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平成19年6月13日判決言渡
平成19年(行ケ)第10078号審決取消請求事件
平成19年4月23日口頭弁論終結
判決
原告X
同訴訟代理人弁理士小林正治
同森徳久
同小林正英
被告特許庁長官中嶋誠
同指定代理人鍋田和宣
同岩井芳紀
同大場義則
主文
1特許庁が不服2006−7226号事件について,平成19年1月1
1日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯
原告は,意匠に係る物品「貝吊り下げ具」の部分について,平成17年8月
9日に意匠登録を出願したが,平成18年3月9日付けの拒絶査定を受け,同
年4月14日,審判請求を行った。
特許庁は,この審判請求を不服2006−7226号事件として審理し,そ
の結果,平成19年1月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との
審決をし,同年同月23日,審決の謄本が原告に送達された。
2本願意匠の態様
本件登録意匠出願に係る意匠登録を受けようとする部分は,貝の養殖に使用
する貝吊り下げ具のうち,細長い棒状のピン(以下単に「ピン」という。)を
多数平行に配置し,そのピンの左右両端寄りから斜め上側で左右対称状に向か
い合う一対の小突起をロープ止め突起として,その間に上記小突起寄りに左右
対称状に2本の細い紐(以下「連結紐」という。)を一体形成したものを上下
等間隔に多数連結した部分である(甲6,7。以下,登録を受けようとする部
分の意匠を「本願意匠」という。)。
3審決の内容
別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願意匠は,公知意匠(後記例
示意匠1及び例示意匠2)に基づいて容易に意匠の創作をすることができたの
で,意匠法3条2項の規定に該当し,意匠登録を受けることができないとする
ものである。
審決の「判断」部分は,以下のとおりである。
「本願意匠は,貝の養殖に使用する貝吊り下げ具に係るものであり,意匠登
録を受けようとする部分の形態は,ピンの左右両端寄りから斜め上側で左右対
称状に向かい合う一対の小突起をロープ止め突起として,その間の背面に左右
対称状に2本の連結紐を一体形成したものを上下等間隔に多数連結した態様の
ものである。
本願意匠の出願前に,この種物品分野において,貝の養殖に使用するピンに
斜め上側で左右対称状に向かい合う一対のロープ止め突起を形成した態様のも
のは,例を挙げるまでもなく多数知られ,ピンをロープ止め突起相互の間の連
結紐と一体状に形成して上下等間隔に多数連結することは例示意匠1の意匠等
が公然知られている。そして,ピンを2本一対の細長い連結紐により上下等間
隔に多数連結した態様は例示意匠2の各意匠のほかにも多数知られるから,例
示意匠1の連結線を単に例示意匠2のように2本一対のものに置き換えて表す
ことは容易に想到できると言える。
請求人(原告)の,本願意匠は,例示意匠1のテープ状薄片を単に2本の連
結紐に置き換えたものではなく,2本のロープ止め突起間の狭い空間を2本の
連結紐で連結してもその切り残し突起がロープへの差込みの邪魔にならず,ロ
ープへの差込み後も安定し,しかも,手袋も破損しにくくなるようしたもので
ある旨主張については,実用上の効果について認められる点があるとしても,
意匠の形態としては,2本のロープ止め突起の間が狭い態様のものは,例示意
匠1及び例示意匠2の図7の各意匠に示すとおり公然知られているから,本願
意匠はこれら各意匠に基づいて容易に想到できたものといわざるを得ず採用で
きない。したがって,本願意匠は,出願前にその意匠の属する分野における通
常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若し
くは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたも
のと認められる。」
第3取消事由に関する原告の主張
本件審決は,以下のとおり,本願意匠の創作容易性の判断を誤ったものであ
るから,違法なものとして取り消されるべきである。
1本願意匠は,例示意匠1及び例示意匠2を見て,容易に創作できた範囲内の
意匠ではないから,創作容易性はない。
(1)意匠の類似性判断は,判断される2以上の意匠を見比べて(対比観察,
離隔観察)して判断される。これと異なり,意匠法3条2項に規定する意匠
の創作容易性の判断は,本願意匠と例示意匠とを同時的に比較して判断すべ
きではなく,まず,例示意匠を見て,当業者が容易に創作できる範囲の意匠
を想定し,本願意匠が,想定された意匠と同一視できる範囲にあるときには
じめて,本願意匠は創作容易と判断すべきである。
(2)例示意匠1に例示意匠2を組み合わせた場合,容易に創作できる意匠の
範囲は,参考図1ないし4(甲2)に限られる。
これに対して,本願意匠は,2本の連結紐をロープ止め突起の内側直近に
配置して,それぞれ連結紐とロープ止めとの間にほぼ三角形に空間を形成す
るとともに,2本の連結紐の間隔を広くして2本の連結紐と上下のピンの間
を横長長方形空間にし,その空間の横幅をロープが収まる広さにしてあるた
め(甲3の写真8),本願意匠は,前記参考図1ないし4のいずれの形状と
も異なる。
2例示意匠1と例示意匠2(図2及び図7)とを組み合わせることについての
動機付けはない。
(1)例示意匠2(図2及び図7)
ア例示意匠2の図2は,多数本のピンが2本の連結紐で連結されているが,
図2のピンには本願意匠のロープ止め突起に相当するものがない。例示意
匠2の図7は,多数本のピンを2本の連結紐で連結するものであるが,2
本の連結紐はロープ止め突起の外側にある。したがって,上記図2にも図
7にも,本願意匠のように2本の連結紐を2本のロープ止め突起の内側直
近に配置する動機付けがない。仮に,それら意匠を組み合わせても,完成
されるのは甲2の参考図4の意匠であり,2本の連結紐は依然としてロー
プ止め突起の外側にある。したがって,例示意匠2の図2と図7の意匠を
組み合せても2本の連結紐がロープ止め突起の内側にあり,しかも,三角
形の空間と,横長長方形空間が繰り返し連続する本願意匠は創作し得ない。
イ例示意匠2の図2,図7の意匠には連結紐があるが,それはピンの背面
にあるのか,ピンの中間(太さ(厚さ)方向の中央部)にあるのか不明で
ある。これに対して,本願意匠の連結紐は,ピンの背面にあるのではなく,
「ピンの太さ(厚さ)方向中間」にある(出願時図面の平面図,右側面
図)。したがって,例示意匠2の図2,図7の意匠からただちに,連結紐
を本願意匠のようにピンの太さ(厚さ)方向中間に置き換えることもでき
ない。
ウ例示意匠2の図2,図7の2本の連結紐の間隔は,例示意匠1の後記一
枚のテープ状薄片の間隔よりもはるかに広いため,例示意匠1のテープ状
薄片を例示意匠2の2本の連結紐に置き換えることはできない。
(2)例示意匠1と例示意匠2との組合せ
例示意匠1は,ハ字状に対向する2本のロープ止め突起間の中央部分に薄
い広幅の連結材(以下この連結材を「テープ状薄片」という。)があるため,
連結された上下のピンの間に横長長方形空間は存在しない。このため,例示
意匠1は,上下のピンと2本の連結紐の間の横長長方形空間が繰り返し連続
する本願意匠とは異質であって,意匠の共通性がない。また,例示意匠1は,
ロープ止め突起のないピンを2本の連結紐で連結する例示意匠2の図2の意
匠とも,ロープ止め突起の外側を2本の連結紐で連結する例示意匠2の図7
の意匠とも異質であって意匠の共通性がない。このため,例示意匠1,例示
意匠2の図2,図7の意匠間には組合せの動機付けもない。
3本願意匠の機能美
(1)本願意匠の特徴は,2本の連結紐をハ字状に対向する2本のロープ止め
突起のそれぞれの内側直近に配置して,それぞれの連結紐とロープ止め突起
との間にほぼ三角形に空間を形成すると共に,2本の連結紐の間隔を広くし
て2本の連結紐と上下のピンの間にロープを配置できる広さを有する横長長
方形空間を形成したことである(甲3の写真4,検甲1)。このため本願意
匠は,2本の連結紐が2本のハ字状に対向するロープ止め突起に接近した纏
まり感があり,その纏まり感がピンの軸方向中央部にあり,さらに,ピンの
軸方向中央部に横長長方形空間の繰り返し連続形状の美感を備えた意匠とな
っている。
(2)本願意匠の2本の連結紐は,何らの理由もなく2本のロープ止め突起の
内側直近に配置して2本の連結紐と上下のピンとの間に横長長方形空間を形
成したのではない。1本ずつ切断されたピンはロープに差し込まれ,ロープ
は2本のロープ止め突起の間に収まる(甲3の写真8,検甲2)。甲2の参
考図2のように,2本のロープ止め突起間の中間に2本の連結紐があったの
では,ロープを収めることはできない。例示意匠1の2本のロープ止め突起
間の中央にテープ状薄片がある場合も,ロープを収めることはできない。こ
のため例示意匠1は,本件意匠出願人(原告)の意匠であるが,いまだに実
用化できない。本願意匠において2本の連結紐を2本のロープ止め突起の内
側直近に配置して,2本の連結紐と上下のピンとの間に横長長方形空間を形
成した形状は,前記使用上の必要性から採用したものであり,本願意匠独自
の機能的美観を与えている。
(3)これに対して,例示意匠2の図2では,ロープ止め突起がなく,例示意
匠2の図7の意匠では2本の連結紐がロープ止め突起の外側にあってロープ
止め突起に直接ロープが収まるようになっていることから,本願意匠のよう
な実用面での要求はない。しかも,例示意匠1及び2には本願意匠と同様の
機能的な美観はない。
第4被告の反論
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1貝吊り下げ具の分野において,ピンの中央部の上側に左右対称状に向かい合
う一対の小突起をロープ止め突起として形成した態様のものは,審決に例示し
たほかにも多数見受けられ,また,多数連結した貝吊り下げ具を機械的にロー
プに装着する場合,ピンの間隔を一定幅に保つためだけでなく,捻れやちぎれ
等を防ぐために連結紐を2本一対として一体状に形成することも普通に行われ
ることである。
また,向かい合うロープ止め突起の間に1本の連結紐を一体状に形成して上
下等間隔に多数連結した貝吊り下げ具の意匠は,審決の例示意匠1(乙1,意
匠登録第1184322号)の意匠のほかにも,平成16年7月29日発行の
公開特許公報に記載された特開2004−208619号の図6,図10,図
15および図20に示す意匠(順に,乙3の1ないし4)等が公然知られ,連
結紐部分を2本一対で一体状に形成した態様のものも,同公報の図11及び図
18(乙3の5及び6)に見受けられるように公然知られている。
そして,貝吊り下げ具の2本の連結紐の間隔について,やや広く形成したも
のは,同公報の図30の意匠(乙3の7)等が,一方,やや狭く形成したもの
は,審決の例示意匠2の図2の意匠(乙2,特開2003−289743号)
等がそれぞれ公然知られているから,貝吊り下げ具の2本の連結紐の間隔を適
宜変更して形成することはありふれた手法であるといえる。
そうすると,貝吊り下げ具の意匠の属する分野において,ピンの中央部の上
側に左右対称状に向かい合う一対の小突起をロープ止め突起として形成した貝
吊り下げ具の形状に基づいて,その連結紐部分を2本一対の連結紐に置き換え
ることは,当業者にとって容易に創作できたものである。
2本願意匠が連結紐と2本のロープ止め突起の間に三角形状の空間を形成し,
2本の連結紐と上下のピンとの間に横長長方形空間を形成しているとしても,
前記の公然知られた形状,又はありふれた手法に基づいて,連結紐をロープ止
め突起に近接して形成すれば,いずれも必然的に生じる態様にすぎないもので
あって,これらの空間形状自体に,意匠の構成態様として格別の創作がなされ
たものとはいえない。
第5当裁判所の判断
1本願意匠と例示意匠1との対比
(1)本願意匠は,貝の養殖に使用する貝吊り下げ具のうち,ピンを多数平行
に配置し,そのピンの左右両端寄りから斜め上側中央向きで左右対称状に向
かい合う一対の小突起をロープ止め突起として,そのロープ止め突起の内側
直近に左右対称状に2本の連結紐を一体形成したものを上下等間隔に多数連
結した部分の形状であり,これにより,それぞれの連結紐とロープ止め突起
との間にほぼ三角形の空間を形成するとともに,2本の連結紐の間隔を広く
して2本の連結紐と上下のピンの間にロープを配置できる広さを有する横長
長方形の空間を形成している。そして,横長長方形(内側)の縦対横の比率
は,約4.7対7である。また,三角形(内側)の底辺の長さと長方形(内
側)の底辺の長さの比率は,約3対7である。
これに対し,例示意匠1(甲4)のうち,本願意匠に対応する部分の意匠
は,貝の養殖に使用する貝吊り下げ具のうち,ピンを上下等間隔に多数配設
し,そのピンの左右両端寄りから斜め上側中央向きで左右対称状に向かい合
う一対の小突起をロープ止め突起として,その間の中央に一枚のテープ状薄
片を一体形成したものを上下等間隔に多数連結した形状である。
(2)本願意匠と例示意匠1のうち本願意匠に対応する部分形状とを対比する
と,以下のとおりの一致点及び相違点を認定することができる。
ア一致点
貝の養殖に使用する貝吊り下げ具のうち,ピンを多数平行に配置し,そ
れぞれのピンの左右両端寄りから斜め上側中央向きで左右対称状に向かい
合う一対の小突起をロープ止め突起として配設した点。
イ相違点
本願意匠は,一対のロープ止め突起の内側直近に左右対称状に2本の連
結紐を一体形成したものを上下等間隔に多数連結し,これによりそれぞれ
の連結紐とロープ止め突起との間にほぼ三角形に空間を形成するとともに,
2本の連結紐の間隔を広くして2本の連結紐と上下のピンの間にロープを
配置できる広さを有する横長長方形空間を形成しているのに対し,例示意
匠1は,一対のロープ止め突起の間に一枚のテープ状薄片を配設し,上記
の各空間を形成していない点。
2例示意匠1と例示意匠2の組合せによる創作容易性の有無
(1)例示意匠2の内容
例示意匠2(甲5)は,発明の名称「養殖帆立貝の掛け止め具」に係る公
開特許公報(特開2003ー289743)の実施例【図1】,【図2】,
【図7】として示された図面である。例示意匠2のうち本願意匠に対応する
部分の意匠は次のとおりである(このうち【図1】と【図2】は意匠として
は同一であるので,【図2】と【図7】の各意匠の内容を示す。)。
【図2】
養殖帆立貝の掛け止め具のうち,樹脂等で形成された棒状の軸部を多数
平行に配設し,その間に左右対称状に一対の連結線を一体形成したものを
上下等間隔に多数連結したものである。棒状の軸部と一対の連結線で形成
された横長長方形の縦対横の比率は,約3対10である。なお,ロープ止
め突起は存在しない。
【図7】
養殖帆立貝の掛け止め具のうち,樹脂等で形成された棒状の軸部を多数
平行に配設し,その間にピンの左右両端寄りから斜め上側中央向きで左右
対称状に向かい合う一対のロープ抜け止め片を配設し,その外側に一対の
連結線をややロープ抜け止め片寄りに一対形成したものを上下等間隔に多
数連結した部分形状である。
(2)創作容易性の有無
以上の事実を前提として,例示意匠1と例示意匠2とを組み合わせて,本
願意匠を容易に創作することができたといえるかどうかについて検討する。
ア例示意匠1と例示意匠2の図2に基づく創作容易性について
前記1(1)のとおり,本願意匠は,一対のロープ止め突起の内側直近に
左右対称状に2本の連結紐を一体形成したものを上下等間隔に多数連結し,
これによりそれぞれの連結紐とロープ止め突起との間にほぼ三角形状の空
間を形成するとともに,2本の連結紐の間隔を広くして2本の連結紐と上
下のピンの間にロープを配置できる広さを有する横長長方形状の空間を形
成しているために,中央に配置された横長長方形状,及びこれを挟むよう
に対向配置された一対の三角形状は,ともに空間を形成している点に特徴
がある。これに対して,例示意匠1は,ロープ止め突起の間に一枚のテー
プ状薄片のみを配設しているため,中央部には,長方形状の空間を形成し
ていない点で大きく異なる。
また,前記のとおり,例示意匠2の図2には,棒状の軸部を多数平行に
配設し,その間に左右対称状に一対の連結線を一体形成したものを上下等
間隔に多数連結しているため,棒状の軸部と一対の連結線により横長長方
形の空間が形成されている。しかし,例示意匠2の図2には,ロープ止め
突起が設けられていないので,横長長方形状と対向配置された一対の三角
形状の空間が形成されていない点,横長長方形状も,本願意匠においては,
おおむね5対7であるのに対して,例示意匠2の図2においては,おおむ
ね3対10である点で,本願意匠と例示意匠2の図2の全体の印象は,や
はり大きく異なる。
ところで,そもそも,樹脂等で形成された棒状の軸部を連結する場合に,
連結部の形状をどのようにするか,どのような部材を用いるか,一つとす
るか複数とするか,仮に連結紐を選択したとしても,その間隔をどのよう
にするか,他の部材(ロープ止め突起等)との配置関係をどのようにする
かについては,機能面からの制約を考慮したとしてもなお,様々な意匠を
選択する余地があるといえる。
そうすると,本願意匠と例示意匠1との相違点である「連結のための一
枚のテープ状薄片」を,例示意匠2の図2の2本の連結紐に置き換えるこ
とによって,本願意匠の特徴である「2本の連結紐をロープ止め突起近く
に配設し,その結果それぞれの連結紐とロープ止め突起との間にほぼ三角
形に空間を形成すると共に,2本の連結紐の間隔を広くして2本の連結紐
と上下のピンの間にロープを配置できる広さを有する横長長方形空間を形
成すること」は,当業者において容易に創作し得たということはできない。
イ例示意匠1と例示意匠2の図7に基づく創作容易性について
前記のとおり,例示意匠2の図7には,2本の連結線は,それぞれロー
プ抜け止め片の外側に配設され,一対のロープ抜け止め片の間に配設され
ていない点,横長長方形状と対向配置された一対の三角形状の空間が形成
されていない点で大きく異なる。
そうすると,本願意匠と例示意匠1との相違点である「連結のための一
枚のテープ状薄片」を,例示意匠2の図7の2本の連結紐を配設すること
によって,本願意匠の特徴である「2本の連結紐をロープ止め突起内側直
近に配設し,それぞれの連結紐とロープ止め突起との間にほぼ三角形に空
間を形成すると共に,2本の連結紐の間隔を広くして2本の連結紐と上下
のピンの間にロープを配置できる広さを有する横長長方形空間を形成する
こと」は,当業者にとって容易に創作し得たということはできない。
ウ被告の主張するその他の創作容易性について
被告は,①細長い棒状のピンの中央部の上側に左右対称状に向かい合う
一対の小突起をロープ止め突起として形成した態様のものが多数見られる
こと,②連結紐を2本一対として一体状に形成することも普通に行われる
こと,③2本の連結紐の間隔を適宜変更して形成することはありふれた手
法であることを理由に,連結紐部分を2本一対の連結紐に置き換えること
は容易であるから,本願意匠も,当業者にとって容易に創作できたと主張
する。
しかし,本願意匠のうち個々の構成態様が,ありふれているものであっ
ても,本願意匠は,2本の連結紐をロープ止め突起近くに配設し,その結
果それぞれの連結紐とロープ止め突起との間にほぼ三角形に空間を形成す
ると共に,2本の連結紐の間隔を広くして2本の連結紐と上下のピンの間
にロープを配置できる広さを有する横長長方形空間を形成したものであっ
て,その全体の印象として,特有のまとまり感のある,本願意匠の特徴を
選択することは,当業者が容易に創作し得たとはいえないから,被告の上
記主張は理由がない。
もっとも,本願意匠は,例示意匠1,例示意匠2やその他の公知意匠と
の相違点に照らすと,その登録意匠の範囲(意匠法24条)は,広範なも
のとはいえないと考えられる。
エ以上のとおり,本願意匠は,例示意匠1及び例示意匠2によって当業者
が容易に創作することができたということはできない。
3結論
以上に検討したところによると,本願意匠は,その出願前に日本国内におい
て広く知られた形態に基づいて当業者が容易に創作することができたとの審決
の判断は誤りであるから,原告の請求は理由がある。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官三村量一
裁判官上田洋幸

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