弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人両名の負担とする。
         事    実
 控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二
審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求
めた。
 当事者双方の主張は、控訴人の方で、本件手形は満期に支払場所に提示して支払
を求められたが、控訴人Aがこれを拒絶したことはこれを認める。被控訴人は控訴
人Aに毛布を売り渡すに当つて控訴人Aだけでは資力信用が充分でないとして、控
訴会社の営業目的と全然無関係であるのに控訴会社に裏書をさせたのである。従つ
て控訴会社に営業目的の範囲外の行為をさせたという手形法上の人的抗弁を主張す
るものである。本件手形の不渡によつて信用を傷けられるのは、手形振出人の控訴
人Aと、手形の割引を受けていた被控訴人とであつて、控訴会社ではない。控訴会
社は満期の前日被控訴人の希望に基き控訴人Aから支払猶予のため先日附の小切手
の振出を懇請せられたけれども、これを拒絶したのである。それにもかかわらず、
控訴会社が満期の翌日に至つて三十万円の残金を一ケ月後に支払うことを約するよ
うなことは、特別の事情のない限り、とうてい考えられないことである。被控訴人
は控訴会社が三十万円だけを支出すれば残金は被控訴人が銀行に振り込み、後日残
金を請求するようなことはしないし、手形決済後手形は銀行に保管せられるので、
手形による請求はできない旨言明したので控訴会社はこれを信用し、銀行について
もこの取扱方法を確かめたのであると述べた外、いずれも原判決事実記載のとおり
であるからこれを引用する。
 証拠として、被控訴人は、甲第一号証から第七号証までを提出し、原審証人B、
当審証人Cの各証言を援用する。乙第一、第二号証及び第三号証の一、二の成立を
認めるが、乙第四号証から第七号証までは知らないと述べ、
 控訴人は、乙第一、第二号証、第三号証の一、二第四号証から第七号証までを提
出し、原審及び当審証人Eの各証言、原審及び当審における控訴人A本人の各尋問
の結果を援用する。控訴人両名として甲第一号証は成立を認めるが甲第七号証は知
らない。甲第二号証から第六号証までは、控訴人Aとしては全部その成立を認める
が、控訴会社としては知らないと述べた。
         理    由
 控訴人Aが昭和二十六年十二月五日控訴会社にあて、金額百四十二万五千円、満
期昭和二十七年二月五日、支払地及び振出地大阪市、支払場所株式会社大阪不動銀
行D支店と定めた約束手形を拒絶証書の作成を免除の上振り出したこと、控訴会社
が右手形を被控訴人に裏書譲渡したこと及び右手形は満期に支払場所に提示して支
払を求められたが控訴人Aがこれを拒絶したことは当事者間に争がない。
 そして成立に争のない甲第一号証によると、控訴会社が右手形を被控訴人に裏書
するに当つて拒絶証書の作成を免除したこと、被控訴人は右手形を株式会社神戸銀
行大阪支店に裏書譲渡したが、更に同銀行から裏書譲渡を受けその所持人となつた
ことを認めることができ、控訴人Aにおいてその成立を自認し、控訴会社との関係
では当審における控訴人A本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められ
る甲第六号証及び右尋問の結果によると、右手形は前示のとおり満期に支払を拒絶
せられたので、被控訴人は満期の翌六日控訴会社から内金三十万円を受け取り自ら
支出した百十二万五千円と合せてこれを神戸銀行に支払い、右手形を受け戻したも
のである事実を認めることができる。
 控訴会社は右裏書は同会社の目的の範囲外の行為であり、被控訴人はこの事情を
知りながら取得したと主張するから考えてみよう。会社の定款に記載せられた目的
自体に包含されない行為であつても会社の目的遂行に必要な行為は、目的の範囲内
に属するものというべく、又会社の行為がその目的遂行に必要であるかどうかは、
定款記載の目的に現実に具体的に必要であつたかどうかの基準によるべきものでは
なくして、定款記載の目的から観察して客観的、抽象的に必要であり得るかどうか
の基準に従つてこれを決しなければならない。もしそうでないとすれば、会社の行
為がその目的遂行に現実に必要かどうかということは会社内部の事情であつて、第
三者は容易にこれを知ることはできないのが通常であるから、この事情を調査した
上でなければ第三者は安心して会社と取引をすることができないこととなり、とう
てい取引の安全を期待することができないからである。(最高裁判所昭和二十四年
(オ)第六四号昭和二十七年二月十五日判決大審院昭和十二年(オ)第一四七六号
昭和十三年二月七日判決参照)
 <要旨>そして右にいわゆる客観的、抽象的に観察するには、手形の場合にあつて
は当該の手形行為自体を対象とすべきものといわなければならない。何故な
らば、もしその手形行為の原因関係等をも対象に含めて、これが会社の目的の範囲
内であるかどうかを定めなければならないものとすれば、それが会社の目的の範囲
外である場合には、その事由はいわゆる物的抗弁にあたるから何人にも対抗するこ
とができることとなつて、とうてい手形の円満な流通を期することができないから
である。
 本件において成立に争のない乙第一号証によると、控訴会社の定款記載の目的は
鋼材及び銑鉄等製鋼用原料の販売仲介とこれに附帯する事業であることが認めら
れ、商品の販売仲介を目的とする会社が取引の必要上他人振出の手形に裏書するこ
とのあるのはいうまでもないところであつて、右手形の裏書もこれを客観的抽象的
に観察すれば、控訴会社の定款記載の目的である銅材及び銑鉄屑等製鋼用原料の販
売仲介とこれに附帯する事業遂行のために必要であり得る行為に属するものといわ
なければならない。従つて右裏書は控訴会社の目的の範囲外の行為であるとする控
訴会社の主張は採用しない。
 控訴人両名は、右手形については被控訴人との間に控訴会社が三十万円を支出し
残額の免除を受ける旨の示談が成立したと主張するけれども、原審及び当審証人E
の各証言、原審及び当審における控訴人A本人各尋問の結果中控訴人主張のような
示談成立した旨の部分は原審証人B、当審証人Cの各証言と対照して信用すること
ができない。かえつて前示甲第一号証、成立に争のない乙第三号証の一、二原審証
人Eの証言により真正に成立したものと認められる乙第四、第五号証、前示甲第六
号証、原審証人B、当審証人Cの各証言、原審及び当審証人Eの各証言の一部、原
審及び当審における控訴人A本人各尋問の結果の一部を総合すると、控訴人Aは資
金の不足により右手形を支払うことができないことが満期前から解つていたので、
その延期を求めるため控訴会社に先日附小切手の貸与方を懇請したが拒絶せられ、
満期に支払場所に提示せられた右手形の支払を拒絶したのである。しかし被控訴人
の方で控訴会社の裏書の責任を追求した結果、満期の翌日である昭和二十七年二月
六日控訴会社は内金三十万円を支出し、被控訴人は自ら百十二万五千円を支出し右
三十万円と合せて支払場所である株式会社大阪不動銀行D支店における控訴人Aの
当座予金口座に振りこみ、同控訴人の手形不渡処分の発表を免れさせた上被控訴人
は控訴人A振出の金額百四十二万五千円の小切手を大阪不動銀行D支店に持参し、
所持人神戸銀行に対する償還をし右手形を受け取つたものであつて、被控訴人の方
で控訴人Aに対してはもちろん、控訴会社に対しても百十二万五千円の支払義務を
免除したようなことはないことを認めることができるから控訴人の示談成立の主張
も理由がない。
 そうすると控訴人両名は合同して被控訴人に対し、被控訴人の右手形償還金額百
十二万五千円及びこれに対する償還支払の日である昭和二十七年二月六日から支払
ずみまで手形法に定める年六分の割合による利息を支払う義務のあることは明白で
あるから、控訴人両名に対する被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であつ
て、本件控訴は理由がない。そこで民事訴訟法第三八四条によりこれを棄却するこ
ととし、控訴費用の負担について第九五条第八九条を適用し主文のとおり判決す
る。
 (裁判長判事 大野美稲 判事 熊野啓五郎 判事 村上喜夫)

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