場合があるのに対して,引用商
標は,「通気機能を備えた洋服」なる観念が生じる。
本件使用商標はゴシック体風の漢字5文字で「空調風神服」と記した構成であり,
構成中「風神」の文字は他の文字より細く表してはいるが,全体としては外観上ま
とまりよく一体的に記した構成である。これに対して,引用商標は漢字3文字で「空
調服」と記した構成である。
本件使用商標は,その構成から「クウチョウフウジンフク」の称呼,あるいは「風
神」の部分から「フウジン」の称呼が生じる場合があるのに対して,引用商標はその
構成から「クウチョウフク」の称呼のみが生じる。
以上によれば,本件使用商標と引用商標は,観念,外観及び称呼において相違し,
本件使用商標と引用商標は非類似である。
⑵引用商標の周知性
ア原告が周知性の根拠として主張する原告の商品の売上げは不知である。また,
原告は,平成29年の「空調風神服」ブランド化までに被告が販売した商品が原告
のシェアに含まれることを前提とする主張をするが,被告は,平成17年以降,一
貫して,空調服を自らの商品として自らの名で製造販売してきたのであり,被告の
販売分が原告のシェアに含まれるものではない。原告がシェアを裏付けるものとし
て提出する証拠(甲146)は,メーカー各社の自己申告に基づいており,集計方法
等が明らかではない。
イ「空調服」は「空調機能を有する作業服」を意味する一般的な名称であり,自
他識別機能を有しておらず,また,引用商標に周知性はない。
(ア)「空調服」の語は,業界及び需要者において「空調機能を有する作業服」を
意味する一般的な名称として一貫して使用されてきた。
具体的には,第三者の平成28年6月のカタログ(甲107)及び平成28年7
月から10月までの業界新聞(甲85~91)においてこのような意味で使用され
ている。なお,平成29年5月以降のカタログ及びウェブサイト(甲105,108
〜113,乙7〜12)並びに平成29年4月以降の業界新聞(甲92~97)にお
いても同様である。
(イ)平成25年9月から平成28年4月に公開された特許や実用新案の公報(甲
98~103)において,「空調服」の語は「空調服を有する作業服」程度の意味で
普通に使用され,平成29年6月以降に公開された公報(甲104)においても同
様である。
また,原告の親会社であるセフト研究所による特許出願の際には,「空調服」の語
を用いている(甲79,81,乙13の1~4。)。
このことは,「空調服」が特定の出所に係る商品ではなく,出所を問わない概念で
あることを示している。
(ウ)被告は,平成17年から,空調服に独自品番(KU+数字)を付し,自らの
商品として製造販売を開始しており,平成18年から平成28年の被告のカタログ
(乙16の1~11)においては,「空調服」の語は,空調機能を有する作業服を意
味する一般的な名称として用いられている。
(エ)原告が「空調機能を有する作業服」として「電動ファン付きウェア」等が使
用されていたことを示すものとして提出する証拠は,「空調機能を有する作業服」を
意味する用語として「電動ファン付きウェア」等の語が使用されることもあるとい
うことを示すに止まり,同様の意味で「空調服」の語が使用されることを否定する
根拠にはならない。
⑶商品の性質,用途又は目的における関連性の程度,取引の実情
原告が,平成28年から,当時人気を博していた被告の商品と形態・品番・カラー
が全て酷似する製品を被告以外の会社に製造させて販売したことは,被告の信用に
フリーライドするものであり,被告が原告の信用にフリーライドしたとの原告の主
張は当たらない。
原告は,被告の平成29年のカタログ(甲160)の,株式会社中電工が平成17
年度から「空調風神服」を採用している旨の記載は虚偽であると主張するが,同社
が平成17年度から被告の商品を採用していることを示すものであって虚偽ではな
いし,商標法51条1項の混同を生ずるおそれと関わりのない無意味な主張である。
⑷小括
本件使用商標と引用商標は非類似であるし,「空調服」は空調機能を有する作業服
を意味する一般的な名称であって識別性はなく,原告の商品の表示として周知では
ない。また,被告が原告の商品の名声にフリーライドした事実はなく,原告の商品
と被告の商品の性質,用途,目的を考慮しても,本件使用商標の使用に関し,商品の
出所に混同が生ずるおそれがあるとはいえない。
2故意の有無
上記1のとおり,本件使用商標の使用により混同は生じないから,混同について
の故意も認められない。
3まとめ
以上によれば,被告による本件使用商標の使用は,「混同を生ずるおそれ」がある
ものということはできず,本件商標について商標法51条1項の取消理由は存在し
ない。
第4当裁判所の判断
1被告及び原告による商標の使用
⑴被告による「類似する商標」の使用
ア被告は,平成29年2月22日(以下「本件使用時点」という。),被告のウェ
ブサイトにおいて,被告が販売するファンを備えた作業服(以下「被告商品」とい
う。)に関する広告ないし価格表に本件使用商標を付して表示し,本件商標の指定商
品に,別紙商標目録記載の本件使用商標を使用した(以下「本件使用行為」という。
甲17の1・14)。
イ本件商標は「空調風神服」(標準文字)であり,本件使用商標は別紙商標目録
記載のとおり,本件商標と同一の文字を白抜きで一列に横書きした構成であるから,
両商標は類似する。
したがって,被告の本件使用行為は,指定商品について「登録商標に類似する商
標」(商標法51条1項)を「使用」するものといえる。
⑵原告の「業務に係る商品」についての商標の使用
ア原告の商品について
原告は,セフト研究所の子会社であり,平成16年2月に設立され(当時の商号
は株式会社ピーシーツービーであり,平成17年1月に現在の商号に変更。),平成
16年6月頃から,電動ファンを備えた作業服(以下「原告商品」という。)を「空
調服」との名称で販売している(甲3,7,19)。
セフト研究所は,図形と「空調服」との文字からなる商標(甲75。平成17年6
月10日登録。指定商品「通気機能を備えた洋服」。以下「セフト研究所の登録商標」
という。)の商標権者である。
イ原告による商標の使用
原告は,本件使用時点までに,原告商品が掲載されたカタログに,「空調服」との
文字をゴシック体等の一般的な書体で,同一の大きさで等間隔に横書きして構成し
た商標(引用商標)を付して頒布し,これを使用している(甲7の1〜3・6・7・
10〜13及び弁論の全趣旨)。
2混同の有無について
⑴商標法51条1項所定の「混同を生ずるもの」について
商標法51条1項の規定は,商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害され
るような事態を防止し,そのような場合に当該商標権者に制裁を課す趣旨のもので
あり,需要者一般を保護するという公益的性格を有するものである(最高裁昭和5
8年(行ツ)第31号昭和61年4月22日第三小法廷判決・裁判集民事147号
587頁参照)。
このような商標法の趣旨に照らせば,同項にいう「商標の使用であって…他人の
業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」に当たるためには,使用に係る
商標の具体的表示態様が他人の業務に係る商品等との間で具体的に混同を生ずるお
それを有するものであることが必要である。そして,混同を生ずるか否かについて
は,商標権者が使用する商標と引用する他人の商標との類似性の程度,当該他人の
商標の周知著名性及び独創性の程度,商標権者が使用する商品等と当該他人の業務
に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取
引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商品等の取引者及び
需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきもの
である。
⑵本件使用商標と引用商標の類似性の程度
ア両商標の構成
本件使用商標は,別紙商標目録記載のとおり,「空調風神服」の漢字5文字が白抜
きで横書きされ,文字はいずれもゴシック体で同じポイントであるが,「空調」と「服」
の文字は「風神」の文字の約2倍程度の太字であり,「風」と「神」との間隔が他の
文字と文字の間隔よりやや狭く構成されている。
前記1⑵イのとおり,引用商標は,「空調服」の漢字3文字が横書きされ,同一の
書体かつ同一の大きさで,等間隔に構成されている。
イ対比
(ア)本件使用商標は5文字からなる商標であるのに対し,引用商標は3文字から
なり,引用商標の文字が本件使用商標に用いられているが,文字数及び使用されて
いる文字からして両商標の外観は明らかに相違する。
(イ)本件使用商標からは「クウチョウフウジンフク」という称呼が生じ,引用商
標からは「クウチョウフク」という称呼が生じる。両商標は冒頭の「クウチョウ」と
末尾の「フク」において共通するが,両商標は音数の差異により明らかに区別する
ことが可能である。
(ウ)「空調」は「空気調節の略。エア・コンディショニング。」を意味し,「エア・
コンディショニング」は「室内空気の温度・湿度・清浄度などの調節。空気調節。空
調。エアコン。」を意味する。また,「風神」は「風をつかさどる神。日本では一般に
雷神と対をなして,裸形で風袋をかつぎ天空を馳せる鬼体に表す。」を意味する(以
上につき,広辞苑(第7版))。
本件使用商標は,「空調」「風神」「服」という語を組み合わせたものであると理解
でき,本件使用商標からは「空気調節をする風神(風をつかさどる神)の服」,「空気
調節の風神(風をつかさどる神)の服」程度の観念が生じる。また,引用商標は,
「空調」と「服」という語を組み合わせたものであると理解でき,「空気調節の服」,
「空気調節をする服」程度の観念が生じる。
このように,両商標は「空気調節」,「服」という観念が共通するものの,本件使用
商標においては,「服」とは通常結びつけられず,着目されやすい「風神」という観
念が含まれており,両商標から生じる観念も,相紛らわしいものではない。
(エ)以上によれば,本件使用商標と引用商標は,外観,称呼及び観念のいずれに
おいても相違するものであり,両商標は類似しない。
ウ原告の主張について
原告は,本件使用商標からは,「空調服」と同一の外観,称呼及び観念が生じると
主張する。
しかし,前記アのとおりの両商標の構成からすれば,本件使用商標と引用商標が
同一の外観でないのは明らかである。また,本件使用商標において,「空調」と「服」
が太字であるとはいっても,「空調風神服」の文字が同色で同じ書体・ポイントのフ
ォントにより1行の横書きで構成されたものであるから,全体として一体のものと
して看取されるというべきである。取引者ないし需要者において,5文字の漢字か
ら冒頭の2文字と末尾の1文字を取り出した上でこれらを一連のものとして看取す
るとは考え難く,本件使用商標から「空調服」と同一の称呼及び観念が生じるとい
うことはできない。
また,原告は,「空調服」の語は,原告が独自開発したそれまで世の中に存在しな
かった商品に原告が付した造語であり,「空調」と「服」は親和性に乏しいから,特
定の観念を生じさせるものではないと主張する。しかし,「空調服」との語は,「空
調」と「服」という平易な言葉を組み合わせたものと理解できるから,それぞれの言
葉の意味を組み合わせて,「空気調節の服」,「空気調節をする服」程度の観念が生じ
得ることは上記イ(ウ)に判断したとおりである。
⑶引用商標の周知著名性及び独創性の程度
ア原告による「空調服」の使用態様
(ア)原告のカタログ
原告は,平成17年から平成29年までの間,原告商品が掲載されたカタログと
して,①「株式会社空調服/「空調服」2005年度モデルのご案内」(甲7の1),
②「株式会社空調服/「空調服」カタログ2006年度版(甲7の2),③「職場で
も,アウトドアーでも/快適な風に包まれて/[空調服]/AirConditio
nClothingSystem」(甲7の3。2007年),④「DIRECT
COOLING/総合カタログ/株式会社空調服」(甲7の4。2008年),⑤「D
IRECTCOOLING/総合カタログ/株式会社空調服」(甲7の5。200
9年),⑥「総合カタログ2010/空調服・空調ベッド・空調ざぶとん/株式会社
空調服」(甲7の6),⑦「総合カタログ2011/空調服・空調ベッド・空調ざぶと
ん/株式会社空調服」(甲7の7),⑧「総合カタログ/2012/株式会社空調服」
(甲7の8),⑨「総合カタログ/2013/株式会社空調服」(甲7の9),⑩「総
合カタログ2014/空調服・空調ベッド・空調ざぶとん/株式会社空調服」(甲7
の10),⑪「2015/空調服」(甲7の11),⑫「空調服/2016」(甲7の1
2),⑬「2017/空調服TM
/CATALOG」(甲7の13)を発行した。
①~③,⑥,⑦,⑩~⑬のカタログには,表紙に「空調服」との文字のみをゴシッ
ク体等の一般的な書体で,同一の大きさで等間隔に横書きして構成した商標(引用
商標)が付されている。
また,①~③,⑤~⑬のカタログにおいて,商品が掲載されたページの原告商品
の写真には,「M-500U」,「KU90550」などのモデル名ないし型名が表示
され,当該商品の説明の欄に,「火を扱う作業現場での使用を想定して,耐火性を高
めるために生地に綿を使用した空調服です。」(①~③,⑤~⑪),「生地に綿を使用
した空調服です。」(⑫,⑬)などと記述されている。⑬のカタログにおいては,原告
商品の写真の下に「マジックテープ/綿薄手ワーク空調服」と表示されている。
そのほか,「「空調服」は,左右の腰のあたりに取り付けられた2個の小型ファン
によって,服の中に外気を取り込み,汗を蒸発させることによる気化熱で体を冷や
すことによって,涼しく快適にすごして頂くための商品です。」(①,②),「服の中に
外気を取り込み,汗を蒸発させる気化熱で体を冷やす。この「空調服」を着用された
方々にコメントを求めると,…」(④)との記載がある。
原告の各カタログの頒布部数を認めるに足りる的確な証拠はない。
(イ)原告のウェブサイト
平成17年6月18日時点の原告のウェブサイトには,「EcoWear環境
にスタイリッシュ空調服」,「空調服とは」,「2005/2/18テレビ朝日ス
クランブルにて弊社の空調服が紹介されました」,「空調服を用いて真夏でも生理ク
ーラーが正常動作して暑さを感じません。弊社は絶えずよりよい空調服を開発,販
売することにより…地球環境を汚染しない空調服社会の実現を目指します。」と表示
されていた(甲5の1)。
平成28年3月26日時点の原告のウェブサイトの「空調服」というタイトルの
ページにおいて,「「空調服」とは服についた小型ファンで,服の中に外気を取入れ,
体の表面に大量の風を流すことにより,汗を気化させて,涼しく快適に過ごしてい
ただくための商品です」,「空調服商品一覧はこちら」などの表示と,原告商品の写
真が掲載されている(甲5の2)。
原告ウェブサイトの各ページの閲覧者数を示す的確な証拠はない。
(ウ)原告のCM
原告は,原告商品について,著名なタレント(A)を起用したCMを平成28年8
月頃に公開したが,同CMにおいてセフト研究所の登録商標が表示された(甲21,
甲26の144・145)。
上記CMはYoutubeで再生され,平成29年9月12日時点の再生回数は
63万回を超えた(甲32)。なお,本件使用時点での再生回数は不明であり,また,
上記CMは,平成28年8月11日から同月26日までに全国のユナイテッド・シ
ネマ,シネプレックス劇場で上映されたが(甲33),その上映回数や観客数は不明
である。
イメディアにおける原告商品の紹介
(ア)新聞,雑誌,ウェブサイト上の記事,業界紙において,平成14年7月31
日から平成29年1月6日までの間に,電動ファンを備えた作業服等について「空
調服」として135回紹介された(甲26の1~15・17~22・24~46・4
8・49・51~53・55~88・90~98・100~103・105・107
~109・111~113・115~117・119・120・122~125・1
27~132・134~141・143~147,甲37,45,甲70の139・
140)。これらの記事には,商品の出所として,原告と被告が記載されたもの(甲
26の6),セフト研究所と原告が記載されたもの(甲26の7),セフト研究所と
原告と被告が記載されたもの(甲26の8),セフト研究所が記載されたもの(甲2
6の3・4・5・11)もあるが,多くは原告を出所として紹介したものと理解され
る。
(イ)テレビ番組において,平成15年夏頃から平成27年7月30日までの間に,
原告商品について「空調服」として50回紹介された(甲23の1,甲24の3・
6・7・10・11・21・24・26~29,甲36,甲157及び弁論の全趣
旨)。
(ウ)原告商品は,上記(ア)の記事や(イ)のテレビ番組において,電動ファンを備え
た作業服であり,気温が高い環境での作業の際の熱中症対策や冷房の使用を抑制で
きるという省エネ対策に有効な作業服として話題になっていることや,人気の商品
であることなどが紹介された。
ウ被告による「空調服」の語の使用
被告は,平成18年から平成28年までの間,被告商品が掲載されたカタログと
して,①「SUN-S/GeneralCatalogue/2006」(乙16
の1),②「SUN-S/UniformCatalogue/2007」(乙1
6の2),③「SUN-S/UniformCatalogue/2008」(乙
16の3),④「SUN-Sユニフォームカタログ/2009」(乙16の4),⑤
「SUN-Sユニフォームカタログ/2010」(乙16の5),⑥「SUN-S
ユニフォームカタログ/2011」(乙16の6),⑦「サンエスユニフォーム/
2012春夏商品カタログ」(乙16の7),⑧「SUN-S/2013/UNI
FORMCATALOGUE」(乙16の8),⑨「SUN-S/Air-con
ditioningWearCatalogue/空調服/2014」(乙16
の9),⑩「SUN-S/空調服/2015」(乙16の10),⑪「空調服/201
6/SUN-S」(乙16の11)を発行した。
上記カタログにおいて,そのページの長辺にタブとして「空調服」と表示され(①,
②,⑤,⑥,⑦,⑧),あるいは,その表紙に「空調服」と表示される(⑨~⑪)な
ど,「空調服」のカテゴリーに含まれる複数の商品が掲載され,商品が掲載されたペ
ージの被告商品の写真には,「KU90550」などの品番が表題として記載されて
いる。
また,上記カタログにおいて,「涼感・省エネ空調服シリーズ」(①),「空調服は,
人が本来もちあわせている「生理クーラー」の原理を利用して,…体温と湿度を快
適レベルまで調節します。」(①,②),「この「生理クーラー」と呼ばれるメカニズム
を利用しているのが,空調服です。」(③,④,⑤,⑥,⑦),「火を扱う作業現場での
使用を想定した綿100%生地の空調服。」(⑦),「空調服の仕組み,空調服の特長」
(⑦),(「COOLUNIFORM/空調服」(⑧),「空調服の着用効果」(⑧,⑨,
⑩),「火を扱う作業現場に最適な綿100%生地の空調服。」(⑧),「「空調服」で変
わる,職場と地球の未来。/「空調服」は暑さと戦うワーカーの職場環境と,温暖化
に苦しむ地球環境をきっと変えて行くでしょう。」(⑨,⑩,⑪),「空調服とは服につ
いた小型ファンで…涼しく快適にすごしていただくための商品です。」(⑨,⑩,⑪),
「人気の定番シリーズが空調服にも登場。」(⑨)などといった記述がある。
なお,①~⑥,⑧,⑨には「空気吸入ファン(品番RD9260)は(株)セフト研
究所が開発したものを使用しています。」との記載があるが,全てのカタログを通じ
て,被告商品の出所が被告以外の者であることをうかがわせる記載はない。
エその他の「空調服」の語の使用
(ア)新聞における使用
新聞において,次のとおり,「空調服」との語が使用され,これらは電動ファンを
備えた作業服等一般を示すものと解される。
a「読売新聞」(平成18年8月10日)に,「涼しい~「空調服」」,「「空調服」
とは,服の左右の腰あたりにファンを取り付け,服の中に風を取り込んで汗の蒸発
を促進,体の熱を冷ますのが狙い。」の記載がある(甲26の50)。
b「北海道建設新聞」(平成28年6月3日)に,「「空調服」で夏を涼しく/送
風機付きジャンパー推奨」,「「空調服」など薄い生地の上着内に風を送る電動の送風
機付きジャンパーだ。…小型の電動送風機が付いており,内側に送り込まれる風が
首筋と袖から抜けていく仕組みだ。」の記載がある(甲37)。
c「電気新聞」(平成28年7月7日)に,「清水建設/新ヘルメット,空調服導
入/熱中症予防へ現場に」,「空調服は既製品をベースにデザインを施した。ジャン
パーに内蔵した2機の小型電動ファンで外気を取り入れ,ジャンパー内をドライに
することで汗を乾燥させ,気化熱で体を冷やす仕組みとなっている。」の記載がある
(甲85)。
d「電気新聞」(平成28年7月13日)に,「四電工/今夏から空調服導入/外
線工事班に800着配備」,「空調服は電動の小型ファンによって服の中に風を通す
仕組みで,…涼しく過ごすことができる。」の記載がある(甲86)。
e「日刊建設工業新聞」(平成28年7月25日)に,「作業服の中に風を送り込
むための小型ファンが付いた空調服を現場に従事する社員全員に支給している。」の
記載がある(甲87)。
f「日刊建設工業新聞」(平成28年7月26日)に,「検定では,気温30度を
超す猛暑の中,全員が安全帯や防暑たれ,空調服などを装着し」の記載がある(甲8
8)。
g「建設通信新聞」(平成28年9月23日)に,「このほか,空調服・ハーネス
の購入補助や機材工作所での体験型安全研修施設新設など協力会社・作業員向けの
施策も充実させている。」の記載がある(甲89)。
h「電気新聞」(平成28年10月3日)に,「低圧感電や安全帯宙吊りといった
安全体感,遮熱ヘルメットと空調服といった熱中症対策に関する展示コーナーも設
置。」の記載がある(甲90)。
i「電気新聞」(平成28年10月6日)に,「昨年度に試行した空調服の評判が
良かったため,当社カラーに統一した約5200着を全社配備した。」の記載がある
(甲91)。
(イ)公報における使用
a第三者の出願に係る実用新案の登録実用新案公報(実用新案登録第3186
431号(甲98。平成25年10月3日発行),実用新案登録第3187092号
(甲99。平成25年11月7日発行),実用新案登録第3195731号(甲10
0。平成27年1月29日発行),実用新案登録第3197081号(甲101。平
成27年4月16日発行),実用新案登録第3206518号(甲102。平成28
年9月23日発行))及び公開特許公報(特開2016-56467(甲103。平
成28年4月21日公開))において,ファンを備えた作業服等を示すものとして,
「空調服」の語が使用されている。
bセフト研究所の出願に係る特許の公開特許公報(特開2004-35313
5(乙13の4。平成16年12月16日公開),特開2005-315085(乙
13の2。平成17年11月10日公開),特開2012-183228(甲81。
平成24年9月27日公開),特開2015-74852(甲80。平成27年4月
20日公開),特開2017-14644(甲79。平成29年1月19日公開))及
び特許公報(特許第4399765号(乙13の3。平成22年1月20日発行))
においても同様である。
オ引用商標の周知著名性及び独創性
原告のカタログにおいて,「空調服」の文字は多くが記述的に用いられている上,
その頒布部数を認めるに足りる的確な証拠はない(前記ア(ア))。また,原告のウェブ
サイト(同(イ))の閲覧者数も不明であるし,原告商品のシェアや売上げを認めるに
足りる的確な証拠はない。
前記イのとおり,原告商品は,平成14年から本件使用時点までの間に,暑さ対
策に有効な作業服等として,「空調服」との語と共に複数のメディアで取り上げられ,
そのメディアに全国紙や全国ネットの著名なテレビ番組が含まれてはいるものの,
大部分は全国紙,全国ネットではなく,頒布部数や視聴者数が不明のものであり(同
イに掲記した証拠参照),その回数もその期間に比して多いとまではいえない。
加えて,「空調服」との語は,ファンを備えた作業服等一般を示すものとして記述
的に用いられ(前記エ(ア),(イ)),あるいは,原告を出所とするものと解し得ない商品
に関するカタログでも用いられている(前記ウ)。
以上によれば,原告の親会社であるセフト研究所の登録商標が表示されたCMが
ウェブサイト上で多数回閲覧されたこと(前記ア(ウ))を考慮しても,引用商標が,
原告の出所に係る商品を示すものとして周知著名であったと認めることはできない。
また,引用商標は,「空調」と「服」という日常的に用いられる平易な言葉を組み
合わせ,同一の書体及び大きさで等間隔に配置した構成であり,独創性の程度が高
いとまではいえない。
カ原告の主張について
(ア)原告は,前記ア(ウ)のCMに関し,152件のウェブサイト上の記事が掲載
されたと主張するが,原告の提出した証拠(甲156)からは,記事において引用商
標に言及されているか否か不明であり,当該記事の閲覧者数も不明であるから,引
用商標の周知性を裏付けるものではない。
原告は,原告がこれまでに支払った原告商品の広告宣伝費用の総額が,少なくと
も5211万円であること並びに原告商品の売上高及び原告商品のシェアについて
主張するが,原告の主張を裏付ける的確な証拠はない。
(イ)原告は,法人等の需要者や取引者の間で,「空調服」との語は原告の会社名
又は商品名と認識されていることや,原告商品についての記事や番組においても,
ファンを備えた被服一般を表す用語として「電動ファン付きウェア」とか,「ファン
付き作業服」とか,「EFウェア」等の用語が区別して用いられている例があり,引
用商標には自他識別機能が認められると主張するが,このことから直ちに,引用商
標が原告商品の出所を示すものとして周知であったということにはならないから,
上記認定を左右するものではない。
(ウ)原告は,ウェブサイト上の「テレビ紹介情報」における「空調服」の検索結
果299件(甲164)を提出するが,本件使用時点後のものも多く含まれる上に,
検索結果からは原告商品の出所を示すものとして「空調服」が紹介されたのかが必
ずしも明らかではないものも多いから,上記認定を左右するものではない。
⑷被告商品と原告商品との間の関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者
の共通性その他取引の実情等
ア商品の関連性並びに取引者及び需要者の共通性
前記1のとおり,被告が本件使用商標を使用する被告商品と,原告が引用商標を
使用する原告商品は,いずれも電動のファンを備えた作業服であり,取引者及び需
要者は共通するものと推認される。
イ取引の実情等
原告商品の包装には,「空調服」の文字が付されており(甲71),原告商品が掲載
されたカタログには「空調服」の文字が付されている(甲7の13)。
これに対し,被告商品のタグ及び包装には,「THE」の文字と組み合わせて本件
使用商標が付され(甲17の3・4。ただし,包装においては色彩が反転している。),
被告商品が掲載されたカタログ(甲17の2)及び被告のウェブサイト(甲17の
1・14)には本件使用商標が表示されている。これらには,本件使用商標の末尾に
「®」が組み合わされたものもあり,取引者及び需要者において,本件使用商標が全
体として商品の出所を示すことを理解するということができる。
⑸出所の混同の有無
ア上記⑷アのとおり,本件使用行為に係る商標が使用された被告商品と引用商
標が使用された原告商品は,ファンを備えた作業服等であって同一の商品であるも
のの,本件使用商標と引用商標は類似せず,かえって,前記⑵のとおり相違するも
のである。そして,前記⑶のとおり引用商標は原告を示すものとして周知著名とは
いえず,独創性の程度が高いといえない上,証拠からは,本件使用商標が使用され
た被告商品と引用商標が使用された原告商品について,混同を生ずるおそれがある
ような取引の実情は認められない。
そうすると,両商標を同一の商品に使用した場合に,取引者及び需要者において
普通に払われる注意力を基準として,出所の混同を生ずるとはいい難い。
イ原告の主張について
(ア)原告は,本件使用商標が使用された被告商品と引用商標が使用された原告商
品の形態等が酷似し,両商品について需要者の間で取り違えが生じるほどである旨
を主張する。
本件使用商標が使用された被告商品と,引用商標が使用された原告商品の一部に
おいて,基本的構成(襟付きの長袖であり,服胴部の前方中央に縦に帯状の袷部を
形成し,その内側にファスナーを取り付け,両脇腹部,両胸部及び左腕部にポケッ
トを設け,背面左右両腰部に開口部を形成し,その使用態様において,需要者が当
該開口部にファンを設置して使用できる態様のものである)が同一であるほか,具
体的構成(比翼仕立ての正面部分,前面のポケットの数及び位置,左袖のペン差し
の構成,電池ボックスポケット及びバッテリー用ポケットの位置,袖口のマジック
テープ等)の点からみても類似し,カラーラインナップも類似する3色のものがあ
ることは認められる(甲8,甲17の14及び弁論の全趣旨)。しかし,前記⑷イの
とおり,それぞれの商品やその包装及び広告ないし価格表には異なる商標が付され
ていることが認められ,その商標は前記⑵のとおり相違しているのであるから,上
記のとおり商品の形態が類似しているからといって,取引者及び需要者において普
通に払われる注意力を基準として,出所の混同を生ずるとはいい難いし,また,需
要者の間で頻繁に取り違えが生じていることを認めるに足りる証拠もない。
(イ)原告は,被告は,ファンを備えた作業服の販売について原告に10年以上後
れる後行者でありながら,原告の周知の商標を組み込んだ本件使用商標を使用し,
商品の形態等も酷似させ,原告の商品の名声にフリーライドして自らの商品を販売
するものであるから,これを取引の実情として考慮すべきであると主張する。
しかし,引用商標と本件使用商標が相違することは前記⑵のとおりであるし,形
態が類似しているからといって,出所の混同を生ずるとはいえないのは上記(ア)のと
おりである。また,証拠(甲8,12,13,甲17の14,乙16の1〜11及び
弁論の全趣旨)によれば,①セフト研究所と被告が,平成15年頃,ファンを備えた
被服に関係するセフト研究所の出願中の特許について,セフト研究所が被告に実施
許諾(非独占的通常実施権)することなどを内容とする契約を締結したこと(甲1
2),②セフト研究所と被告が,平成24年11月20日,ⅰ)セフト研究所が保有
する特許権に係る特許を用いたファン付き作業服等の被服の部分を被告が製造し,
これにファン部材を組み付けた製品を被告が販売することを許諾し,ⅱ)セフト研
究所が販売する製品の被服の部分の製造を優先的に被告に委託し,被告は優先的に
受託することなどを内容とする契約を締結したこと(甲13),③平成27年頃に両
者の関係が悪化してほどなく上記契約関係が終了したことは認められるものの,原
告ないしセフト研究所が,その保有する特許権の技術的範囲を超える,ファンを備
えた作業服全体の独占権を有するものでもないことは明らかである。以上によれば,
被告が,ファンを備えた作業服の販売について,原告の後行者であるのに,原告の
名声にフリーライドしたものと評価することはできず,原告の主張は前提を欠く。
(ウ)原告は,被告が,平成29年のカタログ(甲160)に虚偽の記載をし,意
図的に混同を生じさせていることを取引の実情として主張する。しかし,株式会社
中電工が平成17年から使用している「空調服」の出所が原告であることを裏付け
るに足りる証拠はなく,原告の主張は前提を欠く。
3結論
以上によれば,その余の点を検討するまでもなく,本件使用行為が商標法51条
1項に該当するということはできない。
したがって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとお
り判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官髙部眞規子
裁判官小林康彦
裁判官髙橋彩
別紙商標目録

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