弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1被告らは,原告に対し,連帯して110万円及びこれに対する平成23
年2月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余を被告ら
の負担とする。
4この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告らは,原告に対し,連帯して330万円及びこれに対する平成23年2
月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,労働組合である原告が,被告らに対し,被告らが被告aが代表者で
ある被告会社の従業員で原告の組合員であった者らに対して不当労働行為を
行い,これにより原告が損害を被ったと主張し,民法709条及び会社法42
9条による損害賠償請求権に基づき,330万円及びこれに対する不法行為後
の日である平成23年2月7日から支払済みまで民法所定の年5分の遅延損
害金の支払を求める事案である。
2前提事実(当事者間に争いがない事実)
当事者等
ア原告は,中小企業の未組織労働者等の労働条件及び生活条件の改善並び
に階級的利益の保護を目的として結成された,いわゆる合同労働組合であ
る。
イ被告会社は,一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー業)等を業とする
会社である。
被告aは被告会社の代表取締役,bは被告会社の統括管理部長を務めて
いる者である。
原告の分会結成等
ア平成22年7月当時,被告会社における乗務員の勤務体制は,乗務員を
A班とB班の二班に分け,各班単位で1日乗務と1日休み(いわゆる一勤
一休)を繰り返す乗務スケジュールとなっていた。
イ平成16年末ころ,被告会社の従業員全員を対象とする扶助会,親睦会
として親和会が結成されたが,A班に所属する乗務員は,平成22年4月
ころ,親和会を離脱して新たになかよし会を結成した。
ウA班に所属し,なかよし会を構成する,c及びdを含む被告会社の乗務
員23名は,平成22年7月16日,労働組合である,「スクラムユニオ
ン・ひろしま高陽分会」という原告の分会(以下「本件分会」という。)
を結成し,分会執行役員として,当時被告会社の乗務員であったeが本件
分会の分会長,被告会社の乗務員であったfが本件分会の副分会長に選出
された。
エeは,平成22年8月6日付けで被告会社を退職した。
オ原告は,平成22年8月27日,被告会社を被申立人として,不当労働
行為救済の申立てをした(以下,この申立てに係る事件を「本件救済申立
事件」という。)。
本件処分
ア本件分会の組合員らは,平成22年9月18日及び同年10月17日,
マックスバリュやアクロス等の商業施設において,「平成タクシー・a社
長は組合つぶしをやめろ!」「会社は組合と誠実に交渉せよ」等と記載さ
れたビラ(以下「本件ビラ」という。)を配布した。
イ本件分会は,平成22年10月15日,ストライキに入った(以下「本
件スト」という。)。
ウ被告会社は,本件分会の組合員らに対し,平成22年11月4日,乗務
停止処分及び無線配車停止処分を通知した(以下「本件処分」という。)。
その際,被告会社は,懲戒処分理由を,「お客様の敷地に入り,業務を妨
害する行為を行い,またはこれを幇助し,会社の名誉及び信用を著しく損
ねた。これは就業規則(懲戒)67条2項-8に準ずる行為にあたる。上
記の行為の関与度合いを考慮し,各人の処分をした。」と通知した。
ここにいう乗務停止とは,タクシー業務に就かせないことをいい,無線
配車停止とは,タクシーに乗務はできるが,被告会社が無線にて配車を行
わないことをいう。
エ本件分会の組合員らは,平成23年11月24日,本件処分の取消しを
求める労働審判を申し立てた。
3争点及び争点についての当事者の主張
平成22年7月23日の親和会における被告a及びbの発言は,原告に対
する支配介入に該当するか。(争点1)
(原告)
被告会社は,平成22年7月23日,B班に属する従業員を集めた親和会
の会合と称する集会を開催した(以下「本件集会」という。)。本件集会に
おいて,被告a及びbは,「組合になびくな。なびいても何のメリットもな
いぞ」という趣旨の発言を行った。かかる被告a及びbの発言は,本件分会
の組合員らとそれ以外の従業員らとの離反を意図的に図り,本件分会への加
入を妨害する,原告に対する支配介入に該当する。
(被告ら)
本件集会において原告が主張する発言を被告a及びbがしたという事実は
ない。また,かかる発言は不適切ではあっても違法とまではいえない。
eの退職に際し,被告会社の原告に対する支配介入があったか。(争点2)
(原告)
eの退職は,①本件分会が結成されてeがその分会長に選出されてから1
か月も経過しない時期にされ,②これに際して,特別退職金及び解雇予告手
当が支給される等,通常の自主退職に伴うものとは考えられない合意が被告
会社とeとの間でされ,③これにより,被告会社は特定求職者雇用開発助成
金を受給できなくなり,300万円~400万円の損失を受けた等,不自然
なものであった。
このような事情に照らし,被告会社は,eが本件分会の分会長であること
を理由に解雇し又は離職させるとともに,かかるeの解雇又は離職を利用し
て,本件分会の結成及びその運営に介入し,本件分会の活動を萎縮させよう
とする,原告に対する支配介入を行ったものである。
(被告ら)
eは被告会社との合意により被告会社を退職したものであるところ,その
過程において被告会社のどのような原告に対する支配介入があったか,原告
は具体的に主張しない。したがって,原告の上記主張は認められるべきでは
ない。
被告会社が平成22年8月30日にcを教育指導員から外したか,及び,
かかる被告会社の行為が原告に対する支配介入に該当するか。(争点3)
(原告)
被告会社は,平成22年8月30日,cがB班の乗務員に対して本件分会
への加入を勧誘したことを理由として,cを新人の教育指導員から外した。
かかるcに対する不利益取扱いは,原告に対する支配介入に該当する。
(被告ら)
被告会社には教育指導員という役職は存在しない。また,被告会社におけ
る教育業務は,単発的に配転され時間単位で手当が支給される業務であると
ころ,①かかる教育業務の時間単位の手当は平均的な通常乗務の時間給より
安価であるため,教育業務を行うとむしろ収入が少なくなることが多いこと,
②被告会社には,かかる教育業務の配転についての裁量があること,③cに
ついては,目の手術を2回したこと等により本件分会の結成以前から教育業
務の配転が少なくなっていたこと,④平成22年8月30日からcが退職し
た平成23年1月15日までは,cは欠勤が多く,その出勤日における教育
業務は1件しかなかったことから,かかる教育業務に関して被告会社の原告
に対する支配介入に該当する行為がなかったことは明らかである。
本件処分は,原告に対する支配介入に該当するか。(争点4)
(原告)
本件処分は,①本件ビラの配布に携わらなかった組合員も対象として,本
件ストに対する報復の意図をもって行われたものであること,②本件ビラの
配布行為は正当な組合活動であること,③就業規則上の根拠と手続的相当性
を欠くことから,原告に対する支配介入に該当する。
(被告ら)
本件ビラは被告らを誹謗中傷する内容のものであり,本件分会の組合員ら
は,かかる本件ビラを一般大衆に配布したものである。また,本件処分を無
効とした別訴判決においては,原告である組合員らの損害として少額の財産
的損害のみを認めて慰謝料請求権については認めていない。
被告会社が平成23年1月4日以降,dの乗務を拒否したか,及び,かか
る被告会社の行為が原告に対する支配介入に該当するか。(争点5)
(原告)
被告会社は,被告会社による本件分会からの脱退勧誘にdが応じなかった
ことから,その乗務を拒否する正当な理由がないにもかかわらず,平成23
年1月4日以降,タクシー乗務に必要な乗務員証を持ち出せないようにする
等して,dの乗務を拒否した。かかる被告会社の行為は,原告に対する支配
介入に該当する。
(被告ら)
dは,長期間の欠勤をした後,平成23年1月4日には,制服を自宅に置
いて私服で出勤したものであり,就労しようとしたものではない。その後も
dが就労の意思をもって制服を着て出勤したことはなく,したがって,dの
乗務に関して原告に対する支配介入に該当する被告会社による行為はなか
った。
被告会社が平成23年1月15日以降,fの乗務を拒否したか,及び,か
かる被告会社の行為が原告に対する支配介入に該当するか。(争点6)
被告会社は,fが本件分会の中心的人物であったことから,その乗務を拒
否する正当な理由がないにもかかわらず,平成23年1月15日以降,タク
シー乗務に必要な乗務員証を持ち出せないようにする等して,fの乗務を拒
否した。かかる被告会社の行為は,原告に対する支配介入に該当する。
(被告ら)
被告会社は,平成23年1月15日においては,fが,制帽を着用してい
なかったことについての始末書の提出を拒否し,制帽を着用しない態度を示
したことから同人の乗務を拒否した。また,その他のfの出勤日においては,
fは被告aとの口論により,立腹して自らの意思で帰宅したものであり,被
告会社が同人の乗務を拒否した事実はない。したがって,fの乗務に関して
原告に対する支配介入に該当する被告会社による行為はなかった。
平成22年12月3日にbが本件分会の組合員9名に対し,「ユニオンと
手を切れ」「不当労働行為の救済申立てを取り下げろ」等の発言をしたか,
並びに,bが上記発言をしたこと及び同日に「不当労働行為の救済申し立て
を取り下げてもらえませんか?」等と記載された文書を示したことは,原告
に対する支配介入に該当するか。(争点7)
(原告)
bは,平成22年12月3日,本件分会の組合員9名との会合(以下「本
件会合」という。)の際に,「ストをやっていいことがありましたか?」「ユ
ニオンに任せるのではなく,高揚分会員の平成タクシー社員と会社とで話し
合いませんか?」「そのために不当労働行為の救済申し立てを取り下げても
らえませんか?」「主導権をユニオンから自分たちに取り戻してください」
等の記載された文書(以下「本件文書」という。)を示すととともに,「ユ
ニオンと手を切れ」「不当労働行為の救済申立てを取り下げろ」等の発言を
した。
かかるbの行為は,被告会社による原告に対する支配介入に該当する。
(被告ら)
bは,本件会合において,本件文書を読み上げただけで,積極的に本件分
会の組合員らを説得するなどしたわけではない。かかるbの行為が本件分会
の組合活動に影響を与えたとは考えられない。
被告aの原告に対する不法行為が成立するか。(争点8)
(原告)
被告会社は,人事等,その運営に関する事項が被告aによって決定されて
いる,いわゆるワンマン会社であり,の原告に対
する各支配介入行為も,被告aの意向に基づいて行われたものである。また,
被告aは取締役として被告会社が違法行為を行わないようにさせる義務が
あるにもかかわらず,悪意又は重大な過失によりかかる義務を履行しなかっ
た結果,被告会社による原告に対する上記各支配介入行為が行われた。
したがって,被告aは,民法709条,民法710条又は会社法429条
に基づき,上記各支配介入行為による原告の損害について,被告会社と連帯
して賠償する義務を負っている。
(被告a)
否認ないし争う。
被告会社の支配介入及び被告aの不法行為による原告の損害の有無及び金
額(争点9)
(原告)
被告会社の支配介入及び被告aの不法行為により,原告は,本件分会の組
合員数が平成23年5月までに7人に減少し,団結権及び団体交渉権を侵害
されたほか,本件分会の組合員らに対する金銭的な支援及び訴訟等手続の支
援のために多大な時間,労力及び費用の負担を強いられた。
これらの事情により原告が被った有形,無形の損害を金銭に評価すると3
00万円を下らない。また,かかる原告の損害に関し,被告らに負担させる
べき弁護士費用は30万円が相当である。
(被告ら)
原告らが主張する被告会社の各行為による無形的損害は,これらの行為の
対象となった本件分会の組合員個人に生じるものであり,原告に生じるもの
ではない。
なお,本件分会の組合員数の減少は,①元々積極的な参加意思に基づいて
本件分会に加入したわけではない組合員も多かったこと,②本件分会による
組合活動による効果がほとんどなかったこと,③本件ビラの配布等の本件分
会の方針と考えが合わない組合員もいたこと,④被告会社と本件分会との激
しい対立に嫌気がさした組合員もいたこと,⑤中心的なメンバーとその他の
者らとの対立もあったこと,⑥本件分会から金銭を受け取っていた組合員が
いることが発覚し,不満をもった組合員もいたこと,及び,⑦そもそもタク
シー運転手には様々な会社を渡り歩く傾向があることによるものである。ま
た,組合活動に時間や労力等がかかったからといって,そのことをもって当
然に無形損害があったと認められるわけではない。
第3当裁判所の判断
1争点1(平成22年7月23日の親和会における被告a及びbの発言は,原
告に対する支配介入に該当するか。)について
本件集会における被告a及びbの発言内容について
被告a及びbが,本件集会において,本件分会への加入を働きかけられて
いたB班に属する従業員からの質問を受けて,本件分会への加入について何
らかの発言をしたことについては争いがない。そして,甲第2号証,甲第3
号証,甲第9号証の5,甲第11号証及び原告代表者本人の供述から,①本
件集会当時は,本件分会が結成され,原告と被告会社との間で団体交渉がも
たれ始めていた時期であり,本件集会は原告が不審に思っていた会合である
こと,②原告及び本件分会は,本件集会の翌日,被告会社に対し,本件集会
における被告a及びbの発言についての抗議文を送付していること,③被告
aは,本件救済申立事件の審問期日において,本件分会についてものすごく
大変な対応を迫られるものであると感じていたことを述べるとともに,本件
集会における自身の発言が,被告会社と本件分会が敵対関係にあるという印
象を与える内容のものであったことは否定しなかったことが認められるとこ
ろ,これらの事実から,被告a及びbが,本件分会の組合員らとB班に所属
する所属する乗務員らとの間の離反を図り,本件分会への加入を妨害する意
図をもつと解される「組合になびくな。なびいても何のメリットもないぞ」
という趣旨の発言をしたと推認するのが相当である。なお,かかる発言を直
接聞いたとの証言等がないことは,上記推認を妨げるものではない。
上記の被告a及びbの発言が原告に対する支配介入に該当するかについ

上記の被告a及びbの発言は,上記のとおり,①本件分会が結成されて
から1週間後の時期に,被告会社とは別の全く私的な会合とはいえない本件
集会において,②そのほとんどが本件分会の組合員ではないB班の乗務員に
対して,③本件分会への加入を働きかけられている乗務員からの質問を受け
てされたものであることから,その背景に,B班の乗務員が本件分会へ加入
することを阻止し,本件分会の活動及びその影響力が拡大することを妨げよ
うとする意図があったと推認するのが相当である。また,本件集会の後も,
本件分会の組合員のほとんどはA班の乗務員にとどまり,B班の乗務員によ
る本件分会への加入がほとんどなかったことには争いがない。
そうすると,使用者側の言論の自由を考慮しても,発言の趣旨,発言者の
地位・立場,発言の時期・状況,発言の経緯等の諸事情を総合考慮すると,
上記の被告a及びbの発言は,本件分会の組織・運営に干渉し,悪影響を
与えるものとして,原告に対する支配介入に該当すると解するのが相当であ
る。
2争点2(eの退職に際し,被告会社の原告に対する支配介入があったか。)
について
甲第2号証,甲第3号証,甲第9号証の5及び原告代表者本人の供述から,
①平成22年8月6日当時,eに被告会社を退職しなければならないような特
段の理由はうかがえないこと,②eの退職に際しては,eと被告会社との間で,
被告会社からeに対して就業規則に定めのない特別退職金を支払い,eに守秘
義務を課すことを内容とする合意書が作成され,これに基づきeへの特別退職
金支払がされたこと,③被告aは,本件救済申立事件の審問期日において,e
の離職に伴う経済的不利益について,「お金を損しても得せえということわざ
があって」,「会社がうまい具合に運営をすれば得ではないですか,将来にと
って」等と陳述したほか,eの離職により「全体的に会社がまとまってきより
ます」等と陳述し,eの離職は,被告会社にとって,これにより経済的な不利
益があっても,好都合であるという認識を示したことが認められる。
上記各認定事実及びeを分会長として本件分会が結成されてから1か月未
満というeの退職時期を総合考慮すると,①eの被告会社からの退職に際して
は,その過程において被告会社のeに対する働きかけがあったものであり,②
かかる働きかけは,eの離職を利用して,本件分会の結成及びその運営に介入
し,本件分会の組合活動を萎縮させようとする意図に基づいてされたものと推
認される。よって,eの被告会社からの退職に際して,原告に対する支配介入
に該当する被告会社のeに対する働きかけがあったと解するのが相当である。
3争点3(被告会社が平成22年8月30日にcを教育指導員から外したか,
及び,かかる被告会社の行為が原告に対する支配介入に該当するか。)につい

甲第2号証,甲第3号証,甲第13号証及び原告代表者本人の供述から,①
cは,本件分会の結成後,B班の新人乗務員に対し,本件分会への加入を勧誘
し,被告aはそのことを平成22年8月18日に知ったこと,②cは平成22
年8月30日から新人乗務員に対する指導を担当しなくなったこと,③被告会
社における新人乗務員に対する教育指導業務は,その配転を受けなくなったと
しても必ずしも経済的な不利益を被るわけではないが,平成21年8月ころま
では各班の班長が担当する等,相応の重要性がある業務であったこと,④cは,
班長制が廃止された以降,主としてA班の新人乗務員に対する指導を担当して
おり,かかる指導を担当することについて自尊心を抱いていたこと,⑤上記②
については合理的な理由が見当たらないことが認められる。
上記各認定事実及び上記1で認定したとおり被告aが本件分会の活動や影
響力拡大に対して嫌悪感を抱いていたことを総合考慮すると,①被告会社は,
cがB班の新人乗務員に対して本件分会への加入を勧誘したことを理由とし
て,平成22年8月30日以降,cに対して新人乗務員への教育指導業務を命
じないことにしたと認められ,②かかる被告会社の措置は,本件分会の組合活
動を萎縮させ,その拡大を阻もうとする意図をもってされたものであるから,
原告に対する支配介入に該当すると解するのが相当である。なお,平成22年
8月30日からcの退職日までの間,結果としてcの出勤日における新人乗務
員に対する教育業務が1件しかなかったとしても,そのことは上記認定を妨げ
るものではない。
4争点4(本件処分は,原告に対する支配介入に該当するか。)について
甲第4号証,甲第6号証,甲第7号証,乙第14号証,乙第15号証及び原
告代表者本人の供述から,①本件ビラの配布は,本件ビラの内容が,その表現
に誇張した部分や穏当でない部分はあるものの,原告の被告会社に対する批判,
主張及び訴えとして正当なものであることや,配布目的,配布場所,配布態様
に照らして,正当な組合活動であること,②本件ビラが配布された直後である
平成22年10月18日に被告会社が本件分会に示した抗議文には,今後同様
のビラ配りが行われるようであれば,懲戒解雇等を検討することになる旨が記
載されていたところ,本件処分は本件ストが終結した同月29日から1週間未
満の同年11月4日にされたこと,③bは,本件処分に際し,本件ビラの配布
についてペナルティを課さなければならないという旨だけでなく,本件ストで
B班に迷惑をかけたからそれなりの措置をしなければならず,本件ストの日数
分はペナルティを課さなければならないという旨を発言したこと,④被告会社
は本件処分に際し,各組合員の本件ビラの配布への関与態様を詳細に調査せず,
どの組合員が本件処分の対象となったか及び本件処分における処分の軽重も
本件ビラの配布への関与態様と必ずしも比例しないことが認められる。
上記各認定事実から,本件処分は,本件ビラの配布及び本件ストに対する報
復の意図並びに本件分会の組合活動を萎縮させようとする意図に基づいてさ
れたものと推認され,したがって原告に対する支配介入に該当すると解するの
が相当である。
5争点5(被告会社が平成23年1月4日以降,dの乗務を拒否したか,及び,
かかる被告会社の行為が原告に対する支配介入に該当するか。)について
被告会社による乗務拒否があったかについて
甲第4号証,甲第7号証,甲第10号証の10及び原告代表者本人の供述
から,①被告aは,平成23年1月4日,出勤したdに対し,被告aが貸し
ていた4万円を返済するよう要求するとともに,その返済がされれば乗務さ
せると告げたこと,及び,②dは,同月7日,被告aの自宅を訪ね,乗務で
きるようにするために1万円を返済しようとし,同月8日には電話で被告a
に対して乗務させるよう求めたが,被告aから乗務を拒否されたことが認め
られる。そして,dが被告aから借りた金銭を返済しなかったとしても,そ
のことはdの勤務とは無関係であり乗務拒否の正当な理由とはなりえないか
ら,被告会社は,平成23年1月4日以降,正当な理由なくdの乗務を拒否
したと解される。
上記の乗務拒否が原告に対する支配介入に該当するかについて
甲第4号証,甲第7号証,甲第10号証の10及び原告代表者本人の供述
から,①被告aは,平成23年1月7日,被告aの自宅を訪ねてきたdに対
し,本件分会を脱退しなければ被告会社をやめてもらう旨を告げたこと,②
被告aは,dに対し,本件分会について,いずれ潰れてしまう,fが仕事も
していないから半年も持ちこたえられない旨を述べたことが認められる。そ
うすると,被告会社のdに対する乗務拒否は,dが本件分会の組合員である
ことも理由とし,本件分会の組合活動を萎縮させることも意図したものであ
ると推認され,したがって原告に対する支配介入に該当すると解するのが相
当である。
6争点6(被告会社が平成23年1月15日以降,fの乗務を拒否したか,及
び,かかる被告会社の行為が原告に対する支配介入に該当するか。)について
被告会社による乗務拒否があったかについて
甲第4号証,甲第7号証,甲第9号証の3及び原告代表者本人の供述から,
①fは,平成23年1月15日,被告aから,以前に制帽を着用していなか
ったことについての始末書の作成を求められるとともに,始末書提出後1か
月でやめてもらう旨を告げられたこと,②fは,同月17日,始末書を作成
し提出しようとしたが,被告aが事故発生の場合における損害保険免責額の
自己負担額の引上げに同意することについて始末書に記載することも乗務を
認める交換条件としたことから,口論となり,乗務するに至らなかったこと,
③fは,同月19日に出勤したものの,被告aからbと相談するようにと告
げられ,結局は乗務させてもらえなかったこと,④fは,同月21日に出勤
した際には,始末書を提出したにもかかわらず乗務させてもらえなかったこ
と,⑤fは,同月27日に出勤した際には,上記②と同様の事情により乗務
できなかったことが認められる。そして,かかる経緯に照らすと,被告会社
は,平成23年1月15日以降,正当な理由なくfの乗務を拒否したと解さ
れる。
上記の乗務拒否が原告に対する支配介入に該当するかについて
上記5で認定したとおり,被告aが,dに対し,本件分会について,f
が仕事もしていないから半年も持ちこたえられない旨を述べたことに加えて,
①甲第4号証,甲第7号証及び甲第9号証の3から,被告会社が乗務に必要
なfの乗務員証についてfが持ち出せないよう金庫に保管していたと認めら
れること,②平成23年1月15日当時は,本件処分がされ,本件会合にお
いて本件文書が示される等,原告と被告会社との間で労使紛争が激化してい
た時期であることに照らし,被告会社のfに対する乗務拒否は,fが本件分
会の中心的人物であることも理由とし,本件分会の組合活動を萎縮させるこ
とも意図したものであると推認され,したがって原告に対する支配介入に該
当すると解するのが相当である。
7争点7(平成22年12月3日にbが本件分会の組合員9名に対し,「ユニ
オンと手を切れ」「不当労働行為の救済申立てを取り下げろ」等の発言をした
か,並びに,bが上記発言をしたこと及び同日に「不当労働行為の救済申し立
てを取り下げてもらえませんか?」等と記載された文書を示したことは,原告
に対する支配介入に該当するか。)について
本件会合におけるbの行為内容
本件会合において,bが本件文書を読み上げて交付したことについては争
いがないところ,bがその他の発言をしたことを認めるに足りる証拠はない。
本件文書を示したことが原告に対する支配介入に該当するかについて
「ストをやっていいことがありましたか?」「ビラを配って何かいいこと
がありましたか?」「不当労働行為の救済申し立てを取下げてもらえません
か?」「主導権をユニオンから自分たちに取り戻してください」という本件
文書の文言(甲17),及び,本件会合が本件処分の後に行われ,本件文書
の記載も本件処分と関連性を有すること(甲17)に照らし,本件文書の読
み上げ及び配布は,不当労働行為救済申立てを取り下げさせ,本件分会を排
除することを目的として行われたものであると認められる。
したがって,bが本件文書を示したことは,原告に対する支配介入に該当
する。
8争点8(被告aの原告に対する不法行為が成立するか。)について
被告aは取締役として被告会社が違法行為を行わないようにさせる義務を
負っているところ,上記1~7の認定に照らし,少なくとも重大な過失により
かかる義務を履行しなかった結果,被告会社の原告に対する上記1~7の各支
配介入行為が行われたと認められる。
したがって,被告aは,会社法429条に基づき,被告会社の原告に対する
上記1~7の各支配介入行為により原告に発生した損害について賠償義務を負
う。また,かかる被告aの賠償義務は,その原因及び性質に照らし,被告会社
の原告に対する賠償義務と不真正連帯関係に立つと解される。
9争点9(被告会社の支配介入及び被告aの不法行為による原告の損害の有無
及び金額)について
ア原告代表者本人の供述及び弁論の全趣旨から,本件分会の組合員数が平
成23年5月までに7人に減少したことが認められる。そして,本件分会
結成からかかる組合員数減少までの経過期間,並びに,上記1~7で認定
した各支配介入行為の内容及び時期に照らすと,被告らが主張する諸要素
を考慮しても,かかる組合員数の減少について,被告会社による原告に対
する支配介入が相当の影響を及ぼしたと認めるのが相当である。
イ原告は,被告会社による原告に対する支配介入に対応するため,①前提
本件救済申立事件の申立て,②本件救済申立事件における救済
命令を不服として被告会社が提起した当庁平成23年(行ウ)第g号不当
労働行為救済命令一部取消請求事件,及び,同事件における請求棄却判決
に対して被告会社が控訴したことによる広島高裁平成24年(行コ)第h
号不当労働行為救済命令一部取消請求控訴事件への補助参加,③広労委平
成23年(不)第i号事件の申立て,及び,同事件における救済命令を不
服として被告会社が提起した当庁平成24年(行ウ)第j号不当労働行為
救済命令一部取消請求事件への補助参加を行う等,多くの時間と労力を割
くことを余儀なくされた(甲2,甲3,甲4,甲7,原告代表者本人,弁
論の全趣旨)。
ウ原告は,被告会社による原告に対する支配介入に対応するため,本件処
分を受けた組合員らが被告会社に対して提起した懲戒処分取消等請求訴訟
における弁護士費用の支払や,本件処分等の被告会社による原告に対する
支配介入によって経済的損失を被った組合員らに対する生活費援助等の金
員支出を行った(原告代表者本人,弁論の全趣旨)。
エ以上の事情を考慮すると,被告会社の原告に対する支配介入により原告
は有形,無形の損害を被ったものであり,かかる有形,無形の損害を金銭
に評価すると,100万円と認めるのが相当である。
本件の訴訟経過,認容額等に照らし,原告が負担する弁護士費用のうち,
10万円を上記1~7の支配介入と相当因果関係のある損害として認めるの
が相当である。
10よって,原告の請求は,1項の限度で理由があるから認容し,その余は理由
がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
広島地方裁判所民事第3部
裁判官榎本康浩

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