弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 福岡高等検察庁検事長市島成一の上告趣意について。
 所論は、原判決は、当裁判所の判例(判例集八巻一一号一八六〇頁以下)に背反
して、貸金業等の取締に関する法律二条一項の解釈を誤り、惹いて本件第一審判決
認定の貸金の事実を業としてなしたものでないと誤認したものであるというに帰す
る。そして、当裁判所大法廷が、昭和二九年一一月二四日右法律二条一項にいう「
貸金業」とは、反覆、継続の意思をもつて金銭の貸付または金銭の貸借の媒介をす
る行為をすれば足り、必ずしも報酬若しくは利益を得る意思またはこれを得た事実
を必要とするものでない旨判示したことは、所論のとおりであり、また、原判決は、
その理由中で、「尤も、被告人が利殖の目的があつたと否とに拘らず、また、現に
利益を得たと否とに拘らず、これを業として為すことについての認識があれば貸金
業を行つた旨認定すべきものと解せられる」といつているから、その点では、原判
決は、むしろ当裁判所の右判例と合致し、これと相反する判断をしたものとするこ
とはできな。
 しかし、原判決は、まず(一)「原(第一審)判決の認定した被告人の貸金のう
ちA、Bに対する分は交友関係上貸与したものでありその間仮りに謝礼を受けた事
実があつたとしても、被告人として利を図る目的があつたものとは認められない。
その他の分に対する貸金についても被告人が特に利益を得る意図の下に融資した事
実は認め難い」旨総括的に判示し、次に本件貸金の内容につき更に検討するとして、
(二)「原(第一審判決)判示別表一乃至三の分は、貸与の日時についても相当な
間があり又利息の有無も明らかでないのでこの間被告人が業として貸金したものと
認定することはできない。次に同判示別表四乃至八の分については、昭和二九年二
月、三月、四月中の短期間の出来事であり又一部金利徴収の事実も存するのでこれ
を業として為したものと認むべきか否かについて稍々疑があるが被告人と右借受人
との従来の交友関係や貸金に対する謝礼の方法をかれこれ綜合して考えると寧ろこ
れを消極的に認定するのが相当と考えられる。」と判示し、さらに、(三)「これ
を右のように各別に考えることなく原(第一審判決)判示別表一乃至八の全部を通
びてこれを業務行為と認定し得られるかどうかについてもいわゆる反覆累行したと
いう域には至らないものと考えられ結局前と同一の結論に到達せざるを得ない」と
判示して、第一審判決を事実を誤認したものとしてこれを破棄したものである。さ
れば、原判決の前記(一)、(二)の判示は、右法律二条一項にいう「貸金業」た
るには、反覆、継続の意思を以て金銭の貸付をする行為をすることのほか相手方と
の交友関係並びに謝礼の方法等に関する特殊の条件を具備する場合でなければなら
ないものとの解釈からなされたものと認めざるを得ないから、原判決の前記冒頭記
載の判示とその理由が喰いちがうものといわざるを得ない。また、原判決の前記(
三)の判示は、何故に反覆累行したという域に至らないと考えられるかの理由を示
していないから、判決の理由を具備しないものといわなければならない。それ故、
原判決は、刑訴四一一条一号にいわゆる法令の違反があつて、これを破棄しなけれ
ば、著しく正義に反するものと認める。そして、右は、事実の確定に影響を及ぼす
べき場合であるから、同四一三条本文に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のと
おり判決する。
 検察官 吉河光貞公判期日出席。
  昭和三二年二月二八日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫

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