弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主     文
1 処分行政庁が平成17年4月20日付けで申立人に対してした社会福祉法72条1項の
規定による第二種社会福祉事業の停止命令は,本案事件の判決確定までその効力を停止
する。
2 申立費用は被申立人の負担とする。
理     由
第1 本件申立ての趣旨及び理由等
本件申立ての趣旨及び理由は,下記1のとおり訂正するほかは,別紙1「行政処分執
行停止申請書」,別紙2「準備書面(平成17年6月16日付け)」及び別紙3「意見書」各記載
のとおりであり,これに対する被申立人の意見は,下記2のとおり訂正するほかは,別紙4
「意見書」記載のとおりである。

1 別紙1「行政処分執行停止申請書」に「申請人」とあるのを「申立人」と,「被申請人」と
ある(ただし,同別紙4丁16行目の「被申請人」を除く)のを「処分行政庁」と,同別紙4丁16
行目に「被申請人」とあるのを「被申立人」と,それぞれ訂正する。
2 別紙4「意見書」の2丁以下に「被申立人」とあるのを「処分行政庁」と訂正する。
第2 当裁判所の判断
1 一件記録によれば,以下の事実が認められる。
(1) 申立人は,平成17年3月30日,処分行政庁に対し,社会福祉法(以下「法」とい
う。)2条3項8号の第二種社会福祉事業(生計困難者のために,無料又は低額な料金で,
簡易住宅を貸し付け,又は宿泊所その他の施設を利用させる事業。以下,同号の事業を
「無料低額宿泊事業」といい,申立人が届け出た事業を「本件事業」という。)を開始したとし
て,次のとおりの内容で,法69条1項の規定による届出をした。
経営者の名称  ハッピーライフ代表A
主たる事務所の所在地  千葉県長生郡α584番地
事業の種類及び内容  生活困窮者の方達への衣・食・住を提供するための宿泊
所の運営事業
(2) 申立人は,平成17年3月25日付けで,法2条3項8号の「宿泊所」(以下「無料低額
宿泊施設」という。)とするため,千葉県長生郡α584ほか所在の2階建ての建物(以下「本
件建物」という。)を,賃料月額40万円,権利金300万円,期間平成20年2月14日までの
約定で,賃借した(以下「本件賃貸借契約」という。)。
(3) 申立人は,本件建物を無料低額宿泊施設とするため,平成17年2月ころから,400
万円の費用をかけて本件建物の1階部分の内装工事をし次いで,同年3月ころから,約17
0万円の費用をかけて本件建物の2階部分の内装工事をした。
申立人は,前記内装工事代を含めて,本件建物を無料低額宿泊施設とするために
約650万円の費用を支出した。
(4) 申立人は,現在従業員らに月額合計30万円の給料を支払っている。
(5) 処分行政庁は,平成17年4月1日,申立人に対し,別紙5記載の事項について,法
70条の規定による報告の求めとして報告書の提出を求め,また,次のとおりの内容で,行
政手続法30条の規定による弁明の機会を付与する旨の通知をした。
予定される不利益処分の内容  第二種社会福祉事業の停止命令
不利益処分の根拠となる法令の条項  法72条1項
不利益処分の原因となる事実  別紙6「不利益処分の原因となる事実」記載のとお

(6) 申立人は,平成17年4月11日ころ,処分行政庁に対し,前記(5)の報告書の提出の
求めに応じて別紙7「報告書」記載のとおりの内容の報告書を提出し,また,別紙8「弁明
書」記載のとおりの内容の行政手続法29条1項の弁明書を提出した。
(7) 処分行政庁は,平成17年4月20日付けで,申立人に対し,処分理由を別紙9記載
のとおりとして,本件事業の停止を命ずる旨の法72条1項の規定による第二種社会福祉事
業の停止命令(以下「本件処分」という。)をした。
(8) 申立人は,本件事業は,宿泊所の利用者に対して,その費用に十二分に見合う居
住環境,食事を提供するものであって,申立人は,不当な営利を図っておらず,また,宿泊
所の利用者の処遇につき不当な行為をしていないなどと主張して,平成17年6月2日,当
庁に本件処分の取消しを求める本案の訴えを提起し,同月13日,本件申立てをした。
2 「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」(行政事件訴訟法25条2項)か否かにつ
いて
申立人勝訴の本案判決確定後に申立人が本件事業を再開するためには,それまでの
間,申立人は,本件賃貸借契約を維持して,本件建物の賃料(月額40万円),従業員の給
料(現在月額30万円)等を負担し続けなければならないが,申立人は,本件処分の効力が
停止されない限り,本件事業を経営することができないため,本件建物を利用する者から,
その利用の対価等の支払を受けることができない。
また,申立人は,前記1(2),(3)のとおり,本件建物を無料低額宿泊施設とするために約
650万円の費用を支出し,本件建物の賃貸借契約において権利金300万円を支出してい
るところ,前記賃料を支払うことができずに,本件賃貸借契約が解消された場合には,これ
らの費用がすべて損害となるのみならず,仮に本案判決において本件処分が取り消された
場合であっても,再び本件建物の賃貸借契約を締結するなどして,本件事業を再開するこ
とは困難といえる。
さらに,一件記録によれば,申立人は,本件事業の再開のため,本件事業による収入
のない状態で前記賃料月額40万円や従業員の給料月額30万円の経済的負担をしている
状況にあると認められるから,損害を避けるため緊急の必要もあるといえる。
したがって,本件処分により生ずる申立人の「重大な損害を避けるため緊急の必要が
ある」といえる。
この点に関して,被申立人は,本件申立てが認容された場合,① 申立人は,本
件建物の利用者を定員の50名まで増員することが考えられるから,本案で請求棄却の判
決がされると,将来50名もの利用者の処遇の問題が生ずる,② 千葉県内の他の無料低
額宿泊施設(施設数39,利用者数約2000名)において本件事業と同様の料金設定がされ
てその利用者の生活が脅かされるおそれがある,③ 被申立人において利用料設定等の
基準を他の施設に示すことができず,本案で請求棄却判決があるまで,他の施設の調査・
指導ができず,前記施設の適正な運営と前記利用者の処遇に重大な問題が生ずる,④ 
本件建物のある千葉県長生郡βの町議会が無料低額宿泊施設の設置に反対の決議をし
たり,地元自治会役員等が本件施設関係者に反対の申入書を手渡すなどしているにもか
かわらず,本件事業が強行されると,住民と本件建物関係者とのトラブルの可能性も高まる
など,地域住民の生活の安定に重大な影響が生ずるなどと主張する。しかし,前記①につ
いては,仮に定員まで増員されその処遇の問題が生ずるとしても,申立人の被る前記損害
を考慮すると,前記判断を左右するに足りる事情とはいえない。前記②については,本件申
立てが認容された場合に他の施設において本件事業と同様の料金設定がされると認める
に足りる証拠はない。前記③については,本件申立てが認容されたとしても,そのことが,利
用料設定等の基準を他の施設に示すこと,他の施設の調査・指導を行うことにつき,法的障
害となるものではなく,被申立人において,基準を示すことができず,他の施設の調査・指
導ができないとは考え難い。前記④については,βの無料低額宿泊施設について,β自治
会長会において反対の署名活動を行ったうえ長柄町長に対し反対の要望をし,これを受け
て長柄町長が処分行政庁に対し反対の上申を行い,被申立人主張のとおり反対決議があ
ったなどの事実があったことが認められるものの,具体的に住民と本件建物関係者との間で
トラブルの可能性が高まり,地域住民の生活の安定に重大な影響が生ずることを認めるに
足りる証拠はない。その他,重大な損害を避けるため緊急の必要がある旨の前記判断を左
右するに足りる証拠はない。 
3 「本案について理由がないとみえるとき」(行政事件訴訟法25条4項)といえるか否かに
ついて
(1) 被申立人は,申立人が,本件事業において,本件建物の利用者から徴収する金額
について,住居費4万円,共益費・雑費1日200円,食費1日1500円と設定しているが,β
に居住する者の生活保護費は,月額10万0450円であるから,生活保護費を受給している
者が本件建物を利用するとした場合,1か月に31日ある月においては,利用者は,生活保
護費から本件建物の利用料等を申立人に支払うと7750円(1日分約250円)しか手元に残
らず,日常生活費が不足すること,また,住居費4万円は,本件建物の設備,所在地及び周
辺の交通事情をβで生活保護を受給している者が借りている住宅事情と比較した場合,極
めて高額と判断され「無料又は低額」に該当しないことはもちろん,本件事業で提供される
サービスは,利用の対価に相応する内容ではないことは明らかであることなどから,「その事
業に関し不当に営利を図り,若しくは福祉サービスの提供を受ける者の処遇につき不当な
行為をしたとき」(法72条1項)にあたるものと判断して,本件処分を行ったものであるから,
本件処分は適法で,本案について理由がないとみえるときにあたる旨主張する。
(2) 確かに,申立人の前記1(1)の開始届,前記1(6)の報告書,弁明書上は,申立人が,
本件建物の利用者から徴収する金額は,被申立人の主張するとおりであり,また,一件記
録によれば,住居費4万円は,近隣の住宅事情等と比較した場合,高額であることが認めら
れる。
しかしながら,申立人は,処分行政庁に対して,本件建物の利用者からの徴収額を
寮費4万円,食費4万5000円のみとする趣旨であることを口頭で説明した旨主張し,申立
人と本件建物の利用者との間の入居契約書(甲28ないし30)上も,入居費1か月4万円,
食事代1か月4万5000円とされていることが認められる。そして,申立人は,利用者は,食
堂の飲料を消費し,浴室の石けん,備え付けの衣服,薬品等を使用することができるのであ
って,寮費4万円には,このような生活必需品の利用料等が含まれており,また,利用者は
別途水道光熱費を支出する必要はなく,施設内の電話の使用料も基本的には無料である
旨主張している。
これらの申立人の主張等に照らすと,申立人が「その事業に関し不当に営利を図り,
若しくは福祉サービスの提供を受ける者の処遇につき不当な行為をした」(法72条1項)こと
が明らかとまでいうことはできない。
したがって,申立人の本案について,理由がないものとは判断できない。
4 また,一件記録によっても,本件処分の効力を停止することによって,「公共の福祉に
重大な影響を及ぼすおそれがある」(行政事件訴訟法25条4項)と認めることもできない。
5 よって,本件申立ては,理由があるから,行政事件訴訟法25条2項により本案事件の
判決確定まで本件処分の効力を停止することとし,申立費用の負担につき行政事件訴訟
法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり決定する。
    平成17年8月29日
      千葉地方裁判所民事第3部
           裁判長裁判官   山 口   博
               裁判官   武 田 美和子
               裁判官   佐々木 清 一

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