弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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             主       文
    本件控訴を棄却する。
    当審における未決勾留日数中220日を原判決の刑に算入する。
             理       由
1 本件控訴の趣意は,弁護人熱田雅夫作成の控訴趣意書記載のとおりであるか
ら,これを引用する。
2 控訴趣意中,訴訟手続の法令違反の主張について
  所論は,原審の訴訟手続には,原判示第2及び第3の各事実について,捜査
段階における被告人の自白に任意性がないのにこれを証拠として採用した点にお
いて,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある旨主張す
る。
  しかし,記録によっても被告人の捜査段階の自白の任意性に疑問を抱かせる
ような事情が認められないことは原判決が適切に説示するとおりであって,論旨
は理由がない。
3 控訴趣意中,事実誤認の主張について
  所論は,原判示第3の事実につき,被告人は被害者の財布内から現金を抜き
取っていない旨主張するが,被告人の捜査段階における自白内容は,現金を抜き
取るに至った経緯,抜き取った状況,抜き取った現金の使途等にわたる詳細かつ
具体的なものであって,実際に経験しなければ供述できないような自然かつ迫真
性に富む内容を有しており,Aの検察官調書(検甲24号証)や捜査報告書(検
甲第26,31(謄本),35,36,41ないし43号証)の内容とも矛盾は
なく,その信用性は高いというべきである。そして,同自白内容が記載された被
告人の捜査官に対する供述調書を含む関係証拠によれば,被告人が原判示第3の
犯行に及んだ事実を認めるに十分であり,これに合理的疑いを容れる余地はない
というべきである。論旨は理由がない。
  次に,所論は,原判示第2の事実につき,被告人には殺意がなかった旨主張
するが,被告人は,携帯電話を探して四つんばいの状態になっている被害者の左
脇に両ひざを地面につけ,同女の背後から,両手で持った太さ約0.35センチ
メートルの合成樹脂製紐の中央部分を頭越しにその首の前から掛け,首の後ろで
両手を交差させて一気に締め,さらに,抵抗する被害者の身体が動かないように
背後からひざを押しつけるなどして,数分間にわたり,強くその首を締め続けた
もので(なお,この点に関する被告人の自白が信用できることは原判決の説示す
るとおりである。),このような行為態様は,それ自体,殺意を強く推測させる
ものである。また,犯行の動機についても,3万円をだまし取った後,被害者か
ら警察官であることを疑われ,警察に連絡するなどと騒がれたため,落ち着かせ
ようとベルトで被害者の首を締めるなどしたがかなわず,現金をだまし取ったり
首を締めたりしたことが警察に発覚すれば,前刑の執行猶予が取り消されて刑務
所に入ることとなり,前妻やその子らを失うことになるなどと考えた挙げ句,殺
害を決意したものと認めるに不自然な点はない。
  所論は,被害者に大声で騒がれ,静かにさせるためにとっさに首を締めただ
けであり,被告人には殺意はなかったなどと主張し,被告人も当審において同旨
の供述をするが,前記のような犯行の動機,態様に加え,被告人は,首を締めつ
け終えた後,身動きをしなくなっていた被害者を,何ら救命措置を講ずることな
く,その場から引きずって冬の池の中に落としていることをも併せ考慮すると,
合成樹脂製の紐で被害者の首を締めつけて以降の被告人の一連の行動は殺意に基
づくものであったと認定するに難くない。被告人の前記供述は信用できず,所論
には左袒し難い。
  その他,所論に即して検討しても,被告人に殺意を認めた原判決に事実誤認
はない。論旨は理由がない。
4 控訴趣意中,量刑不当の主張について
  論旨にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せ検
討するに,本件は,真面目に稼働せず,パチスロ遊びなどに耽り,前妻に支払を
約束した4万円の金策に苦慮していた被告人が,援助交際で知り合った当時22
歳の被害者が被告人を警察官であると思い込んでいることに乗じ,麻薬のおとり
捜査を口実に車で同女を連れ出し,同捜査のための費用を貸してほしいなどと言
葉巧みに同女にうそをついて,同女がサラ金から借り出した金員等の内の3万円
をだまし取った上,被告人が警察官でないことに気づき警察に通報しようとした
被害者を合成樹脂製の紐で絞殺し,さらに,被害者が車に遺留した財布の中から
現金約4万5000円を抜き取ったという,詐欺,殺人,占有離脱物横領の事案
である。とりわけ,殺人の犯行については,被害者に詐欺の犯行等が発覚しそう
になるや,同女を殺害して口封じを図ろうとした動機は,短絡的かつ自己中心的
で酌量の余地は全くなく,合成樹脂製の紐を被害者の首にかけて強く締め付け,
苦しみもがく同女の首をなおも強く締め続けたうえ,ぐったりした同女を引きず
って池に落とした犯行態様は,冷酷かつ残忍なものである。もとより招いた結果
は重大であり,幼子を残して,22歳の若さで生命を絶たれた被害者の無念の気
持ちは察するに余りあり,遺族の悲しみは大きく,被告人の厳罰を望んでおり,
被害弁償もなされていない。また,被害者を殺害してまもなく,その財布内から
現金約4万5000円を抜き取るまでの犯行に及んでいるもので,犯情極めて悪
質である。これに,被告人は,平成7年5月に窃盗,建造物侵入により懲役1年
6月,3年間執行猶予に,平成13年8月には,傷害,暴力行為等処罰に関する
法律違反により懲役1年2月,3年間執行猶予(付保護観察)にそれぞれ処せら
れたにもかかわらず,わずか半年余りで本件各犯行に及んでいること,本件の社
会的影響などを総合すると,被告人の刑事責任は重大である。
  そうすると,殺人の犯行については,被告人は当初から計画的に被害者を殺
害しようとしていたわけではなく,うそがばれて突然騒ぎ出した被害者の態度に
狼狽してなされた偶発的な側面があること,自らの行為により被害者を死に至ら
しめたことについては後悔,反省の情が認められることなど,被告人のために有
利な事情を最大限考慮しても,被告人を懲役13年に処した原判決の量刑はやむ
を得ないところであって,これが重すぎて不当であるということはできない。論
旨は理由がない。
5 よって,刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却し,刑法21条により当
審における未決勾留日数中220日を原判決の刑に算入することとし,当審にお
ける訴訟費用は刑事訴訟法181条1項ただし書を適用してこれを被告人に負担
させないこととして,主文のとおり判決する。
  平成15年10月6日
    広島高等裁判所松江支部
      裁判長裁判官      廣   田       聰
         裁判官      吉   波   佳   希
         裁判官      植   屋   伸   一

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