弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1相手方は,申立人に対し,申立人が相手方に施設利用料27万
1000円を納付することを条件として,別紙使用申請内容記載
のとおりαホールの使用を仮に許可せよ。
2申立費用は相手方の負担とする。
事実及び理由
第1本件申立ての趣旨及び理由等
本件申立ての趣旨及び理由は,別紙「仮の義務付け申立書」写し及び別紙「反
論書」写しのとおりであり,これに対する相手方の答弁及び反論は,別紙「答弁
書」写し及び別紙「再反論書」写しのとおりである。
第2事案の概要
1本件は,申立人が岡山市の設置した公の施設であるαホール(以下「本件ホ
ール」という)の使用許可を申請したのに対し,本件ホールの指定管理者で。
ある相手方がその不許可処分をしたことから,申立人が相手方に対し,同使用
不許可処分の取消し及び使用許可処分の義務付けを求める本件本案訴訟を提起
するとともに,本案判決の確定を待っていては償うことのできない損害が生ず
るとして,行政事件訴訟法37条の5第1項所定の仮の義務付けとして,仮に
本件ホールの使用許可処分を義務付けるよう申し立てた事案である。
2前提事実
一件記録によれば,次の事実が一応認められる。
(1)本件ホールの状況等
ア本件ホールは,岡山市により設置された地方自治法244条所定の公の
施設であり,岡山市は,同法244条の2第1項に基づき,本件ホールの
,(,設置及び管理等に関しαホール条例平成3年3月20日条例第15号
以下「本件条例」という)を制定している。。
本件条例2条1項前段は,本件ホールを使用しようとする者は,市長の
許可を受けなければならない旨を規定し,本件条例3条は,市長は,①公
の秩序又は善良な風俗を害するおそれがあるとき(1号,②ホールの施)
設及び付属設備をき損し,又は滅失するおそれがあるとき(2号,③そ)
の他ホールの管理上支障があるとき(3号)は,本件ホールの使用を許可
しない旨を規定している(甲1。)
また,本件条例1条の2第1項は,同法244条の2第3項の規定に基
づく指定管理者として相手方を指定し,本件ホールの管理を行わせること
を定めており,平成18年4月以降,相手方が,本件ホールを管理し,使
用許可をするなどの市長の権限を行使している(甲1,23。)
イ本件ホールは,岡山市β×番地183に所在するγビル(以下「本件ビ
ル」という)内にあり,付近一帯は,δ大通り,ε商店街,路面電車の。
ζ電停があるなど岡山市の中心街の一角を占め,歩行者や車両の通行量も
多い地域である。
本件ビルは,地下2階地上12階建てであり,地下2階が駐車場,地下
1階から地上2階までがA株式会社等の多数のテナントが入居するテナン
ト階,3階から8階までが本件ホール(3階がイベントホール,和風ホー
ル,スタジオ1,スタジオ2等,4階が大ホール等からなる,9階か。)
ら12階までが多数のオフィスが入居するオフィス階となっており,地下
2階,地下1階,地上1階からはだれでも本件ビル内に入ることができる
構造となっている。そして,駐車場,テナント階からオフィス階へはエレ
ベーターを利用して移動することができ,本件ホールの所在する3階へも
エレベーターによって移動することができるほか,通常,エレベーターは
4階の大ホールには停まらないようになっているが,4階に停まるように
することもできる。また,地下1階から地上1階,地上1階から2階,地
上2階から3階へはエスカレーター又は階段によって移動することがで
き,本件ホールに移動するためにエスカレーター又は階段を用いる場合,
テナントの利用者と本件ホールの利用者とがエスカレーター又は階段を共
用することになる(甲1,23,乙1,25,30の1ないし10。。)
(2)Bの活動等
アBは,昭和30年(1955年)に在日朝鮮人の音楽舞踊家によりCと
して創立され,昭和49年(1974年)に現在の名称に改称された音楽
舞踊集団であり,日本国内を中心として,民族舞踊,声楽,民族器楽,舞
台美術等の公演,活動を行ってきた。Bは,創立以来,日本各地及びドイ
ツ等の世界各地の舞台において7000回を超える公演を行っており,岡
山県下においても30年近くにわたってほぼ毎年岡山市と倉敷市で交互に
1000人から1500人規模の公演を行っており,平成7年,9年,1
1年,15年には本件ホールで,平成13年,17年には岡山市民会館で
それぞれ公演を行っている。また,Bは,平成19年中に岡山市以外でも
公演を行っており,9月だけでも仙台,高崎,千葉,奈良,盛岡で公演が
実施されている(甲4,11,16,24。)
イ申立人は,Bの岡山公演を実行するために組織されたB岡山公演実行委
員会(以下「本件委員会」という)を代表する委員長であり,これまで。
岡山市におけるBの公演の準備を行い,本件委員会により平成19年度の
同公演を主催しようとしている。なお,本件委員会は,岡山県下における
Bの公演を通じ,朝鮮民族教育を守り発展させ,在日朝鮮人社会の連携を
深めるとともに,朝日友好親善のため,広範な運動を行うことを目的とし
て組織されたものである(甲3,16。)
ウ例年,Bの岡山公演を行うにあたっては,その公演についての実行委員
会が結成され,同委員会において,チケット,ポスター,パンフレット等
を用意し,公演賛助店,県内居住在日朝鮮人,岡山県民の観覧希望者に配
布するなどしており,本件委員会も平成19年度の公演に向けてビラを2
000枚,チケットを5000枚,ポスターを50枚印刷して,それぞれ
配布している。また,公演を実施するためにおよそ800か所の岡山県各
地の協力企業,協賛団体へ案内と広告のお願いを送り,1500万円の広
告料収入を目標としている。これらの公演の準備には2ないし3か月を要
する(甲10,11,16,21,22,24。)
(3)本件申立てに至る経緯等
アBは,前記のとおり,岡山県下ではこれまで岡山市と倉敷市において交
互に公演を行っており,平成18年度には倉敷市民会館で公演を行ったこ
とから,申立人は,平成19年度は岡山市で例年どおりの1000人から
1500人規模での公演(以下「本件公演」という)を実施すべく準備。
を進め,平成19年1月,岡山市民会館の使用申請を打診したが,同年1
1月12日を含めてその前後には既に予約が入っていることが判明したた
め,岡山市民会館での公演実施を断念した。そこで,申立人は,本件ホー
ルに連絡をとって予約状況を確認したところ,空いているとのことであっ
たため,同年1月19日付けで,相手方に対し,使用日を同年11月12
日使用時間を午前9時から午後22時まで全日として本件ホールそ,()(
のうちの大ホール,スタジオ1,2,楽屋1ないし6,控室1ないし3)
の使用許可を申請した(甲5,16。)
,,,,イこれを受けて相手方は平成19年1月24日付けで申立人に対し
納付期限を同年2月21日,期限までに施設使用料を納付しない場合には
使用できない場合があると定めて,施設使用料27万1000円の請求を
し,納付後に使用許可をする旨を通知した(甲6,16。しかし,申立)
人は,過去,納付期限までに施設使用料を納付しなかったときでも,後日
これを納付すれば,本件ホールの使用が可能であったことから,納付期限
を過ぎても施設使用料を納付しないでいたところ,相手方は,後記(6)の
とおり,同年6月から7月にかけて右翼団体による街宣活動等が活発化し
たことを踏まえ,また,申請のあった同年11月12日まで4か月の余裕
もあったため,同年7月12日,理事会において,申立人の前記申請を不
許可とすることを決定した。そこで,相手方は,同月20日付けで,本件
ホールが本件ビルのテナントのひとつであり,本件ビルが複合施設である
ことから「昨年,実施されたBの公演に対する抗議活動の状況及び最近,
の諸般の情勢を踏まえ,同公演を実施した場合に,長期間にわたる街宣活
動等により,ビルのテナント等に営業的損失を生じさせる恐れが十分に予
測される。また,ホール周辺の交通状態の混乱等により,ホールを利用さ
れる他の利用者に多大な迷惑を被らせるだけでなく市民にも不安感を与え
ることが考えられる。こうした状況を踏まえ利用者の安心・安全の確保を
考え,ホールの管理に支障を及ぼすと認められる」ことを理由に,本件条
例3条3号に基づき,申立人の前記使用申請に対し,使用を不許可とする
処分をした(以下「本件不許可処分」という(甲7,16。。))
ウ申立人は,平成19年7月25日,相手方に対し,本件不許可処分につ
いて再考を求めるとともに,本件不許可処分に対する救済方法の教示を求
めたところ,相手方は,同月31日付けで,岡山市長に対する審査請求又
は処分取消しの訴えによる救済方法があることを教示し,併せて,納付期
限までに施設使用料が未納であったことを付記した回答書を申立人に送付
した(甲8,16)。
エ申立人は,平成19年8月13日,期限までに施設使用料が納付できれ
ば使用が許可されると考え,相手方に対し,再度の使用申請をしたい旨申
し入れたが,相手方は,同月20日付けで,申立人に対し,前記イのとお
り,本件ホールの管理に支障があるとして許可することができない旨を通
知した(甲9,16)。
オそこで,申立人は,本件ホールに替わる施設を捜したが,岡山市民会館
は前記のとおり既に予約が入っていて使用不能であり,また,多人数を収
容できる施設として,岡山市には,η体育館,θ(県営体育館,武道館)
があるが,これらの施設には照明設備,仕切り幕,音響装置等々の舞台設
備がなく,その設備を持ち込むとすると多額の費用がかかることから,こ
れらの代替施設での本件公演の実施を断念し,平成19年9月11日,本
件と同旨の義務付けと本件不許可処分の取消しを求めて本件本案訴訟を当
庁に提起し,併せて本件申立てをした。
(4)平成18年の倉敷公演に対する右翼団体等の妨害活動
平成18年10月26日のB倉敷公演に際し,会場である倉敷市民会館周
辺の道路を右翼団体等が街宣車約10台を走らせて公演の中止を求める抗議
活動を行ったが,岡山県警察が180人態勢で同市民会館の駐車場入り口に
車止めを設置し,会場に通じる路地を通行止めにするなどの警備態勢をとっ
たことにより大きな混乱もなく,公演は行われた(甲15の2。)
申立人は,本件公演についても右翼団体等による妨害行為が予想されるこ
とから,本件委員会としての対策を講じるとともに岡山東警察署に出向いて
警備を要請することを予定している(甲16。)
(5)仙台公演に対する右翼団体等の妨害活動
平成19年9月3日,Bの仙台公演が仙台市民会館で行われた。これに際
して,右翼団体が公演の中止を求めて,周辺道路で大音量を流しながら街宣
車10台以上を走行させたため,周囲に騒音が発生した。宮城県警察はこの
妨害行為を取り締まるため機動隊員ら約250人態勢で警戒に当たり,街宣
,,車の交通誘導等をしたがこれに従わない構成員らと警官がもみ合いになり
公務執行妨害の事実で4人が現行犯逮捕されるなどの混乱が生じたものの,
公演自体は予定どおりに行われた(乙27。)
(6)本件公演に対する右翼団体等の妨害活動
平成18年の北朝鮮による核実験等を受け,北朝鮮に対して反発する右翼
団体により,平成19年2月7日以降,Bの公演に施設を貸すなとの街宣活
動が断続的に行われ始め,同月16日には,右翼団体から「Bに会場を貸さ
ない,後援をしない,他県で行われたような不法行為があれば断固たる処置
を行う」等の要望を記載した要望書が岡山市に提出され,同年6月20日に
は,右翼団体であるD構成員が岡山市に対し「公演になったら,昨年の倉,
敷公演どころではない。倉敷はEの地盤なので他が入るのを許さないが,岡
山はどこの団体でも全部入れる。岡山では腐るほど来る。名を挙げたい右翼
。。。はものすごく多い暴動が起きる街宣車が何十台も回って誰が迷惑するか
招待券が手に入ったら,中で暴れる」などとして施設を使用させないよう。
厳しく要求し,その後,同月29日,7月6日,同月8日,同月31日,8
月2日,同月7日に同会による街宣活動が行われた(乙28)ほか,同年9
月30日,同年10月7日にも,Dほかの右翼団体が「11月12日は,こ
の近辺は我々右翼団体によって,混乱が生じることは間違いありません,。」
「,,近隣の方々には大変なご迷惑をお掛けしますが日本人のとしての我々は
このBの公演を絶対阻止する覚悟があります」などと連呼して本件ビルの。
周囲を周回する街宣活動が行われた(乙29。)
なお,本件不許可処分に対しては,同年9月26日現在,市民からの電話
やメール等により,岡山市に対し,抗議の意思表明が68件,賛同の意思表
明が5件,本件ホールに対し,抗議の意思表明が84件,賛同の意思表明が
39件寄せられている(甲19,24)。
第3当裁判所の判断
1本件申立ては,行政事件訴訟法37条の5第1項に基づき,申立人が相手方
に対し,本件ホールの使用許可の仮の義務付けを求めるものであり,この仮の
義務付けをするためには「義務付けの訴えに係る処分がされないことにより,
」(),生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要のあること同項
「本案について理由があるとみえるとき」に当たること(同項「公共の福),
祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」に当たらないこと(3項,以上)
の各要件を満たすことが必要である。
2償うことのできない損害を避けるための緊急の必要
(1)そこで,まず「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があ」,
,,,るか否かについて判断するに前記前提事実(2)(3)でみたところによると
申立人が本件公演を1000人から1500人規模で実施するためには,協
賛広告の募集による広告料収入の確保,ビラの配布,チケット,パンフレッ
トの作成等を行う必要があり,申立人は,本件ホールでの開催を前提として
これらを準備しており,その準備のためには,2ないし3か月を要する上,
本件公演を岡山市で実施するには,現時点では本件ホール以外にないという
のであるから,本案である本件ホールの使用許可の義務付けの訴えに係る使
用許可処分がされなければ,本件公演を平成19年11月12日ないしはこ
れに近接した日に岡山市において予定した規模で実施することは事実上不可
能といえる。そうなると,申立人は,本件公演準備のため既に支出した諸費
用その他の財産的損害を被ることになるほか,本件公演を通じて,朝鮮民族
教育を守り発展させ,在日朝鮮人社会の連携を深めるとともに,朝日友好親
善を図るとの本件委員会の目的は達せられないことになり,ひいて,申立人
の本件公演実施に向けての諸尽力や熱意が無に帰して申立人が精神的苦痛を
受けることはもとより,後記のとおり,憲法によって保障された集会の自由
その他の申立人の基本的自由が侵害されることになり,さらには,本件公演
の観覧を待ち望んでいる市民の期待をも裏切ることになることは明らかであ
る。
ところで,行政事件訴訟法37条の5第1項所定の「償うことのできない
損害」とは,一般に,執行停止の要件である同法25条2項所定の「重大な
損害」よりも損害の性質及び程度が著しい損害をいうが,金銭賠償ができな
い損害に限らず,金銭賠償のみによって損害を甘受させることが社会通念上
著しく不相当と評価される損害を含むと解されている。そこで,これを本件
についてみるに,本件公演を実施できなくなることにより,申立人は,上記
のとおりの財産的損害や精神的苦痛を被るほか,憲法によって保障された基
本的自由が侵害されることになるのであるが,そのうち,財産的損害につい
てはともかく,上記精神的苦痛や基本的自由の侵害に対する損害は,もとも
とその算定が甚だ困難であるため,懲罰的賠償が許容されない現行法制のも
とでは,低額の慰謝料が認容されるにとどまる蓋然性が高いし,また,これ
らの損害の回復,特に,基本的自由の侵害の回復という観点からしても,こ
れを慰謝料に換算した上,金銭賠償をすることによってたやすくその損害の
回復ができると考えてしまうことにも相当に問題があり,憲法秩序からして
も,また,社会通念からしても是認し難いものがある。そうすると,本件公
演が実施できなくなることによって被る申立人の損害は,金銭賠償のみによ
って損害を甘受させることが社会通念上著しく不相当と評価されるというこ
とができるから,申立人に生じる損害は,同法37条の5第1項所定の「そ
の義務付けの訴えに係る処分がされないことにより生ずる償うことのできな
い損害」に当たると認めるのが相当である。
(2)また,本件本案訴訟は,現時点において第1回の口頭弁論期日さえ開か
れていない段階であることは本件記録上明らかであり,本件公演の開催予定
日である平成19年11月12日までに本件本案訴訟の判決が確定すること
はありえないことも明らかである。したがって,本件申立ては,同法37条
の5第1項所定の「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があ」
るときに当たるというべきである。
なお,相手方は,申立人ないし本件委員会が本件不許可処分後に協賛広告
の協力依頼文書を作成し,ビラを作成するなどの準備をしたのであるから,
本件公演までの期間が現在切迫しているからといって,緊急の必要があると
認められるべきではない旨を主張するが,本件公演を規模を変えずに岡山市
で行うことに適している施設は規模が十分で舞台設備が整っている本件ホー
ルと前記第3のとおり使用することができない岡山市民会館であり,以下で
見るように申立人の本案について理由があるとみえるのであるから,仮に相
手方の主張のとおり申立人らによる準備が本件不許可処分後であったとして
もそれによって緊急の必要がないということはできない。
3本案について理由があるとみえるとき
(1)次に,本件申立てが行政事件訴訟法37条の5第1項所定の「本案につ
いて理由があるとみえるとき」に当たるか否かについて検討する。
相手方が提出した平成19年9月26日付け答弁書及び平成19年10月
10日付け再反論書によると,相手方が本件不許可処分をした具体的な理由
は,①平成18年度のB倉敷公演の際に反対者によって街宣車による示威行
進が行われ,警備関係者を振り切って会場内に入ろうとした者がいたなどの
混乱が生じたこと,②平成19年2月ころから北朝鮮による核実験等を受け
て北朝鮮に対して反発する右翼団体等により,本件公演が公になる前からB
の公演に施設を使用させるなとの抗議の街宣活動が断続的に行われ,平成1
9年9月30日と同年10月7日にも本件ビル周辺で街宣活動が行われ,ま
た,施設をBに使用させることについて反対する要望書が岡山市に提出され
るなどの抗議活動がなされたこと,③本件ホールは,多数のテナントやオフ
ィスが入居する複合施設であり,また,その立地もδ大通りやε商店街に接
,,,しており多数の市民が本件ビルを利用し周辺の通りを通行していること
④上記①のような街宣抗議活動が行われる蓋然性があり,さらに,上記②の
事情からすると,上記①以上の街宣抗議活動が行われる恐れがある本件公演
が上記③のような場所で行われれば,本件ビルの搬入口への搬入や案内所の
案内に大きな支障が生じるほか,交通秩序の混乱,騒音及び入場者の不安感
から,他のテナント,オフィスに受忍の限度を超えた重大な影響を及ぼすの
であり,明らかに差し迫った具体的かつ重大な危険が存在することが明白で
ある,⑤同一建物内にテナント,オフィスがあるという本件ホールの特殊性
から,警察の警備等によってもなお混乱が生じるという事情があるというこ
とにある。
(2)よって検討するに,本件ホールは,地方自治法244条の公の施設であ
るから,相手方は,正当な理由がない限り,住民が本件ホールを利用するこ
とを拒んではならず(同条2項,また,住民が本件ホールを利用すること)
について,不当な差別的取扱いをしてならない(同条3項。そして,本件)
条例が本件ホールの使用不許可事由として掲げる本件条例3条3号所定の
「管理上支障があるとき」とは,公の施設である本件ホールについて,利用
を拒みうる上記の正当な理由を具体化したものと解される。また,住民は,
本件ホールのような公の施設が設けられている場合,その施設の設置目的に
反しない限り,その利用を原則的に認められることになるのであって,管理
者が正当な理由もないのにその利用を拒否するときは,憲法の保障する集会
の自由,表現の自由の不当な制限につながるおそれがある。このような観点
からすると,本件条例3条3号所定の「管理上支障があるとき」とは,本件
ホールの管理上支障が生ずるとの事態が,許可権者の主観により予測される
だけでなく,客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合をい
うものと解するのが相当である。そして,相手方が主張する管理上支障があ
る事態とは,Bの公演に対する右翼団体等の抗議活動に起因するものであっ
て,Bの公演そのものに起因するものではないのであるから,このように主
,,催者が集会を平穏に行おうとしているのにその集会の目的や主催者の思想
信条等に反対する者らが,これを実力で阻止し,妨害しようとして紛争を起
こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことができるのは,上
記のような公の施設の利用関係の性質に照らせば,警察の適切な警備等によ
ってもなお混乱を防止することができないなどの特別な事情がある場合に限
られるというべきである(最高裁判所平成8年3月15日第二小法廷判決。
・民集50巻3号549頁参照。)
(3)そこで,本件につき警察の適切な警備等によってもなお混乱を防止する
ことができない事態が生ずることが客観的な事実に照らして具体的に明らか
に予測されるといえるか否かについてみるに,前記前提事実(4)ないし(6)に
よれば,Bの平成18年10月26日の倉敷公演において,右翼団体等によ
り約10台の街宣車による抗議活動がなされ,そのため街宣車による騒音が
,,発生したこと岡山県警察はあらかじめ右翼団体等の活動が予測されたため
当日,警備態勢を整えて対処したこと,Bの平成19年9月3日の仙台公演
の際には,右翼団体等が街宣車10台以上を走行させたため,周囲に騒音が
発生し,宮城県警察はこの妨害行為を取り締まるため機動隊員ら約250人
態勢で警戒に当たったが,構成員らと警官がもみ合いになり,公務執行妨害
の事実で4人が現行犯逮捕されるなどの混乱が生じたこと,平成19年1月
以降,右翼団体が岡山市に対してBに施設を貸さないよう求めて街宣活動等
を行い,同年6月以降,これが活発化したことが一応認められる。
しかしながら,上記事実によれば,平成18年の倉敷公演や平成19年の
仙台公演の際の右翼団体等の活動が一定の混乱をもたらし,一般市民の生活
に悪影響をもたらしたことは否定できないとしても,これによって生じた街
宣車による騒音や交通渋滞,警察官に対する抵抗といった事態はいずれも岡
山県警察や宮城県警察の適切な警備によって制圧され,各公演とも支障なく
実施されているのであるから,上記各公演の際の右翼団体等の活動が警察の
適切な警備によってもなお混乱を防止することができないほどのものであっ
たとは認め難い。
また,右翼団体等の抗議活動が昨年以上に活発になると予測できるとはい
っても,前記前提事実(3)でみたように,Bの平成19年中の公演は,9月
だけでも,仙台のほか,高崎,千葉,奈良,盛岡で実施されており,仙台を
除くこれら各地の公演おいて,警察の警備等によっても防止することができ
ないような混乱が生じたことをうかがわせるような疎明はない。
,,,もっとも本件ホールは本件ビル内に本件ホールのほか多数のテナント
オフィスが入居した複合施設であり,地下2階,地下1階,地上1階からは
,,だれでも入ることができる構造となっている点において特殊性がありまた
本件ビルの周辺にはδ大通りやε商店街があり,歩行者や車両の通行量の多
いことも前記前提事実(1)において一応の認定をしたとおりである。したが
って,本件ビルは,上記のとおりに公衆に開放されているため,その警備が
困難であり,また,右翼団体等の街宣活動等,特にその騒音によって,テナ
ント,オフィスの営業等や周辺における一般市民,自動車の通行等に混乱を
生じさせるおそれがあるといえ,相手方がこれらを憂慮するあまり,本件不
許可処分をしたこともあながち理由がないわけではない。
しかしながら,前記前提事実(1)によれば,相手方は,本件ビル地下2階
から地上12階までのうち3階から8階までを占める本件ホールを管理,運
営しており,また,岡山市も本件ビルの区分所有権のうち相当部分を保有し
ている(乙1ないし24)のであるから,相手方及び岡山市とも,本件ビル
全体の管理,運営についても強力な発言力を有するであろうことが推認され
るのであり,そうであれば,相手方と岡山市は,本件ビルの管理者はもちろ
ん,岡山県警察や申立人ないし本件委員会とも協議しつつ,上記開放部分に
重点を置いた適切な警備方法を工夫,実施することが可能であるし,また,
岡山県においては「拡声器等による暴騒音規制条例(昭和59年3月23,
日岡山県条例第14号」が制定されており,右翼団体等から発せられる暴)
騒音についても規制が及んでいるのであるから,これに対しても岡山県警察
による取締まりが可能である。したがって,相手方の上記憂慮に理由がない
わけではないが,右翼団体等による街宣活動が警察の適切な警備等によって
もなお防止することができない事態が生じるとは認め難い。
さらに,本件ビルのテナント,オフィスに生じる営業等への影響について
も,右翼団体等が平穏に抗議行動をする限り,これもまた憲法によって保障
された集会の自由に属するのであって,これらのテナント,オフィスにおい
ても当然に受忍すべきものであるし,右翼団体等の行動がこれを超えて違法
にわたる場合には,上記説示のとおりの警察による適切な警備が期待できる
のであるから,その場合においても,上記テナント,オフィスに受忍限度を
超えた損害を生じるとは認め難い。
加えて,本件においては,前記前提事実(6)で摘示したとおり,Dを始め
とする右翼団体は,相手方に対し,本件公演当日,激しい街宣活動等を繰り
返すことによって敢えて混乱を生じさせる旨を申し向け,相手方がかかる事
態に陥ることを憂慮するあまり,本件ホールの使用を不許可とさせて本件公
演を中止させようと目論んでいるのであって,そのような不当な要求に屈す
ることが,地方自治法244条2項所定の正当な理由となると解することは
到底できない。したがって,この点からしても,本件不許可処分に正当な理
由があるとは認められない。
(4)以上検討したところによると,本件公演が実施された場合に,警察の適
切な警備によってもなお混乱を防止することができない事態が生ずることが
客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測されるものとは認め難く,本
件条例3条3号所定の「管理上支障があるとき」に該当しないものというべ
きである。
したがって,本件申立ては,本案について理由があるとみえるときにあた
る。
4公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき
相手方は,本件公演を実施した場合には,その公演に反対する者との間で多
大な混乱が生じ,一般の利用者等に不測の事態が生ずるおそれがあり,公共の
福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある旨の主張をする。
しかし,前記3で判断したとおり,本件公演を実施しても警察の適切な警備
等によって防止することができないような混乱が生ずるものとは認め難い以
上,本件申立てを認容することによって公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそ
れがあるとはいえない。
第4結論
以上によれば,本件申立ては,理由があるから認容することとし,申立費用
の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとお
り決定する。
平成19年10月15日
岡山地方裁判所第1民事部
裁判長裁判官近下秀明
裁判官篠原礼
裁判官植月良典

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛