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平成24年12月5日判決言渡
平成24年(ネ)第10056号特許権侵害差止等請求控訴事件
(原審大阪地方裁判所平成23年(ワ)第8405号)
口頭弁論終結日平成24年9月24日
判決
控訴人(原告)ドーエイ外装有限会社
控訴人(原告)株式会社パラキャップ社
控訴人ら訴訟代理人弁護士大津卓滋
佐藤一誠
谷垣雅庸
被控訴人(被告)株式会社新高製作所
訴訟代理人弁護士松本直樹
主文
本件控訴を棄却する。
控訴人らの当審における追加請求を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
「原判決を取り消す。被控訴人は,原判決別紙イ号製品目録及び同ハ号製品目録
記載の各製品を製造してはならない。被控訴人は,控訴人株式会社パラキャップ社
に対し,1200万円及びこれに対する平成23年7月15日から支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。」との判決並びに仮執行宣言。
第2事案の概要
1目地装置に関する発明につき2件の特許権(特許第2906374号,第4
079436号)を有する控訴人ドーエイ外装有限会社(以下「控訴人ドーエイ」
という。)は,特許第2906374号の請求項1の発明(本件特許発明1)及び特
許第4079436号の請求項1の発明(本件特許発明2)の特許権につき,控訴
人株式会社パラキャップ社(以下「控訴人パラキャップ社」という。)に対し,独占
的通常実施権を許諾していた。
控訴人らは,被控訴人が大阪市西区内の建設工事でした原判決別紙イ号製品目録
記載の渡り通路用免震エキスパンションジョイント(イ号製品)の製造行為が本件
特許発明1に係る特許権(本件特許権1)を侵害し,被控訴人が広島市中区内の建
設工事でした原判決別紙ハ号製品目録記載の内壁用免震エキスパンションジョイン
トの製造行為が本件特許発明2に係る特許権(本件特許権2)を侵害すると主張し
て,被控訴人に対し,上記各製造行為の差止請求をするとともに,控訴人パラキャ
ップ社において,被控訴人に対し,上記特許権侵害を理由とする被控訴人利益相当
額の損害賠償を請求した。
2原判決は,イ号製品は本件特許発明1の構成要件D「前記渡り通路の目地部
側の側壁に一端部が前後方向にスライド移動可能にそれぞれ取付けられ,他端部
が・・・取付けられた一対のスライド側壁」を充足しないから同発明の技術的範囲
に属しない,ハ号製品は本件特許発明2の構成要件I「この少なくとも2個以上の
伸縮リンクの中央枢支部に・・・枢支された少なくとも1本の中間支柱と,」,構成
要件L「前記支柱に後端部が固定され,先端部が該支柱の隣りの中間支柱に固定さ
れた可動カバーパネルと重なり合う,・・・固定カバーパネル」をいずれも充足しな
いから同発明の技術的範囲に属しないとして,控訴人らのイ号製品,ハ号製品の製
造行為の各差止請求及び控訴人パラキャップ社の損害賠償請求を棄却した。
3控訴人らは控訴に際し,イ号製品が特許第2906374号の請求項3の発
明(本件特許発明3)の技術的範囲に属するとの主張をし,同発明の特許権に基づ
く差止め及び損害賠償の請求を追加した。
なお,控訴人らは,原審において,当初,被控訴人が大阪市西区内の建設工事で
別途製造した渡り通路用免震エキスパンションジョイント(ロ号製品)についても
本件特許権1の侵害を主張し,ロ号製品の製造行為の差止請求,ロ号製品に係る損
害賠償請求(控訴人パラキャップ社からのみ)をしていたところ,原審の審理中に
ロ号製品に係る差止請求の訴えを取り下げるとともにロ号製品についての特許権1
の侵害の主張を撤回したが,ロ号製品に関する控訴人パラキャップ社による損害賠
償請求は維持されていた。原判決は,この請求も棄却したが,この棄却判断は控訴
の対象となっていない。
4前提となる事実は,原判決「事実及び理由」中の第2の1記載のとおりであ
り,争点は,当審で追加されたイ号製品の本件特許発明3の技術的範囲の属否の争
点のほかは,上記「事実及び理由」第2の3記載のとおりである。
第3当事者の主張
当事者の主張は,控訴審での主張を次のとおり付加するほかは,原判決「事実及
び理由」中の第3「争点に係る当事者の主張」記載のとおりである。
【争点(1)(イ号製品の本件特許発明1の技術的範囲の属否)についての控訴人ら
の補充主張】
本件特許発明1の構成要件Dにいう「側壁に・・・取付けられた」には,スライ
ド側壁と渡り通路の目地部側側壁とが間隔の空いた状態で設置される構成が含まれ
る。なぜなら,本件特許権1に係る本件明細書(甲1)には,スライド側壁が目地
プレートと一体ないし固定されている第6実施形態が記載されているところ,スラ
イド側壁を渡り通路の目地部側側壁に物理的に接触した状態で設置するときは,ス
ライド側壁を前後にスライド移動させる場合に,渡り通路の目地部側側壁と摩擦を
生じ,スライド移動が不可能ないし著しく困難となって,本件特許発明1の作用効
果を奏しないこととなるから,本件特許発明1でも上記の間隔の空いた構成を含ん
でいると解すべきだからである。このとおり,構成要件Dの「取付けられた」には
近接した場所に設置する構成も含まれており,イ号物件が上記「側壁に・・・取付
けられた」に当たらないとする原判決の判断は誤りである。
【争点(1)についての被控訴人の補充主張】
本件明細書の図19以下,とりわけ図22ないし24には,スライド側壁が渡り
通路の目地部側側壁と接触しながらスライド移動できるように支えられている構成
が図示されており,第6実施形態に係る上記図面においてもスライド側壁と目地部
側側壁との間の間隔が離れている構成は許容されていない。スライド側壁と目地部
側側壁とが接触していても,接触部分を平滑にしておけば足りることであるし,そ
もそも,両側の構造物の間の間隔が地震等で変化したときに,他の箇所が損壊する
のを回避するために,スライド側壁が可動にされているのだから,破壊するほどの
大きな力よりは小さな力でスライド移動すれば十分である。
【当審争点についての控訴人らの追加主張(イ号製品の本件特許発明3の技術的
範囲の属否)】
1特許第2906374号の請求項3の発明(本件特許発明3)の構成要件を,
次のとおりに分説する。
A一方の建物の外部通路の外壁に形成された渡り通路用開口部と,
Bこの渡り通路用開口部を介して連通するように他方の建物より突出するよ
うに設けられた渡り通路と,
Cこの渡り通路の目地部側端部の床面上に一端部が前後方向にスライド移動
可能に支持され,他端部が前記渡り通路用開口部の床面に左右方向にスライド移動
可能に取付けられた目地プレートと,
D前記渡り通路の目地部側の側壁に一端部が前後方向にスライド移動可能に
取付けられ,他端部が前記渡り通路用開口部が形成された外壁に左右方向にスライ
ド移動可能に取付けられた前記目地プレートに一体あるいは固定された一対のスラ
イド側壁
Eとからなることを特徴とする渡り通路の目地装置
2被控訴人はイ号製品を製造しているところ,原判決別紙イ号製品目録記載1,
2の構成は本件特許発明3の構成要件Aを,同目録記載4の構成は構成要件Bを,
同目録記載5,7の構成は構成要件Cを,同目録記載3,6,8の構成は構成要件
Dをそれぞれ充足し,したがってイ号製品は本件特許発明3の技術的範囲に属する。
3控訴人パラキャップ社は控訴人ドーエイから本件特許発明3についても独占
的通常実施権の許諾を受けており,イ号製品の製造による本件特許発明3に係る特
許権(本件特許権3)の侵害に基づく損害賠償請求権を有する。
【当審争点についての被控訴人の追加主張】
1イ号製品はスライド側壁が目地部側側壁と接触しておらず,目地部側側壁に
よって支えられていないから,目地部側側壁に取り付けられているとはいえない。
したがって,構成要件Dを充足しない。
また,イ号製品は,本件特許発明1と同様に,構成要件B,Cを充足しないから,
本件特許発明3の技術的範囲に属しない。
2控訴人パラキャップ社が控訴人ドーエイから本件特許発明3について独占的
通常実施権の許諾を受けたことは知らない。
第4当裁判所の判断
当裁判所も,①イ号製品は構成要件Dを充足せず,本件特許発明1の技術的範囲
に属するとはいえないし,②ハ号製品は構成要件I,Lを充足せず,本件特許発明
2の技術的範囲に属するとはいえない上,③控訴人らが請求を追加した請求原因で
ある本件特許発明3の特許権についても,イ号製品は構成要件Dを充足せず,その
技術的範囲に属するとはいえないから,控訴人らの各請求は理由がないと判断する。
その理由は,当審における両当事者の補充主張,追加主張について次のとおり付
加して判断するほか,原判決「事実及び理由」中の「第4当裁判所の判断」記載
のとおりである(ただし,乙9ないし13はハ号物件の状況を示すものとして適切
でないので,18頁21ないし23行を除く)。
1原審争点(1)(イ号製品の本件特許発明1の技術的範囲の属否)について
控訴人らは,本件明細書(甲1)の第6実施形態をもって,スライド側壁と渡り
通路の目地部側側壁とが離隔している構成が本件特許発明1において許容されてい
る根拠とし,原判決の本件特許発明1のクレーム解釈を非難するが,第6実施形態
に係る段落【0022】には,例えばイ号製品の手摺10と側壁9との間の間隔の
ように,スライド側壁と目地部側側壁との間に大きな隙間を設けても差し支えない
旨の記載は存しない。また,第6実施形態に係る図22ないし24では,原判決が
説示するとおり(17頁),目地プレート12と一体となったスライド側壁15が,
渡り通路5の側壁16で囲まれた空間に嵌合している様子が図示されているものと
みることができる。
控訴人らはスライド側壁と目地部側側壁とが物理的に接触した状態で設置すると,
スライド側壁のスライド移動が不可能ないし困難になるなどと主張するが,そもそ
も本件特許発明1の特許請求の範囲で特定される構成が採用されたのは,地震等で
隣り合う建物が大きく揺れ動いても,その動きに追従して損傷を防止するとともに,
床目地部と壁面目地部との間を確実に覆うことができるようにするためであるから
(甲1の段落【0003】,【0004】),スライド側壁と目地部側側壁とが接触し
てスライド移動することが当然に予定されており,スライド側壁と目地部側側壁と
が接触することのない,両者の間に間隔を空けて設置されている態様にまで,本件
特許発明1の構成要件Dにいう「側壁に・・・取付けられた」との構成が及ぶもの
ということはできない。
そうすると,原判決がした構成要件Dの解釈,イ号物件の構成要件Dの充足性及
び本件特許発明1の技術的範囲の属否の判断に誤りがあるものではない。
2当審争点(イ号製品の本件特許発明3の技術的範囲の属否)について
本件特許発明3と本件特許発明1とは,一対のスライド側壁(本体)の他端部が
目地プレートに一体あるいは固定的に取り付けられている点が異なるだけで(両発
明の構成要件D),その余の構成要件は共通であるから,本件特許発明3の構成要件
Dにおいても,スライド側壁が目地部側側壁に取り付けられていなければならない
ことに変わりはない。しかるに,イ号製品のスライド側壁は目地部側側壁と相当間
隔を空けて設置されており,目地部側側壁に取り付けられているとはいえないから,
イ号製品は構成要件Dを充足しない。
したがって,その余の構成要件の充足の有無につき判断するまでもなく,イ号製
品は本件特許発明3の技術的範囲に属しないから,同発明の特許権に基づく控訴人
らのイ号製品に係る差止請求及び損害賠償請求はいずれも理由がない。
第5結論
以上によれば,当審で主張を追加して請求する部分も含め,控訴人らの請求は理
由がない。よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩月秀平
裁判官
真辺朋子
裁判官
田邉実

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