弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は末尾に添付した弁護人海野普吉、同位田亮次共同名義の控訴趣
意書記載のとおりで、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。
 論旨第一点について。
 昭和二十四年四月三十日法律第四十三号による改正前の取引高税法(以下旧税法
と略称)第四十二条第一項をみると、「前条の罪を犯した者には情状により五年以
下の懲役若しくは取引高税の二十倍をこえ四十倍以下に相当する罰金に処し又は懲
役及び罰金を併科することができる」と規定されているから、前条即ち同法第四十
一条第一項に該当する者についての罰則は同法第四十一条及び第四十二条の二条に
亙つて規定されているわけで、しかも右第四十一条は単に取引高税の二十倍相当の
罰金に処する旨規定するのみであるのに反し同法第四十二条は前条と同一事実につ
いて情状により懲役刑若しくは前条に規定する額以上の罰金又は懲役及び罰金の併
科刑を定めている。そこで所論は本件の如く旧税法第十三条第一項の規定に違反し
たる者に対する罰則は同法第四十一条第一項の罰金刑が原則であり同法第四十二条
第一項の刑は情状により前条の刑を加重したものであり、後者を以て公訴時効算定
の基準とすべきではないと主張するのである。しかしながら法律が二以上の主刑を
規定しその一を選択して処断すべき場合そのいずれを選択するかは情状によつてこ
れを決する外はないのであるから、通例多くの刑罰法規に見られるように、一個の
法条に数個の主刑を並記した場合と本件のように、二個の法条に亙つて同一の法律
違反に対する刑罰を規定している場合とを区別する必要は認められない。
この事は本件に於て旧税法第四十一条と同法第四十二条とが夫々定めている刑を比
較検討することによつても理解されるのである。即ち旧税法第四十一条第一項に
は、同法所定の事実があればその免れ又は免れんとした取引高税の二十倍の罰金に
処する旨規定したのみであるから、その刑は固定的で些かの伸縮性も認められない
のみならず、これを適用するに当つて併合罪の加重も酌量減軽も許されないしその
他刑法総則規定中のある種のものが適用されないことになつているから(旧税法第
四十七条参照)苟も第四十一条所定の所為があれば、同条のみを以つてすればその
情状の如何を問う由もなく一律に法の命ずる金額をそのまま罰金として言渡さざる
を得ないこととなり同じ犯則行為の中に軽重の差を附し、真に重かるべきものを重
く処罰し、その軽きものには軽き刑を以て臨むが如き運用の妙を発揮し得ないので
あつて、かくの如きは刑罰の効果を正しく発揚せんとする目的を阻害するものとい
わざるを得ない。そこで法はこの欠陥を認め、これを是正せんがため同法第四十一
条に引続いて同法第四十二条を設け、前条の罪を犯した者に対しその情状によつて
は、前条の刑より重く処断し得る途を開いたもので宣告刑に情状を反映させんとの
正当な要請に基くものである以上、旧税法第四十一条該当行為の法定刑としてはこ
の両者を統一して観察すべきであり、所論のようにこの間原則と例外の区別<要旨>
を認めたり、一方が他方の刑を加重したものとは考えられないのである。そうとす
ればこの犯罪の公訴時効を論ずるには所定刑中の最も重い刑に従うべきであ
るから、本件に於て原判示第一事実の公訴時効については刑事訴訟法第二百五十条
第四号に従つて五年を経過するによつて時効が完成するものというべきである。然
らば昭和二十三年十二月一日より昭和二十四年四月までの犯行である原判示第一の
罪について、本件公訴の提起があつたのは昭和二十八年一月二十九日であること記
録上明白であるから刑事訴訟法第二百五十条第四号の時効は未だ完成しないもので
あり、原判決が弁護人の免訴の主張を斥け有罪の言渡をしたのは正当である。所論
はなお被告会社に対して言渡された罰金額を根拠として、被告会社には旧税法第四
十二条の適用はなく、他面会社たる性質上懲役刑を科し得ざる本件に於て時効は三
年を経過するにより完成するものと主張しているが前段説明のとおり公訴時効は法
定刑の最も重い刑を基準として定まるものであり、処断刑や宣告刑の如きは公訴時
効の算定に何の関渉もないこと明らかである。それ故論旨はいずれも理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 近藤隆蔵 判事 吉田作穂 判事 山岸薫一)

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