弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人伊達秋雄、同大野正男、同彦坂敏尚、同矢田部理の上告趣意第一点につい
て。
 所論は、先ず、被告人Aにつき艦船不退去罪の成立を認めたのは刑訴法四〇〇条、
憲法三一条に違反すると主張する。
 よつて考えるに、第一審判決は、その無罪理由の欄において、「第一、被告人A
に対する艦船不退去について」として、証拠により、日本国有鉄道青函船舶鉄道管
理局(以下、青函局という。)は、青函連絡船における船舶運行の近代化、合理化
の一環として、青函連絡船乗務職員の定員を削減し、これを陸上の船員区に配置換
えすることを計画し、昭和三七年一月二四日から定員削減案による配置換え対象者
に対する事前通知の手続を進めたので、これに反対する日本国有鉄道労働組合青函
地方本部(以下、青函地本という。)は、事前通知をとりまとめて一括して返上す
る方針を決め、Bを含む各船舶支部組合員に対し青函地本の方針を周知徹底させ、
事前通知の対象者に対しては動揺することなく青函地本の団結の力に信頼して事前
通知を返上するように指導するため組合役員のオルグを各船舶に派遣することを決
定し、被告人Aは、この決定に基づき、同月二八日午後八時三〇分頃、ほどなく青
森に向けて出航予定のBに、その航海中に乗務船員の非直者(勤務当直者でない者
をいう。)を対象として前記のようなオルグ活動をする目的で乗り込んだところ、
かねて青函局海務部長から組合役員を乗船させたまま出航してはならないと厳命さ
れていた同船船長Cは、被告人Aに対して退船方を要求したが、被告人Aは、これ
を拒否して応ぜず、結局、出航予定時刻を過ぎた同日午後九時五〇分頃になつてよ
うやく下船した旨の事実を確定したうえ、被告人Aの右行為は青函地本の組合の行
動として正当な行為といい得るに対し、C船長が被告人Aに退船を要求したことは
不当であつて、被告人Aがこれを拒否して退船しなかつたからといつて直ちに艦船
不退去罪を構成するとすることはできない旨判断して、同被告人に無罪の言渡をし
ているのである。すなわち、本件第一審判決は、法律判断の対象となる事実を認定
し、法律判断だけで右事実は罪とならずとして無罪を言い渡したものであり、これ
に対し原審は、結局は、第一審判決が確定した右事実を前提とし、被告人AがC船
長の下船命令を拒否して下船しなかつたのは正当な行為とは称し難く、第一審判決
の法律判断は法令の解釈適用を誤つたものとしてこれを破棄し、同被告人に有罪の
言渡をしたものである。それゆえ、原判決は、何ら直接主義、口頭弁論主義の原則
に反するものではなく、刑訴法四〇〇条但書に違反するものでないことは、当裁判
所の判例とするところである(昭和三九年(あ)第三〇五号同四四年一〇月一五日
大法廷判決、刑集二三巻一〇号一二三九頁参照)。したがつて、原判決が刑訴法四
〇〇条に違反することを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く不適法のも
のである。
 次に、所論は、原判決は憲法二八条に違反する旨主張するので、考えるに、憲法
は、勤労者に対し団結権、団体交渉権その他の団体行動権を保障するとともに、す
べての国民に対し平等権、自由権、財産権等の基本的人権を保障しているのであつ
て、これら諸々の基本的人権が勤労者の団体行動権の無制限な行使の前に排除され
ることを認めているのではなく、これら諸々の基本的人権と勤労者の権利との調和
を破らない限度内の正当な団体行動権の行使を許容しているのであるから、この限
度を越える行為は、たとい団体行動権の行使としてなされたものであつても憲法二
八条の保障するところでないことは、当裁判所昭和二三年(れ)第一〇四九号同二
五年一一月一五日言渡の大法廷判決(刑集四巻一一号二二五七頁)の示すところで
ある。
 そこで、被告人Aが所論Bに乗り込んだのは、同船に乗り組んでいる同船支部組
合員に対し青函地本の方針を周知徹底させ、事前通知の対象者に対して事前通知を
返上するように指導するための、組合役員としての活動としてであつたとしても、
原判決の確定するところによれば、同被告人は、Bの乗組員ではないのに出航間際
の同船に乗り込み、同船の船長から下船を命ぜられたのにこれを拒否して出航予定
時刻後まで同船に滞留して退去しなかつたというのであるから、同被告人の右行為
が労働組合の目的達成のためにする正当な行為として憲法二八条の保障する範囲内
のものであるか否かを考えなければならない。ところで、船舶の航行の安全は、ひ
とり当該船舶の所有者や船舶を利用する企業経営者の利害に関するのみではなく、
当該船舶の船員、乗客等の乗船者全体の生命身体や積荷の安危にかかわるものであ
るから、絶対にこれを確保しなければならないものであつて、これが確保の責任は
すべて船長に帰せられているのである。されば、船員法七条は、「船長は、(中略)
船内にある者に対して自己の職務を行うのに必要な命令をすることができる。」と
定めているのであつて、この船長の権限は、船舶航行の安全確保という責任を負う
船長の特殊な地位に基づくものである。このことは日本国有鉄道の連絡船の船長に
ついても変りはない。もとより国鉄労働組合員の団体行動の自由は考慮されなけれ
ばならないが、連絡船という船舶を団体行動の場所とする場合には、陸上における
場合とは異なつた考慮を要し、右のごとき船舶航行の指揮者、責任者としての船長
の命令は尊重されるべきものである。このように考えるならば、被告人Aが本件B
に乗り込んだのは、所論のようにその航行中に乗務船員の非直者たる組合員らに対
するオルグ活動のためであつて、青函地本の団体行動としてであるとしても、船長
が被告人Aに対し退去を命令したときは、この命令に従わなければならないもので
あり、船長のかかる退去命令に従わないで船内に滞留することは、それ自体船長の
職務である船舶航行の指揮を妨げるものであり、ひいては航行の安全に危険を及ぼ
さないとはいえない行為であるから、労働組合の目的達成のためにする正当な行為
と認めることはできない。そうとすれば、同被告人の前記行為は憲法二八条の保障
する範囲内の行為とはいえず、艦船不退去罪を構成するとした原判決が労働組合法
一条二項、憲法二八条に違反するものではないことは、前記大法廷判決に徴して明
らかである。論旨は、理由がない。
 同第二点について。
 所論は、要するに、原判決が被告人D、同Aにつき建造物侵入罪の成立を認めた
のは、憲法二八条、労働組合法一条二項に違反し、ならびに当裁判所昭和四一年一
〇月二六日大法廷判決に違反するというのである。
 しかし、原判決の維持する第一審判決が確定したところによれば、国鉄当局が、
国鉄の正常な運転業務を確保するため、a駅構内への立入を禁止し、組合員による
信号扱所占拠に備えるべく各信号扱所周辺にそれぞれ警備員、公安職員等百名ない
し百数十名を配置し、信号扱所の確保を図つたのに対し、組合側は、当局側の警備
を排除すべく、第二信号扱所においては、組合員約二五〇名がスクラムを組んだ四
列縦隊で二手にわかれて当局側警備員を挾撃し、激しい押合い、もみ合いのすえ、
被告人Dは組合員と共に当局側の警備を排除して第二信号扱所入口の階段をかけ上
つて、a駅長管理にかかる第二信号扱所内に故なく侵入したものであり、また第一
信号扱所においては、組合員約二〇〇名が同様にスクラムを組んだ四列縦隊で二手
にわかれ、当局側警備員を挾撃する態勢をとつたところ、当局側警備員の指揮者で
あるE工事課長と青函地本側F執行委員との間で、怪我人が出るのを防ぐため、組
合側は当局側を挾撃するのを止め、線路側からやんわり押す、当局側は押されれば
下る、信号扱所階段上にいる公安職員はおろすとの妥協が成立し、公安職員が回階
段からおりて同所南に隣接する継電器室をまわり、線路側に出ようとしたところで、
組合側は漸時第一信号扱所と継電器室間の当局側警備員を押して階段付近まで押し
進み、第一信号扱所階段上り口を占拠するに至つたが、この状況を一段高い所から
見ていた被告人A、同Dが同信号扱所階段をかけ上つて、a駅長の管理にかかる第
一信号扱所内に故なく侵入したというのであつて、いずれも組合員多数の勢力をも
つてする実力行動により各信号扱所に対する当局側の管理を排除して侵入したもの
であるから、同被告人らの立入りは、各信号扱所内に勤務する組合員に職場大会へ
の参加を呼びかける目的に出でたもので、組合員の原判示時限ストを実行するため
になされたものであるとしても、これをもつて直ちに労働組合の目的達成のために
する正当な行為とはいい難く、憲法二八条の保障する範囲内の行為とはいえない。
そうとすれば、被告人Aおよび同Dの右所為を建造物侵入罪として処罰した原判決
が労働組合法一条二項、憲法二八条に違反しないことは、前記当裁判所昭和二五年
一一月一五日大法廷判決に徴して明らかである。
 次に、所論は、判例違反をいうが、所論引用の当裁判所昭和三九年(あ)第二九
六号同四一年一〇月二六日言渡の大法廷判決(刑集二〇巻八号九〇一頁)は、同盟
罷業として単に郵便の取扱いという労務の提供をしなかつたとの消極的不作為によ
る争議行為は郵便法七九条により処罰することはできないとしたものであるところ、
本件被告人らの行為は、同盟罷業として単に労務を提供しなかつたという消極的な
不作為ではなく、他人の看守する建造物に故なく侵入するという積極的な行為であ
るから、所論引用の判例は本件に適切でなく、所論は適法な上告理由にあたらない。
 同第三点および第四点について。
 所論は、いずれも事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたら
ない。
 よつて、刑訴法四〇八条により、上告趣意第二点に関し裁判官長部謹吾の意見が
あるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官長部謹吾の上告趣意第二点に関する意見は、次のとおりである。
 わたくしは、上告趣意第二点の所論を採りえないとすることについては、他の裁
判官と結論を同じくするが、その理由を異にする。すなわち、原判決が維持する第
一審判決が確定したところに徴すれば、被告人Dのa駅第二信号扱所への侵入行為
 同被告人および被告人Aの同駅第一信号扱所への各侵入行為は、いずれも公共企
業体等労働関係法一七条一項に違反するものであることは明らかである。そして、
このような同条項に違反する争議行為については、労働組合法一条二項の刑事上の
免責規定適用の余地はなく、したがつて、被告人らの右行為は、正当な行為という
ことはできず、このように解しても、憲法二八条に違反するものではないと考える。
その理由の詳細は、前示当裁判所昭和四一年一〇月二六日大法廷判決における裁判
官奥野健一、同草鹿浅之介、同石田和外の反対意見のとおりであるから、それを引
用する。
  昭和四五年七月一六日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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