弁護士法人ITJ法律事務所

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○ 主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
(一) 1 (第一次的請求)
被告が原告に対し、原告の昭和四一年一二月一日から昭和四二年一一月三〇日まで
の事業年度の法人税につき、昭和四四年六月二三日付でした更正処分を取消す。
2 (第二次的請求)
被告が原告に対し、原告の昭和四一年一二月一日から昭和四二年一一月三〇日まで
の事業年度の法人税につき、昭和四四年六月二三日付でした更正処分のうち、Aに
対する支出金合計五五万円の右事業年度損金算入否認を取消す。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文と同旨。
第二 当事者の主張
一 請求原因
(一) 原告は、カラー写真の現像焼付を業とする資本金五〇〇万円の株式会社で
あり、被告から青色申告書による申告の承認を受けている者である。
(二) 1原告は、昭和四三年一月三〇日、昭和四一年一二月一日から昭和四二年
一一月三〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税につい
て、所得の金額を零円(但し、法人税法五七条により、本件事業年度の所得の金額
から前五年以内の繰越欠損金額四、六四五、〇三二円を控除した。)、還付税額を
一二、〇三五円、翌事業年度以降に繰越される欠損金額を八〇〇、六六三円とする
確定申告をしたところ、被告は、昭和四四年六月二三日付で、所得の金額を四三
八、八二四円(但し、前五年以内の繰越欠損金の本件事業年度における控除額は
四、九三九、六九五円である。)、税額を一一〇、六〇〇円、翌事業年度以降に繰
越される欠損金額を零円とする更正処分および過少申告加算税を六、一〇〇円とす
る賦課処分をした。
2 原告は、右更正処分等を不服として同年七月一四日異議申立をしたところ、被
告は、同年一〇月一三日付で、所得の金額を零円(但し、前五年以内の繰越欠損金
の本件事業年度における控除額は五、一九五、〇三二円である。)、税額を零円、
翌事業年度以降に繰越される欠損金額を二五〇、六六三円、過少申告加算税額を零
円とする決定をした。
3 そこで、原告は、さらに同年一一月一二日東京国税局長に対し審査請求をした
ところ、国税通則法の改正に伴いこれを引継いだ国税不服審判所長は、昭和四七年
七月一一日付で、所得の金額を零円(但し、前五年以内の繰越欠損金の本件事業年
度における控除額は五、一九五、〇三二円である。)、還付税額を一二、〇三五
円、翌事業年度以降に繰越される欠損金額を二五五、三三七円とする裁決をし、原
告は同月二七日右裁決書謄本の送達を受けた。
なお、国税不服審判所長は、その後右裁決書に、翌事業年度以降に繰越される欠損
金額について、二五〇、六六三円と記載すべきところを二五五、三三七円と誤記し
たとして、これを二五〇、六六三円に訂正し、原告はその旨の訂正の通知を受け
た。
(三) しかしながら、右審査裁決を経た後の更正処分(以下「本件処分」とい
う。)も、原告が本件事業年度中にAに対して前後四回にわたり支払つた手数料合
計五五万円(以下「本件手数料」という。)の損金算人を否認し、その結果、翌事
業年度以降に繰越される欠損金額を過少に認定した違法がある。
よつて、請求の趣旨記載の判決を求める。
二 請求原因に対する認否
(一) 請求原因(一)および(二)の事実は認める。
(二) 同(三)の事実中、原告が本件事業年度中にAに対して本件手数料合計五
五万円を支払つたことならびに被告が右金額の損金算人を否認したことは認める
が、その余の主張は争う。
三 被告の主張││本件処分の適法性
本件処分の根拠は次のとおりである。
(一) 課税標準等の計算内容
(二) 課税標準等の計算根拠(各記号は右表項目欄の記号である。)
(イ) ないし(ハ)原告が確定申告にあたり、所得金額に加算したものを、被告
は正当と認めた。
(ニ) 原告は、Aに対して支払つた本件手数料合計五五万円を損益計算書の手数
料勘定に計上することによつて本件事業年度の損金としている。しかしながら、右
手数料は、(三)で詳述するように、別紙物件目録記載の土地、建物ならびに機械
器具(以下「本件物件」という。)を取得するために支払われたものであつて、本
件物件の取得価額に算入されるべき性質のものである。従つて、本件事業年度にお
いては仮勘定として処理されるべきものであつて、本件事業年度の損金となるもの
ではないから右損金算入額を否認した。
(ホ) 法人税法五七条を適用して、本件事業年度の所得の金額の範囲内で前五年
以内の繰越欠損金額を控除した。
(ヘ) 本件事業年度前五年内に開始した事業年度において生じた欠損金額で、か
つ、法人税法五七条一項の規定により本件事業年度前の事業年度までに所得の金額
の計算上損金の額に算入されたもの、を除いた金額であり、原告の確定申告にあた
り計算された金額を正当と認めた。
(三) 本件手数料の損金算入否認の適法性
1 原告は、昭和発色写真株式会社(以下「昭和発色」という。)から賃借してい
た本件物件が抵当権者中小企業金融公庫の申立により貴庁昭和三九年(ケ)第一八
六号不動産任意競売事件(以下「本件競売事件」という。)として競売に付された
際、これを競落し取得したが、本件手数料はその取得に関してAに支払つたもので
ある。
すなわち、
(1) Aは、横浜簡易裁判所構内に設けられている貴庁の競売場等に常時出入り
するいわゆる競売屋のうちの一人であるが、原告は本件競売事件を通じてAと知り
合つた。
(2) Aに対する手数料の支払いと本件物件が貴庁において競売に付され、原告
が競落によつてこれを取得した経緯は次表のとおりである。
(注)I 七回目の手数料一〇〇万円の受領名義人は、Bであるが、真の受領者は
Aである。
II 原告は、右競落許可決定により、昭和四三年八月二三日八九九、三〇〇円
を、昭和四三年一〇月二六日八、一一七、四七七円をそれぞれ納入し、本件物件を
取得している(右金額には競落価額のほか利息二三、三九二円再競売手続費用三八
五円を含む)。
III 本件手数料は、右のうち四回目までの手数料合計五五万円である。
右のように、原告は本件物件を賃借していたこと、Aがいわゆる競売屋であるこ
と、原告がAに対して右手数料を支払つた日時はいずれも競売期日当日かその直前
であること、原告は、結局七回目の競売期日において一回目の競売の最低競売価額
である九、九一八、四〇〇円を約一〇〇万円下回る八、九九三、〇〇〇円で最高価
競買入となり本件物件を取得したこと、等の事実からすれば、本件手数料は、原告
が、本件物件が第三者に競落されることを防ぎ、将来自らこれを格安で競落し取得
するために、Aをして本件競売事件に関する情報収集および対外交渉をさせたこと
により支払つたものであることは明らかである。
2 そうとすれば、本件手数料は、法人税法施行令五四条および一般に公正妥当と
認められる会計処理の基準からみて、本件物件の取得価額に算入されるべき性質の
ものであり、かつ、本件事業年度においては、仮勘定として処理されるべきもので
ある。
すなわち、
(1) 法人税法施行令五四条一項は、減価償却資産を(1)購入した減価償却資
産(2)自己の建設、製作又は製造に係る減価償却資産(3)自己が育成させた生
物(牛馬等)(4)自己が成熟させた生物(果樹等)(5)合併により受け入れた
減価償却資産(6)出資により受け入れた減価償却資産(7)その他の方法により
取得した減価償却資産に類型化し、それぞれの方法によつて取得した減価償却資産
についてその取得価額を定めている。
(2) 法人税法施行令五四条一項一号は、購入した減価償却資産の取得価額は次
に掲げる金額の合計額とし、
イ 当該資産の購入代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その
他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金
額)
ロ 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額
と規定している。
(3) そうして、法人税法施行令五四条は直接には減価償却資産の取得価額の規
定ではあるが、減価償却資産以外の固定資産の取得価額についても別に定めるほか
は同条に準じて取り扱われるものであり、企業会計実務も同様に取り扱つている。
ちなみに、国税庁長官通達昭和四〇年一一月三〇日直審(法)八四の七八において
「減価償却資産以外の固定資産の取得価額については、別に定めるもののほか、法
人税法施行令五四条および五五条ならびにこれに関する取扱いに準じて取り扱うも
のとする。」とされていたが、昭和四四年五月一日直審決二五の法人税基本通達の
制定の通達にあたり、右取扱いは「条理上明らかであるため特に通達として定める
必要がないと認められる」として削除されている。また昭和四四年一二月六日付大
蔵省企業会計審議会(会長C)の大蔵大臣に対する報告についても、その報告書第
三の五のDで有形固定資産の取得価額について「有形固定資産の取得原価には、原
則として当該資産の引取費用等の付随費用を含める。」と従来の考え方をより一層
明らかにしている。
従つて、原告が取得した本件物件のうちには土地が含まれているが右土地も減価償
却資産に準じて同様に取り扱われる。
(4) そうとすれば、本件手数料は、右「購入した減価償却資産」の購入代価の
かつこ書の「当該資産の購入のために要した費用」というべきであるから、本件物
件の取得価額に算入されるものである。
(5) しかして、本件事業年度終了時においては、本件競売手続は、いまだ継続
中であるから、本件手数料は、将来取得する本件物件の取得価額に算入されるべき
ものか、本件物件が第三者に競落され無意味な支出に帰し、損失となるか未確定の
状態であつたのであるから、一般に公正妥当と認められる会計処理によれば、その
性格が確定するまでの間、仮勘定として処理されるべきものであり、その性格が確
定した事業年度において、その確定したところに基づいて処理すべきである。従つ
て、本件手数料の損金算入を否認したものである。
(四) 以上のとおり、本件処分には何ら違法はないから、原告の請求は棄却され
るべきである。
四 被告の主張に対する認否と原告の反論
(一) 認否
1 (一)、(二)の事実中それぞれ(イ)ないし(ハ)および(ヘ)は認める
が、その余は争う。
2 (三)1の事実中、原告において昭和発色から賃借していた本件物件が本件競
売事件として競売に付された際、これを競落し取得したこと、ならびに、Aに対す
る三回目の手数料の支払年月日および同人に対する七回目の競売期日分一〇〇万円
の支払の事実を除く(2)の表記載の事実は認め、その余は否認する。Aに対する
三回目の支払の日は、昭和四二年一〇月一三日である。
3 (三)2の主張は争う。
(二) 反論││本件手数料は損金に算入されるべきである。
1 本件手数料は、原告が昭和発色から賃借してその営業の用に供していた本件物
件が競売に付されたため、競売屋ら多数の者が下見のため原告の事業所に出入り
し、また業界に「原告が倒産する」との噂が流れたため、従業員に不安感を与え、
かつ営業活動に著しい支障をもたらすので、企業防衛上やむを得ずAに依頼してこ
れらの支障を回避するために対外交渉および情報収集活動をしてもらつたことに対
する報酬、交通費、交際費その他の費用であつて、第三者が本件物件を競落するこ
とを防止し、原告が将来これを競落し取得することを目的として支払つたものでは
ない。従つて、本件手数料は損金に算入されるべきものである。
2 かりに本件物件を取得する目的があつて本件手数料を支払つたとしても、取得
価額とは、通常資産を取得するためその経費の支出なくしては取得することができ
なかつたと考えられる支出金の総額であると解すべきところ、本件物件は本件手数
料の支出がなくても競落により取得することは可能であり、反面、本件手数料を支
出しても本件物件を競落し取得できる保証はなく、また本件物件の競落取得と本件
手数料支出との相当因果関係も明白に判定できるものではないから、結局本件手数
料は本件事業年度終了までにすでに消費した費用として損金に算入されるべきであ
る。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因(一)、(二)の事実ならびに同(三)の事実中、原告が本件事業年
度中に前後四回にわたりAに対して本件手数料合計五五万円を支払つたことおよび
被告が本件処分に際して本件手数料の損金算入を否認したことは当事者間に争いが
ない。
二 そこで、本訴の争点である、本件手数料の損金算入否認の適否について判断す
る。
(一) 原告において昭和発色から賃借使用していた本件物件が、本件競売事件と
して競売に付され、原告がこれを競落取得した事実、ならびにAに対する三回目の
手数料の支払年月日および同人に対する七回目の競売期日分一〇〇万円の支払の事
実を除く被告の主張(三)1(2)の表記載の事実、は当事者間に争いがない。
(二) 成立に争いがない甲二号証、原本の存在および成立に争いがない乙五ない
し七号証、乙丸号証の一、二、乙一〇号証、弁論の全趣旨により原本の存在および
成立の真正が認められる乙八号証、証人Dの証言およびこれによつて真正に成立し
たものと認められる乙二号証、原告代表者の供述およびこれによつて真正に成立し
たものと認められる甲一号証、証人Eの証言ならびに弁論の全趣旨を総合すると、
次の事実が認められ、この認定に反する証人Eの証言および原告代表者の供述の各
一部はいずれも措置できず、その他右認定を覆すに足りる証拠はない。
(1) AおよびBの両名は、いずれも横浜地方裁判所の競売場に常時出入してい
たいわゆる競売屋であること。本件手数料の三回目の支払の日は、三回目の競売期
日当日である昭和四二年一〇月一三日であり、従つて、本件手数料が支払われた日
はいずれも各競売期日の当日かその前日であつたこと。
(2) 原告の代表取締役であるFは、本件競売事件係属当時、本件物件の所有者
であつた昭和発色の代表清算人を兼ねていたこと。昭和発色が倒産した際、債権者
や株主らがその整理策として昭和三九年に原告を設立したものであること。そし
て、原告は昭和発色から本件物件を賃借して事実上その営業を受け継いだこと。原
告が昭和発色に支払う賃料等で昭和発色の負債の整理がなされていたこと。
(3) 原告は、かねてより、本件競売事件の申立人である中小企業金融公庫から
「原告において本件物件を買取られたい。」旨の申出を受けていたこと。しかし、
原告は競売手続上の競落人となることにより、抵当権等の負担が全部消除された状
態のもとで本件物件を取得したい意向をもつていたこと。
(4) ところが、本件競売開始当時は未だ原告は本件物件を競落するだけの金策
がたたなかつたこと。従つて、原告としては、競売手続の延引することが望ましか
つたこと。原告の代表者ないしは担当責任者が各競売期日には毎回出かけて、競売
のなりゆきを注視していたこと。
(5) その後、原告の昭和四二年度の業績の好調が昭和四三年度も持続する見通
しとなり、競落資金の借入れの手当もつき、また最低競売価額も一回目の競売期日
においては九、九一八、四〇〇円であつたのが、八、九九三、〇〇〇円まで下つた
ので、原告は昭和四三年四月一九日の競売期日には本件物件を是非とも競落する目
的で競売場に臨んだこと。しかし、他の競売屋らの妨害と覚しき動きにより、G名
義にて一七、〇〇〇、一〇〇円の競買申出があり、その価額が吊り上げられたた
め、原告はやむを得ず、その段階では競落を断念したこと。
(6) その後更に競売手続が続行され、七回目の競売期日(昭和四三年八月二三
日)において最低競売価額たる八、九九三、〇〇〇円にて原告が最高価競買入とな
り(なお同日競売期日終了後、原告の代表者FはAとBとの両名の同席している処
で、その真実の受領者が右二名のいずれであつたかはともかくとして、Bから領収
証を徴して、右二名側に対し競買手数料名義で金一〇〇万円を支払つた。)、右に
従い原告が競落許可決定を受け、同年一〇月二六日までに競落代金を完納して、終
局的に本件物件の所有権を取得したこと(但し右競落の経緯そのものは当事者間に
争いがない。)。
(三) 前記争いのない事実ならびに右認定の諸事実を総合すれば、本件物件の賃
借人である原告において本件物件が第三者に競落されることを防止し、原告に競落
代金の金策ができ、かつ最低競売価額が手頃な値段に下るまで競売の引延しを図
り、自ら本件物件を競落する目的で、競売屋の一人であるAをして、本件競売事件
に関する情報の収集および他の競売屋との必要な交渉等をさせるために或いはその
報酬等として本件手数料を支払つたものと認めるのが相当である。
(四) ところで、法人税法施行令五四条一項は、固定資産のうち減価償却資産の
取得価額について、その取得の形態に応じて取得価額の範囲につき規定している。
そして、土地等の非減価償却資産の取得価額については明文の規定はないが、企業
会計原則に照らし、またその取得価額の範囲について減価償却資産と非減価償却資
産とを異別に取扱うべき合理的な理由は見当らないから、非減価償却資産の取得価
額の範囲についても右規定が準用されるべきが相当である。
従つて前記認定にかかる本件手数料は、同項一号かつこ書にいう「当該資産の購入
のために要した費用」として本件物件の取得価額に包含される性質のものと解すべ
きである。
しかして、前記認定のとおり本件事業年度終了時においては、本件競売手続はなお
継続中であつて、原告がその目的を遂げ本件物件を競落取得できるか否か未確定の
状態にあり、従つて、本件手数料は、本件物件が第三者に競落されることにより無
意義な支出、すなわち、損失となる可能性もあつたわけである。このような場合、
本件手数料の本件事業年度における会計処理としては、いつたん仮勘定として処理
しておき、それが本件物件の取得価額となるか損失となるかその性質が確定した事
業年度において、その確定したところに従つて処理するのが、一般に公正妥当と認
められる会計処理の基準に適合するというべきである。
そうすると、本件手数料の損金算入の否認は適法なものといわなければならない。
三 よつて本訴請求は、本件手数料の損金算入の否認が適法である以上、いずれも
失当として棄却を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文
のとおり判決する。
(裁判官 加藤廣國 龍前三郎 川勝隆之)
別紙(省略)

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