弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人寺島祐一の上告理由第二点について。
 上告人が、予備的請求原因として一審以来、「仮に上告人がいまだ債務を完済し
ていないとしても、その残債務は僅少に過ぎないのであるから、被上告人が代物弁
済として本件建物の所有権を取得するが如きは、信義則を定めた民法一条に違反し
て無効である」旨の主張をしていることは、所論のとおりであり、これに対して原
判決が、「被上告人の昭和三二年五月七日における上告人に対する残債権は七二六、
八〇〇円であり、本件建物の前示日時における価格は、右残債権に比べて著しく高
価であることその他代物弁済予約完結の意思表示が信義則に反するものと認むべき
事実を確認し得る証拠はない」との理由をもつて、上告人の右主張を排斥している
こともまた所論のとおりである。
 ところで、原判決は他面において、「残債務が著しく少なく、代物弁済予約の完
結が債務者に対してあまりに過酷であるときは、公序良俗に反して無効となる場合
もあり得る」旨判示しているのであるから、原判決は、代物弁済に充てられた建物
の価格が、残債務の額に比して著しく高価であり、代物弁済予約完結の意思表示が
債務者に対しあまりに苛酷であるときは、公序良俗ないし信義則に反して無効とな
る場合もあり得るとの見解をもつているものと解さざるを得ない。
 果してそうなら、原判決は、上告人の前示主張を排斥するには、まずもつて本件
建物の価格が、代物弁済予約完結の意思表示があつた際、幾何のものであつたかを
確定し、その額と残債務の額とを比較較量して、しかる後に決するのが相当である。
 もつとも、原判決は、本件建物は昭和二八年被上告人によつて、請負金額一四〇
万円として建築されたものである旨確定しているから、代物弁済当時も、あるいは
これと同額もしくはそれに近い価格を有していたものと判断したものであるかも知
れない。
 しかし、建物の価格は、その請負金額だけで判断すべきものではなく(被上告人
は原審の引用した一審判決の事実摘示において、本件建物は、請負金額は一四〇万
円であつても、実際にはその建築に一八〇万円を要したものである旨主張している)、
ことに本件建物の場合は、被上告人がこれを代物弁済として取得した結果、その敷
地につき賃借権をも取得するか否かによつても著しくその価格に影響を及ぼすもの
といわなければならないから、建築請負金額をもつて直ちに建物の価格とはなしが
たいものというべきである。
 しかるに原判決は、本件建物の代物弁済当時における実際の価格について、なん
ら判定するところなく、ただ単に残債務に比して著しく高価と認むべき証拠がない
というだけの理由を以つて、たやすく上告人の前示主張を排斥したのは、審理不尽
かつ理由不備の違法があるものというべきであり、右の違法は判決の結果に影響及
ぼすこと明らかであるから破棄を免れない。論旨はこの点において理由があるから
他の論点についての判断を省略し、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で主文
のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    高   木   常   七
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫

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