弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人増井和男、同鈴木健太、同河村吉晃、同佐村浩之、同喜多剛久、同赤
西芳文、同本多重夫、同山田敏雄、同大下勝弘、同奥田仁、同松原住男の上告理由
について
 一 原審の適法に確定した事実関係及びこれに適用される法令等の概要は、次の
とおりである。
 1 被上告人は、昭和二三年五月五日に朝鮮人男性D(以下「D」という。)を
父とし、内地人女性E(以下「E」という。)を母として出生し、同年六月一七日
にその旨の出生届が右両名の婚姻届とともに提出された。右出生届は、Dによって
されたものであり、認知届としての効力が認められる(以下、右出生届による認知
を「本件認知」という。)。
 2 現在、被上告人については、国籍を韓国とする外国人登録がされている。
 3 Eは、平成元年九月、検察官を被告として、Dとの婚姻の無効確認訴訟を提
起し、同年一二月一日、右婚姻は無効であることを確認する旨の判決が言い渡され、
同月一九日に確定した。
 4 韓国併合後の我が国においては、内地、朝鮮、台湾等の異法地域に属する者
の間で身分行為があった場合、その準拠法は、共通法(大正七年法律第三九号)二
条二項によって準用される法例(平成元年法律第二七号による改正前のもの。以下
同じ。)の規定によって決定されることとなり、朝鮮人父が内地人母の子を認知し
た場合の認知の効力については、認知者である父の属する地域である朝鮮の法令が
適用されることとされていた。そして、大正一一年制令第一三号による改正後の朝
鮮民事令(明治四五年制令第七号)一条、一一条によれば、旧民法(昭和二二年法
律第二二二号による改正前のもの。右改正後のものを「新民法」という。)八二七
条二項の適用を受け、子は、朝鮮人父の認知により、その庶子となるものとされて
いた。
 5 共通法三条一項は、「一ノ地域ノ法令ニ依リ其ノ地域ノ家ニ入ル者ハ他ノ地
域ノ家ヲ去ル」とし、同条二項は、「一ノ地域ノ法令ニ依リ家ヲ去ルコトヲ得サル
者ハ他ノ地域ノ家ニ入ルコトヲ得ス」としており、異法地域に属する者の間で身分
行為があった場合、一の地域の法令上入家という家族法上の効果が発生するときに
は、他の地域においても原則としてその効果を承認して去家の原因とすることを定
めていた。その結果、戸籍に関しても、一の地域の戸籍から他の地域の戸籍への移
動という効果を生ずることとされていた。そして、朝鮮人の親族相続に関しては、
朝鮮民事令一一条により、前記認知に関する規定のように別段の規定があるものを
除き、朝鮮慣習が適用されることとされており、朝鮮慣習によれば、朝鮮人父の認
知により庶子となった子は、戸主の同意を要することなく、当然に朝鮮人父の家に
入ることとされていた。
 6 本件認知のあった昭和二三年六月一七日当時、共通法も朝鮮民事令も有効に
存在しており、朝鮮民事令一条にいう民法とは、なお旧民法を指すものと解される
から、内地人母の子は、朝鮮人父の認知により、その庶子となり、戸主の同意を要
することなく、当然に朝鮮人父の家に入る(父の戸籍に入籍する)こととなる。
 7 昭和二七年四月二八日の日本国との平和条約(以下「平和条約」という。)
の発効により、我が国が、朝鮮の独立を承認して、朝鮮に属すべき領土に対する主
権を放棄したことに伴い、それまで日本の国内法上で朝鮮人としての法的地位を有
していた人すなわち朝鮮戸籍令の適用を受け朝鮮戸籍に登載されるべき地位にあっ
た人は、元来日本人で朝鮮人との身分行為によって朝鮮戸籍に入籍すべき事由の生
じた人を含め、朝鮮国籍を取得し、日本国籍を喪失したものと解されている(最高
裁昭和三〇年(オ)第八九〇号同三六年四月五日大法廷判決・民集一五巻四号六五
七頁、最高裁昭和三三年(あ)第二一〇九号同三七年一二月五日大法廷判決・刑集
一六巻一二号一六六一頁、最高裁昭和三八年(オ)第一三四三号同四〇年六月四日
第二小法廷判決・民集一九巻四号八九八頁参照)。
 二 被上告人は、前記一3記載の婚姻無効の判決の確定により、被上告人は日本
人である母の非嫡出子として出生したことになるから、出生の時点において、旧国
籍法(昭和二五年法律第一四五号による廃止前のもの)三条にいう「父カ知レサル
場合又ハ国籍ヲ有セサル場合ニ於テ母カ日本人ナルトキ」に当たり、日本国籍を取
得したものであり、前記出生届に認知の効力があるとしても、それにより日本国籍
を失うことはないなどと主張し、上告人を被告として日本国籍の確認を求め、これ
に対し、上告人は、前記出生届は認知の効力を有するから、被上告人は、朝鮮戸籍
に登載されるべきこととなった者であり、平和条約の発効に伴って日本国籍を喪失
したと主張している。
 三 第一審は、本件認知当時の朝鮮の法令では、朝鮮人父がその子を認知した場
合、直ちに子は父の家に入籍するという慣習法が存在したから、共通法三条一項の
要件が満たされ、他方、当時の内地の法令においては、子は認知により当然に父の
戸籍に入籍することとはされていなかったが、旧国籍法二三条では、日本人たる子
が認知によって外国の国籍を取得したときは日本国籍を失うとされており、内地と
朝鮮との間の戸籍の移動も旧国籍法の右規定と同様の条理、原則によって規律され
るとすることには十分な合理性があるから、内地の法令の観点からみても、日本人
たる子が朝鮮人父に認知された場合、朝鮮戸籍に入籍すると解するのに何ら支障は
なく、その子は共通法三条二項の「一ノ地域ノ法令ニ依リ家ヲ去ルコトヲ得サル者」
に当たらず、被上告人は、共通法三条により、朝鮮戸籍に入籍すべきことになり、
朝鮮人としての法的地位を取得したというべきであって、平和条約の発効に伴って
日本国籍を喪失したものであると判断した。
 これに対し、原審は、朝鮮人父による認知がされた場合、父が属する朝鮮の民事
実体法規である朝鮮民事令一条、一一条により適用されるべき朝鮮慣習によって被
認知者である被上告人は認知者父の家に入ることとなるが、(一)朝鮮の右慣習法
は、我が国の旧民法の基盤である家制度とほとんど同一の家制度に立脚するもので
あるところ、家制度は、新憲法が立脚する個人の尊厳と両性の本質的平等とは相い
れず、これを我が国内において適用することは、新憲法の理念に真っ向から相反し、
我が国の公の秩序、善良の風俗に反するから、法例二条の要件を欠き、法律と同一
の効力を有しないものというべきであるし、また、(二)共通法二条によって準用
される法例三〇条により、そもそも家制度に立脚する右慣習法によるべき旨を定め
る朝鮮民事令の右各条項自体、その適用が許されないから、本件認知につき認知者、
被認知者双方に適用される法令は新民法とするのが相当であるとした上、新民法に
よれば、被認知者である被上告人は、本件認知により認知者の家に入ることもなく、
内地の家を去ることもないから、共通法三条一項に該当せず、朝鮮戸籍に入籍され
内地戸籍から除籍されるべき者とはならなかったものというべきであり、被上告人
は平和条約発効によっては日本国籍を喪失しないと判断した。
 四 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
 1 韓国併合後も、朝鮮は異法地域とされ、かつ、法的規律が朝鮮慣習にゆだね
られていた分野が多かったことからすると、朝鮮慣習の法的効力を判断するに当た
り、明治四五年勅令第二一号によって朝鮮に施行されていた法例二条にいう「公ノ
秩序又ハ善良ノ風俗」とは、朝鮮地域における公序良俗を指すものと解すべきであ
り、内地におけるそれに基づいて当該慣習の効力を判断すべきではない。そして、
本件認知後である昭和三三年に公布された大韓民国民法も家制度を維持していたこ
となどからすると、前記の朝鮮慣習が本件認知当時の朝鮮地域における公序良俗に
反するということはできない。したがって、原審の(一)の判断は是認することが
できない。
 2 法例三〇条は、「外国法ニ依ルヘキ場合ニ於テ其規定カ公ノ秩序又ハ善良ノ
風俗ニ反スルトキハ之ヲ適用セス」と定めているが、この規定の趣旨は、当該準拠
法に従うならば、内国の私法的社会秩序を危うくするおそれがある場合に、右準拠
法の適用を排除することにあり、したがって、外国法の規定内容そのものが我が国
の公序良俗に反するからといって直ちにその適用が排除されるのではなく、個別具
体的な事案の解決に当たって外国法の規定を適用した結果が我が国の公序良俗に反
する場合に限り、その適用が排除されるものと解すべきである。
 この理は、共通法二条二項において準用する法例三〇条の適用に当たっても同様
というべきであり、朝鮮地域の法令の規定自体が内地の公序良俗に反することによ
って直ちにその適用が排除されるものではなく、朝鮮地域の法令の規定を具体的事
案に適用した結果が内地の公序良俗に反するか否かを検討する必要がある。原審は、
朝鮮慣習が家制度に立脚しているから、日本国憲法が立脚する個人の尊厳と両性の
本質的平等と相いれないなどと説示したのみで、右朝鮮慣習によることを定める朝
鮮民事令一一条等の適用を排除しているが、家の制度が日本国憲法及び新民法施行
後の我が国の公序に反するからといって、直ちに当該朝鮮法令を準拠法として適用
することが許されなくなるわけではなく、原審の(二)の判断には、法例三〇条の
解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。
 右の観点から本件をみるに、本件認知によって庶子となった子が朝鮮民事令一一
条により朝鮮慣習の適用を受けて父の家に入るとすれば、共通法三条等により、子
は父の朝鮮戸籍に入り、内地から朝鮮への地域籍の変動を生ずること(その結果、
国籍の変動を生ずること)にもなる。しかし、父に認知された際に、非嫡出子が母
の戸籍にとどまるものとするか、父の戸籍に入籍するものとするかは、基本的には
立法政策の問題であって、そのこと自体が直ちに個人の尊厳ないし男女平等主義に
反するということはできない。これを地域籍ないし国籍の変動の問題としてとらえ
てみても、当時、施行されていた旧国籍法二三条は、子が認知によって父の国の国
籍を取得した場合に日本の国籍を喪失する旨を規定していたところであり、このよ
うな規定にもかんがみると、認知により母の地域籍を去って父の地域籍に入ること
は、平和条約の発効によって日本の国籍を喪失することにつながるとしても、内地
の公序良俗に反するとまでいうことはできない。
 そうすると、本件認知により被上告人が朝鮮人父の戸籍(地域籍)に入るという
ことが内地の公序良俗に反するということはできないものと解するのが相当である。
 なお、当時日本国内に施行されていた新民法及び戸籍法には子が父の戸籍に入る
ことを禁止する規定はなく、当時の旧国籍法二三条及び戸籍法二三条の規定にもか
んがみると、被上告人が、内地の法令上家を去ることを得ざる者に当たるとして、
共通法三条二項により朝鮮戸籍に入ることができないと解することはできず、被上
告人は、本件認知によって、内地戸籍から除かれるべき者となったというべきであ
る。
 3 以上によれば、共通法三条の適用の結果、本件認知により被上告人が日本の
国内法上朝鮮人としての法的地位を取得したことを否定することはできず、被上告
人は、平和条約の発効とともに日本国籍を失ったものといわざるを得ない。
 五 右と異なる原審の判断は、法令の解釈適用を誤ったものであり、この違法は
原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破
棄を免れない。そして、さきに説示したところによれば、被上告人の本件請求は理
由がないことに帰し、これと結論を同じくする第一審判決は正当であって、上告人
の控訴は棄却すべきものである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    藤   井   正   雄
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    遠   藤   光   男
            裁判官    井   嶋   一   友
            裁判官    大   出   峻   郎

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛