弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人に対し金額七七万一、〇〇〇円、一五万五、〇〇〇円お
よび二〇万円の各約束手形金ならびにこれに対する遅延損書金の支払を命じた部分
を破棄する。
     右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
     原判決中その余の部分に関する上告人の上告を棄却する。
     前項の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人稲本竜助の上告理由第一点について。
 (一) 原判決は、訴外Dが訴外E合資会社(上告会社は上記訴外会社を吸収合
併したものである)の印顆等を偽造して、本件手形六通を偽造したものであるとの
事実を認定しているのではなく、訴外会社の山陰出張所の担当者であつたDは、右
訴外会社出張所の営業資金にあてるため、代理権の範囲を踰越して、訴外会社代表
者の署名を代理する方法により、本件手形を振り出したものであるが、本件手形の
うち(4)(5)(6)の手形(主文第一項掲記の金額七七万一、〇〇〇円、一五
万五、〇〇〇円および二〇万円の約束手形)の受取人たる訴外Fおよび(3)の手
形の実質上の受取人たる被上告人B1は、いずれも、当該手形は訴外会社が真正に
振り出したものであると信じ、かつ、そのように信ずるにつき正当な事由があつた
ものであるとの事実を認定しているのであり、原判決挙示の証拠によれば、被上告
人B1が前記(3)の手形は訴外会社において真正にこれを振り出したものと信じ
た旨の認定は是認できる。
 しかして、たとえ所論のごとく、被上告人B1がFの提起した別件の訴訟で、本
件(4)(5)(6)の手形はDの偽造にかかるものであると陳述したとしても、
原判示のような事情のもとでは、これをもつて直ちに、同被上告人が前記(3)の
手形の取得当時において悪意であつたことを推認することはできない筋合であり、
これと同趣旨に出た原審の判断もまた首肯できる。
 所論は、被上告人B1の善意の認定に対して種々論述するが、畢竟、原審が適法
にした事実の認定を攻撃するか、もしくは、認定と相容れない事実を前提として、
原判決に所論の違法があると主張するものであつて、採用できない。
 (二) 次に、F関係の証拠(同人は故人であるため直接その証言を得ることが
できなかつたことは記録上明らかであるが)をみるに、わずかに、被上告人B1の
本人尋問の結果中に、Dが自分のところに本件(4)(5)(6)の手形の保証を
依頼してきたので、これを応諾し、その結果Fが右手形の受取人となつたという趣
旨の供述(記録一二〇丁)、証人Dの、本件(4)(5)(6)の手形はFに割り
引いてもらつた旨の供述(記録五九丁裏∼六〇丁)があり、これらによつて、Fが
本件(4)(5)(6)の手形の受取人となつた経緯がおぼろげながら判明するに
すぎないのであつて、ここから直ちに、Fが原審認定のごとく右手形は訴外会社が
真正に振り出したものと信じたということは認定しうべくもないこと明らかである。
また、Fが本件(4)(5)(6)の手形の受取人となるについて関与した上告人
B1が、右手形は訴外会社が真正に振り出したものと信じたのであるから、Fも同
様に信じたと推認しうるものでないことも多言を要しない。その他原判決挙示の証
拠の各々を具さに検付しても、Fが、本件(4)(5)(6)の手形は、訴外会社
が真正に振り出したものと信じた旨の認定に照応する資料を見出し難いから、該認
定は証拠に基づかないでした違法があると断ぜざるをえず、この点に関する論旨は
結局理由があり、原判決中上告会社に対する本件(4)(5)(6)の手形金なら
びにこれに対する遅延損害金請求を認容した部分は破棄を免れない(したがつて、
等しく右部分の違法を主張することに帰着する論旨第一点に対しては、判断を省略
する)。
 同第三、四点について。
 (一) 原判決は、所論第一点に対する説示冒頭に摘記したような事実関係を認
定し、Dが訴外会社の名義を使用して本件手形六通を振り出したのは、手形の偽造
ではなく、同人が代理権を踰越してなした無権代理行為であるが、その相手方たる
被上告人両名およびFは本件手形の善意の取得者であり、かつ善意たることにつき
正当の事由があつたから、上告会社は右手形金の支払義務を負うべきであると判断
したのである。原審の前記認定事実中訴外会社山陰出張所が訴外会社の正規の出張
所であつたとの点および本件手形はDが訴外会社山陰出張所の業務拡張のための資
金調達の手段として振り出したものであるとの点は、挙示の証拠により首肯しえら
れなくはなく、採証法則違背をいう所論は、畢竟、原審の専権に属する事実の認定
を攻撃するものであつて、採用できない。
 (二) しかし、本件手形のうち(4)(5)(6)の手形について、Fがこれ
を訴外会社において真正に振り出したものと信ずるにつき正当の事由があつた旨の
原審の判断は、いかなる具体的事情をもつて正当の事由とみなしたのかを判文上か
ら毫も看取することができず、これでは、本件(4)(5)(6)の手形の振出行
為につき民法一一〇条の規定を類推適用するに足る要件事実を確定したものという
ことはできない。理由不備をいう所論は理由があり、原判決中上告会社に対する本
件(4)(5)(6)の手形金ならびにこれに対する遅延損害金請求を認容した部
分は、この点においても、破棄を免れない。
 (三) 本件(1)(2)(3)の手形について、原審が前記認定事実に基づき
上告会社に右手形金支払義務があると判断したのは正当である。本件において、原
判決が判示するところによれば、被上告人両名は「本件手形は真正に訴外会社が発
行したものであると信用し」、「本件手形を善意で取得し」たというだけであつて、
Dが代理人たる権限に基づいて署名代理の方法で本件手形を振り出したと信じたか
どうかは解明していないが、代理人がその権限を踰越して署名代理の方法で本人名
義の手形を振り出した場合において、相手方が、本人が真正にこれを振り出したも
のと信ずるにつき正当の事由があるときは、民法一一〇条の類推適用により、本人
がその責に任ずべきものと解するのが相当であるから、前叙の点はいまだ原判決を
瑕疵あらしめるものとはいえない。原判決には所論の違法はない。また、論旨中本
件(1)(2)(3)の手形が偽造のものであるとの事実を前提として原判決を論
難する部分は、原判示に添わない主張であつて、その前提において失当である。
 同第五点について。
 原判決挙示の証拠によれば、被上告人B2が本件(1)(2)の手形割引により
取得した旨の認定は首肯でき、右認定にいたる過程に所論の違法はない。所論は証
拠の判断ならびに事実の認定に関する原審の專権行使を非難するものであつて、採
用できない。
 よつて、原判決中前記破棄部分についてはなお審理判断の必要があるから、右部
分につき本件を原裁判所に差し戻すこととし、右部分以外の原判決は正当であるか
ら、この点に関する上告棄却すべきものとし、民訴四〇七条、三九六条、三八四条、
九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    田   中   二   郎

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