弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主         文
     被告人を懲役4年に処する。
理         由
(犯罪事実)
 被告人は,民家に押し入って金品を強取しようと企て,自称A,B,C,D及び
氏名不詳者数名と共謀の上,平成15年12月9日午前3時ころ,兵庫県小野市a
町b番地のc所在のE(当時53歳)方の無施錠の玄関から侵入し,そのころ,同
人方1階寝室等において,就寝中の同人及び同人の内妻F(当時61歳)の目や口
にガムテープを巻き付けた上,両手及び両足をロープ等で緊縛するなどの暴行を加
え,さらに,「鍵,鍵,殺す。」などと言って脅迫し,その反抗を抑圧して,両名
所有の現金約2018万円及び腕時計5個等約21点(物品時価合計163万円相
当)を強取した。
(証拠の標目)
省略 
(補足説明)
1 弁護人は,被告人は本件犯行に関与したことは全くなく,本件犯行現場に赴い
たことも全くなく,無罪であると主張し,被告人も,これに沿う供述をするので,
当裁判所が,判示事実を認定した理由について,補足して説明する。
2 関係各証拠によれば,何者かが判示の犯行をしたことは明らかであり,そのよ
うな犯行があったことについては,特に争いがない。そうしたところ,本件犯行の
共犯者であるBは,捜査段階及び公判において,自らの犯行関与を認めるととも
に,被告人が本件犯行に加わっていたことを一貫して供述しており,その供述は,
十分信用に値する。
3 Bの供述によれば,①Bは,Gという男(上記自称Aと同一人物)と行動を共
にしていたが,共犯者であるDらを介して本件被害者の情報を仕入れ,Gから,本
件強盗に際し,運転手をしないかと誘われてこれを了承した,②平成15年12月
8日午後10時ころ,ブルーバードを運転して,Gとの待ち合わせ場所である大阪
市d区内のe交差点付近に行き,同所でGを助手席に乗せ,さらに,近くの公園に
行き,4名の中国人と合流し,ラルゴに乗り換えて犯行現場に向かったが,その中
国人のうちの1人が被告人であった,③翌9日午前3時ころ,犯行現場付近で,G
が中国人らに指示し,G及び被告人を含む中国人5人が軍手をして被害者宅の方に
行き,その後,1人の中国人がバールのようなものを取りに戻った,④Bは,ラル
ゴの車内で待機していると,中国人5人が戻ってきたので,車を発進させ,e付近
の公園に戻り,中国人らと別れた,⑤同日午後2時ころ,再びGと会い,Gから,
Bの分け前として400万円,Dらの分け前として500万円を受け取った,とい
うのである。また,Bは,被告人を特定した経緯として,①被告人と会ったのは,
本件犯行当日が初めてであったが,そのときの中国人4人の中に,あごひげを生や
した男がいて,一番印象に残った,②その後,2回か3回,中国人グループの運転
手として名古屋方面に行ったが,そのとき,被告人を見て,小野の事件(本件犯
行)のときにいた男だとはっきり分かった,③そのとき,Bは,被告人から,「こ
の前,あなた,いくらもらった。」と聞かれ,実際より少し少なめに答えたが,そ
れでも被告人は,私の分け前が多いことに驚き,ぼやいていた,④また,名古屋に
行った際,2回にわたって,被告人から,報酬として10万円,5万円をもらっ
た,⑤逮捕された後,警察で,取調べ警察官から,複数の人物の顔写真が添付され
た面割台帳(甲61号証と同種のもの。)を示され,被告人の写真を見て,あごひ
げはなかったように思うが,小野市の事件のメンバーに間違いないと思った,など
と述べ,また,公判廷において,実際に被告人を見て,小野市の事件にかかわった
ものとして見覚えがあると供述している。
4 Bの供述は,他の関係証拠から認められる本件犯行の状況と合致しているのは
当然としても,本件犯行にかかわるようになった経過や,犯行当時の状況,その後
の被告人を含む中国人グループ等とのかかわり等を含め,不自然,不合理な点は見
受けられず,反対尋問にも揺るがず,当初から一貫している上,はっきりしないこ
とはしないと述べるなど,しんしな供述態度が認められる。また,同人は,本件犯
行に運転手や情報の仲介者として関与したことなどを正直に述べている上,Aにつ
いては,Gという人物として,本件犯行に誘われた経緯等から具体的に供述する一
方,被告人については,上記のとおり被告人を特定していった経過を順を追って供
述しているのであって,ことさら自己の刑責を軽減しようとしたり,他人に責任を
転嫁させようとする姿勢は見受けられず,その信用性に疑いを入れるような事情は
うかがえない。
  そして,Bは,犯行当日,街灯が設置された公園付近の路上で被告人と会い,
その後,7時間以上にわたり,被告人と狭い自動車内で一緒に行動し,その際,被
告人があごひげを生やしていたことで印象に残り,さらにその後も,少なくとも2
回にわたり被告人と行動を共にし,その際,被告人から,本件犯行の報酬のことに
ついて話しかけられたというのであって,このような経緯に照らすと,B供述にお
ける識別の信用性は高いというべきである。なお,上記甲61号証の写真10を見
ると,その顔写真のあごの部分は濃い陰影になっているものの,写真5や写真19
等に比較すると明らかなあごひげとまでは見えないが,Bは,公判廷において,弁
護人の誤導ともいえるような執ような尋問に対しても,「警察官から見せられた写
真はあごひげがなかったように思うが,同写真は,見た感じそのままであって間違
いない。」と述べているのであって,その供述の信用性に問題があるとは考えられ
ない。
5 他方,関係各証拠によれば,①Bは,本件犯行前後ころ,Aから,Hの建物
(大阪市d区fg丁目h番i号所在)が,Aの友人のマンションであることを聞か
され,また,被告人らと名古屋方面に行った際,被告人がHに出入りするのを見た
と述べているところ,Hのk号室は,被告人の妻Iが契約名義人となっているこ
と,②Bは,Aの依頼により,上記Hにほど近い駐車場Jパーキング(同区fg丁
目l番m号所在)の契約名義人となったが,同駐車場の駐車車両は,登録番号「な
にわxxxKxxxxステーションワゴン(車名ニッサン)」となっているとこ
ろ,被告人は,平成16年1月16日,大阪市内の病院で窃盗事件を敢行し,その
後,上記車両(エルグランド)を無免許で運転して逮捕されていることが認められ
(下記確定裁判),これらの事実は,上記Bの供述を客観的に裏付けているととも
に,被告人の,本件犯行への関与を強く疑わせる事情である上,③被告人が使用し
ていた携帯電話から,Aが使用していたと認められる携帯電話への通話が,本件犯
行後の,平成16年1月13日に2回,同月14日に1回の少なくとも3回あった
ことからすると,被告人と,B供述によって本件共犯者とされるAとの間に,人的
なつながりのあったことが容易に推認される。
6 以上のとおり,Bの供述は十分信用することができ,これに関係各証拠を総合
すると,判示事実は,優に認めることができる。
7 これに対して,被告人は,本件犯行への関与を一切否定し,GあるいはAとい
う男とは会ったこともなく,Bも,前回の法廷で初めて会った,Hというマンショ
ンの建物にも見覚えがない,などと供述しているが,上記の証拠関係に照らして信
用することができない。
(確定裁判)
 省略
(法令の適用)
 被告人の判示の行為うち,住居侵入の点は刑法60条,130条前段に,強盗の
点は同法60条,236条1項(刑の長期は,行為時においては,平成16年法律
第156号による改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法
12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があっとき
に当たるから同法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)に該当するが,
この住居侵入と強盗との間には手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,
10条により1罪として重い強盗罪の刑で処断することとし,これは前記確定裁判
があった各罪と同法45条後段の併合罪であるから,同法50条によりまだ確定裁
判を経ていない判示罪について更に処断することとし,なお犯情を考慮し,同法6
6条,71条,68条3号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役
4年に処し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負
担させないこととする。
(量刑の理由)
 本件は被告人が共犯者らと共謀の上,民家に侵入し,家人をガムテープやロープ
で緊縛するなどし,多額の現金,物品を強取したという侵入強盗の事案である。
 被告人らは,多額の現金を保有している資産家の情報を事前に入手し,下見をし
た上,家人の帰宅を確認し,ガムテープ,ロープやバール等の犯行道具を準備し,
仲間を集めて本件犯行を敢行したもので,その犯行は極めて組織的,計画的なもの
であることがうかがえる。そして,家人らの寝静まった深夜に,数人で民家に押し
入った上,いきなり家人らの顔にガムテープを巻き付け,両手両足をロープで縛る
などの手荒い暴行を加え,さらに,「殺す」などと強度の脅迫をしたもので,その
犯行態様はまことに悪質である。また,本件犯行による被害も現金合計約2018
万円,物品合計163万円相当と非常に多額に上っているところ,全く被害弁償も
なされておらず,被害者の処罰感情も厳しい。
 さらに,上記Bの供述によれば,同人は,本件後も,被告人をリーダーとする中
国人窃盗グループの運転手を何度か務めたというのであり,被告人の妻が,被告人
らの窃盗グループの拠点と思われるマンションの名義人になっていること,実際に
その後犯した窃盗で有罪判決を受けていることからすれば,被告人には,強窃盗事
犯について常習性がうかがえ,他方,本件に関しては完全に否認しており,反省の
態度は見受けられない。
 以上の事情に照らすと,被告人の刑事責任は重いというほかない。
 しかし,他方,本件は,上記確定裁判と併合罪の関係にあり,上記刑と併せて執
行されることなどの事情を考慮し,酌量減軽した上,主文の刑を定めた。
(求刑 懲役6年)
  平成17年10月13日
    神戸地方裁判所第4刑事部
          裁判官  笹  野  明  義

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