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主文
1中央労働委員会が中労委平成17年(不再)第42号事件について平成1
8年6月7日付けでした再審査申立棄却命令を取り消す。
2第2事件原告・第1事件参加人の請求を棄却する。
3訴訟費用(参加費用を含む)は、第1事件・第2事件を通じて、これを2。
分し、その1を第1事件被告・第2事件被告の負担とし、その余を第2事件
原告・第1事件参加人の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1第1事件(財団の請求)
主文第1項同旨
2第2事件(ユニオンの請求)
中央労働委員会が中労委平成17年(不再)第41号事件について平成1
8年6月7日付けでした再審査申立棄却命令を取り消す。
第2事案の概要
ユニオンは、財団が、①ユニオンの会員であるaを新国立劇場合唱団の契
約メンバーに合格させなかったこと、②ユニオンからaの次期シーズンの契
約に関する団体交渉を申し入れられたにもかかわらずこれに応じなかったこ
とが、いずれも不当労働行為であるとして、救済申立てをしたところ、東京
都労働委員会は、上記①については、不当労働行為に該当しないとしてその
申立てを棄却し、②については、不当労働行為に該当するとして、団体交渉
に応じるべきこと及びこれに関する文書の交付等を財団に対して命じた。ユ
ニオンは、申立棄却部分につき、財団は、救済を命じた部分につき、それぞ
れ再審査を申し立てたが、中央労働委員会は、双方の再審査申立てを棄却し
た。
本件は、財団(第1事件)とユニオン(第2事件)が、それぞれ中央労働
委員会の再審査申立棄却命令の取消しを求めた事案である。
1前提事実(争いがない事実又は後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認
められる事実)
()ユニオンは、日本で活動する音楽家と音楽関連業務に携わる労働者の個1
人加盟による職能別労働組合である(乙44)。
()財団は、新国立劇場において現代舞台芸術の公演等を行うとともに、同2
施設の管理運営を行っている財団法人であり、平成10年4月以降、年間
を通して、複数のオペラ公演を主催している。
()財団は、毎年、主催するオペラに出演する新国立劇場合唱団のメンバー3
をオーディションあるいは試聴会を開いて選抜し、合格者との間で、原則
として年間シーズンのすべての公演に出演可能である契約メンバーと、財
団がその都度指定する公演に出演可能である登録メンバーに分けて、出演
契約を締結している。
契約メンバーとの間の契約は、平成10年3月から平成11年6月まで
(1998/1999シーズン)は、各公演ごとの個別契約だけであった
が、平成11年8月以降(1999/2000シーズン以降)は、毎年、
期間を1年とする基本契約が締結された上、各公演ごとに個別公演出演契
約が締結されている。
()a(昭和▲年▲月▲日生まれ)は、ユニオンに加入している者であり、4
平成10年3月以降、毎年の試聴会等に合格し、新国立劇場合唱団の契約
メンバーとなり(平成13年は当初不合格とされたが、交渉の後、契約メ
ンバーとなった、平成11年8月から平成15年7月まで、1年ごとの。)
各期間(1999/2000シーズンから2002/2003シーズンま
で、基本契約を毎年締結した上、各公演ごとに個別公演出演契約を締結し、)
公演に出演していた。
ところが、aは、財団から、平成15年2月20日、同年8月から始ま
るシーズン(2003/2004シーズン)について、試聴会の結果、契
約メンバーとしては不合格であると告知された(以下、財団がaを不合格
としたことを「本件不合格措置」という。。)
()ユニオンは、平成15年3月4日、財団に対し、文書により「aの次期5、
シーズンの契約について」を議題とする団体交渉申入れ(以下「本件団交
申入れ」という)を行った。これに対し、財団は、同月7日「a氏と当。、
財団との関係が雇用関係にないので、これを前提とする団体交渉申し入れ
は受諾出来ない」などと文書で回答した(乙41、42)。
()ユニオンは、平成15年5月6日、東京都労働委員会に対して、本件不6
合格措置及び本件団交申入れに対する財団の対応が不当労働行為に当たる
として、本件不合格措置を撤回し、aを契約メンバーとして就労させるこ
と、本件団交申入れを拒否しないこと等を求めて、救済申立てをした。東
京都労働委員会は、平成17年5月10日付けで、本件団交申入れに対す
る財団の対応は不当労働行為に該当するが、本件不合格措置は不当労働行
為に該当しないとして、以下のとおり、命令を発した(以下「本件初審命
令」という。。)
「1財団は、ユニオンが平成15年3月4日付けで申し入れた団体交渉を
ユニオン会員aと財団が雇用関係にないとの理由で拒否してはならな
い。
2財団は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書をユ
ニオンに交付しなければならない。

年月日
ユニオン
代表運営委員b殿
財団
理事長c
当財団が、平成15年3月4日付けで貴ユニオンの申し入れた団体
交渉を拒否したことは、不当労働行為であると東京都労働委員会で認
定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を交付した日を記載すること)。
3財団は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告し
なければならない。
4その余の申立てを棄却する」。
()ユニオンは、本件初審命令のうち、本件不合格措置を不当労働行為と認7
めず救済申立てを棄却した部分(主文4項)を不服として、再審査を申し
立てた(平成17年(不再)第41号不当労働行為再審査申立事件。)
財団は、本件初審命令のうち、本件団交申入れに対する財団の対応を不
当労働行為であると認め救済を命じた部分(主文1ないし3項)を不服と
して、再審査を申し立てた(平成17年(不再)第42号不当労働行為再
審査申立事件。)
中央労働委員会は、上記各再審査申立事件を併合し、平成18年6月7
日付けで、本件初審命令と同様の理由により、財団及びユニオンの各再審
査申立てを棄却する旨の命令を発した。財団は同年8月1日、ユニオンは
同月7日、それぞれこの命令を受領した。
財団及びユニオンは、それぞれ再審査申立てが棄却された部分につき、
命令の取消しを求めて、各訴えを提起した。
2争点
()aは労働組合法(以下「労組法」という)上の労働者であるか(第11。。
事件・第2事件)
()本件団交申入れに応じないとした財団の対応は、労組法7条2号の不当2
、労働行為に該当するか(本件団交申入れにかかる事項は義務的団交事項か
財団の対応に正当な理由があるか(第1事件)。)。
()本件不合格措置はaがユニオンの会員であることを理由とする不利益取3
扱い(労組法7条1号)に該当するか(第2事件)。
3争点に対する当事者の主張
()aは労組法上の労働者であるか(争点())11
(財団)
労組法上の労働者、使用者は、それぞれ労働契約関係を元に成立した労
使関係の一方当事者であることを要する。以下の諸要素を総合的に検討す
ると、財団とaとの間にそのような関係は認められないから、aは労組法
上の労働者に当たらない。
ア契約の方式、方法
財団と契約メンバーは、シーズンの開始に当たり、年間スケジュール
を示す出演公演一覧が添付された基本契約を締結しているが、それによ
り出演公演一覧の演目について法的な出演義務が生じるものではなく、
出演義務は個別公演出演契約を締結して初めて生じる。基本契約と個別
公演出演契約という二段階の契約方式の採用は、大部の個別公演出演契
約書を作成する煩雑さを避けて作成事務を合理化したものに過ぎない。
イ契約メンバーの業務内容の決定
歌唱技能を提供する態様、実施方法、年間の個別公演の件数、演目を
、財団が一方的に決することは、合唱団員と外部芸術家と異ならないから
aの労働者性を肯定する要素とはなりえない。
ウ報酬に関する算定基準や方法の決定及び計算
財団によって報酬等が決定されることは、請負や委任といった非労働
契約においても同様であるから、財団の使用者性、aの労働者性を肯定
する要素ではない。
エ出演諾否の自由の有無
基本契約の締結によって個別の公演出演が義務となるものではない。
契約メンバーが、基本契約締結後、出産、育児等の理由以外の理由で
個別公演契約締結を断る事例は毎年5ないし7あるが、これらの個別公
演契約締結を断った者が翌シーズンの契約メンバー選抜において不利益
を被った事実はない。契約メンバーが個別公演に出演するに当たり、両
当事者は、契約メンバーの個別公演への出演を確定し、当該個別公演の
出演業務の内容及び出演条件等を定めるため「個別公演出演契約」を締
結するという基本契約の文言からも、基本契約の締結により個別公演出
演契約の締結が法的義務となるものではないことは明らかである。
オ指揮監督関係の有無、程度
契約メンバーが公演と稽古について時間的場所的に拘束を受けている
ことは、そもそもオペラ公演というものが多人数の演奏・歌唱・演舞等
により構築される集団的舞台芸術であり、オペラ合唱団の一翼を担うと
いう契約メンバーの業務の特性から必然的に生じるものであるから、労
働者性の判断指標とならない。稽古に欠席、遅刻等をすれば報酬を減額
されることは外部芸術家においても変わらない。個々の歌唱について細
かな指示はなく、契約メンバー各人に大きな裁量がある。
カ専属的拘束性
契約メンバーが、財団が主催する公演以外の公演に出演したり、教室
を運営して生徒に教えたりすることは自由であり、音楽家としての活動
は禁止されていない。個別公演出演契約を締結すると、公演や稽古への
参加が義務付けられるが、多くは1日3時間程度の拘束時間に過ぎず、
平成15年2月など月に3日間しか拘束されない月もあった。
キ報酬の労務対価性
契約メンバーの業務の中核は、公演本番に出演して歌唱を行うことで
あり、稽古への参加はその業務遂行のための従たるものに過ぎない。2
000/2001シーズンまで、本番出演料及びGP(本番前の最終リ
ハーサル)稽古手当は拘束時間と無関係に1回当たりの定額、音楽稽古
/立ち稽古の稽古手当は1コマないし10コマが一律5万円と定められ
ており、拘束時間との対応性は強くなかった。2001/2002シー
ズンからは報酬が本番出演料に一本化され、拘束時間との関係性は絶た
れた。報酬全体として労務対価性を肯定することはできない。
(被告)
アaは、契約メンバーであった当時、財団と契約を締結して公演等にお
いて歌唱技能を提供し、財団の決定及び計算による報酬を受けており、
自己の計算において事業を営んでいたとはいえないから、その労組法上
の労働者性は明らかである。
イもっとも、本件は、aが労組法の労働者であることに加え、さらに財
団との関係でも労組法により保護されるべき労働者といえるか、即ち、
aと財団との間に労組法上の保護を及ぼすべき関係があり、財団が労組
法上又は不当労働行為制度上の使用者であるかが検討されなければなら
ない。その判断のためには、契約内容を形式的にみるだけではなく、当
時のaと財団との関係にみられる諸種の事実を多面的に取り上げて総合
的な判断を行う必要がある。
aら契約メンバーは、財団による個別公演出演の発注に対して諾否の
自由が制約されており、特段の事情がない限り当然に応諾するものとみ
なされて、財団による個別公演に不可欠の人員とされ、財団が一方的に
指定した契約内容に基づいて、年間を通じて財団の指揮監督の下、演目
のほか公演や稽古の日時場所等についても財団の指示に従って歌唱技能
を提供し、その役務の対価としての報酬を受けていたものと認められる
から、aと財団との間には労働契約ないしこれに類する関係があり、a
は財団との関係でも団体交渉により保護されるべき労働者である反面、
財団は労組法上の使用者たる地位を有するものと認められる。
ウ契約メンバーは、財団が一方的に指定した契約内容に基づいて、年間
を通じて財団の指揮監督の下、歌唱技能を提供し、その対価として報酬
を受け、これを主な収入源として生計を維持していたのであって、この
ような実態に照らせば、契約メンバーが財団との団体交渉すら許されな
いとの結論は余りに不当である。
(ユニオン)
労組法3条は、労働基準法9条とは異なり、労働者の定義に「使用され
る者」という文言を用いていない。労組法上の労働者についても、講学上
は使用従属関係にある者をいうとされているが「賃金、給料その他これに、
準ずる収入によつて生活する者」である点が重要な指標である。したがっ
て、労組法上の労働者性は、使用従属関係を基本としながらも、団体交渉
の保護を及ぼす必要性と適切性が認められる場合には肯定される。その判
断基準は、①仕事の依頼についての諾否の自由、②業務上の指揮命令関係
及び場所的・時間的拘束性、③報酬の労務対償性の3つである。aと財団
との間には、基本契約の締結により、以下のとおり、労働契約ないしこれ
に類似する関係があるから、aは財団との関係でも団体交渉により保護さ
れるべき労働者である。
ア仕事の依頼についての諾否の自由
契約メンバーは、年間公演スケジュールを示されて、これに出演可能
であることが条件とされて基本契約を締結し、基本契約により、当該シ
ーズンにおいて財団が主催又は共催する公演等において出演業務を遂行
すべき義務を負っていた。契約メンバーは、財団が興行として実施する
個別公演に不可欠の人員とされており、個別公演出演の発注に対して当
然に応諾するものとみなされ、個別公演の出演をしない場合には、基本
契約の再締結がされず、ただ、子育て等やむを得ない事情によるときは
個別公演出演契約を締結しなくても、それだけで契約違反としないとい
う取扱いがされていたに過ぎない。基本契約には、虚偽の事実を告げた
場合の契約解除や損害賠償に関する条項が新設されるなど、個別公演出
演の義務は強化されている。実際にも、契約メンバーが個別公演に出演
しなかった割合は著しく低い。
イ業務上の指揮命令関係及び場所的・時間的拘束性
年間の個別公演の件数、演目、各公演の日程と日数、これに要する稽
古の日数やその時間割、その演目の合唱団の構成、合唱団員がいかなる
態様で歌唱技能を提供するかは、財団がその判断に基づいて一方的に決
定し、契約メンバーは、その決定に従って、公演及び稽古に参加する義
務を負い、指揮者や音楽監督の演出に従って歌唱技能を提供するという
関係にあった。契約メンバーは、公演と稽古を合わせると、年間230
日前後も新国立劇場に出勤していた。このように契約メンバーは財団か
らの指揮命令を受けている以上、公演と稽古以外の時間に、他の公演に
出演したり、個人的に生徒をとって教えたりしていても、その労働者性
が失われるものではない。
ウ報酬の労務対償性
契約メンバーは、出演した公演の時間及び稽古に参加した時間・実績
に応じて報酬が計算され、稽古が超過した場合には超過手当が支払われ
ていたから、労務の提供に対する報酬を受けていたといえる。
()本件団交申入れに応じないとした財団の対応は不当労働行為か(争点2
())2
(財団)
aは労組法上の労働者ではなく、財団も団体交渉応諾義務を負う労組法
上の使用者に当たらないから、本件団交申入れに対する財団の対応は、労
組法7条2号の不当労働行為に当たらない。
仮に、aが労組法上の労働者であり、財団が労組法上の使用者であると
しても、既に試聴会が実施されてaの不合格は決定し、次期シーズンの処
遇は確定しており、財団としては、ユニオンとの交渉により契約の締結や
役務提供の条件等を改めて決定する余地はないから、aの次期シーズンの
契約に関する本件団交申入れに応じる義務はない。
本件の救済命令は、本件団交申入れにかかる事項に、試聴会の在り方、
審査方法や合否判定等の契約締結のための手続事項を含みうるとして、こ
れが義務的団交事項であるとするが「aの次期シーズンの契約について」、
との文言から到底そのような趣旨を読み取ることはできない。
(被告)
財団は、aとの関係で、労組法上の使用者たる地位を有するものと認め
られるから、aが構成員たる労働組合であるユニオンが義務的団交事項を
議題とする団体交渉を申し入れた場合には、合理的な理由がない限りこれ
を拒否することができない。
aとの間で次期シーズン(2003/2004シーズン)の契約が締結
されなかったこと自体は不当労働行為とは認められない本件の具体的事情
及び次期契約締結の当否は試聴会の合否にかかっているという財団独自の
制度の下では、既に実施済みの試聴会の結果を受けたaの次期シーズン契
約の不締結は確定的事項であって団体交渉の結果により変更すべきもので
はないから、当該事項は義務的団交事項ではないが、当時の財団とユニオ
ンの協議状況等を勘案すると、本件団交申入れは、試聴会の実施方法、す
なわち審査方法や合否判定の手法等、労働者たるaの処遇ないし契約条件
に関わる多岐の事項を含むものと解釈できるところ、これらについては財
団が団交応諾義務を負うから、本件団交申入れに対し、aが雇用関係にな
いとの理由で財団が行った団体交渉拒否は、不当労働行為に当たる。
(ユニオン)
aの労組法上の労働者性は明らかであり、これを否定し団体交渉を拒否
することは正当の理由のない団体交渉拒否である。
財団は、ユニオンから本件団交申入れの際に説明を受け、aの今後の処
遇を含めた解決条件が交渉のテーマになること、従前から協議していた試
聴会の在り方や審査方法も交渉の内容になることを認識していたから、本
件団交申入れについて応諾義務を負う。また、aの試聴会不合格は不利益
取扱いであったから、財団は、本件不合格措置の撤回と次期シーズンの契
約自体についても団交応諾義務はあった。
()本件不合格措置は不利益取扱いに該当するか(争点())33
(ユニオン)
財団は、基本契約について、更新しがたい特別な理由があると認められ
る場合以外は当然に更新する方針を採っている。aについて更新しがたい
特別な理由はなかった。
財団は、試聴会の結果aを不合格としたが、その審査方法は、審査項目
。も基準もなく、2人の審査員の感性に任せた著しく不合理なものであった
aは、ユニオンの会員として積極的に組合活動を行い、オペラ合唱団員の
処遇上の問題点、新国立劇場合唱団への批判、とりわけ試聴会の問題点を
指摘していた。財団の合唱指揮者の発言から、財団がユニオンを嫌悪し、
その会員の排除を意図していたことは明らかである。
aは、二期会時代から約20年間オペラ合唱団員として、50作品以上
のオペラに出演し、新国立劇場合唱団においても3シーズンにわたりパー
トリーダーを務め、推薦を受けてウィーン国立劇場へ留学するなど、オペ
ラ合唱団員としての演奏能力は十分で、試聴会で不合格とされるようなも
のではなかった。aを試聴会で不合格とし、2003/2004シーズン
の基本契約を締結しなかった財団の行為は、恣意的で不当な目的によりa
を排除した結果であり、aがユニオンの会員であることを理由とする不利
益取扱いである。
(被告)
契約書の文言、試聴会の実施状況と契約締結の実態に照らしても、基本
契約は試聴会の審査結果を踏まえてシーズンごとに再締結が繰り返されて
いたものであり、更新が原則であったとの事実は認められない。
試聴会は、審査員の主観による判断を広く認め、審査方法の統一はされ
ていなかったが、審査結果自体に明らかな矛盾はなく、本件不合格措置が
。審査員の恣意によりユニオンを排除する目的で行われたとも認められない
(財団)
仮に、aが労組法上の労働者であるとしても、本件不合格措置は不当労
働行為に当たらない。基本契約は、シーズン毎の試聴会による厳格な技能
審査に合格した場合に締結されるものであって、更新が予定されているも
のではない。財団は契約メンバーとなった者を定期的に総入替えすること
も考えていないが、終身的に固定化することも考えていない。財団が、舞
台芸術の発展・振興に寄与するというその設置理念の実現のため、試聴会
による審査システムを採用したこと、その審査方法及び審査基準について
審査員の芸術家としての感性に任せることにはいずれも合理性がある。2
003/2004シーズンの試聴会における審査員2人のaに対する評価
結果は、いずれも明らかな不合格レベルではないが、相対的な評価の中で
契約メンバーに残るだけのものを備えていないというものであり、齟齬は
なかった。aがユニオンの会員であることを理由とする不合格措置ではな
い。
第3争点に対する判断
1争点()(aは労組法上の労働者であるか)について1
()前提事実に証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、財団と契約メンバーと1
の契約締結の経緯及び内容、契約メンバーの出演の実態等について、以下
の事実が認められる(証拠が記載されている事実は、当該証拠により認め。
られるものである。記載がない事実は、当事者間に争いがない)。
ア財団は、平成9年2月の新国立劇場建設に伴い、同年4月、1998
、/1999シーズンの新国立劇場合唱団のメンバーを募集し、同年7月
オーディションを実施した。メンバーの応募資格は、平成10年4月か
ら平成11年6月までの間に主催される各オペラ公演及びその稽古に参
加できることであった。オーディションの結果、契約メンバーと登録メ
ンバー(契約メンバーの方が合格水準が高い)が選抜された。。
財団は、契約メンバーと、平成10年3月から平成11年6月までの
期間(1998/1999シーズン、財団が主催又は共催する公演ごと)
に、稽古日程と公演日程が添付された「出演契約書」により、個別の出
演契約を締結した。
この出演契約書においては、①契約者は、新国立劇場合唱団契約メン
バーとして公演に出演し、リハーサル等に参加すること、②報酬は、本
番出演は単価及び回数に基づき、稽古は単価やコマ数等に基づき支払う
こと、3時間を超えて稽古に参加した場合には、超過時間に応じた超過
出演料が加算されること、稽古等に欠席・遅刻・早退した場合には、報
酬が減額されること、③本契約に基づく出演業務の遂行に支障がない限
り、本件公演以外の音楽活動をすることを妨げないことなどが定められ
ていた(乙61)。
、イ財団は、平成11年8月以降(1999/2000シーズン以降)は
毎年、シーズンの開始前に審査会又は試聴会(以下「試聴会」という)。
を実施してメンバーの選抜を行った。試聴会は、次期シーズンの契約を
希望する前シーズンの新国立劇場合唱団員と公募による参加者とを対象
にして、新国立劇場のオペラ芸術監督や合唱指揮者らがオペラ・アリア
等の歌唱技能を審査するものである。財団は、試聴会等の結果により、
契約メンバー合格者及び登録メンバー合格者を選抜した。
契約メンバーは、原則として年間シーズン(8月から翌年7月まで)
のすべての公演(ただし、財団がシーズン開始前に予め出演を指定しな
いものがある。例えば、男声合唱だけの演目には、女性団員は出演しな
いし、他の合唱団が出演する演目もある(甲5ないし8)に出演可能)。
である者である。登録メンバーは、財団がその都度指定する公演に出演
が可能である者であり、契約メンバーだけでは合唱団のメンバーが足り
ない場合等に、合唱団に加わることになる。
財団は、契約メンバー合格者に対して、期間を1年間とする契約メン
バー出演基本契約の締結を申し出て、面談の上、基本契約を締結し、そ
の上で、個別の公演ごとに個別公演出演契約を締結していた。登録メン
バー合格者、あるいは契約メンバー合格者のうち、本人の希望又は面談
の結果登録メンバーとなることになった者は、登録メンバーとして、財
団との間で各公演ごとに個別の出演契約を締結した(乙38)。
契約メンバーは、毎年、40名程度であり、メンバーは毎年入替りが
、ある。財団が主催するオペラ公演は、年間10ないし12の演目があり
1演目について2ないし8回の公演(5、6回が多い)が行われていた。
(甲5ないし8。)
ウ上記のとおり、財団と契約メンバーとの間で、平成11年8月以降、
毎年、期間を1年間(8月から翌年7月まで)とする基本契約が締結さ
れた。その契約条項は、各メンバーにより出演対象となる個別公演が異
なるほかは、すべての契約メンバーに共通である。
初めて締結された1999/2000シーズン(平成11年8月から
平成12年7月まで)の基本契約の主な内容は、次のとおりである(甲。
5、乙63)
(ア)財団は、契約メンバーに対し、財団が主催するオペラ公演に、19
、99/2000シーズンの契約メンバーとして出演することを依頼し
契約メンバーはこれを承諾する。
(イ)契約メンバーが出演する公演は、契約書の別紙「出演公演一覧」に
掲げる公演(個別公演)とする(出演公演一覧には、年間シーズンの。
公演名、公演時期、公演回数及び当該メンバーの出演の有無等が記載
されている。この記載は、各契約メンバーごとに異なる)。
(ウ)契約メンバーは、合唱メンバーとして個別公演に出演し、必要な稽
古等に参加し、その他個別公演に伴う業務で財団と合意する業務を行
う。
(エ)契約メンバーが個別公演に出演するに当たり、財団と契約メンバー
は、契約メンバーの個別公演への出演を確定し、当該個別公演の出演
業務の内容及び出演条件等を定めるため、原則として当該個別公演の
稽古が開始される月の前々月末日までに「個別公演出演契約」を締結、
する。個別公演出演契約に記載されない事項については、この契約に
従うものとする。
(オ)財団は、契約メンバーに対し、出演業務の遂行に対する報酬を、個
別公演出演契約締結のうえ、個別公演ごとに支払う。報酬は、報酬等
一覧に掲げる単価等に基づいて算定する。
添付されている報酬等一覧によれば、報酬には、本番出演料(1回
当たりの金額が定められている、GPその他各稽古の手当(GPは。)
1回当たりの金額、その他の稽古は1単位当たりの金額が定められて
いる、超過時間により区分された超過稽古手当(時間当たりの金額。)
が定められている)があり、稽古に欠席・遅刻・早退した場合の減額。
の扱い、財団の一方的な理由により契約メンバーを降り番とする場合
の降り番手当等も定められている。基本契約を締結しただけでは、報
酬は支払われない。
(カ)個別公演出演契約を締結した後、病気等契約メンバーの事情により
当該個別公演に出演できなくなった場合において、降板にやむを得な
い理由があると財団が判断したときは、財団は、(オ)に従って算定され
。た降板時までの履行相当分の報酬を契約メンバーに支払うものとする
いずれかの当事者が、地震等の法律上の不可抗力又はやむを得ない理
由以外の理由によりこの契約又は個別公演出演契約を履行しなかった
場合には、他方の当事者は、何ら催告を要しないで、直ちに基本契約
又は個別公演出演契約を解除する権利を有する。履行しなかった当事
者は、他方に生じた損害額を賠償する。
(キ)財団は、次のシーズンにおいても再び契約メンバーと基本契約を再
、締結する意思がある場合には、シーズン期間満了日の3か月前までに
当該契約メンバーにその旨を通知し、その意思を確認する。
基本契約の条項には、財団が契約メンバーに対して個別公演出演契約
、の締結を申し出た場合には、その締結を義務づける旨を明示する規定や
契約メンバーが財団以外が主催する公演に出演したり、個人公演を開い
たり、生徒に個人レッスンしたりすること等の音楽活動を禁止、制限す
る規定はなかった。
上記(エ)に基づき締結される個別公演出演契約には、出演を確定する個
、別公演の公演日程、個別公演出演契約書において定める特記事項を除き
個別公演の出演業務の内容及び出演条件はすべて基本契約書のとおりと
すること等が規定された。
エその後も、毎年、期間を1年とする基本契約が締結された。その内容
は、毎年、若干の変更がある。
(ア)2000/2001シーズン(平成12年8月から平成13年7月
まで)
1999/2000年の基本契約に、契約メンバーが基本契約若し
くは個別公演出演契約の締結又は履行に関し、財団に対して虚偽の申
告若しくは届出を行った場合又は真実の申告若しくは届出を行わなか
った場合にも、財団は基本契約又は個別公演出演契約を解除すること
ができるという条項が追加された。
他は、1999/2000年の基本契約と同様である(甲6)。
(イ)2001/2002シーズン(平成13年8月から平成14年7月
まで)
2000/2001の基本契約に、契約メンバーは、財団が再契約
に先立ち、試聴会を行うこと、契約メンバーの技能について審査のう
え契約メンバーに対する再契約の申出をするか否かを決定する手続を
行うことに異議を述べないことを定めた条項が追加された。
また、報酬は、従前、基本報酬として本番出演料と各種稽古手当が
定められていたが、このシーズンから、基本報酬は本番出演料だけと
なり、降り番手当が廃止された。超過稽古手当及び稽古等を欠席・遅
刻・早退した場合の取扱いについては従前のとおりであった。
他は、2000/2001の基本契約と同様である(甲7)。
(ウ)2002/2003シーズン(平成14年8月から平成15年7月
まで)
2001/2002の基本契約で追加された条項が、財団が、再契
約に先立ち試聴会を行い、契約メンバーの技能について審査のうえ再
契約の申出をするか否かを決定すると改められた。
他は、2001/2002の基本契約と同様である(甲8)。
オ実際の運用では、契約メンバーが、そのシーズンの個別公演のうちい
くつかの出演を辞退し、個別公演出演契約を締結しないことがあった。
1999/2000シーズンから2005/2006シーズンまでの
7シーズンの間では、個別公演出演を辞退した契約メンバーは、のべ2
5名であり、その辞退演目数は39であった。出産育児以外の理由で個
別公演を辞退した人数は、1999/2000シーズンは、5名(うち
2名は他公演出演のため、1名は他団体試験のため、2名は理由不明。
なお、理由不明のうち1名は3演目を辞退した、2000/2001。)
シーズンは4名(うち1名は他公演出演のため、1名(a)は在外研修
のため、1名は短期留学のため、1名は理由不明、2001/200。)
2シーズンは7名(うち3名は他公演出演のため、1名は留学準備のた
め、3名は理由不明、2003/2004シーズンは1名(他公演出。)
演のため、2004/2005シーズンは2名(いずれも他公演出演の)
ため)であった。
契約メンバー本人に特段の希望がある場合や試聴会不合格の場合を除
き、個別公演の出演を辞退した契約メンバーに対しても、翌シーズンも
契約メンバー基本契約の締結の申出はされており、再契約において特に
不利な取扱いがされたことはなかった。財団から、個別公演の出演を辞
退したことを理由として制裁が課されたこともなかった(契約メンバー。
が個別公演を辞退した例、その理由等の詳細は、別紙のとおりである)。
(甲12、16ないし18(いずれも枝番を含む、23、24)。)
カ契約メンバーとして合格した者は、契約締結のための面談をする際、
財団から、全公演出演のために可能な限りの調整をすることを要望され
た。もっとも、契約メンバーとして基本契約を締結するに当たって、出
演公演一覧の全公演に確定的に出演できる旨の申告や届出が要求される
ことはなかった。1、2の演目には出演することができないという者で
も、財団の意向によって契約メンバーとなる者がいた。他方、契約メン
バーに合格しても、本人の希望により登録メンバーになる者や、出演で
きる公演が限られることから財団の申出により登録メンバーとなる者も
いた。
契約メンバーは、他の公演に出演することや、生徒に個人レッスンを
行うことなどを財団に対して報告することは求められていなかった(乙。
107の1、108の1、132の2)
キaは、平成10年3月以降、1998/1999シーズンから200
2/2003シーズンまで、契約メンバーとなり、1999/2000
年シーズン以降は、毎年、基本契約を締結した上、各公演ごとに個別公
演出演契約を締結し、公演に出演していた。公演の本番出演や稽古参加
のため、新国立劇場に行った日は、2002/2003シーズンでは、
約230日であった。もっとも、新国立劇場における拘束時間は、数時
間の日もあった。aは、この間、個人でリサイタルを開いたり、生徒に
個人レッスンをするなどの音楽活動も行っていた。平成13年1月から
、同年3月まで文化庁在外派遣研修員としてウィーンに派遣され、その間
予定されていた公演の出演を辞退したが、翌シーズンも契約メンバーと
して基本契約を締結した(乙92、104の2)。
()以上の事実を前提として、aが財団と契約メンバーの基本契約を締結し2
たことによって、aは労組法上の労働者といえるかどうかについて、検討
する。
最初に、基本契約を締結した場合、同契約に基づく労務ないし業務の提
供に関して諾否の自由がないのかどうかを、検討する。
ア前提事実()、前記()イ、ウのとおり、契約メンバーは、1999/31
2000シーズン以後、シーズン毎に出演予定の演目と時期を示した出
演公演一覧が添付された基本契約を締結した上、個別公演出演契約を締
結して、個別の公演に出演しているのであり、契約メンバーの提供する
労務ないし業務は、個別公演への出演及びその稽古参加であることは明
らかである。そこで、諾否の自由があったか否かは、契約メンバーにお
いて個別公演への出演を辞退することができたかどうか、個別公演出演
契約の締結を辞退することができたかどうかによって判断することにな
る。
イ契約メンバーは、原則として年間シーズン(8月から翌年7月まで)
のすべての公演(ただし、財団がシーズン開始前に予め指定するもの)
に出演可能である者である(前提事実()、前記()イ。基本契約上も、31)
財団は契約メンバーに対して主催するオペラ公演に出演することを依頼
し契約メンバーはこれを承諾する旨の規定があり、契約書には出演公演
一覧が添付され、当該契約メンバーの出演予定の演目と時期が示される
(前記()ウ(ア)ないし(ウ))など、契約メンバーは、原則として、全公演1
に出演することが予定、期待されているのは事実である。
しかしながら、契約メンバーは、公演に出演する場合には、基本契約
だけでなく、必ず個別公演出演契約を締結している。基本契約上、契約
メンバーが個別公演に出演するについては、個別公演の出演を確定し、
その出演業務の内容及び出演条件等を定めるため、個別公演出演契約を
締結するものとされている(前記()ウ(イ)、(エ)。基本契約には、契約1)
メンバーに対して個別公演出演契約の申出があった場合にはこれを承諾
しなければならない旨の規定は存在しない。したがって、契約の形式上
、は、基本契約だけでは契約メンバーは個別の公演に出演する義務はなく
個別公演出演契約を締結することにより個別の公演に出演する義務が生
じる仕組みになっていることは明らかである。
基本契約の実質的な内容や運用をみると、契約メンバーが財団が主催
する以外の公演に出演することなど他の音楽活動を行うことは自由であ
り、現実に契約メンバーは他の公演に出演等をしている(前記()ウ、1
オ。基本契約の締結に際しても、出演公演一覧の全公演に確定的に出演)
できる旨の申告や届出も要求されていなかった(前記()カ。個別公演1)
に出演できる回数が少ない場合には、契約メンバーとなるのが困難では
あるが、予め全公演に出演ができないことを明示している者でも、財団
は、その意向によって契約メンバーにすることがあり(前記()カ、契1)
約メンバーと基本契約を締結することは、一定の水準以上の合唱団員の
確保を目的としたものであることが窺える。基本契約を締結した契約メ
、ンバーが個別公演の出演を辞退する例が多いシーズンには7名あったり
出産育児以外の理由により1シーズンに3演目を辞退した者もあるが、
その際にも、申告や届出は要求されず、個別公演の出演を辞退したこと
を理由に制裁を受けた例はなく、翌シーズンの契約について特に不利な
取扱いをされた者もなかった(前記()オ。なお、契約メンバー及び公1)
演の回数からみると、契約メンバーが個別公演の出演を辞退する例はか
なり少ないといえるが、財団が主催するような水準のオペラ等の公演が
常時多数行われているとは考えられないから、契約メンバーが財団主催
の個別公演の出演を辞退することは、もとより少ないと推測されるので
あって、個別公演出演の辞退がかなり少ないことをもって、実際上は辞
退ができないに等しいということはできない。
以上のような基本契約と個別公演出演契約の仕組みや、契約メンバー
の個別公演出演等の実態に照らせば、基本契約は、財団が、契約メンバ
ーに対して、そのシーズンの出演公演一覧の公演について、個別公演出
演契約締結の申込みをすることを予告するとともに、個別公演出演契約
に共通する契約内容を予め定め、これを契約メンバーに了解させておく
ことを目的とするものであり、契約メンバーにとっても、個別公演に出
演する機会が保障されるところに基本契約の意義があると認められる。
基本契約の締結によって、契約メンバーは、個別公演出演を予定し、ス
ケジュールを調整することになり、財団は、契約メンバーの出演を確保
することが予定、期待できることになる。しかし、このように契約メン
バーが個別公演に出演することが予定、期待されることは、事実上のも
、のというべきであり、契約メンバーにとって、個別公演に出演すること
すなわち個別公演出演契約を締結することが、法的な義務となっていた
とまでは認められない。
ウ以上に対し、ユニオンは、基本契約の「この契約又は個別公演出演契
、約を履行しなかった場合には、他方の当事者は、何ら催告を要しないで
直ちに基本契約又は個別公演出演契約を解除する権利を有する。履行し
なかった当事者は、他方に生じた損害額を賠償する」という規定(前記。
()ウ(カ))の「この契約(基本契約)の履行」の内容として最も重要な1
ものが個別公演出演契約の締結であり、基本契約上、個別公演出演契約
の締結が義務となっていると主張する。
しかし、上記の「契約を履行しなった場合」が何を意味するのかは必
ずしも明らかでないし、現に個別公演出演契約の締結をしなかったこと
を理由に、基本契約を解除され、又は損害賠償を求められた者があった
と認めることはできず、ユニオンの主張は採用できない。なお、200
0/2001シーズン以降の基本契約では、契約メンバーが契約締結、
履行に際し虚偽の申告等を行った場合等にも契約の解除ができる旨の条
項が加えられた(前記()エ(ア))が、これによって個別公演出演が法的1
義務となるといえるものではない。
また、ユニオンは、契約メンバーが公演を辞退する場合に降板願いを
出している事実がある(丙10により認められる)ことから、基本契約。
で指定された個別公演への出演が義務付けられていると主張する。
しかし、基本契約上、稽古等への欠席届と異なり、個別公演を辞退す
る場合についての手続を定めた規定はなく、現に個別公演を辞退しよう
とする契約メンバーが常に降板願い等を提出していた事実や届出を財団
から求められた事実は認められず、ユニオンの主張は採用できない。降
板願いが作成された例については、基本契約により個別公演の出演を期
待されている契約メンバーにおいて出演ができなくなるのであれば、財
団がその代わりの出演者を確保するために、一刻も早く出演不出演を確
定したいという財団の事実上の要求に沿ったものであると認められる
(乙107の1、108の2)が、基本契約の締結と個別公演出演契約
の締結との関係について、前記イの判断を左右するものではない。
さらに、ユニオンは、個別公演出演契約において実質的に定めるべき
ことはなく、実際に、個別公演出演契約の締結が個別公演の稽古が開始
された後になった例や公演の直前に結んだ例があったから、基本契約で
すべて合意されており、個別公演出演契約の締結は、基本契約での合意
を確認する意味しかないと主張する。
しかし、個別公演出演契約の契約書面の作成が、個別公演の稽古が開
始された後になった例があったからといって、基本契約とは別個の個別
公演出演契約という合意がされていないという理由にはならず、ユニオ
ンの主張を採用することはできない。
エ以上のとおり、契約メンバーは財団と基本契約を締結しただけでは、
個別公演に出演する法的な義務はなく、個別公演出演契約を締結する法
的な義務はないというべきであるから、契約メンバーには、基本契約締
結により労務ないし業務を提供することについて諾否の自由がないとは
認められない。
、()次に、基本契約を締結することにより、契約メンバーは業務遂行の日時3
。場所、方法等の指揮監督を受けることになるのかどうかについて検討する
前記()イ、ウ及び証拠(甲5ないし8、乙51、104の2、108の1
1、丙1ないし8)によれば、財団は、シーズン前の9月ないし10月に
新国立劇場における公演日程を決定し、各個別公演の稽古等の確定した日
程については、その稽古の行われる月の前々月の月末までに決定し、提示
していたこと、歌唱技能の提供の方法や提供すべき歌唱の内容について指
揮者、音楽監督の指揮があったこと、基本契約上、稽古に欠席、遅刻等を
すれば報酬が減額されることが規定されており、実際にも、契約メンバー
が遅刻、早退、欠席等の稽古への参加状況について一定の監督を受けてい
たことが認められる。
しかし、契約メンバーは個別公演に出演しない限り、上記のような指揮
監督を現実に受けることはないから、上記指揮監督関係は、個別公演出演
契約を締結して初めて生ずるものである。前記()のとおり、個別公演出演2
契約の締結は基本契約に基づく義務であるとは認められないから、基本契
約だけでは契約メンバーは上記のような指揮監督を受けることはない。
この点を措くとしても、証拠(甲14、乙108の1)によれば、個別
公演ごとに出演契約を締結する外部芸術家についても、公演及び稽古の時
間的場所的拘束が契約メンバーと同じようにあったことが認められ、外部
芸術家の場合にも、歌唱技能の提供の方法や提供すべき歌唱の内容につい
て指揮者、音楽監督の指揮があったこと、リハーサルへの参加状況に応じ
た契約金の減額あるいは契約の解除が契約上も定められており、不参加に
ついて一定の監督がされていたことは同様と認められる。そうであれば、
契約メンバーが、業務遂行の日時、場所、方法等について指揮監督を受け
ていることは、オペラ公演が多人数の演奏、歌唱及び演舞等により構築さ
れる集団的舞台芸術であることから生じるものと解されるから、契約メン
バーが上記のような指揮監督を受けることが、契約メンバーが労組法上の
労働者であることを肯定する理由とはならないというべきである。
()契約メンバーの報酬についてみると、前記()ウ(オ)のとおり、報酬は個41
別公演に出演し、稽古に参加した場合に支払われるものである。個別公演
出演契約を締結することが報酬支払の前提となっていて、基本契約を締結
しただけでは、報酬が支払われることはない。
他方、契約メンバーの労務ないし業務である個別公演出演をみると、前
記()イ及びウのとおり、シーズンの開始前に翌シーズンの公演日程が決定1
され、基本契約締結に当たっては、当該契約メンバーが出演する予定の公
演の時期、回数も決定されている。契約メンバーは、基本契約締結の際に
決定された公演以外の公演に随時出演を求められるようなことはない。
以上のように、契約メンバーは、基本契約を締結しただけでは報酬が支
払われることはなく、他方で、出演することが予定されている公演は予め
決まっていて、予定された公演以外に随時出演を求められることはないの
である。このような契約メンバーの置かれた地位は、例えば、基本契約を
締結した場合には、出演の有無にかかわらず毎月一定の報酬が支払われる
が、他方で、出演の予定が予め決定しておらず、たとえ事実上の義務であ
ったとしても、いつでも出演を求められる可能性が継続しているような場
。合と比較すると、指揮命令、支配監督関係は相当に希薄というべきである
()基本契約の内容については、財団が一方的に決定していた(前記()イ、51
ウ。しかし、契約の内容が一方当事者が決定することは、労働契約に特有)
のことではなく、これが直ちに法的な指揮命令関係の有無に関係するもの
ではないから、契約メンバーが労働者であることを肯定する理由とはなら
ない。
aは公演と稽古を合わせると年間約230日の時間的拘束を受けていた
(前記()キ)が、この点も、法的な指揮命令関係の有無と関係するもので1
はないから、拘束日時の多寡や長短は労組法上の労働者性の判断基準とは
ならない。
なお、被告は、契約メンバーは財団の公演に出演することを収入源とし
て生計を維持していたのであるから、契約メンバーが財団との団体交渉す
ら許されないとの結論は余りに不当であると主張するが、労組法上の労働
者であるかどうかは、法的な指揮命令、支配監督関係の有無により判断す
べきものであり、経済的弱者であるか否かによって決まるものではないか
ら、被告の主張は採用できない。
()以上の検討のとおり、契約メンバーは基本契約を締結するだけでは個別6
公演出演義務を負っていない上、個別公演出演契約を締結しない限り、個
別公演業務遂行の日時、場所、方法等の指揮監督は及ばず、基本契約を締
結しただけでは報酬の支払はなく、予定された公演以外の出演を事実上で
。あっても求められることはないなど指揮命令、支配監督関係は希薄である
したがって、契約メンバーが財団との間で基本契約を締結したことによっ
て、労務ないし業務の処分について財団から指揮命令、支配監督を受ける
関係になっているとは認めらず、aは労組法上の労働者に当たるというこ
とはできない。
2争点()(本件団交申入れに応じないとした財団の対応は不当労働行為か)2
について
上記1のとおり、aは労組法上の労働者と認められないから、ユニオンの
財団に対する本件団交申入れは、その趣旨としてaの将来の処遇等その労働
条件の改善等を含むものであったか否かにかかわらず、義務的団交事項につ
いて団体交渉を求めるものではない。したがって、その余の点について検討
するまでもなく、本件団交申入れに対する財団の対応が不当労働行為に当た
るとして財団に対して団交応諾及び文書交付等を命じた救済命令は、違法で
ある。
3争点()(本件不合格措置は不利益取扱いに該当するか)について3
上記1のとおり、aは労組法上の労働者と認められないから、本件不合格
措置について、不当労働行為であると解する余地はない。したがって、本件
不合格措置は不当労働行為に当たらないとして、ユニオンの救済申立てを棄
却した労働委員会の判断は、その結論において正当であるから、その取消し
を求めるユニオンの請求は理由がない。
第4結論
以上のとおりであるから、中央労働委員会が中労委平成17年(不再)第
41号事件、同第42号事件について平成18年6月7日付けでした再審査
申立棄却命令のうち、財団の再審査申立てを棄却した部分(本件初審命令の
うち財団に対して団交応諾及び文書交付等を命じた部分の取消しと救済申立
ての棄却を求めた再審査申立てを棄却した部分。中労委平成17年(不再)
第42号事件についての命令)を取り消し、ユニオンの再審査申立てを棄却
した部分(本件初審命令のうち救済申立てを棄却した部分の取消しと救済命
令を求めた再審査申立てを棄却した部分。中労委平成17年(不再)第41
号事件についての命令)にかかる請求は棄却することとし、主文のとおり判
決する。
東京地方裁判所民事第19部
裁判長裁判官中西茂
裁判官松本真
裁判官遠藤貴子

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