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平成13年(行ケ)第17号 審決取消請求事件(平成14年6月10日口頭弁論
終結)
          判         決
       原      告   ジョイテック株式会社
       訴訟代理人弁護士   古  田  友  三
       同山  田     徹
       同          高  橋  譲  二
       同    弁理士   土  川     晃
       被      告   シンポ株式会社
       被      告   東邦瓦斯株式会社
       両名訴訟代理人弁護士 高  橋  美  博
       同  弁理士西  山  聞  一
          主         文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
特許庁が平成11年審判第35682号事件について平成12年11月30
日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告らの負担とする。
 2 被告ら
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   被告らは、名称を「ロースターにおける立消え安全装置」とする実用新案登
録第2106398号の考案(平成元年1月20日出願、平成8年2月21日設定
登録、以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。原告は、平成11年1
1月19日、被告らを被請求人として、本件実用新案登録の無効審判の請求をし、
平成11年審判第35682号事件として特許庁に係属した。特許庁は、上記事件
につき審理した結果、平成12年11月30日、「本件審判の請求は、成り立たな
い。」との審決をし、その謄本は、同年12月20日、原告に送達された。
 2 本件考案の要旨
   燃焼部に設けたバーナーの点火部の高さ位置と同一平面上にしてドレンパ
ン、内箱、外箱の各側壁に貫通孔を貫設し、外箱の貫通孔の外方でテーブルの底部
にバーナーの炎から照射される紫外線を検知する炎センサーを対向配置し、該炎セ
ンサーを燃焼ガスを供給するガス流入経路中に配設した電磁弁に炎センサーの作動
によりガス流入経路を開閉する様に接続したことを特徴とするロースターにおける
立消え安全装置。
 3 審決の理由
   審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本件考案が、特開昭59-176
526号公報(審判甲第1号証、本訴甲第3号証、以下「引用例1」という。)、
特開昭63-210520号公報(審判甲第2号証、本訴甲第4号証、以下「引用
例2」という。)、実願昭58-70148号(実開昭59-175860号)の
マイクロフィルム(審判甲第3号証、本訴甲第5号証)、特開昭57-15502
2号公報(審判甲第4号証、本訴甲第6号証)及び実願昭49-99347号(実
開昭51-26520号)のマイクロフィルム(審判甲第5号証、本訴甲第7号
証)に記載されたものに基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができ
たとはいえないとした。
第2 原告主張の取消事由
   審決の理由中、「4.当審の判断」の相違点(イ)及び(ロ)の判断並びに「5.む
すび」は争い、その余は認める。
   審決は、本件考案と引用例1記載のもの(以下「引用例考案1」という。)
との相違点(イ)(取消事由1)及び相違点(ロ)(取消事由2)についての判断を誤
った結果、本件考案が、当業者にとって、引用例考案1及び引用例2記載のもの
(以下「引用例考案2」という。)に基づいてきわめて容易に考案をすることがで
きたとはいえないとしたものであるから、違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(相違点(イ)の判断の誤り)
  (1) 貫通孔について
   ア 審決は、本件考案と引用例考案1との相違点について、本件考案が「燃
焼部に設けたバーナーの点火部の高さ位置と同一平面上にしてドレンパン、内箱、
外箱の各側壁に貫通孔を貫設し」ている構成を相違点(イ)と認定した(審決謄本5
頁末行~6頁1行目)上、「本件考案は各構成部材を、ロースターのドレンパン、
内箱、外箱と特定して、これらの構成部材に貫通孔を設けたものであって、炎セン
サーと炎との一般的な構想(技術思想)を考案の構成要件としているものではない
し、請求人(注、原告)が提出した甲第2号証(注、引用例2)に示された『石油
ボイラー』には、本件考案の課題に相当する記載も見当たらない。」(同7頁2行
目~6行目)と判断したが、誤りである。
   イ すなわち、本件考案では、「ドレンパン」「内箱」「外箱」という構成
部材を特定して、これらの構成部材に貫通孔を貫設したものであるが、このこと
は、炎を検知するために製品の構成部材に貫通孔を設ける必要があるからであっ
て、これら特定の構成部材に貫通孔を設けること自体に技術的意義があるものでは
ない。本件考案において、「ドレンパン、内箱、外箱の各側壁に貫通孔を貫設し」
と構成した趣旨は、考案の対象製品に貫通孔を設けることであるから、本件考案
は、炎センサーと炎との間の一般的な技術思想を考案の構成要件としているのであ
る。
   ウ 仮に、本件考案が炎センサーと炎との間の一般的な技術思想を考案の構
成要件としたものではないとしても、製品に貫通孔を設けるために、製品の具体的
な構成部材にすぎない「ドレンパン」「内箱」「外箱」に貫通孔を設けることは、
当業者にとって、きわめて容易に想到し得たことである。
   エ 被告らは、本件考案では、貫通孔を設ける部材を、洗浄のために脱着さ
れるドレンパン及び内箱並びに非脱着の外箱と特定し、貫通孔を貫設する位置をこ
れら部材の側壁と特定したから、これら部材の機能を損なうことなく貫通孔を設け
たことに技術的意義が存在すると主張するが、貫通孔を設ける以上、特定の部材の
機能を損なうことなく設けることは当然のことであり、そのことに特段の技術的意
義はない。
   オ また、被告らは、貫通孔を設けるのは、炎センサーを外箱の外方に設け
るためであり、その理由は、製品の構成部品の脱着により炎センサーが損傷すると
いう課題を解決するためであって、この課題の発見も考案の要素の一つであると主
張するが、引用例考案2では、バーナヘッド部と反対側のファンケースの表面に火
炎検出器が取り付けられており、火炎検出器が外方に設置されていることは明らか
である。引用例2(甲第4号証)には、「火炎検出器を取付けるファンケースに、
火炎検出器を取付けるための、特別な加工をしなくてすむ」(4頁右上欄10行目
~12行目)と記載され、他の部材の脱着の容易さという効果もうかがえるし、洗
浄のための脱着の容易さという効果や課題も、当業者には自明の事項である。
  (2) 火炎の検出等について
   ア 審決は、相違点(イ)に係る判断において、「甲第2号証(注、引用例
2)に開示されている構成をみても、ブローチューブ28又は10の底部の火炎検
出窓15を通して火炎を検出しているものであるから、火炎検出窓15がバーナー
の点火部の高さ位置にあるということはできないし、甲第2号証のファンケース2
0又は2、ブローチューブ28又は10が、それぞれ本件考案の外箱7、内箱6に
相当するとしても、底部から空気整流穴11を通して燃焼空気を供給するブローチ
ューブ28又は10の構成では、本件考案のドレンパンのように底部で調理物の油
汁等を受ける機能を備えているものということもできない。」(審決謄本7頁6行
目~14行目)と判断したが、誤りである。
     すなわち、仮に、引用例2記載の火炎検出窓がバーナーの点火部の高さ
にないとしても、火炎検出位置は当該製品の構造に応じて最も使用しやすい位置に
決めればよく、その決定は、当業者にとってきわめて容易である。ロースターで
は、バーナー上部には、焼肉などを載置するからセンサーを設置することができ
ず、バーナー下方にセンサーを設置すると、炎が上方に向かうことから検知しにく
くなる。このような構造的制約により、ロースターでは貫通孔の位置が水平方向に
ならざるを得ないから、当業者にとって、貫通孔の位置を点火部の高さ位置とする
本件考案の構成は、きわめて容易に想到し得たものである。
     また、引用例1の第2図は、本件明細書の第2図と構成がほとんど同一
であり、前者の「プレート」が後者において「ドレンパン」と名称を変えているに
すぎず、引用例1の第2図は、「底部で調理物の油汁等を受ける機能を備えてい
る」というべきである。審決は、この点を看過して、誤った判断に至ったものであ
る。
   イ 被告らは、引用例考案2では、炎を後方から検知しており、ここでの
「後方から」は本件考案における「下方から」に相当するから、構造的制約をいう
原告の主張は誤りであること、本件考案ではバーナーの点火部の高さ位置で炎を検
知するから、引用例考案2とは炎の検知方向が相違するものであり、そこには創作
力の発揮が必要であることを主張する。しかしながら、引用例2が開示する業務用
の石油ボイラーでは、第2図が図示する円筒形状の燃焼部27を炎が満たして大き
く広がって燃え上がるのに対し、本件考案のロースターでは、その願書に添付され
た第2図(甲第2号証5頁)が図示する点火部4において、数ミリメートルから1
cm程度の高さのごく小さな炎が環状になって燃えるにすぎないものであるから、両
者は、炎の性質及び形状において全く異なるものである。このため、炎の存在を検
知する際に、石油ボイラーでは炎の大きさが非常に大きいので下方から検知可能で
あるが、本件考案のロースターでは、小さな炎を確実に検知するために、炎センサ
ーを水平方向に設けることが必要となる。このようなロースターにおける小さな炎
の性質及び形状の特徴から、炎センサーを水平方向に設けることは、当業者がきわ
めて容易に想到し得たことである。
 2 取消事由2(相違点(ロ)の判断の誤り)
   審決は、本件考案と引用例考案1との相違点について、本件考案が「外箱の
貫通孔の外方でテーブルの底部にバーナーの炎から照射される紫外線を検知する炎
センサーを対向配置」(審決謄本6頁2行目~3行目)している構成を相違点(ロ)
と認定した上、「甲第5号証(注、引用例5)に、種火炎17を紫外線受光素子1
5で直接検知し、着火ミスがあったとき燃料の供給を停止するものが記載されてい
るので、この『紫外線受光素子15』が、本件考案に用いられている『紫外線を検
知する炎センサー』とに格別な相違があるとは認められないし、甲第5号証記載の
ものが、種火炎17を紫外線受光素子15によって検知するようにしてはいるが、
メインバーナーの炎を検出するようにすることも甲第1号証の記載から当業者がき
わめて容易に想到し得るものといえる。」(同7頁末行~8頁6行目)としなが
ら、これに続けて、「しかし、本件考案は、さらに、炎センサーの配置箇所を、
『外箱の貫通孔の外方でテーブルの底部』としているところにある。・・・甲第2
号証に記載された火炎検出器32又は14は、ファンケース20又は2に取り付け
られており、このファンケース20又は2が本件考案の外箱に相当するとしても、
本件考案の炎センサーは、その外箱の外方のテーブルの底部に配置したものであ
る。この構成は、請求人(注、原告)の提出した他の甲各号証を検討しても何も記
載もされていない。さらに、甲各号証には、バーナーに脱着し得る構成部品を備え
た箇所における炎センサーの配置について示唆する記載も認められない。」(同8
頁7行目~15行目)と判断したが、誤りである。
   すなわち、炎センサーの配置の位置を「テーブルの底部」としたことは、貫
通孔を設けてセンサーを設置する以上、製品の構造的制約から当然であり、また、
「外箱の外方に」としたことも、製品の構成部品の脱着を妨げることのないように
するために当然の構成である。そうすると、炎センサーを外箱の外方のテーブルの
底部に配置することは、当業者にとって、きわめて容易に想到し得たものである。
第4 被告らの反論
 1 取消事由1(相違点(イ)の判断の誤り)について
  (1) 貫通孔について
    審決は、相違点(イ)の検討において、貫通孔を設ける構成部材を「ドレン
パン、内箱、外箱」と特定しているが、同時に、「この点火部(注、バーナーの点
火部)と『同一平面上にしてドレンパン、内箱、外箱の各側壁に貫通孔を貫設し』
たことは、ロースターのドレンパン、内箱、外箱のそれぞれの機能を損なうことな
く、それぞれに貫通孔を貫設し、この貫通孔を通して、バーナー点火部の炎を炎セ
ンサーで検出できるようにしているということができる。」(審決謄本6頁28行
目~32行目)と認定したものである。すなわち、本件考案では、貫通孔を設ける
部材を、洗浄のために脱着されるロースターのドレンパン及び内箱並びに非脱着の
外箱と特定し、貫通孔を貫設する位置をこれら部材の側壁と特定している。本件考
案は、これら特定の部材の機能を損なうことなく貫通孔を設けたことに技術的意義
が存在するのであって、炎センサーと炎との間の一般的な技術思想である「炎セン
サーと炎との間に介在する構成部材に貫通孔を設ける」という構成に技術的意義が
あるわけではない。
    本件考案において、貫通孔を設けたのは、製品の構成部品の脱着により炎
センサーが損傷するという課題を解決する目的で、炎センサーを外箱の外方に設け
るためであり、この課題の発見も考案の要素の一つである。
    原告は、引用例2の記載から、洗浄のための脱着の容易さという効果や課
題が当業者には自明であると主張する。確かに、引用例2(甲第4号証)には、
「火炎検出器を取付けるファンケースに、火炎検出器を取付けるための、特別な加
工をしなくてすむこととなり、コストダウンという効果も得られた。」(4頁右上
欄10行目~13行目)と記載されているが、引用例考案2は、火炎検出器の取付
け角度に関するものであり、しかも、一度取り付ければ取り外すことを予定しない
火炎検出器を設けたものである。したがって、「特別な加工をしなくてすむこと」
から、洗浄のための脱着の容易さという効果や課題に到達することはなく、引用例
2には本件考案の課題が見当たらないとして、本件考案の進歩性を肯定した審決の
判断は正当である。
  (2) 火炎の検出等について
   ア 原告は、火炎検出位置は当該製品の構造に応じて最も使用しやすい位置
に決めればよく、その決定は、当業者にとってきわめて容易であること、ロースタ
ー製品では、構造的制約から貫通孔の位置が水平方向にならざるを得ないことか
ら、貫通孔の位置を点火部の高さ位置とする本件考案の構成は、当業者にとって、
きわめて容易に想到し得たものであることを主張する。
     しかしながら、火炎検出のための炎センサーの最良位置は、バーナーの
近傍であるところ、ドレンパン、内箱、外箱を有するロースター製品では、これら
の構成部品の脱着に支障となるから、炎センサーをバーナーの近傍に設けることが
できないという問題があった。本件考案は、この問題を解決するために考案された
ものであり、そこには創作力の発揮が必要である。また、引用例2の第2図では炎
を後方から検知するが、ここにおける「後方から」は、本件考案における「下方か
ら」に相当するから、引用例考案2の構成を引用例考案1に適用すると、ドレンパ
ンの機能が発揮されないことになり、この点からも、創作力の発揮が必要となる。
したがって、貫通孔の位置を点火部の高さ位置とする本件考案の構成は、当業者に
とって、きわめて容易に想到し得たものではない。
   イ 原告は、引用例1の第2図が図示するロースターのプレート9が、本件
考案のドレンパン5に相当し、底部で調理物の油汁等を受ける作用を奏することは
明らかであるのに、審決が、同第2図が図示するロースターの構造を看過して、引
用例2記載のもののみに着目して誤った結論に至ったと主張する。しかしながら、
引用例2に開示された火炎検出器を引用例考案1に適用すると、炎の下方にセンサ
ーが設けられることになるので、ドレンパンの機能が発揮されなくなるから、上記
のような適用は、当業者にとって困難であるというべきである。
 2 取消事由2(相違点(ロ)の判断の誤り)について
   原告は、炎センサーの配置位置を「テーブルの底部」としたことは、貫通孔
を設けてセンサーを設置する以上、製品の構造的制約から当然であり、「外箱の外
方に」としたことも、製品の構成部品の脱着を妨げることのないようにするため当
然の構成であると主張する。しかしながら、本件考案は、上記のとおり、製品の構
成部品の脱着により炎センサーが損傷されるという課題を解決するために、特定の
構成部材に貫通孔を貫設し、外箱の外方でテーブルの底部に炎センサーを配置した
ものである。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(相違点(イ)の判断の誤り)について
  (1) 貫通孔について
   ア 原告は、本件考案においては、「ドレンパン」「内箱」「外箱」という
特定の構成部材に貫通孔を設けること自体に技術的意義が存在するものではなく、
「ドレンパン、内箱、外箱の各側壁に貫通孔を貫設し」た構成とした趣旨は、考案
の対象製品に貫通孔を設けることであるから、本件考案は、炎センサーと炎との間
の一般的な技術思想を構成要件としたものであると主張する。
     しかしながら、本件登録出願の願書に添付した明細書(甲第2号証)に
は、「従来、家庭用のガスコンロにはバーナー付近に立消えセンサーを設置して点
火操作時の点火ミス或いは立消えによるガス放出を防止していたが、かかる立消え
センサーをロースターのバーナー付近に取付けることは出来なかった。それはロー
スターの燃焼部は洗浄の為に、毎日バーナー、ドレンパン、内箱、トッププレート
等各構成部品の脱着を要し、かかる洗浄時に立消えセンサーを損傷させたり、その
精度を損なう等の欠点を有するためで、その結果立消えの発見が出来なかったり、
又は遅れることがある危険性を有していた。」(2欄3行目~13行目)、「本考
案は点火操作時の点火ミス或いは立消えによる未燃焼ガスの放出を遮断すると共
に、洗浄の為の各構成部品の脱着を容易としたロースターにおける立消え安全装置
を提供せんとするものである。」(2欄末行~3欄3行)との記載がある。
     これらの記載によれば、従来の家庭用のガスコンロにおけるバーナー付
近に設置された立消えセンサーを、ロースターに適用しようとしても、ロースター
では、毎日の洗浄の際に、バーナー、ドレンパン、内箱、トッププレート等の各構
成部品の脱着を要し、それに伴い、立消えセンサーを損傷させたり、その精度を損
なう等の危険性があるので、立消えセンサーをバーナー付近に取り付けることはで
きないという問題があるところから、本件考案では、これを課題とし、解決したも
のであることが明らかである。
     そうすると、本件考案の実用新案登録請求の範囲に記載された「ドレン
パン、内箱、外箱の各側壁に貫通孔を貫設」する構成は、本件考案の上記課題に照
らすと、ロースターに必要とされる頻繁な洗浄の際に、ドレンパン、内箱、外箱と
いう各構成部品を頻繁に脱着しても、バーナー付近に配置された立消えセンサーを
損傷させたり、その精度を損なうことがないようにするためのものであるところに
意義があるのであって、単なる「炎センサーと炎の間にある部材」にとどまるもの
ではない。したがって、本件考案が、上記の構成により、炎センサーと炎との間の
一般的な技術思想を考案の構成要件としたものでないことは明らかであり、他に、
本件明細書の実用新案登録請求の範囲、考案の詳細な説明及び図面の記載中にも、
本件考案の上記構成が炎センサーと炎との間の一般的な技術思想を考案の構成要件
としているとの原告の上記主張に沿う部分は見いだすことができない。
   イ 原告は、また、製品に貫通孔を設けるために、製品の具体的な構成部材
にすぎない「ドレンパン」「内箱」「外箱」に貫通孔を設けることは、当業者にと
って、きわめて容易に想到し得たことであり、また、貫通孔を設ける以上、特定の
部材の機能を損なうことなく設けることは当然であり、このことに特段の技術的意
義はないと主張する。
     そこで、引用例2(甲第4号証)について見るに、第1図が石油ボイラ
ーのバーナユニットの正面断面図、第2図が同石油ボイラーのバーナユニットの側
断面図を図示するものであり、これらの図示によれば、火炎検出器32がバーナヘ
ッド部31の下方を覆うファンケース20の外方に設けられ、火炎検出窓(孔)3
3がノズルアダプター24自体の取付フランジとブローチューブ28に連通し、こ
れらの部材間に透明板30が挟持されていると認められ、引用例2の「火炎検出器
32」「火炎検出窓(孔)33」が本件考案の「炎センサー」「貫通孔」にそれぞ
れ相当すると認められる。
     他方、引用例2(甲第4号証)には、従来の石油ボイラーについて、
「燃焼部9の火炎が発っする光を通す火炎検出窓は、必然的に、前記ブローチュー
ブ10の空気整流穴11が形成されている面の周辺部に配さざるを得ないという制
約条件が生じていた。一方、燃焼部9は、スタビライザー8の中央部にあけられた
穴部からしか望めないから、結果的に、火炎検出窓15からは、ファンケース2に
対しある角度θをもってしか、火炎を検出できない構成とならざるを得なかっ
た。」(2頁左下欄10行目~18行目)、「本発明は、上記問題点に鑑み、火炎
検出器の取付け精度を容易にかつ、確実に向上させ、そのことにより、火炎検出器
の検出精度の高い石油ボイラーを提供するものである。」(2頁右下欄14行目~
17行目)と記載した上、引用例考案2について、「底面には、自ら固定用フラン
ジを持つノズルアダプターが、燃料噴霧ノズルを連結し、かつ点火電極を拘持した
状態で固定されているもので、前記ノズルアダプターの、固定用フランジと、この
固定用フランジと密接した、前記ブローチューブには、連通する孔が開けられてお
り、この孔は、前記固定用フランジと、前記ブローチューブに挟持された透明板で
閉鎖されており、更に、前記火炎検出器は、前記燃焼部から前記透明板へ結んでで
きる直線の延長線上にあり、かつ前記火炎検出器は、前記ファンケースに対し、平
行をなして取付けるという構成を備えたものである。・・・本発明は、上記した構
成によって、火炎検出器を、ファンケースに対し平行に取付けた状態で、燃焼部の
火炎の発っする光を検知することができるようになった。」(3頁左上欄12行目
~右上欄8行目)との記載がある。
     そうすると、これらの記載によれば、引用例2(甲第4号証)の第2図
には炎センサー及び貫通孔が火炎の下方に設けられているところ、この理由は、石
油ボイラーのバーナに特有な火炎の形状及び火炎周辺の構成によるものであって、
これらを火炎と同じ高さ位置と同一平面上に設けることは、引用例2が開示する石
油ボイラーのバーナユニットの構成上、困難であると認められる。また、上記ロー
スターでは、下方に焼肉からの肉汁等を受けるドレンパンがあって、肉汁等が火炎
の検知を妨げるため、引用例2に開示された位置関係での炎センサー及び貫通孔を
引用例1(甲第3号証)が開示するロースターに適用することは不可能であると認
められる。そして、引用例2(甲第4号証)が開示する技術は、石油ボイラーに係
るものであるから、引用例1(甲第3号証)のガスバーナーを用いるロースターと
は、燃焼器を有する製品であることを除き、その燃料、燃焼器の構造、火炎の形
状、燃焼により加熱される物、使用形態等において、大きな差異があるといわざる
を得ない。そうすると、引用例2(甲第4号証)に開示された、火炎に対する炎セ
ンサー及び貫通孔の特有な位置関係に加え、石油ボイラーとロースターにおけるこ
れらの差異もまた、引用例2(甲第4号証)の炎センサーと貫通孔の構成を引用例
1(甲第3号証)のロースターに適用することを妨げる事由となることは明らかで
ある。したがって、当業者にとって、引用例2に開示された上記構成を引用例1の
ロースターに適用することもまた、困難であるから、引用例考案1及び同2に基づ
いて、本件考案をきわめて容易に想到することができるということはできない。
   ウ 原告は、さらに、引用例2(甲第4号証)では、火炎検出器が外方に設
置されていることは明白であり、「火炎検出器を取付けるファンケースに、火炎検
出器を取付けるための、特別な加工をしなくてすむ」(4頁右上欄10行目~12
行目)と記載されているので、他の部材の脱着の容易さという効果もうかがうこと
ができるし、洗浄のための脱着の容易さという効果や課題も、当業者には自明であ
ると主張するが、引用例2には、洗浄又は部材の脱着について何らの記載も示唆も
されていないから、原告の主張は失当である。
   エ したがって、相違点(イ)についての審決の判断(審決謄本7頁2行目~
6行目)に、原告主張の誤りはない。
  (2) 火炎の検出等について
   ア 原告は、ロースターでは、バーナー上部には焼肉などを載置するからセ
ンサーを設置できず、バーナー下方にセンサーを設置すると炎が上方に向かうこと
から検知しにくくなるという構造的制約により、貫通孔の位置が水平方向にならざ
るを得ないから、当業者にとって、貫通孔の位置を点火部の高さ位置とする本件考
案の構成は、きわめて容易に想到し得ると主張する。しかしながら、引用例2(甲
第4号証)の石油ボイラーのバーナユニットに設けられた炎センサー及び貫通孔を
引用例1(甲第3号証)のロースターに適用することが困難である以上、当業者に
とって、貫通孔の位置を点火部の高さ位置とするという本件考案の構成は、これら
引用例からきわめて容易に想到し得たということはできない。
   イ 原告は、また、引用例2が開示する業務用の石油ボイラーでは、炎の大
きさが非常に大きいので下方から検知可能であるが、本件考案のロースターでは、
小さな炎を確実に検知するために炎センサーを水平方向に設けることが必要となる
ことから、炎センサーを水平方向に設けることは、当業者がきわめて容易に想到し
得たことであると主張する。しかしながら、上記のとおり、当業者にとって、引用
例考案2における石油ボイラーの炎センサー及び貫通孔を引用例考案1のロースタ
ーに適用することが困難なのであるから、炎センサーを水平方向に設けることもま
た困難であるといわざるを得ず、原告の主張は、その前提を欠き失当である。
ウ原告は、さらに、引用例1の第2図が本件明細書の第2図と構成がほと
んど同一であり、前者の「プレート」が後者において「ドレンパン」と名称を変え
ているにすぎず、引用例1の第2図は「底部で調理物の油汁等を受ける機能を備え
ている」というべきであると主張する。しかしながら、上記のとおり、貫通孔の位
置を点火部の高さ位置とする本件考案の構成が、当業者にとってきわめて容易に想
到し得たということができない以上、「底部で調理物の煮汁等を受ける機能を備え
ている」かどうかという点は、相違点(イ)に係る審決の判断を左右するものではな
い。
   エ したがって、相違点(イ)についての審決の判断(審決謄本7頁6行目~
14行目)に、原告主張の誤りはない。
 2 取消事由2(相違点(ロ)の判断の誤り)について
   原告は、炎センサーの配置位置を「テーブルの底部」としたことは、貫通孔
を設けてセンサーを設置する以上、製品の構造的制約から当然であり、また、「外
箱の外方に」としたことも、製品の構成部品の脱着を妨げないために当然であっ
て、炎センサーを外箱の外方のテーブルの底部に配置することは、当業者にとっ
て、きわめて容易に想到し得たものであると主張する。
   しかしながら、原告の主張は、引用例2の石油ボイラーのバーナユニットに
設けられた炎センサーと貫通孔を引用例1のロースターに適用することを前提とす
るものであるところ、上記のとおり、その適用が困難である以上、原告の主張は、
この点においても前提を欠き失当である。
 したがって、相違点(ロ)についての審決の判断(審決謄本8頁7~15行)
にも、原告主張の誤りはない。
 3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決
を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用
の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判
決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官   篠  原  勝  美
            裁判官   長  沢  幸  男
            裁判官   宮  坂  昌  利
 

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