弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人らの請求に関する部分を破棄し、右部分についての被上
告人の控訴を棄却する。
     前項の部分に係る控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人芝原明夫、同水田利裕、同金高好伸の上告理由第三及び第四について
 一 本件は、D観光株式会社の経営するゴルフ場「Eカントリークラブ」(現在
の名称は「B」。以下「本件ゴルフ場」という。)の会員たる地位を取得した上告
人ら(ただし、上告人Aについては、その被承継人である亡Fのことをいう。以下
同様とする。)が、本件ゴルフ場の営業を譲り受け会員に対する権利義務を承継し
た被上告人に対し、本件ゴルフ場の会員資格を有することの確認を求める事案であ
る。被上告人は、上告人らは、本件会員資格のうち預託金返還請求権及び会員権譲
渡権を有するが、本件ゴルフ場施設の優先的優待的利用権については、事情変更の
原則又は権利濫用の法理の適用により、これを有しないと主張している。
 二 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 D観光は、本件ゴルフ場の造成工事を完成させた上、昭和四八年七月二五日、
東コース・中コース・西コース(二七ホール)を有する本件ゴルフ場を開設した。
上告人らは、同社と会員契約を締結し、又は本件ゴルフ場の会員から同社の承認を
受けて会員権を譲り受けることにより、本件ゴルフ場の会員たる地位を取得した。
上告人らが同社に対して有していた会員としての権利の内容は、(一) 本件ゴルフ
場の開業日に非会員よりも優先的条件かつ優待的利用料金でゴルフコース及び付属
施設の一切を利用する権利、(二) 第一審判決添付会員権目録の「入会日」欄記載
の日から一〇年間の据え置き期間経過後に同目録の「入会金金額」欄記載の預託金
の返還を請求する権利、(三) 会員権を第三者に譲渡する権利である。
 2 株式会社Gは、昭和六二年九月二一日、D観光から本件ゴルフ場の営業を譲
り受け、同社の会員に対する権利義務を承継した。被上告人は、平成四年三月二日、
Gから同月三一日現在の本件ゴルフ場の営業を譲り受け、同社の会員に対する権利
義務を承継した。
 3 本件ゴルフ場は、谷筋を埋めた盛土に施工不良があること及び盛土の基礎地
盤と切土地盤に存在する強風化花こう岩のせん断強度が小さいことから、被圧地下
水のわき出しなどにより、のり面の崩壊が生じやすくなっており、開業以来度々の
り面の崩壊が発生していた。
  本件ゴルフ場は、平成二年五月に、同元年九月から閉鎖されていた中コースの
一部と営業中であった東コースの一部ののり面が崩壊し、応急措置としての修復は
されたものの、それ以前におけるのり面の崩壊状況とあいまって、営業が不可能に
なった。Gは、同二年五月末日にすべてのコースを閉鎖し、同年六月一日から本件
ゴルフ場の全面改良工事に着手した。兵庫県は、平成二年五月二二日から同三年六
月三日まで四回にわたり、本件ゴルフ場に対して防災処置をとるよう要請していた。
 4 本件改良工事の内容は、(一) 降雨時に上昇した地山の地下水が盛土内に侵
入してもこれを速やかに排除できる岩砕盛土、地下排水管、地表面排水の構造とす
ること、(二) せん断破壊に強い材料を盛土材料として使用し、全体構造としてす
べりに強い盛土体とし、土砂盛土内にせん断抵抗力の大きい岩砕盛土を盛土規模に
応じ複数箇所に設けること、(三) 旧盛土箇所の崩壊土砂及び軟弱土の排土と岩砕
盛土、地下排水管、地表面排水工、排水井等による修復工事を実施するというもの
であり、これらとともにクラブハウスの建築も含まれていた。本件改良工事にかか
った費用は、右クラブハウスの建築も含め、約一三〇億円である。
 5 上告人らは、既に預託している預託金以外には、多額の費用を要した本件改
良工事後の本件ゴルフ場を使用するための新たな預託金などの経済的負担を負うこ
とを拒否している。
 三 原審は、前記二の事実関係に加えて、さらに、(一) Gは、D観光から営業
を譲り受けた時点において、本件ゴルフ場について、のり面崩壊に対する防災処置
を施す必要が生じることを予見していなかったとはいえないが、本件改良工事のよ
うな大規模な防災処置を施す必要が生じることまでは予見しておらず、かつ予見不
可能であった、(二) 本件改良工事及びこれに要した費用一三〇億円は、本件ゴル
フ場ののり面崩壊に対する防災という観点からみて、必要最小限度のやむを得ない
ものであった、(三) D観光は、昭和六二年一一月の時点において既に営業実態の
ない会社になっており、その資産状態も明らかでなく、同社に対して本件改良工事
についての費用負担を求めることは事実上不可能である、と説示した上、右事実関
係及び前記二の事実関係を総合すると、上告人らに対し本件ゴルフ場の会員資格の
うち施設の優先的優待的利用権を当初の契約で取得した権利の内容であるとして認
めることは、信義衡平上著しく不当であって、事情変更の原則の適用により上告人
らは右優先的優待的利用権を有しないと解すべきであると判断し、上告人らの請求
を認容した第一審判決を取り消して、右請求を全部棄却した。
 四 しかしながら、上告人らの請求を棄却すべきものとした原審の判断は是認す
ることができない。その理由は、次のとおりである。
 1 上告人らとD観光の会員契約については、本件ゴルフ場ののり面の崩壊とこ
れに対し防災措置を講ずべき必要が生じたという契約締結後の事情の変更があった
ものということができる。
 2 しかし、事情変更の原則を適用するためには、契約締結後の事情の変更が、
当事者にとって予見することができず、かつ、当事者の責めに帰することのできな
い事由によって生じたものであることが必要であり、かつ、右の予見可能性や帰責
事由の存否は、契約上の地位の譲渡があった場合においても、契約締結当時の契約
当事者についてこれを判断すべきである。したがって、Gにとっての予見可能性に
ついて説示したのみで、契約締結当時の契約当事者であるD観光の予見可能性及び
帰責事由について何ら検討を加えることのないまま本件に事情変更の原則を適用す
べきものとした原審の判断は、既にこの点において、是認することができない。
 3 さらに進んで検討するのに、一般に、事情変更の原則の適用に関していえば、
自然の地形を変更しゴルフ場を造成するゴルフ場経営会社は、特段の事情のない限
り、ゴルフ場ののり面に崩壊が生じ得ることについて予見不可能であったとはいえ
ず、また、これについて帰責事由がなかったということもできない。けだし、自然
の地形に手を加えて建設されたかかる施設は、自然現象によるものであると人為的
原因によるものであるとを問わず、将来にわたり災害の生ずる可能性を否定するこ
とはできず、これらの危険に対して防災措置を講ずべき必要の生ずることも全く予
見し得ない事柄とはいえないからである。
  本件についてこれをみるのに、原審の適法に確定した前記二の事実関係によれ
ば、本件ゴルフ場は自然の地形を変更して造成されたものであり、D観光がこのこ
とを認識していたことは明らかであるところ、同社に右特段の事情が存在したこと
の主張立証もない本件においては、事情変更の原則の適用に当たっては、同社が本
件ゴルフ場におけるのり面の崩壊の発生について予見不可能であったとはいえず、
また、帰責事由がなかったということもできない。そうすると、本件改良工事及び
これに要した費用一三〇億円が必要最小限度のやむを得ないものであったか否か並
びにD観光に対して本件改良工事の費用負担を求めることが事実上不可能か否かに
ついて判断するまでもなく、事情変更の原則を本件に適用することはできないとい
わなければならない。
 4 また、前記二及び三の事実関係によっても上告人らの本件請求が権利の濫用
であるということはできず、他に被上告人らの権利濫用の主張を基礎付けるべき事
情の主張立証もない本件においては、右権利濫用の主張が失当であることも明らか
である。
 五 原判決には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は判決に影響を及
ぼすことが明らかであって、論旨は理由があり、その余の論旨につい判断するまで
もなく原判決中上告人らの請求に関する部分は破棄を免れない。そして、以上の説
示によれば、上告人らの請求を認容した第一審判決の結論は正当であるから、右部
分については被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    尾   崎   行   信
            裁判官    山   口       繁

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