弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原競落許可決定を取消す。
     本件を大分地方裁判所に差戻す。
         理    由
 一 抗告の趣旨及び理由は、末尾記載の通りである。
 二 当裁判所の判断
 (一) 記録によれば、原審は、登記簿上抵当権者となつている相手方(抗告人
の主張と異り相手方は根抵当権者となつているのではない)の競売申立に基き、昭
和二九年二月二〇日大分県大分郡a町(現在鶴崎市)大字b字c町d番地宅地(た
だし左記(二)の通り、現況は一応畑と認められる)二六坪に対し、競売手続開始
決ををなし、これを抗告人(同土地の所有者で、登記簿上は抵当債務者となつてい
る。ただし、後記(三)の通り抗告人は自己が抵当債務者であることを否認す
る。)に送達するため、a町大字b字c町の抗告人宛に、郵便によつて送達したの
で、同年二月二六日Aが、抗告人の同居の母として、これを受取つていることが認
められるところ、記録中の大分地方裁判所執行吏Bの賃貸借取調調書並びに競落期
日調書及び抗告人提出の鶴崎市長職務代理者Cの証明書によると、抗告人は昭和二
四年六月以来、従前の住所であるa町から、神戸市方面に転居し、以来競落許可決
定当時まで、前示宛先のa町大字b字c町には住所、居所、営業所または事務所を
有しなかつたことが明らかであるから、特別の事情ない限り、本件競売開始決定
は、いまだ、抗告人に送達されていないものと認める外はない。なお、記録による
と、原裁判所は、抗告人に対する競売期日の通知もまた、前示宛先に対し書留郵便
に付する送達の方法によつて、なしていることが認められるので、反対の事情ない
かぎり、抗告人に対し競売期日を通知しないで競売を実施した違法があるというべ
きである。従つて、原審は、本件競売手続は続行すべからざるものとして、競落不
許可の決定をなすべきてあるのに、相手方を競落人とする競落許可決定を言渡した
のは違法であつて、原決定はすでにこの点において取消を免れない。
 (二) なお、職権をもつて調査するに、
 (1) 本件競落の目的たる土地は、前記の通り公簿上宅地となつているけれど
も、前示賃貸借取調調書によれば、畑として耕作されていることが認められるの
で、他に格別の事情ない限り、農地たる畑と認むるを相当とすべく、はたしてそう
だとすると、たとえ、公簿上の地目が宅地であつて宅地として登記されていても、
現況畑である以上は、その所有権移転については、競落を原因とする場合において
も、農地法第三条の適用があるのは当然であるから、所轄大分県知事の許可がない
かぎり、かりに競落許可決定が確定し、競落人が代金の全額を支払つたとしたとこ
ろで、同人において、競落畑の所有権を取得することはできないのである。
 <要旨第一>しかるに、競落人が、民事訴訟法(以下民訴と書く)による強制競売
にあたつては、競落を許す決定によつて不動産の所有権を取得し(同法
第六八六条)、競売法による競売においては、競落を許す決定の確定後、代金の全
額を支払つたときに不動産の所有権を取得する(競売法第三三条)こと、言い換え
ると、競落許可決定が確定して、代金の全額さえ支払えば、当然かつ必然に不動産
の所有権を取得するということは、法律上の売却条件であつて、この条件は、最低
競売価額に関するそれと等しく、その余の売却条件と選を異にし、利害関係人の合
意をもつてするも動かし得ないものと解するを相当とするので、裁判所が特に、民
訴第六六二条の二により職権をもつて前示の売却条件の変更をなさない以上(本件
において原審がこの変更をしていないことは記録上明らかである。)、最高価競買
申出人は競落を許す決定前に、農地法第三条による知事の許可を得、かつ、その旨
を疎明するに及んで、始めて裁判所は、最高価競買申出人に競落を許す決定を言渡
すの順序に従うを相当とする。もつとも以上の説示と異り、裁判所は、知事の許可
の有無にかかわりなく、最高価競買申出人に競落を許す決定を言渡し得るのであつ
て、後日競落人が農地法第三条同法施行規則第二条の規定に従い知事の許可を得る
をもつて足るとの見解も、理論上成立し得ないわけではないけれども、この見解に
よれば、幸に競落人が相当の期間内に知事の許可を得た場合はとも角、もし、競落
人が代金の支払は了しながらことさら、または過つて、許可申請の手続を執らない
かぎり、裁判所は、爾後の手続を進行するのに由なく、競売手続の完結はほとんど
競落人の挙措に係るというも過言ではない。あるいは、この場合、原告たり得るな
に者かが競落人を被告とし、知事に対し許可申請手続をなすべき旨訴求するなどの
手続に出する途があるとしても、これによる競売手続の遅延の弊害は蔽うべくもな
く、また、かりに競落人が、競落許可決定確定の上、代金全額を支払つた場合にお
いても、知事が競落人の許可申請を却下すれば、競落人は、ついに競落不動産の所
有権を取得することができないのであるから、裁判所は、更に該不動産の競売を命
ずべきであろうけれども、既に競落許可決定確定しかつ、代金全額の支払があるに
かかわらず、これを無しして、当該競落不動産の競売を命ずるについての明確な規
定をかく現行法の立前からして、手続上許多の困難な問題に逢着することは、あえ
て、事例を示して説明するまでもないであろう。すなわち、前段説示する所の正当
なる所以を理解し得べきである。
 <要旨第二>(2) しかして前叙の通り、本件土地は畑と認むべきであるのに、
記録によれば原審は、これを宅地と表示して競売期日の公告をなしてい
るのであるが、民訴第六五八条が、競売期日の公告に不動産の表示を要求する所以
は、単に競売不動産の同一性の認識に役立たせるためだけでなく、その主眼とする
ところは、競買希望者一般に対し、同不動産の実質的価値を了知させ、もつて競買
申出にそごなきを期しようとするにあるのであるから、不動産が土地であるとき
は、その所在、地番、反別または坪数はもとより農地法との関係において、同土地
が農地たる田、畑であるか、あるいは農地以外の宅地であるかを明瞭ならしめるた
め現在の地目を表示しなければ、前陳公告の目的並びにその機能に即応しないもの
といわねばならない。現況畑であるのに、宅地と表示して、競売期日の公告をすれ
ば、専ら商業を営む者でも、競買の申出をするであろうが、たとえ、同人に競落を
許しても、同人が、その所有権を取得するについて、知事の許可を得ることは殆ん
ど不可能である結果、ついに競落地の所有権を取得し得ずして、無意味の競落手続
を遂行したことに帰着するのであり、これは、所有権を換価して、競落人にこれを
移すことを目的とする競売の本質に背馳するものというべきである。また、競売期
日の公告に、畑と表示すれば、競買人は、農地を買受け得る適格著でなければなら
ないことが、競買希望者一般に周知されるので競買の申出をなそうとする者は予め
知事の競買適格証明書を得て、競買の申出をするであろうから、前陳のような無用
の競売手続も避け得らるるのである。(この点について、昭和二五年一二月二二日
最高裁民事甲第二四二号及び同二八年一一月五日同甲第二四五号事務総局民事局長
の通知は参照に値する。)これを要するに、現況畑であるのにこれを宅地と表示し
てなした競売期日の公告は、民訴第六五八条第一号の要件を具備しない違法がある
と解せねばならない。
 以上の説明に徴し明らかであるように、原審が競落許可決定を言渡したのは違法
であるから、この点においても、原決定は取消を免れない。
 (三) 抗告人は、本件競売の基本たる相手方の抵当権は、抗告外Dが、抗告人
の印章及び文書を偽造してなした無効のものであると主張し、その提出にかかる登
記簿謄本の記載によると、抗告人は相手方を被告とし、本件抵当権設定登記の抹消
登記手続請求の訴を大分簡易裁判所に提起し、現にその訴訟係属中であることが認
められ、右謄本並びに同提出の刑事判決謄本の記載によれば、前記Dは詐欺罪の前
科一犯を有し、本件競売の基本たる抵当権の設定された昭和二七年中いずれも抗告
人名を冒用し二回に亘り私文書偽造行使詐欺及び有価証券僞造行使詐欺の罪を犯し
て、懲役二年の実刑に処せられていることが明らかで、しかも前段認定のように、
抗告人は昭和二四年六月以降神戸市方面に居を移して、a町には住所、居所、営業
所または事務所を有しなかつたという事実をかれこれ照らし合せると、容易く、抗
告人の主張を排斥するわけにいかないのであつて、該主張事実の真否を確定するた
めになお証拠の取調をなす必要があると認められるので、原決定を取消し、本件を
原裁判所に差戻すべきものとし、主文の通り決定する。
 (裁判長判事 桑原国朝 判事 二階信一 判事 秦亘)

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