弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴人の当審における訴えの変更による訴えを却下する。
3控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2平成18年5月27日午後4時0分ころ大阪府枚方市α×番付近路上におい
て控訴人が座席ベルト装着義務に違反して普通乗用自動車(○○×××○××
××)を運転したことを理由として,大阪府公安委員会が,同日,道路交通法
71条の3第1項,同法施行令別表第2の1に基づき控訴人に付した基礎点数
1点が無効であることを確認する(当審で交換的変更。)
3被控訴人は,控訴人に対し,150万円及びこれに対する平成18年5月2
7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,大阪府公安委員会が控訴人に対し平成18年5月27日座席ベルト
装着義務に違反したとして,道路交通法71条の3第1項,同法施行令別表第
2の1に基づき基礎点数1点を付したことについて,控訴人が,上記装着義務
違反の事実はなく,違法な取締りであり,上記点数は無効であると主張して,
行政事件訴訟法上の当事者訴訟により,被控訴人に対し,現在点数が合計4点
であることの確認を求めるとともに,国家賠償法により慰謝料150万円及び
これに対する上記違法取締りの日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に
よる遅延損害金の支払を求めた事案である。
2原判決は,上記当事者訴訟につき確認の利益がないとして訴えを却下し,慰
謝料請求については国家賠償法の違法性を基礎づけるに足りる事実関係の立証
を欠くとして棄却したため,これを不服とする控訴人が控訴したものである。
控訴人は,当審において,直近の違反の日である平成18年8月20日から
1年以上無事故,無違反であったたため,本件における座席ベルト装着義務違
反により付された基礎点数1点が累積点数から除外されたことから,上記当事
者訴訟の請求の趣旨を控訴の趣旨第2項のとおり交換的に変更した。
3法令の規定,前提となる事実等及び争点(当事者の主張)は,原判決「事実
及び理由」欄第2「事案の概要」の1ないし3(原判決2頁22行目から16
頁2行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決
「」「」。)。5頁2行目の大阪府警察枚方警察署を大阪府枚方警察署と訂正する
4当審における控訴人の主張
()無効確認請求1
過去の法律行為,事実行為については,現在の通説的見解は,紛争解決に
有効適切であれば,確認の利益を認める。
本件の場合,本件座席ベルト装着義務違反に基づく基礎点数の付加が累積
点数の計算上除外されることになったとしても,誤った点数付加行為による
名誉や信用に対する侵害は極めて重大であり,これを回復するためには,本
件基礎点数付加行為を無効とすることが最も有効適切な手段である。
なお,本件には直接関係はないものの,過去の違反事実の存否は,運転免
許の更新を受ける地位(優良運転者,一般運転者又は違反運転者等の区分)
や道路運送法4条1項に基づく一般乗用旅客自動車運送事業の許可申請をす
る場合には,特別な利害関係を有する。国民の権利救済という観点からは,
これらの問題が直接関係しない場合でも間口を広げて救済がなされてしかる
べきである。
()損害賠償請求2
ア立証責任
(ア)原判決は,国家賠償請求で問題となる過失ないし違法性に関する立
証責任のとらえ方を根本的に誤っている。
本件のように「過失」とか「違法性」などという規範的要件事実の適
用が問題となる場合,規範的要件事実を直接問題とすべきではなく,こ
れを推認する具体的事実,すなわち,評価根拠事実,評価障害事実ごと
に立証責任を配分すべきであるというのが近時の通説的見解である。
原判決は,控訴人が座席ベルトを装着していたか否かという生の事実
,。,を取り出して立証責任を問題としているように思えるしかしながら
本件で立証責任を問題とすべきは,取締り警察官の誤認行為(過失ない
し違法性)を推認させる具体的事実である。
本件の場合,違反したと警察官から車両の停止を求められたときには
車両運転者である控訴人が座席ベルトを装着していた事実は明らかであ
るところ,この事実が認められれば経験則上特段の事情のない限り警察
官の誤認行為が推認されるはずである(過失ないし違法性の評価根拠事
実。したがって,この推認を排斥するためには,取締りに当たった行)
,,政主体である被控訴人において上記事実と両立しこの推認を覆す事実
すなわち現認から停止までの間に座席ベルトを装着したという「後付け
行為」の事実(過失ないし違法性の評価障害事実)を立証すべきことに
なるはずである。
本件で後付け行為の証明がないことは争いがないから,立証責任から
して被控訴人の過失ないし違法性が当然認められるべきことになる。
,,(イ)国家賠償法上過失の立証責任を被害者に負わせることについては
学説においてその不合理性がつとに指摘されてきたところである。
実質的な観点からしても,本件のように道路交通法違反の取締り行為
は,取り締まる側で周到に準備して実施しているはずである。違反行為
に関する証拠は取締り主体である被控訴人側にほとんど存在し,証拠と
の距離も近いことから違反行為の立証は極めて容易である。これに対し
て取締りを受ける側は,取締りについてなんの準備もなく,情報収集を
する上で圧倒的に不利である。当事者間の公平,証拠との距離,立証の
難易等から実質的に考えても,違反行為を裏付ける事実を指摘できない
場合,そのリスクは取締り主体に負わせることの方がはるかに合理的で
ある。
加えて,道路交通法上の取締りは,ほとんどの場合刑事罰の適用を予
定しており,訴追する側に立証責任があることから考えても,刑事罰の
適用が問題とならない本件の場合にも取締り側に立証責任を負担させる
ことが取扱いのバランス上要請されているというべきである。
イ事実誤認
(ア)本件は,座席ベルトの不装着を現認したというA警部補の供述とこ
れを装着していたと述べる控訴人の供述が真っ向から対立する事案であ
るところ,事柄の性質上どちらかが真実を,どちらかが虚偽を述べてい
ることは明らかである。
控訴人は,原審準備書面3において,控訴人が座席ベルトを装着して
いた事実が認められることを詳細に論じたところであり,安易に真否不
明とする原判決は,事実認定の努力を怠っているものと評価せざるを得
ない。
(イ)原判決が控訴人の座席ベルト不装着を認定する根拠としてあげるの
はわずかに,①A警部補が座席ベルト不装着を現認したと述べ,B巡査
に車両番号,車種,塗色を無線で通報していること,②A警部補が認め
たとする運転者の服装の色と当時控訴人が着ていた服装の色がおおむね
符合していること,だけである。
しかしながら,当時控訴人が着ていたとする白色のカッターシャツは
男性の服装としては非常にありふれたものであり,このような服装の色
が符合しているとういうだけでは有力な根拠となり得ない。そうしてみ
ると,被控訴人の主張を裏付けるのは,実質的にみてA警部補の供述し
かない。本件のような状況で誤りを指摘された警察官が,自らの過失を
認めることはほとんど考えられないのであるから,上記根拠は極めて薄
弱といわなければならない。
これに対し,控訴人が座席ベルトを装着していたという事実は,①B
巡査から停止を求められたときに控訴人は座席ベルトを装着していたこ
と,②後付け行為は確認されていないこと,③控訴人も同乗者のCも事
件直後から一貫して控訴人が座席ベルトを装着していたという事実を主
張していること,④控訴人の運転していた車両の座席ベルトは装着しな
い場合収納され,A警部補が証言するように垂れ下がるものではないか
ら,A警部補の証言は車両の取り違えを強く示唆することが認められる
ことから明らかである。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,当審で交換的に変更された控訴人の無効確認の訴えは不適法で
,,,,ありまた損害賠償請求は理由がないと判断するものであるがその理由は
原判決「事実及び理由」欄第3「当裁判所の判断」の1及び2()(原判決11
6頁4行目から31頁末行まで)に認定・説示するところを引用するほか,以
下に判断するとおりである。
2当審における訴えの変更後の無効確認請求に関する訴えについて
控訴人は,当審で訴えを変更し,控訴の趣旨第2項の裁判を求め,過去の法
律行為,事実行為についても,紛争解決に有効適切であれば,確認の利益があ
り,本件の場合,名誉や信用に対する侵害を回復するためには,本件基礎点数
。,付加行為を無効とすることが最も有効適切な手段である旨主張するしかし
原判決説示のとおり,そもそも点数付加行為に処分性は認められず,控訴人主
張の名誉や信用に対する侵害は点数付加行為がもたらす事実上の効果にすぎな
いから,控訴人は,本件違反に基づく点数付加行為の無効確認によって回復す
べき法律上の利益を有しないというべきであるところ,当審提出の甲第9号証
の1・2によれば,控訴人は平成19年10月9日,本件違反により付された
基礎点数1点が控訴人主張のとおり累積点数から除外されたことが認められ,
これによると,なおさら無効確認を求める利益はないといわなければならない
(最高裁判所昭和55年11月25日第三小法廷判決・民集34巻6号781
頁参照。)
したがって,控訴人の当審における訴えの変更後の無効確認請求に係る訴え
は,確認の利益を欠き,不適法である。
3損害賠償請求について
()前記引用に係る原判決中の前提となる事実等及び原判決の前記認定事実1
によれば,①A警部補は,座席ベルト装着義務違反の取締りについて豊富な
経験を有していた者であり,同人を含め5名の警察官で同違反の取締りに従
事していたところ,平成18年5月27日午後4時ころ,その佇立位置から
約50メートル離れた交差点を右折して本件道路に進入し,時速20キロメ
ートル前後で自身の側方約2メートルの位置を通り過ぎた車両の運転者につ
いて,座席ベルトを着用していないことを現認し,当該車両が通り過ぎた直
後に,車両停止係のB巡査に対し,控訴人車と同一の車両番号下4桁(××
),()(),,××車種○○及び塗色紺色を無線で通報したこと②B巡査は
A警部補から上記のとおり違反車両の車両番号下4桁等の無線連絡を受け,
直後に控訴人運転の控訴人車を停止させたこと,③A警部補が座席ベルト装
着義務違反を認めたとする運転者の服装の色と当時控訴人が着ていた服装の
,,色はおおむね符合していることがそれぞれ認められ以上の事実からすれば
A警部補は,控訴人運転の控訴人車において,控訴人が座席ベルト装着義務
に違反して,同ベルトを装着していないことを現認したものと認めることが
できる。
したがって,B巡査が控訴人車を停止させたときに控訴人が座席ベルトを
装着していたのは,控訴人がいわゆる後付け行為をしたためであると認めら
れる。
なお,A警部補が,座席ベルト装着義務違反を現認したとする車両の運転
者の座席ベルトの状態につき,垂直に運転者の右肩後部に垂れ下がっている
のを確認した旨供述する点に関し,その事実の有無をめぐって,控訴人・被
,,控訴人双方は同人の供述全体の信用性にかかわるかのような主張をするが
同事実の有無は上記認定に影響を及ぼさない。
()これに対し,控訴人は,①控訴人が,A警部補の警笛を聞き,短時間の2
うちにすばやく座席ベルトを装着するとともに,Cとの間で座席ベルトを装
着していたことについて口裏合わせまで行うことは必ずしも容易であるとは
認め難いこと,②控訴人は,B巡査によって停止させられてから,同巡査や
A警部補の度重なる説得にもかかわらず,控訴人車内でも楠葉交番でも一貫
して本件違反を否認し,本件違反によっても基礎点数1点を付加されるほか
には具体的な不利益を受けないと考えられるにもかかわらず,数日後に再度
枚方警察署を訪れて本件違反の検挙を是正するよう申し入れ,さらには,控
訴人訴訟代理人に委任して,上記検挙の約2か月半後である同年8月11日
には本訴を提起していること,③同乗者のCも,上記検挙の直後から一貫し
て控訴人は座席ベルトを着用していた旨証言し,楠葉交番での取調べにも同
行しており,その供述内容,態度等に特に不自然,不合理な点は見当たらな
いことなどからすると,A警部補の目撃供述以外に控訴人の座席ベルト装着
義務違反について的確な客観的裏付けを欠く本件においては,A警部補の供
述は車両の取り違えを強く示唆することが認められる旨主張する。
しかしながら,①及び③については,原審における控訴人の主張(平成1
9年6月18日付け準備書面3)によっても,A警部補が警笛を吹鳴してか
らB巡査が控訴人車両に左に寄るように合図をするまで6.15秒の時間が
あったのであるから,控訴人がその間に座席ベルトを装着することは十分可
能であるし,控訴人とCとは,Cが控訴人を「先生」と呼ぶ税理士と顧客と
いう二十数年来の関係であり,控訴人がB巡査から座席ベルト装着義務違反
を伝えられた際,激しい口調で,同巡査に対し「シートベルト,しているや
」(,,),ろう旨申し向けていたことからすると甲4原審証人C同Bの各証言
控訴人とCとの間で,座席ベルトを装着していたことについて事前に口裏合
わせまで行っていなくても,Cにおいて,控訴人が座席ベルトを装着してい
た旨口添えすることはあり得ることであって,Cの上記証言が直ちに信用で
きるということもできない。
また,②については,控訴人の主張とは逆に,本件違反を否認したことか
ら引っ込みがつかなくなった可能性も否定できず,控訴人が一貫して本件違
反事実を否認した上,本件訴訟を提起したことをもって,控訴人に有利な資
料とすることはできない。
そして,前記認定のとおりの事実経過からすれば,座席ベルト装着義務違
反の取締りについて豊富な経験を有していたA警部補が,控訴人の座席ベル
ト装着の有無や車両を見間違える可能性はなかったと認められる上,同人が
殊更虚偽の証言をする動機も認められず,また,同人及びB巡査は,控訴人
が後付けするところは見ていない旨不利な事情も証言するなど,その証言内
容に不自然な点もない。
したがって,控訴人の上記主張は,いずれも採用することができず,前記
認定を何ら左右しない。
なお,控訴人は,国家賠償法上の立証責任に関する原判決の説示を批判す
るところ,原判決が控訴人の供述とA警部補の証言のいずれをも排斥するこ
となく,同法上の違法性に関する控訴人の立証を欠くとして,控訴人の損害
賠償請求を棄却した点は相当とはいえないが,控訴人に本件違反行為があっ
たと認められることは前記のとおりであるから,この点に関する控訴人の上
記批判は当たらない。
第4結論
以上によれば,当審で交換的に変更された控訴人の無効確認の訴えは不適法
であり,また,損害賠償請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がな
いから,これと同旨の原判決は,結論において相当であって,本件控訴は理由
がない。
よって,控訴人の本件控訴を棄却し,当審における訴えの変更による訴えを
却下することとして,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第5民事部
裁判長裁判官大和陽一郎
裁判官市村弘
裁判官一谷好文

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