弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人橋本清次郎の控訴趣意は同人提出の控訴趣意書に記載のとおりであるから
これを引用する。 弁護人の控訴趣意(事実誤認、法令の適用の誤)について、
 所論の要旨は、本件文書は選挙運動の文書ではない。本件文書は被告人等の結成
しているA労働組合政治連盟の発行する文書で連盟の基本政策たる再軍備と戦争に
反対し平和を守る啓蒙宣伝文書であり、被告人の行為も政治団体たる右政冶連盟の
政冶活動の一環としての行為であつて選挙活動と何等関係のあるものではない。ま
た、本件文書は公職選挙法第百四十六条の候補者の氏名を表示したものということ
はできない。氏名とは俗に苗字並に名前を併記したものを指すのであつて、公職選
挙法第百七十五条の氏名の掲示も同趣旨の規定である。従つて本件候補者のBの届
出もBと振仮名付で届出あるもので発音と云い、またタテの漢字「楯」の文字が一
般的に読み難いのと一般常用漢字にも採用されていないので政治斗争用語として親
み深いタテの仮名使の使用をしたものである。殊更にB候補の氏名の宣伝に意を用
いたものではない。従つて原判決が本件文書を公職選挙法第百四十六条の文書の種
類と判断したのは事実を誤認し法令の適用を誤つたものであるというにある。
 しかし公職選挙法は選挙の公明且つ適正に行われることを確保するため選挙運動
に一定の規制を加えているのであつて、政治団体又はその構成員といえども、もと
よりその規制の外にあるものではなく、たとい所論のように政治団体たるA労働組
合政治連盟の政治活動の一環としてなされたものであつても、それがいやしくも公
職選挙法第百四十六条の文書図画の頒布又は掲示につき禁止を免れる行為の制限に
反すると認められる限り同条違反となることは明かである。原判決挙示の証拠によ
ると被告人は原判決の認定したとおり、昭和二十八年四月十九日施行の衆議院議員
総選挙に際し北海道第三区から立候補したBを推薦支持したA労働組合政治連盟C
支部の情報宣伝部門担当の役員として、同連盟の基本方針に基く大衆啓発宣伝活動
に従事していたものであることが明かであり、押収のビラ一枚(昭和二十八年領第
三十五号の第一号)によるとその上部に横書に「子のね顔・平和のために一票を」
と掲げ、その下に、三行目に「たて」となる人を国会え!!」最後の行に「働く者
の生活を守る「たて」となれ」という標句を掲げその「たて」の二字を殊更に大き
く、初号ゴヂツク活字で表現したものであつて、前記選挙運動期間中である昭和二
十八年四月十六日頃、前記Bの選挙区たる函館市内において頒布したものであるこ
と、被告人は本件文書の「たて」はBの「B」に通じ二<要旨>重の意味をもつこと
を意識していたことが認められる。そして、公職選挙法第百四十六条にいわゆる候
補者の氏名は必ずしも候補者の氏と名を必要とするものでなく、客観的に候
補者が誰であるかということが特定できる程度の表示をもつて足るものと解すべき
であるから本件の文書中の「たて」は暗に候補者Bの氏名を表示したものというべ
く、以上を綜合すると本件文書は前記選挙に立候補したBの選挙運動のためにする
文書であつて、これを頒布した被告人の所為は公職選挙手法第百四十二条の禁止を
免れる行為としてなされたことが明かであり、明かに同法第百四十六条第一項、第
二百四十三条第五号に該当し、原判決には所論のような事実誤認又は法令の適用に
誤はないから論旨は理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却すべきものとし、主文の
とおり判決する。 (裁判長判事 原和雄 判事 山崎益男 判事 成智寿朗)

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