弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
原判決中、保証債務不存在確認請求に関する部分を破棄し、第一審判決中、右部分
を取り消す。
上告人ら被承継人Dと被上告人との間の第一審判決別紙保証契約目録記載の連帯保
証契約に基づく保証債務が存在しないことを確認する。
訴訟の総費用は、これを四分し、その三を上告人らの負担とし、その余を被上告人
の負担とする。   
         理    由
 上告代理人矢野保郎の上告理由第一点について
 【要旨第一】債権者が、根抵当権の極度額を超える金額の被担保債権を請求債権
として当該根抵当権の実行としての不動産競売の申立てをし、競売開始決定がされ
て同決定正本が債務者に送達された場合、被担保債権の消滅時効中断の効力は、当
該極度額の範囲にとどまらず、請求債権として表示された当該被担保債権の全部に
ついて生じると解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は、正当として是
認することができ、右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は採
用することができない。
 同第二点について
 一 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
 1 上告人ら被承継人Dは、被上告人との間で、昭和五七年七月二三日、被上告
人とE運送有限会社(以下「E運送」という。)との間の同五九年六月三〇日まで
の相互銀行取引により生ずるE運送の被上告人に対する債務について、極度額を五
〇〇万円として連帯保証する旨の契約を締結した(以下、右契約に基づくDの被上
告人に対する保証債務を「本件連帯保証債務」という。)。
 2 Dは、被上告人との間で、昭和五八年五月二七日、D所有の川崎市a区b字
cd番e宅地一一五・五五平方メートル外一筆(以下「本件土地」という。)につ
いて、極度額を一五〇〇万円、債権の範囲を相互銀行取引、手形債権、小切手債権、
債務者をE運送とする根抵当権設定契約を締結し、その旨の根抵当権設定登記を経
由した(以下、右契約により設定された根抵当権を「本件根抵当権」という。)。
 3 被上告人は、E運送に対し、昭和五九年四月二八日、証書貸付の方法により、
三三〇〇万円を貸し付けた。
 4 E運送は、昭和六一年四月五日、東京手形交換所において取引停止処分を受
け、右3の貸金債権(以下「本件貸金債権」という。)について期限の利益を喪失
した。
 5 E運送は、昭和六一年六月九日、破産宣告を受け、本件根抵当権の担保すべ
き元本が確定した。
 6 被上告人は、昭和六二年五月、本件貸金債権等を請求債権として、本件土地
について本件根抵当権の実行としての競売の申立てをし、同月二六日、競売開始決
定がされて、その決定正本がそのころE運送の破産管財人及びDにそれぞれ送達さ
れた。
 7 Dは、平成二年三月三一日、本件連帯保証債務の不存在確認等を求めて本件
訴訟を提起し、被上告人は、本件訴訟において、同六年九月三〇日、本件貸金債権
の残額が存在する旨の主張を記載した準備書面を原審裁判所に提出し、Dはこれを
受領した。
 8 Dは、平成七年一月二七日、被上告人に対し、本件根抵当権の極度額に相当
する一五〇〇万円を支払い、被上告人は、同日、本件土地についての前記競売の申
立てを取り下げた。
 9 Dは、右競売申立ての取下げ後、本件訴訟において、本件貸金債権につき五
年の商事消滅時効を援用した。
 二 原審は、本件貸金債権について消滅時効の中断を認め、本件連帯保証債務の
不存在確認請求を棄却すべきものとした。原審の判断の概要は、次のとおりである。
 1 D所有の本件土地について本件根抵当権の実行としての競売の申立てに基づ
く競売開始決定がされ、その決定正本が債務者であるE運送の破産管財人に送達さ
れたことにより、右送達がされた昭和六二年五月二六日ころ、本件貸金債権につい
て、いったん消滅時効中断の効力が生じたが、右時効中断の効力は、被上告人が平
成七年一月二七日右競売の申立てを取り下げたことにより、初めから生じなかった
ことになる。
 2 しかし、担保権の実行としての不動産競売の申立ては、被担保債権について
債務者に対するいわゆる裁判上の催告に当たり、競売手続の進行中は催告の効力が
維持され、右手続の終了後六箇月以内に債務者に対し裁判上の請求等をすることに
より、被担保債権について時効中断の効力を生じさせることができる。
 3 被上告人の本件根抵当権の実行としての前記競売の申立てに基づく競売開始
決定の正本が債務者であるE運送の破産管財人に送達されたことにより、本件貸金
債権について催告の効力が生じ、その効力は右競売の申立てが取り下げられた平成
七年一月二七日まで維持されていたところ、被上告人は、右催告の効力が継続中の
同六年九月三〇日、本件貸金債権の残額が存在する旨の主張を記載した準備書面を
原審裁判所に提出し、Dがこれを受領したことにより、本件貸金債権の連帯保証人
であるDに対して裁判上の請求に準ずる行為をしたということができ、その効力は
主債務者であるE運送に及ぶから、本件貸金債権について消滅時効中断の効力が生
じた。
 三 原審の右二1の判断は是認することができるが、右二2及び3の判断は是認
することができない。その理由は、次のとおりである。
 1 債権者から物上保証人に対する根抵当権の実行としての競売の申立てがされ、
執行裁判所が、競売開始決定をした上、同決定正本を債務者に送達した場合には、
時効の利益を受けるべき債務者に差押えの通知がされたものとして、民法一五五条
により、債務者に対して当該根抵当権の実行に係る被担保債権について消滅時効の
中断の効力を生ずる(最高裁昭和四七年(オ)第七二三号同五〇年一一月二一日第
二小法廷判決・民集二九巻一〇号一五三七頁参照)。しかし、債権者が根抵当権の
実行としての競売を申し立て、競売開始決定正本が債務者に送達されても、根抵当
権の被担保債権について催告(同法一五三条)としての効力が生ずるものではない
と解すべきである(最高裁平成七年(オ)第一九一四号同八年九月二七日第二小法
廷判決・民集五〇巻八号二三九五頁参照)。そして、【要旨第二】物上保証人に対
する不動産競売において、債務者に対する同法一五五条による被担保債権の消滅時
効中断の効力が生じた後、債権者が不動産競売の申立てを取り下げたときは、右時
効中断の効力は、差押えが権利者の請求によって取り消されたとき(同法一五四条)
に準じ、初めから生じなかったことになると解するのが相当である。
 2 これを本件についてみると、前記事実関係によれば、Dは、平成七年一月二
七日、被上告人に対して本件根抵当権の極度額に相当する一五〇〇万円を支払い、
被上告人は、同日、本件根抵当権の実行としての不動産競売の申立てを取り下げた
というのであるから、本件根抵当権の実行に係る被担保債権である本件貸金債権に
ついての民法一五五条による消滅時効中断の効力は初めから生じなかったことにな
る。そして、被上告人がした本件根抵当権の実行としての不動産競売の申立て及び
その競売開始決定正本の債務者への送達が同法一五三条の催告としての効力を有す
ると解することはできず、被上告人の主張する他の消滅時効の中断事由を認めるこ
ともできないから、本件貸金債権は、Dの消滅時効の援用により消滅したものとい
うべきである。
 四 右と異なる原審の判断は、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判
決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決中、保証債
務不存在確認請求に関する部分は、その余の点について判断するまでもなく、破棄
を免れない。そして、以上判示したところによれば、本件連帯保証債務の主債務で
ある本件貸金債務が時効により消滅したことに伴い、本件連帯保証債務も消滅した
というべきであるから、第一審判決中、保証債務不存在確認請求に関する部分を取
り消して、右請求を認容すべきである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋
一友 裁判官 大出峻郎)

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