弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人岡本治太郎の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、適
法な上告理由にあたらない。もつとも、所論にかんがみ職権をもつて調査すると、
第一審判決は、「被告人C同Dは、昭和三十八年十一月二十一日施行の衆議院議員
選挙に際し、岐阜県第二区から立候補したAの選挙運動者であり、いずれもa町議
会議員として、Kの夫Eが校長として奉職する町立b小学校の改築の審議並にその
施行に種々尽力し来つた者であるが、今後予想される同校給食室等附属建物の改築
の予算審議にも当然関与すべき特殊の利害関係があるところから、同年同月十九日
午后三時過頃岐阜県益田郡a町旅館Fから先づ被告人Dが候補者Bの選挙運動者で
ある右K方に電話し、「貴女がB派の自動車に乗つていたという人があるが本当か」
と訊した上、右特殊の利害関係を利用して、「給食室も造らねばならんし、校長先
生まで誤解されるから、よく考えて行動して貰わねばならぬ」と申し向け、途中D
と交替したCも亦右特殊の利害関係を利用して「校長先生はあまり旗色をはつきり
しないように。若し旗色をはつきりするなら、A派に来い」と申し向け、同女をし
て、同女の支持者に対する選挙運動に不安を抱かせるに足ることを申し向け、以つ
て共同して同女を威迫したものである。」との事実を判示し、右は公職選挙法二二
五条三号刑法六〇条に該当するとして同法条を適用したところ、原審判決は、第一
審判決には、公職選挙法二二五条三号所定の「特殊の利害関係を利用した」との点
を充足する事実の判示がなく、したがつて、第一審判決が前記判示事実に対し同条
号を適用したのは法令の解釈適用を誤つたものであるが、右判示事実は同条一号所
定の「選挙運動者に対し威力を加えたとき」にあたるとして、第一審判決を破棄し、
右判示事実に公職選挙法二二五条一号、刑法六〇条を適用して自判したことが明ら
かである。
 ところで、右判示事実によれば、被告人らはa町議会議員として、Kの夫Eが校
長である町立b小学校の給食室設置などの予算審議を通じ、あるいはその政治的権
勢によつて、同小学校の改築を妨げ、ひいては右Eの校長としての地位に圧力を加
えうる立場にあるのであり、被告人らの言動は右Kに不安の念を抱かせてその選挙
運動の自由を妨害するに足りるものであることが明らかであるから、右判示事実は、
公職選挙法二二五条三号所定の「特殊の利害関係を利用した」との点にあたる事実
の判示として十分であつて、これを否定した原判断は正当でない。
 また、公職選挙法二二五条一号の「威力」とは「人の意思を制圧するに足りる勢
力」、同三号の「威迫」とは人に不安の念を抱かせるに足りる行為」をいい、両者
の相違は、人の意思を制圧するに足りる程度の行為であるかどうかにあるものと解
すべきところ、被告人らの前記判示行為の程度では、いまだ相手方の意思を制圧す
るに足りるほどのものとは認められないから、該行為は前法条三号の「威迫」にあ
たるものと解すべきであり、これを同一号の「威力」にあたるとした原判決には、
法令の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならない。しかし、右一号
と三号とは法定刑が同一であるから、原判決を破棄しなければ著しく正義に反する
ものとは認めがたい。
 よつて、別訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、
主文のとおり決定する。
  昭和四二年二月四日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    色   川   幸 太 郎

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